表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/88

5-2.喫茶ファンダルシア

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

詩音が「エルベ」と唱えて現れた世界は詩音の世界だった。


詩音 :「世界が二つあると紛らわしいでしょ。だからこっちの世界を『エルベ』ってよんでるの。」


舞  :「これが、詩音の世界。ほんとにあるんだ。」


舞は周りをきょろきょろ見ながら詩音に手を引かれて歩いている。


舞  :「おんなじ世界。公園も家も道路も木もみんな同じ。実は本当は私たちの世界なんじゃないの。」


詩音 :「あはは、本当そっくりだよね。でも、少しずつ違うの。例えば、そうね。信号機。」


舞  :「え? ちゃんと赤青黄色だよ。」


詩音 :「うん、そうだけど、信号機のところよく見てみて。」


舞  :「あれ? 小さなぼつぼつがいっぱいある?!」


詩音 :「そう、こっちの世界では信号機は電球じゃなくて発光ダイオードなの。青色発光ダイオードが実用化されてみんなこれに置き換わってる。」


舞  :「ほんとだ~。でも、言われないと気付かない。」


詩音 :「うん。本当に細かいところでないと違ういがないからね。さ、行きましょう。」


舞  :「いくって、どこに向かってるの?」


詩音 :「秘密基地。あるいは秘密の隠れ家。」


舞  :「秘密基地?」


詩音 :「喫茶店よ」


舞  :「喫茶店? 子供が入っちゃいけないんだよ。それにお金持ってない。」


詩音 :「大丈夫。お店の人はママの知り合い。だから特別にお許しもらってるの。」


途中、舞は知ってる人に出会った。近所のおばさんだ。でも、詩音には挨拶するけど、舞には「お友達?」と聞く。詩音は「いとこ」と答えるとおばさんはわかったような顔でまた歩いていく。


同じ街なのに誰も私を知らない世界。少し怖くて少し面白い。だって私だけが知ってる別世界。怖いのはしっかり詩音が手をつないでくれるから安心。舞はそう思った。



駅の方に5分くらい歩いたところにある喫茶店の前で二人は止まった。


詩音 :「ここ」


舞  :「ふぁんだるしあ?」


詩音 :「うん、お店の名前」


入口には「本日パーティのため貸し切り」と書いてあった。


詩音 :「さあ、はいろう」


舞  :「でも、貸切って書いてある。」


詩音 :「あ、それ、気にしないで大丈夫。しょっちゅうパーティやってないのに午後は貸し切りになってるから。理由は中に入って話すわ。」


そういうと詩音は喫茶店の扉を開けた


詩音 :「こんにちは~」


店長 :「いらっしゃいませ~」


奥から女の人の声が聞こえる。中をのぞいてみると小さな喫茶店で4人がけのテーブルが二つと奥にカウンターがあるだけだ。

カウンターの奥に店員らしき女の人がいる。そして、カウンターの席に大人の女の人と詩音くらいの女の子が椅子に座っている。


女性 :「詩音ちゃん、今日は遅かったの。」


女の子:「そうだよ、詩音、待ちくたびれた。」


詩音 :「ごめんごめん。今日はお友達を連れてきたんだ。それで遅くなったんだ。」


女の子:「だれだれ? ひかる?」


詩音 :「寒いから中にどうぞ」


そう言って舞を中に引き入れる。舞を見た二人がびっくりする。


女性 :「舞ちゃん!」

女の子:「舞ちゃん!」


同時に声を上げる。


舞  :「私のことわかるの?」


女の子:「そりゃあ、わかるよ。詩音そっくりだし、オーバーオールきてるしどこから見ても舞ちゃん。」


女性 :「対世界からようこそなの。」


舞  :「対世界からきたことも知ってるの?」


詩音 :「そりゃまあね。紹介するね。くるみちゃん」


くるみ:「三条くるみです。呼ぶ時はくるみちゃん。よろしくなの」


舞  :「くるみさんって、あの本を書いたくるみさん?」


詩音 :「そうだよ~。ああ、やっぱり舞ちゃんがあの本持ってたんでしょ。だめだよ~。後で返してね~。」


舞  :「う、うん。」


詩音 :「そして、隣の女の子はポッチ。神崎美鈴さん。」


ポッチ:「よろしく~」


舞  :「え? 神崎さん?」


確かに神崎さんだ。髪の毛が長くて眼鏡をかけててイメージが違うけど声がそっくり。


ポッチ:「そだよ~。でも、呼ぶ時はポッチだよ。」


詩音 :「そして、カウンターの中にいるのはこの店のマスター 桜井流美さん。くるみちゃんの中学の同級生で、親友。」


桜井 :「桜井流美です。呼ぶ時はマスターかな。今日はよくぞいらっしゃいました。」


舞  :「こちらこそよろしくお願いします。ところで、今日はなんのパーティなんですか?」


桜井 :「ああ、パーティなんかじゃないのよ。くるみが来てるから貸し切りなの。」


舞  :「?」


詩音 :「くるみちゃんはこの街じゃ超有名人。だから、普通のお店に行くと握手とかサインとか求められちゃうから、気疲れしちゃうんだ。だから、このお店でのんびりする時は貸し切りにしちゃうの。」


くるみ:「それと、気兼ねなく対世界の話やプロジェクトの話ができるようにするためなの。でも、このお店すごく雰囲気いいでしょ。」


舞はアットホームな飾り付けの店を見てうなずいた。


舞  :「とてもあったかくていい感じ。」


くるみ:「なのなの~」


くるみはとろんとした顔でにっこりほほ笑んだ。


舞  :「くるみさんって、もっと怖いイメージがあった。ノーベル科学者なんだもん。でも、すごく優しそうな感じ。」


詩音 :「ボケてるって正直に言っていいよ。」


くるみ:「詩音ちゃんひどいの。」


ポッチ:「くるみさんも詩音にかかっちゃ威厳も何にもないわね。」


舞はすっかりこの店の雰囲気が気に入ったしまった。


舞  :「秘密の隠れ家かあ、いいなあ。」


詩音 :「舞ちゃんも今日から秘密の隠れ家の家族だよ。」


舞  :「え?」


詩音 :「いつでもおいで。大歓迎だよ。」


舞  :「ありがとう。」


舞がにっこりほほ笑んだ。


桜井 :「さあ、寒かったでしょう。暖かい飲み物だしますね。」


舞  :「あの、あの、実は今お財布持ってない。」


詩音 :「大丈夫。このお店はプロジェクトが援助してるから私達はお金いらないの。」


舞  :「プロジェクト?」


詩音 :「あ、それはあとで教えてあげる。」


ポッチ:「ホットココアがいい。上にクリームのっけて。」


詩音 :「私も~。舞ちゃんにも同じの~」


くるみ:「まってなの。今日は生クリームのホールケーキ持ってきたの。ココアより紅茶の方があうの。」


詩音 :「うわ~。くるみちゃんのケーキ! ラッキー」


ポッチ:「じゃあ、紅茶で。詩音も舞ちゃんも同じ紅茶で。」


ポッチが勝手に仕切り始める。


桜井 :「じゃあ、そこのテーブルで待ってて。ケーキを切って紅茶を入れるね。」


しばらくして、紅茶とケーキが出てきた。


舞が一口食べる。


舞  :「!」


詩音とポッチがにやにやする。


舞  :「何このケーキ! すごいおいしい。」


詩音 :「だって、くるみちゃんのケーキだよ。おいしいに決まってるじゃない」


桜井 :「ほんと、くるみってのほほ~んとしてて何にもできないくせにお菓子作りだけはうまいのよね。」


くるみ:「なんにもできなくないもん! これでも大学教授だもん。」


くるみが抗議する。はたから見てると世間知らずで世の中生きていけるか心配になる何のとりえもない女の人に見える。だけど、頭脳は世界一、あるいは史上No1の物理学者である。


詩音 :「くるみちゃんのお菓子は絶品よね~。アップルパイとかもおいしいし。」


舞  :「初めて。冬ちゃんのよりもおいしいお菓子に出会えるなんて。」


くるみ:「ありがとう。舞ちゃんやさしいの。」


舞  :「ほんと。お世辞じゃなくて。」


くるみ:「でも、冬ママの料理にはきっとかなわないの」


舞  :「冬ママのこと知ってるの?」


詩音 :「ちょっとだけね。冬子さんはこっちにもいるけど、全然印象違うよ。」


くるみ:「そうなの。対世界だからといって必ずしも同じとは限らないの。多分、二人の冬子さんは全然違うの。」


確かに。詩音を見てると自分と同じ性格とは思えない。詩音は喜怒哀楽がはっきりしていて、あっけらかんとしている。


舞  :「そうそう、さっきくるみさん大学教授って言ってたけど、どこの大学なんですか?」


ポッチ:「舞ちゃん、実はくるみさんの姿見てこんなのほほ~んとしてて若い女性が大学教授なんてありえない。どこの物好きな大学なのかとか思ったでしょ。」


舞  :「そ、そんなことないよ~。」


詩音 :「アメリカのスタンフォード大学だよ。」


舞  :「それって、すごい有名な大学じゃない?」


くるみ:「なのなの。いい大学なの~」


桜井 :「わかるわ、舞ちゃん。くるみも外見と中身の落差が激しいからね。ぜんぜん、イメージわかないけど、こんなのでも最年少ノーベル賞受賞者よ。」


舞  :「はあ。」


詩音 :「向こうのくるみちゃんはどうなの? やっぱりいつも一緒なの?」


舞  :「それが、会ったことないんです。私が生まれたときからずっと海外にいます。」


くるみ:「やっぱりなの。舞ちゃんがむこうの私の雰囲気がしないからそうじゃないかと思ったの。」


詩音 :「それって、私ものほほ~んとしてるって意味?」


くるみ:「え? えっと。 なのなの~」


詩音 :「笑ってごまかすな」


くるみ:「そうそう、舞ちゃんきたのなら、色々渡したりするものがあるわね。ちょっと取ってくるの。まっててなの。」


そういうと逃げるようにくるみは外に出て行った。


…今まで私のいた世界と全然違う世界。病気とか死とか関係のない幸せな世界。こんな世界もあるんだ…


舞  :「お話が少し変わるけど、ポッチもロケットとか作るの?」


ポッチ:「えっ?」


いきなり話を振られてポッチがビックリする。


舞  :「私の世界の神崎さんはロケット作るから。」


ポッチ:「ああ、なるほど。私は作らないよ。お手伝いならしたことあるけど。」


詩音 :「あの事件ね。もう、プロジェクトの許可なく手伝えないけどね。」


舞  :「プロジェクト?」


舞はまたプロジェクトが出てきたのが気になった。


ポッチ:「プロジェクトの子がロケット作ったんだけど、うまく飛ばなくてね。それで私がまっすぐ飛ぶように改造したんだけど。」


詩音 :「うまく飛びすぎるようになったのよ。音速突破して、ソニックブーム起こして、パーーンって衝撃波の音がして、ご近所大騒ぎ。」


舞  :「それって、水で飛ぶロケット?」


ポッチ:「まあ、水で飛ぶことには変わらないわね。」


詩音 :「液酸液水ロケット。確かに水を噴射して飛んでくロケットだけどね。そのお友達が作ったんだ。私たちと同じ小学2年生。」


舞  :「はあ。変わった子ね。」


詩音 :「まあね。プロジェクトはそういう子の集まりだから。他にもロボット作ってる男のとかいるしね。」


舞  :「そのプロジェクトってなあに?」


詩音 :「正式名はエジソンプロジェクト」


ポッチ:「国の秘密機関」


詩音 :「私たちがいたずらしてもかばってくれる所」


舞  :「???」


ポッチ:「αベクトル空間をこっそり研究してるところ」


舞  :「ああ、なるほど」


ポッチ:「こっちに世界でもαベクトル空間のことは秘密なんだ。だから、限られた人しか知らせないための研究機関なの。」


舞  :「なるほど、その研究者がくるみさんと詩音で、ここがその秘密研究所なのね。」


詩音 :「ピンポーン。だから、ここのことも、αベクトル空間のことも内緒。もっとも、話しても信じてくれないけどね。」


舞  :「それで、ポッチはロケットの何のお手伝いをしたの?」


ポッチ:「ロケットの姿勢制御。その子のロケット、すんごくスピードは出るんだけど、安定してなくてどことぶかわかんないのよね。」


舞  :「姿勢制御?」


ポッチ:「うん、まっすぐ飛ぶ仕掛け。ちょっとおもしろいもの見せてあげる。」


そういうとポッチは鉛筆みたいなものを取り出した。


そして、鉛筆を握り、そのあとゆっくり手を離した。


舞  :「うそ!?」


鉛筆はまるで空気に糊づけされたようにその場にとどまる。その後、ゆっくりとまるでスローモーションを見ているようにテーブルに落ちて行った。


つづく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ