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4-19.学会(後編)

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

サンフランシスコに到着した次の日からコンベンションセンターで学会が始まる。


学会そのものは意味もわからず退屈なものだった。キャサリンさんの発表の最後に舞が紹介される。会場中から拍手が起こる。


その後、キャサリンさんの知り合いのお医者さんに診てもらうこととなった。


医者 :「イッツア、ティピカル、ラインベルグシンドローム」


ラインベルグ症候群の太鼓判をおされた。そしてキロニーネを渡される。最初からわかっていたけど。


舞  :「意味ない。お医者さんの自己満足。」


あきら:「そう言うな。医療の発展のためにはこういうのも必要だ。」


こうして、学会も終わり、イベントは一通り終了した。後は帰るだけだ。


-------------------------------------


舞  :「ねえ、ねずみらんどは行かないの? せっかくアメリカに来たんだからどこか行こうよ。」


あきら:「あれはロスアンゼルスだ。650Km離れてる。」


舞  :「え~、残念。」


冬子 :「帰りに寄りましょう。」


あきら:「おまえ、距離感覚ないな。」


冬子 :「新幹線なら3時間くらいです。」


あきら:「アメリカに新幹線はない。」


冬子 :「リニアですか?」


あきら:「リニアもない。」


冬子 :「アメリカのくせに遅れてます。じゃあ、車ですね。フリーウエイで一直線です」


あきら:「確かに車での旅は魅力的だな。途中、スタインベックゆかりの地モントレーを立ち寄って風光明媚な景色を見るのもいいだろう。だが、1日では無理だな。二日かかる。行くとしたら飛行機だな。まあ、ロス経由で帰ってもいいな。」


旅の最後はロスアンジェルスだった。


飛行機から降りて再びレンタカーを借りる。とたんに渋滞に捕まる。


あきら:「ロス名物の渋滞だ。東京の首都高はロスを参考にして作ったらしいのだけど、その結果、渋滞まで参考になってしまったらしい。」


舞  :「そんなもの、真似しないでよかったのにね。」


あきら:「まったくだ。」


しばらくフリーウエイを進むとインターチェンジで別のフリーウェイに入る。


冬子 :「あきらさん、道違います。ダウンタウンはまっすぐです。冬子、ダウンタウンの文字は読めるようになりました。」


冬子がどや顔で指摘する。


あきら:「いや、あってる。ダウンタウンには行かない。行くのはねずみらんどのあるオレンジカントリー郡アナハイムだ。」


冬子 :「冬子ショックです。冬子、ロスのダウンタウンで食べ歩きたかったです。」


あきら:「サンフランシスコと一緒の感覚だとだめだ。広さが違う。そして、それ以上に、危険度が違う。ロスのダウンタウンは怖くて歩けない。冬子みたいなのは一瞬で、ビルの間に連れ込まれ、『ホールドアップ』だ。だから、安全な郊外に宿をとった。」


冬子 :「冬子、そんなドジじゃありません。どちらかというと冷静沈着な奥さんだと近所でも評判です。」


冬子が口答えするが、ダウンタウン行きはあきらめたようだ。


次の日、朝からねずみらんどだった。


舞  :「日本のねずみらんどによく似てる。」


あきら:「確かにアトラクションが同じのが多いからな。カリブの海賊、スペースマウンテン、ホーンテッド・マンションとか同じだしな。それに配置も似ている。」


冬子 :「冬子がっかりです。まさか、アメリカが日本のねずみらんど真似するとは思いませんでした。」


あきら:「いや、こっちが本家。日本がこっちを参考に作ったんだ。」


冬子 :「そうともいいます。あきらさん、細かいところこだわりすぎです。同じことには変わりありません。」


相変わらずの負け惜しみをいう冬子だった。


あきら:「まあ、確かによく似てるよな。でも、日本にないものも一杯あるんだぜ。」


舞  :「うん、色々見てみたい。」


3人は広い園内を見て回る。「この景色は日本のと同じです」「このダンス日本で見ました」冬子はブツブツ言っているが、それとは裏腹に舞以上に楽しんでいる。


ねずみらんどで楽しんだ次の日は最終日だった。最後に、もうひとつ遊園地に行きことになった。


あきら:「ナッツベリーファームいくぞ。」


舞  :「ナッツベリーファーム?」


あきら:「ああ、イチゴジャムのおいしいところだ。」


冬子 :「冬子、ナッツベリーっていうイチゴ聞いたことありません。ブルーベリーとかラズベリーとかは知ってますが。どんなイチゴか興味津々です。」


あきら:「いや、期待させて悪かった。ナッツさん一家のイチゴ畑って意味なんだ。ナッツ・ベリーファームだ。」


冬子 :「もちろん、冬子知ってました。今のは舞ちゃんに説明するためのちょっとしたボケです。本気にするとはあきらさんもまだまだです。」


舞  :「そうだね~。冬ちゃん、私勉強になった。」


舞が適当に流す。


ナッツベリーファームはロスアンゼルス郊外のアナハイムにある子供向けの遊園地だ。ねずみらんどに対抗して犬のヌヌーピーがキャラクターとして園内をウロウロしている。本物のSLや駅馬車もある。


秋だというのに気温も高く、さわやかな感じだ。舞と冬子はそこで夢中になって遊んだ。


冬子 :「ねずみらんどは日本でもあります。やっぱり、アメリカならではのこっちの方がよいです。」


あきら:「いや、お前の場合、ねずみらんどだとレベルが高すぎるんだろ。こっちのほうがレベルあってるだろ。」


冬子 :「あきらさん、失礼です。冬子大人です。子供扱いしないでください。」


冬子がぷぅとふくれる。だが、言ってることとやってることは違う。ウォーターライダーに乗って水をかぶり、舞と二人でキャーキャー騒いでいる


帰り際、お土産を買うこととなった。


あきら:「このヌヌーピーのぬいぐるみなんてどうだ?」


あきらが舞に勧める。でも、じ~と、一つのぬいぐるみを見つめている。


舞  :「これ、欲しい。」


舞が見ていたのはうさぎのぬいぐるみだった。


それを見て、あきらと冬子はお互いを見る。


あきら:「血は争えないか。」


冬子 :「冬子もびっくりです。和恵さんもうさぎが大好きでした。」


あきら:「わかった。そのうさぎのぬいぐるみにしよう。」


ナッツベリーファームでうさぎのぬいぐるみを買って旅のお土産とした。


こうして、あわただしいアメリカ旅行が終わった。


-----------------------------------------


帰国してすぐに舞は病院に向かった。


舞  :「ただいま~。これおみやげ」


西棟のナースステーションに入るなり、そう言った。


草薙 :「おお、おかえり。いつ帰ってきたんだ?」


舞  :「さっき。家に着いてすぐきたんだ。冬ちゃんはグロッキーで大の字で寝てる。」


草薙ははしゃぎすぎて電池が切れてしまった子供のように寝ている冬子の姿を想像して苦笑した。


草薙 :「舞ちゃんもゆっくり休めばいいのに。」


舞  :「だって、1週間近く病院あけたんだもん。心配で。松井先生がまた、治療法で悩んでたりしてないかと思って。」


松井 :「そんなことありません。大丈夫です。」


松井先生は舞のお土産を開けながら反論する。


つかさ:「あら? 『舞ちゃんはいつ帰ってくるんだ。相談したいこといっぱいあるのに。』っておっしゃっていませんでしたっけ?」


松井 :「忘れた。」


みんなで笑う。


草薙 :「アメリカはどうだった? 英語は少しは話せたか?」


舞  :「全然。ハローくらいかな。お父さんが大体話してた。でも、少し、アルファベット読めるようになったよ。エスエフって書いてあるとサンフランシスコでエルエーって書いてあるとロスアンジェルスなんだよ」


つかさ:「すご~い。舞ちゃん、かっこいい~。」


舞  :「えへへ」


舞は得意そうに鼻をこする。


草薙 :「じゃあ、これは読めるか?」


草薙先生がメモにかいて渡す。


舞  :「なになに? シーオーエスエー たす? アイエスアイエヌエー」


草薙先生がなぜかほっとした顔をする。


草薙 :「すごいじゃん舞ちゃん。アルファベット読めるようになったじゃん。」


舞がにっこり笑う。


草薙 :「じゃあ、ご褒美にいいこと教えてあげよう。」


舞  :「なに?」


草薙 :「びっくりするぞ~。なんと、かのんちゃんが検査のため一時的に帰ってきている。」


舞  :「本当?!」


草薙 :「ああ、西棟にいるから会ってあげなさい。」


舞  :「うん!」


舞はすぐにナースステーションを飛び出した。


松井 :「なんで彼女に三角関数なんか読ませたんですか?」


草薙 :「ただの三角関数ではない。ガウス平面の公式だ。ちゃんと答えられるか確認してみた。」


松井 :「そんなもん小学生に答えられるわけないじゃないですか。」 


草薙 :「ああ、普通は答えられないよな。よかった本物の舞ちゃんだ。」


草薙はふ~とため息をつく。



舞はクリーンフロアの中に入り、入り口に一番近い部屋に入る。そう、そこはかのんがいつも入院していた部屋。


舞  :「かのん!」


中に入るとかのんがベットを半分起こして星の本を読んでいた。昔と同じ。


かのん:「?」


かのんが首をかしげる。


かのん:「えっと、し、舞ちゃん?」


舞  :「そうだよ~、3か月会わなかったから忘れたの?」


かのん:「う、ううん。大丈夫。お久しぶり。」


かのんはそういうとにっこり笑った。


舞  :「いつ、こっちに来たの?」


かのん:「1週間前。検査なんだ。」


舞  :「検査?」


かのん:「うん。実はもしかしてだけど、心臓移植の手術を受けることになるんだ。それで、色々と精密検査。上川こども病院の先生と秋本先生と淳典堂病院の偉い先生も来ている。」


舞  :「そっか。」


心臓移植という重い言葉に舞はうつむく。失敗すれば死を意味する。


かのん:「そんな、暗い顔をしないで。私は未来に向かっていきたいの。」


舞  :「うん。そうだよね。せっかく帰ってきたんだから。じゃあ、美鈴とかひかる呼んで学校の話とか思い出話しようよ。」


かのんが首を振る。


かのん:「みんなには内緒にしておいて。あんまり騒がれたくない。それに、思い出話じゃなくって、今のこととか、これからのこととか、お話したい。そうそう、アメリカどうだった?」


舞は冬子との珍道中になったアメリカの話をした。かのんはおなかを抱えて笑った。


かのん:「冬子さんって、おもしろい人ね。それに、まるで本当の親子みたいに仲いいんだね。」


舞は少し間をあけてかのんに言った。


舞  :「本当の親子だよ。」


かのん:「ねえ、ロビーに行かない? 星を見たいんだ。」


かのんが舞の返事に答えず、提案する。


かのんはゆっくりと起き上がり、車いすに乗る。舞が車いすを押してロビーへと向かう。秋の夕方、いつの間にか、外は暗くなっていた。


かのん:「やっぱり、秋の空はさみしいわね。ぽつんと南にフォーマルハウトがあるだけ。これが冬になったらすごくきれいなのに。冬のダイヤモンドって見たことある?」


舞は首を振る。


かのん:「オリオン座、おうし座、ぎょしゃ座、ふたご座、こいぬ座、おおいぬ座。この6つの星座の1等星を結んでできるダイアモンド型の形。実は私もちゃん見たことないんだ。向こうで友達に教わったんだ。」


舞  :「へ~。向こうの病院にも星が好きな女の子が入院してるんだ。」


かのん:「うん、まあね。そんなところ。その子は別に入院しているわけじゃないけど。その子は時々お母さんと一緒に病院にやってくるんだ。それで、教わったの。星座には全然詳しくないんだけど、星の名前とかすごい詳しいんだ。『あの星はデネブ。銀河の灯台。地球から見える21個の一等星全部あわせたよりも明るい星』なんて感じなの」


舞  :「ちょっと、変わった子だね。」


かのん:「まあね。ちょっとというかかなり変わった子だけどね。」


かのんが苦笑する。そして歌を歌い出す。


かのん:「あかいめだまのさそり。ひろげた鷲のつばさ。あおいめだまの小いぬ。ひかりのへびのとぐろ。オリオンは高くうたひ。つゆとしもとをおとす。」


舞  :「星座の歌!」


かのん:「うん『星めぐりの詩』っていうんだ。宮沢賢治って人が作ったんだって。その子に教えてもらったんだ。」


舞  :「なんか、その子幸せそう。」


かのん:「その子、お母さんと仲がいいんだ。血のつながった親子。生まれたときから一緒だった親子。ねえ、舞、産んでくれたお母さんに会ってみたいと思わない?」


舞  :「ちょっと~。なんでさっきからその話なの? わたしのママは冬ちゃんだよ。」


かのん:「うん。わかってる。だけど、冬子さんがママになる前は生んでくれたお母さんがママだったんでしょ。会いたいと思わない?」


舞  :「そりゃ~。会ってみたいわ。正直いうとね。」


かのん:「じゃあ、天使にお願いしてみる。私にできることってそれくらいだから。」


舞  :「ありがとう。でも、今日のかのんちょっと変だよ」


なんかかのんの話に脈絡がない。舞はそう思った。


かのん:「ごめんね。本当のこというと怖いんだ。心臓移植。」


舞がはっと顔を上げる。


かのん:「だから、舞に色々聞いてほしかったんだ。私の思い。それにお話してないと不安でたまらないんだ。手術に失敗することとか。だから、成功した後のこと考えるようにしたんだ。そして、舞に話をしようって考えてた。治ったら一緒に星を見に行こうとか。」


舞  :「うん、それがいい。治ったら一緒に天文台行こう。」


かのん:「私ね向こうで友達ってそのちょっと変わった子しかできなかったんだ。私って人が嫌がるような質問でもずけずけ言うこんな性格だからね。」


舞  :「そうだったんだ。でもそれもかのんだよ」


確かにかのんはストレートな物言いだからね。でも、それがかのんのいいところでもある。


かのんは自分の不安を舞にぶちまけた。舞はそれを黙って聞いていた。


かのん:「今日は舞とお話して楽しかった。それで私からお願いがあるんだけど。」


舞  :「な~に?」


かのん:「一生のお友達でいてほしいの。たとえ手術が成功した時に昔の記憶がなくなっても。」


舞  :「何言ってるのよ。心臓の手術でしょ。脳の手術じゃないんだから、記憶なんて無くなんないわよ。」


かのん:「おねがい」


舞  :「よくわかんないけど、もちろんその約束する。一生の友達だから。そうだ、いいものあげる。」


そういうと舞は紙袋からうさぎのぬいぐるみを取り出した。


舞  :「アメリカのお土産。かのんに特別に。」


かのん:「いいの?」


舞  :「みんなには内緒だよ。」


かのん:「うん。ありがとう。そうだ、お礼に一つだけ大切なこと教えておくね。私から聞いたことは内緒にしておいてくれる?」


舞  :「うん、わかった。約束する。」


かのん:「『トリックエンジェル』のいたずらには気をつけて。」


舞  :「は? なんでいきなり『トリックエンジェル』?」


相変わらず脈絡がない。不安を打ち消すためなんだろうけど。舞はそう思った。


かのん:「『トリックエンジェル』はいつか舞の前に現れるわ。彼女たちのいたずらで舞が泣かないか心配なの。」


舞  :「ちょっと、それは物語の話。そんなの現実に起きないよ。」


かのん:「やっぱり信じてないのね。でも、きっと、本当に起きる。『トリックエンジェル』自身はかわいくていい子。だけど、『トリックエンジェル』のするいたずらは半端じゃないの。その時泣かないようにね。」


舞  :「う、うん。でも、理由を教えて。」


かのん:「ごめん、今はそれを教えられない。たかしさんと約束したから。」


たかしさんとの約束? たかし兄ちゃんは1年以上前に天国に行った。だから、もっと前の秘密の約束? そんな前の約束がなんでいまさら? 舞はいぶかしんだ。


舞  :「そう。わかった。でも、いつか教えてね。」


かのん:「ええ、その時がきたら。」


舞  :「うん」


かのんが話たくないのなら今話さなくていい。かのんならきっと必ず話してくれるから。舞はかのんを信じた。


かのん:「あ、そろそろ病室の戻らないと。明日のために体休めないとね。」


そう言ってかのんは病室に戻って行った。


次の日、かのんは舞に見送られ再び北海道へと帰って行った。


つづく




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