4-13.バーベキュー
この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。
5月に入り、美鈴が学校にやってきた。
舞 :「美鈴~。すごい。本当に一緒に学校通える。うれしい。」
かのん:「おっそ~い。待ちくたびれたぞ。」
ひかる:「美鈴ちゃん、よかったですね。私もうれしいです。」
そうやって、美鈴が合流した。
かのん:「美鈴、わかんないことがあったら、なんでも私に聞きな。初めての学校で慣れないことも多く不安だろうけど、教えてあげるから、安心して。」
ひかる:「あらあら先輩風吹かして。」
かのん:「えへへ」
かのんの明るい性格で病気の子供に好印象を持っていたクラスの子はすぐに美鈴を受け入れた。美鈴のあっけらかんとした性格も助けになった。とくに、ひかると神崎さんはかのんと美鈴と仲良くしてくれた。
まずは、美鈴は1時間授業だった。学校に来るのに慣れること。それが大事だった。一時間目が終わると帰っていく。迎えに来るのは冬ちゃんだった。お母さんが仕事で忙しいからだ。
かのん:「早く、美鈴も給食食べるくらい元気になりなよ。」
美鈴 :「かのんちゃん、もう給食食べるまで元気になったの?」
かのん:「まっさか~」
かのんはペロっと舌をだした
ひかる:「かのんは食事制限があるから給食は食べられない。それに無理しないようにって授業は午前中だけ。」
ひかるは私の代わりに説明してくれた。かのんは完全に治ったわけではない。なるべく他の子供と一緒にいられるようにと配慮して学校に通っているが無理はできない。特に食事制限のあるかのんの食事はお母さんが作ってくれるから、家に帰って食事をする。
舞 :「ほ~んとかのんはうらやましいわよね。給食食べないで済むんだから。」
ひかる:「舞ちゃんの給食嫌いも困ったものよ。」
かのんと美鈴が笑う。
舞 :「先生に『私も自宅でご飯食べます』って言ったんだけど怒られた。」
ひかる:「あたりまえでしょう」
かのんと美鈴がおなかを抱えて笑う。
でも、こんな楽しい学校になるなんて。私は幸せでいっぱいだった。
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5月も半ばを過ぎ、私とかのんと美鈴とひかるちゃんと神崎さんの仲よし5人で市の施設にバーベキューに行った。ここは、普通の人だとなかなか知らないところである。だだっぴろい広場にポツンとバーベキューの施設がある。
冬子 :「こんな近くにこんなバーベキューできるところあるなんて、冬子知りませんでした。」
あきら:「ああ、場所も街外れだしね。しかも、周りは木々で囲まれていて周りからは見えない。オオタカがいるから開発に制限がかかってる。そして、完全予約制で入口に案内すらない。口コミ以外では知られようがない場所さ。」
かのんのお母さんが見つけてきてくれた場所だ。
冬子 :「でも、広場以外に何にもないです。」
あきら:「ああ、だから、ここらへんの人は普通の人は花の丘公園の施設でバーベキューするだろ。あそこなら、遊具もあるし、子供たちが遊べる水場もある。動物園や植物園もある。」
斎藤 :「だけど、人がいっぱいなので、かのんたちにはちょっと。」
かのんのお母さんがそう言った。そう、かのんや美鈴にとって人がいっぱいいる場所はちょっと避けた方がいい。
あきら:「感染症が怖いからな。屋外だからそんなに気にすることはないのだろうけど、やっぱり念には念を入れた方がいい。」
でも、私たちにはこの広場で十分だった。走り回った後、よつばのクローバー探したり、クローバーの花で花冠を作って遊んだ。
舞 :「彼女たちなら、蛇とかかえる捕まえるんだろうな。」
美鈴 :「ああ、詩音ちゃんたちね。まるで男の子よね。」
ひかる:「詩音ちゃん?」
かのん:「気にしないで。舞もいい子なんだけど、ただ一つ欠点があって、想像の世界の友達がいるの。その子の名前が詩音ちゃん。」
ひかる:「例の赤毛のアンのようなお話ね。でも、そういうのって私も好き。」
別世界の話を信じてくれるのは美鈴だけだからしょうがない。
あきら:「お~い、お肉焼けたぞ~」
パパがみんなを呼んだ。
斎藤 :「かのんのはこのお肉ね。それと、ご飯食べたら、少し木陰で休むこと。」
かのんは塩分制限と水分制限がある。塩分制限は何とか我慢できるけど、水分制限はつらい。水を飲めば、心臓に負担がかかる。水を飲まなければ熱中症にかかる。だから、厳しい運動制限がかけられる。かのんが歩けないのは、汗をかいたりして心臓に負担をかけないようにすることである。だから、ほかの4人が広場を走り回っても、かのんは一緒に遊ぶことはできない。
冬子 :「美鈴ちゃんは、生焼けはだめです。ちゃんと焼いて食べないといけません。生ものは厳禁です。」
あきら:「大変だな。肉なんて、すこし、生焼けの方がおいしいのに。」
パパは肉を焼きながらそう言った。冬ちゃんがそれを聞いて、首をかしげた後、こういった。
冬子 :「わかりました。あきらさん交代です。冬子が作りましょう。」
そう言って、鉄板の上で焼き始めた。そして最後にレモンを絞る。
冬子 :「これなら、塩分使ってないし、ちゃんと焼けてます。みんな食べてください。」
あきら:「でも、塩胡椒なしの焼きすぎだろう。どうして美味しくなるんだ。」
冬子 :「あきらさん、とっても失礼です。文句は食べてから聞きましょう。」
パパと私は冬ちゃんの焼いた肉を食べた。
舞 :「結構、おいしい!」
あきら:「うそだろ。」
冬子 :「特別なレモンなんです。知り合いの家で作ってるレモンです。海外から輸入したレモンと違って、黄色くなってからとったレモンですから味が違うんです。塩分、油がないですから健康にもいいんです。」
かのんや美鈴やひかるも食べる。かのんのお母さんもだ。かのんのお母さんは食べると同時にはしを落とした。
斎藤 :「これ、豚肉ですよね。」
冬子 :「はい。」
斎藤 :「こんなおいしい肉食べたことない。牛肉よりもおいしい。」
冬子 :「はい。普通は牛肉の方が美味しいのですが、こんがり焼いたり、お鍋にしたりして手間暇かけると豚肉の方がおいしいんです。しかも、お値段も安いのでとってもお得です。」
みんな冬ちゃんの料理に感動した。
ひかる:「舞ちゃん、もしかして、毎日、こんな料理食べてるの?」
舞 :「え? 違うよ。普段はもっとおいしいよ。」
ひかる:「ごめん、やっとわかった。舞ちゃんの給食嫌い。これよりもおいしいの毎日食べてればね。美鈴が毎日、舞ちゃん家に夕食食べに行くのもわかるわ。」
そのあと、冬ちゃんが余ったお肉や野菜を鍋にしてくれた。バーベキューで鍋って変だけど、冬ちゃんが料理するからとんでもなくおいしくなる。
冬子 :「塩胡椒使ってないからとてもヘルシーです。ポン酢で食べるとおいしいですが、そのままでも、野菜のうまみが出ています。味噌も使ってないし、醤油もあまり使ってないのでかのんちゃんでも大丈夫だし、温野菜だから、美鈴ちゃんも大丈夫です。」
斎藤 :「楠木さん、教えてください。かのんに食べさせてあげたいです。」
そう言って、冬ちゃんとかのんのお母さんの料理教室が始まってしまった。
神崎 :「じゃあ、私たちは広場で遊びましょ。いいもの持ってきたんだ。」
舞 :「いいもの?」
神崎 :「うん、パパ持ってきて~」
神崎さんのお父さんが大きな荷物を抱えて持ってくる。
ひかる:「これって、この前話してたもの?」
神崎 :「うん、ペットボトルロケット。」
美鈴 :「ペットボトルロケット?」
神崎 :「この中に水入れて飛ばすんだよ。」
美鈴 :「あはは、楽しそう。ぽんって言って風船飛ばすみたいに飛ばすんでしょ。」
神崎 :「ちょっと違うかな。まあ、みててね」
神崎さんはお父さんと一緒に準備を始める。お父さんが自転車の空気入れでロケットに空気を送り込む。
神崎パパ:「準備完了。」
神崎 :「じゃあ、行くね~。3,2,1 リフトオフ!!」
神崎さんが手に持っていたボタンを押す。その瞬間、ロケットは消えていた。
ひかる:「あそこ!」
ロケットは広場の空高く舞い上がっていた。まるでひばりのようだった。
舞 :「うそでしょう! あんなに飛ぶの!?」
美鈴 :「あはは。」
ロケットは落下傘を開いてゆっくりと落ちてくる。5月の太陽の光を反射させながら。
かのん:「ごめん、私、馬鹿にしてたかも。こんなにすごいんだ。」
神崎さんは両手を腰に当てて「エッヘン」とふんぞり返る。
あきら:「うお~、すげ~」
あきらパパが子供みたいに叫びながらやってくる。
あきら:「見損ねた。もう一回できませんか?」
神崎パパ:「ええ、できますよ。今度は二段式でやりましょう。」
今度はパパまで子供に交じって準備を始める。
二回目はさっきよりも高く、遠く飛んで行った。私はひかると神崎さんの3人でロケットを拾いに行く。
舞 :「神崎さん、すごい! そして、楽しい休日をありがとう。」
神崎さんは指を2本出してVの字にして笑った。
満開の花ミズキの下で私達は、今まで体験したことのない最初で最後の楽しい一日を満喫した。
つづく