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4-11.退院

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

春休みに入り、私はこっそり美鈴の病室にケーキを持ち込んだ。冬ちゃんの手作りケーキだ。


舞  :「美鈴、もうすぐ退院だね。おめでとう。」


美鈴 :「うん。やっと。最初は半年くらいって言っていたのに。一年以上かかった。」


ほっとした表情で美鈴が言う。


本当なら半年で済むはずだった治療だけど、薬がなかなか美鈴に合わなかったのと、治療の合間の体の回復が遅れていたのが時間がかかった原因だった。


舞  :「元気になったんだからいいじゃない。」


美鈴 :「でも、辛かった。それに寂しかった。途中で舞ちゃんもかのんちゃんも退院しちゃうし。」


舞  :「毎日のように私は来てたよ。」


美鈴 :「でも、日曜日はボランティア禁止でしょ。日曜日がとっても暇だった。」


舞のボランティアは日曜日はしてはいけない約束になっている。少しは外で遊んで体を鍛えないといけないと草薙先生に言われてるからだ。


舞  :「じゃあ、これからは日曜日も遊べるね。」


美鈴 :「でも、あんまり無理できないから。」


舞  :「そうだね。」


かのんと違って美鈴は慎重である。退院したらすぐ学校行こうなんて無謀なことは言わない。


舞  :「退院したら何したい?」


美鈴 :「色々、いっぱい。舞ちゃんやかのんちゃんたちと公園に遊びに行きたい。お母さんとマーメードパークに行って人魚に会いたい。」


マーメードパークはたかし兄ちゃんの物語「人魚水族館」のモデルになった遊園地のこと。


美鈴 :「たかし兄ちゃんのお墓まいりもしなきゃ。」


舞  :「うんうん」


舞はうなずく。舞にとってたかし兄ちゃんがあこがれの人だったように、美鈴もたかし兄ちゃんに特別な思いがある。


美鈴 :「あと、響子先生の幼稚園に行ってロバの「サクラ」にも会いたい。私、ロバって見たことないの。それとかのんがはまってる街外れの天文台にも行きたい。」


美鈴は一足先に退院して楽しんでいるかのんのことを羨ましく思っている。


美鈴 :「それとおいしいもの一杯食べたい。お寿司、お刺身、ラーメン、カレーライスに冬子さんのお星様ハンバーグ。」


舞  :「冬ちゃんのハンバーグは絶品だよ~」


二人でよだれをたらしかける。


美鈴 :「そして、学校に行きたい。舞ちゃんやかのんちゃん、ひかるさんや神崎さんと一緒に毎日遊ぶの。」


舞  :「学校は遊ぶんじゃなくて勉強するところだよ。」


美鈴 :「いいの。勉強はちょっとだけ。」


舞  :「あはは。それで、学校はいつから通うの?」


美鈴 :「5月のゴールデンウィーク明けからかな。4月の間はおうちでゆっくりしてる。病院から家に変わるだけだけどね」


それでも、病院より家のほうが落ち着く。


舞  :「じゃあ、夕飯はうちで食べてきなよ。美鈴のお母さんも忙しくなるって言ってたし。」


美鈴 :「え? そんなの悪いよ。」


舞  :「大丈夫だよ。冬ちゃんは『も~まんたいです』って即答するだろうし、パパも家族が増えたって喜ぶ。」


美鈴 :「冬子さんのご飯か~。すごく魅力的。お言葉に甘えちゃおうかな。」


美鈴にはお父さんがいない。別にお父さんが死んでしまったわけではないのだけど。家庭の事情って言ってた。今までは入院していたこともあり、あまり、仕事ができなかった。だから、美鈴が元気になったら一杯仕事をしないといけない。だからきっと、美鈴が一人になっちゃうからその時はうちに来ればいいと冬ちゃんが言ってた。美鈴のアパートもうちからすぐ近くだ。


舞はそう思いを巡らしていた。


美鈴 :「そういえば、向こうの世界の私も向こうの舞ちゃんと一緒にご飯食べてるのかな?」


美鈴が突然話題を変える。


舞  :「うん、どうやら、やっぱり向こうの私もいつも一緒にご飯を食べてる子がいるみたいんなんだ」


美鈴 :「やっぱり! 向こうの私ね!」


美鈴が目を輝かせる。


舞  :「う~ん。それがね、美鈴は美鈴でも神崎さんなんだ。向こうでは神崎さんと詩音ちゃんがいつも一緒みたい。ポッチってあだ名で呼ばれてるみたい。」


詩音は向こうの私にあたる子の名前である。


美鈴 :「ええ~。そうなんだ~。がっかり。向こうの私はどうなんだって?」


舞  :「それが変なことに『しらない』っていうの。『丸山美鈴って子は周りにはいない』って。美鈴だけではなくてかのんもたかし兄ちゃんも知らないって」


美鈴 :「え? なんで?」


舞  :「向こうでも、この病院があるんだけど、西棟がないらしいの。だから、西棟にいる人はほとんど知らないみたい。松井先生とつかささんはいるみたいなんだけどね」


美鈴 :「うわ~、なんでも同じな世界じゃないんだ。」


舞  :「うん。なんか少しずつ違うみたい。」


美鈴 :「面白~い。そういえば神崎さんはこっちではポッチって呼ばれてないもんね。でも、ポッチってどこかで聞いたことあるんだけど。」


舞  :「うん、私もどこかで聞いたことがある。でも、学校にも病院にもそんな変わったあだ名の子いない。」


美鈴 :「どうしてポッチっていうのかしら。」


舞  :「うん、私も不思議に思って聞いてみたら、『初めて会ったときにポッチって自己紹介されたから』って書いてあった。」


美鈴 :「詩音ちゃんもわかってないのね。不思議な子。でも、やっぱり、ペットボトルロケット抱えて走り回ってて、星が大好きなんでしょ?」


舞  :「それが、違うの。いたずらと生き物が大好きな女の子。しかも生き物もヘビとかカエルが好きらしい。」


美鈴 :「いたずら好きでヘビやカエルが好きな女の子?」


舞  :「うん、それで、向こうの花の丘病院に本物のヘビを持ってきていたずらしたから、つかささんがカンカンに怒って、ポッチはその病院に二度と入ってはいけない『出入り禁止』ってことになったみたい。」


美鈴 :「え~、あの優しいつかささんを怒らすなんて、とんでもない子。でも向こうの神崎さんでよかった。もし、ポッチが向こうの私だったら、恥ずかしくて生きてけない。」


舞  :「まあ、ちょっとそれはポッチがかわいそうかも。」


そういいつつも、舞は苦笑していた。


そんな話をしていたら、病室にこっちのつかささんが入ってきた。


つかさ:「あ~、あなたたち何食べてるの~。」


美鈴 :「きゃ。みつかっちゃた」


舞  :「ごめんなさい。退院祝いしてたんです。」


つかさ:「かくれて食べるのはいけません。でも、今日は特別に許します。美鈴ちゃんの退院祝いですからね。実は私も持ってきたんです。紅茶とカステラ。一緒に食べましょう。」


美鈴 :「なんだ、つかささんもおんなじじゃない。」


舞  :「さあ、たべよ。たべよ。」


外はまだ寒い3月。桜も咲きそうで咲かない季節に3人は早めの退院祝いを行った。


つづく



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