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4-10.かのんの星物語

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

春休みに入った3月の終わりのある日の夕暮れ時。


小さな軽自動車が町はずれの丘を登っていく。


軽自動車には、大人の女の人ひとりと女の子3人が乗っていた。


神崎 :「うわ~、本当に天文台がこの町にあるんだ。すご~い。知らなかった」


一人の女の子が目を輝かせて丘の上の丸いドームを見あげた。


-----------------------------------


話の発端は、学校での休み時間の会話だった。


かのんと神崎さんと私の3人で星の話になった。


神崎 :「へ~、かのんちゃんもお星様好きなんだ~」


かのん:「うん、大好き。入院中も舞によく星の話付き合わせたんだ」


神崎 :「いいなあ~」


かのん:「? もしかして、神崎さんも星の話好きなの?」


神崎 :「うん。大好きなんだ。大人になったらロケット作るのが夢なんだ。遠い星の世界に行ってきて、そして、何年もたってから『ただいま~』って帰ってくるロケットなんだ」


舞  :「すご~い」


私は、そうやって目をキラキラ輝かせて夢を話す神崎さんをすごいと思った。


舞  :「神崎さんはね、自分でロケット作ってるんだよ」


かのん:「え? 本当?」


神崎 :「ペットボトルで作ったロケットだけどね」


神崎さんがてれながら話す。


かのん:「なんだあ~。ペットボトルロケットかあ」


神崎 :「でも、すごいんだよ。二段式なの。100mくらい飛ぶんだよ。おとうさんと一緒に作ったんだ」


かのん:「100m? それってどれくらい?」


神崎 :「ここから校庭の端っこくらい。」


かのん:「うそ~、そんなに飛ぶの? 見てみたい!」


かのんもだんだん興奮してくる。


舞  :「だめだめ。もっとあったかくなってから。水遊びができるような時期じゃないとね」


かのん:「ちぇ~」


かのんがぷぃと膨れる。


舞  :「その代わり、3人で春休みになったら町はずれの天文台いかない? 大きな望遠鏡があるところ」


神崎 :「え? 街に天文台があるの?」


かのん:「うん、あるんだよ。舞と時々行ってるんだ」


神崎 :「え~、いってみた~い。私もつれてって!」


かのん:「OK~。春休みになったら3人で行こう。お母さんに頼んでみるね」


そうやって、春休みの企画「天文台ツアー」が決まった。


-----------------------------------


山本 :「いらっしゃい、かのんちゃん、舞ちゃん、お母さん。あれ? 今日はもう一人いるね。お友達?」


私たちはスリッパに履き替え、受付をしてるとさっそく山本さんが声をかけてきた。山本さんは天文台でアルバイトをしている大学生のお兄さんだ。


かのん:「うん、神崎さん。神崎さんも星が好きなんだよ」


山本 :「そうか。では、改めまして。ようこそおいで頂きました。私は当天文台の案内係をしています、山本です。今日は月のない夜で星空がきれいです。ゆっくりと楽しんでいってください。」


そういって、私たち4人は奥の中庭へと向かっていった。


そらには冬の星座たちが光っていた。オリオン座、おおいぬ座、こいぬ座。冬の大三角形が南西の方角に輝いている。


かのん:「オリオンは狩りの名手なんだ。二匹の犬を連れて狩りに出かけてるんだ。それで、狙っているのはオリオンの足元にいるウサギなんだ。」


山本 :「そうだね。オリオンの足元にうさぎ座があるんだ。ちょんちょんと耳の部分に二つ星があるんだけど。ちょっと、暗い星だから見えにくいかな。」


私と神崎さんは一生懸命探したけど、よく見えなかった。そんなことお構いなしにかのんが話を続ける。


かのん:「オリオンは、うぬぼれてたの。自分の狩りの腕を周りに吹聴して自慢ばかりしていたの。それで女神ジュノーの怒りにふれて、さそりにさされて死んじゃうの。だから、さそり座はオリオンの目につかないように同じ季節には夜空に現れないの」


神崎 :「へ~。かのんちゃん、本当によく知ってるね。」


かのん:「えへへ」


私はかのんの話を聞きながら、星空を見ていた。ふと、南の空にひときわ明るい星を見つけた。


舞  :「あの、明るい星は何? あんなところに一等星なんてあったっけ?」


神崎 :「あれは木星だよ」


舞  :「木星?」


神崎 :「うん、地球と同じ太陽系を回っている星。他の夜空の星とは違って太陽の光を受けて輝いている星」


山本 :「しかし、惑星をピタって言い当てるのはすごいな。よほど毎日星を見てないとわからないよ。星座と違って、季節と時間で場所が決まってるわけじゃないからね。」


舞  :「神崎さん、すご~い。」


私は素直に感心した。かのんと同じくらいの星おたくなんだ。


神崎 :「私ね、大きくなったら、あの木星に行って帰ってくるロケットを作りたいんだ。木星の月に着陸して、その星の氷を持って帰ってくるロケット」


山本 :「木星にかい? そりゃ無理だ。行くだけならできるけど帰ってくるのはものすごく大変だ。それこそ、燃料をいっぱい積んだ何十トンもある探査機を打ち上げないといけない。今の科学力じゃ無理だ。」


神崎 :「大丈夫。探査機のエンジンはイオンエンジン使うから。そうすれば電気で動くロケットだから、電気は太陽電池でためるの。だから小さくて済む」


山本 :「あはは、イオンエンジンなんてSFの世界さ。昔から言われてるけど、何百時間も動かせるエンジンなんか作れないよ。」


神崎 :「そんなことないよ。この前、小惑星探査機『おおたか』が小惑星に向かって打ち上げられたわ。『おおたか』のエンジンはイオンエンジン」


山本 :「ああ、あの無謀な計画か。いっぱい実験器具詰め込んで飛ばした探査機。小惑星に行って帰ってくるどころか、すぐに通信不能になるって、みんな呆れて言ってるよ。積んでいるのは『はかない夢』だけさ」


神崎 :「ううん。『おおたか』は絶対帰ってくる。どんなに傷ついても帰ってくる。そして帰ってきたら、『おかえり』っていうんだもん」


かのん:「そうだよ。帰ってくるよ。山本さん、そんなこというのはひどいよ」


山本 :「そうだな。悪かった。神崎さんの夢を壊しちゃいけないな。ところで舞ちゃんは将来の夢って何か持ってるの?」


舞  :「夢?」


急に振られたちょっとびっくりした。


舞  :「お医者さんになることかな。特に難病で苦しんでいる人を助けるお医者さん。私も原因不明の病気だったから、みんなを助けてあげたい。」


山本 :「うん、舞ちゃんならなれるぞ。そうしたら、もし、病気になったら舞ちゃんに見てもらうようにしよう。長生きできそうだ」


山本さんは半分冗談めいて話をする。


山本 :「かのんちゃんは?」


かのん:「う~ん。」


かのんは少し考えてからこう言った。


かのん:「大人になること」


神崎 :「え? 大人になってから何になるかって話だよ?」


かのん:「大人になればなんでもできる。だけど、私の病気はまだ治っていない。今はちょっと落ち着いているだけ。だから、病気が治って大人になるまで生きられることが私にとっての夢なんだ。」


神崎 :「...」


神崎 :「ごめん。大人になることは当たりのことだと思ってた」


かのん:「ううん、気にしないで。この病気ばかりはしょうがないこと」


かのんが両手を広げておどけて見せた。


山本 :「ねえ、みんな。せっかくだから大望遠鏡で木星見てみないか? 赤い大斑点も見られるかもしれない。」


かのん:「うん」

神崎 :「うん」


そういってみんなは反射望遠鏡のところに行って飽きるまで木星を眺めた。



つづく

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