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4-7.急性リンパ性白血病

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

冬の土曜日のことだった。


舞は朝から院内学級に向かった。ただ、院内学級に行く前に外来の待合室をわざわざ通って行くのがこの頃の習慣だった。


舞  :「見落としそうな子いないかしら。」


舞は、ある女の子に目が行った。中学生くらいの女の子だった。母親と一緒に待合室で待っている。


舞はその子の表情が気になった。熱がありそうだけど、高熱ではないみたいだ。別に咳とかくしゃみとかしてるわけではない。でも、けだるそうに母親に寄り添っている。


舞は気になってその女の子に声をかけた。


舞  :「お姉ちゃん、大丈夫?」


女の子と母親はびっくりした表情で舞を見た。


舞  :「私、楠木舞。おねえちゃんのお名前聞いてもいい?」


女の子:「赤井夢だけど。」


舞  :「そう、いいお名前ですね。そう、ちょっと手のひらを見せていただけますか?」


女の子は怪訝な顔をして手のひらを見せる。


舞  :「ありがとうございます。あの~、さしでがましいですけど、診察室に入ったら先生に『舞が気にしていた。』と言ってください。」


そういうと舞はそそくさとエレベーターのほうに歩いていった。



--------------------------------------------


外来医師:「う~ん。疲れから来る風邪のようですね。インフルエンザではないようです。お薬だしておきますから、ゆっくり養生してください。」


母親  :「あの、もう1週間も続いているんですけど、風邪ってそんなに長引くんでしょうか?」


外来医師:「その間、学校は?」


母親  :「部活は休んでますが、授業には普通に出ています。」


外来医師:「それは、いけませんね~。ゆっくり養生しないと帰って悪化しますよ。少し、学校を休んで安静にしていてください。」


母親  :「はあ。」


外来医師:「他に気になるところはありますか?」


医師は言葉とは裏腹にもう話は終わったとばかりにカルテに書きだした。


夢   :「すいません、ひとつだけ。待合室で小さな女の子が来て、『舞が気にしていた』て言われたんですけど。」


もう診察が終わったとばかりにカルテに書きこんだ医師がびっくりして夢の顔を見る。医師だけでなく、看護師たちも一斉に夢のほうに振り替える。


医師は、落ち着きを取り戻し、ゆっくり言った。


外来医師:「少し、待合室でお待ちいただけますか?」


---------------------------------------------


その後、あわただしく検査を行い、夢は即入院となった。検査結果に関しては父親も同席の上話をしたいと言われ、父親が急遽会社から呼び出された。両親同席の上、松井先生が説明をする。


松井 :「夢さんの血液を調べました。白血球がかなりの数あります。急性白血病の可能性が濃厚です。」


夢は先生が何言ってるのかすぐには理解できなかった。


母親 :「ちゃんと、検査してください! 先週までこんなに元気だったのに白血病なんてありえないです!」


松井 :「お母さん、落ち着いてください。たしかにちゃんと検査しましょう。まだ、疑いだけです。しかし、もし本当だったらちゃんと治療しないといけません。大丈夫、今は白血病は治る病気です。」


そうして、即検査入院となった。夢は6階の西棟の個室に入院した。


----------------------------------------------

2,3日後検査の結果が出た。


松井 :「急性リンパ性白血病です。」


夢は何を言われたのかよくわからなかった。でも、自分が死ぬんだということは何となく理解した。両親も茫然としている。


松井 :「幸いにして、発見が早かったです。普通はもっと悪くなってから来られる方が多いです。」


母親 :「あの...」


松井 :「ああ、この前も言いましたが、昔と違って白血病は治ります。治癒率は9割あります。しかも、夢さんの白血病は比較的軽いほうです。ですから、あわてず、しっかり治していきましょう。」


夢と両親は少しほっとした。


松井 :「ただ、治療には入院とそれなりに辛いものになります。我々医師や看護師もしっかりサポートしていきますので、一緒に頑張りましょう。」


母親 :「どれくらい入院する必要があるんでしょうか? 一か月くらいでしょうか?」



松井先生が顔しかめて言いにくそうに言う。


松井 :「半年から1年くらいでしょうか。もしかするとそれ以上です。」


母親 :「そ、そんなにですか? この子来年受験です。そんなに学校を休めません!」


松井 :「お気持ちはわかりますが。今は治すことに専念しましょう。それに、入院の間、ず~っとベットの寝ていなければ

     いけないわけではないです。それに、勉強に関しては院内学級もありますのでそちらでフォローしていきましょう。」


父親 :「本当に治るんでしょうか?」


松井 :「治ります。夢さんには幸運の女神がついてるようです。たまたま土曜日にこの病院に来た。そこにたまたま舞ちゃんが通りかかった。そして、舞ちゃんがが夢さんの病気に気づいた。これは奇跡です。」


母親 :「まさか、彼女が病気を見抜いたんですか?」


松井 :「はい。外来の先生が見抜けなかったことも見抜いちゃたんです。まあ、よくこの初期段階で見抜きました。」


母親 :「信じられない。あの、ちゃんとお礼したいんですが。お家はどちらなんですか?」


松井 :「ああ、舞ちゃんなら毎日のようにこのフロアをウロウロしてますよ。なので、いつでも会えるので会ったときにでもお礼言えば大丈夫ですよ。」


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治療が始まった。


松井 :「今までは、はっきりと病名が分からなかったので、とりあえずステロカイドで様子を見ていました。これからは、この3つの薬を飲みます。これを4週間続けます。4週間後に再検査してみてみましょう。」


そうやって治療が始まった。治療が始まって数日たつと、私は今までのけだるさが無くなった。


夢  :「先生、大分楽になったんですけど。もう治ったんじゃないですか?」


松井 :「はは。よかったよかった。副作用もなく順調だね。でも、治ったわけじゃないんだ。入院した時は、悪い白血球がいっぱいだったんだけど、今は薬でその悪い白血球を退治したんだ。だけど、全部やっつけたわけではない。ほっとくとすぐに悪い白血球が増えるんだ。だから、その悪い白血球を徹底的にやっつけないと治ったと言えないんだ。」


夢  :「そうなんですか。」


松井 :「でも、調子よさそうだね。フロア内なら少し出歩いてもいいよ、部屋で寝てるばかりじゃ退屈だろう。ロビーと院内学級の部屋への出入りは許可しよう。」


夢  :「院内学級?」


松井 :「ああ、この病院にある学校さ。入院している子供達用の学校だ。木ノ内先生が担任だ。後で話をしておこう。」


夢  :「はい。」


松井 :「それと、その部屋にはぬしがいる。その女の子といろいろ話とかするのも気が晴れていいだろう。」


夢  :「主がいるんですか。」


松井 :「ああ、ボランティアで来ている女の子だ。」


夢  :「もしかして、楠木さんですか。」


松井 :「ああ、そうだ。夢さんが待合室であった女の子だ。」



その女の子は毎日、午後になると病院に現れた。そして、院内学級の部屋とこの西棟に出入りしている。そして、この西棟に入院している男の子とよく遊んでいる。


しかも、その子は水曜日になるとお昼ご飯と夕御飯を病院で食べている。


私は、その子たちと一緒にご飯を食べるようになった。


夢  :「舞ちゃん、どうして私が白血病だとわかったの?」


舞  :「えっと、白血病だとわかったわけじゃないの。ただ、顔が真っ白だったのと、手のひらが真っ白だったんで、ただの風邪じゃないなって思って、もしかして、血の病気、白血病とか悪性貧血とかと思って言っただけ。」


すごいと思った。


夢  :「舞ちゃん、何年生?」


もしかして、小さく見えても、実は小学校高学年、あるいは私と同じ中学生ではないかと思った。


舞  :「小学1年生だよ。」


夢  :「ええ?」


私は耳を疑った。


夢  :「うそでしょ。なんで、そんなに詳しいの?」


舞  :「え? だって、もう1年以上この病院にいるもん。それは詳しくなるよ。」


そう言って、舞ちゃんは彼女のこの一年の話をした。私はわかったようなわからないような感じだった。


夢  :「そういえば、もう一人女の子いるよね。確か私と同じ白血病のはず。その子はどうしてるの?」


舞  :「美鈴ね。今は骨髄抑制中だから、出てこれないの。でも、最後の治療だからそれが終われば退院するはず。」


夢  :「ふ~ん。その子はどれくらい入院してるの?」


舞  :「もう,一年以上かな。」


夢  :「そうなんだ~。私もそうなるのかな?」


舞  :「え? 病気は人それぞれだから。夢ねえちゃんはこの後、どういう治療するって言ってた?」


夢  :「4週間くらい薬のんで様子見るって。」


舞  :「ふ~ん。カテーテルつけてないから点滴でなくて、飲み薬だよね。」


夢  :「うん、そう。」


舞  :「それで、1週間もしないうちに院内学級出てこれるってことはALLだね。」


夢  :「ALL?」


舞  :「うん、急性リンパ性白血病。子供の白血病で多い病気。」


私は松井先生からその病名を聞いたこと思い出した。


舞  :「夢ねえちゃん、薬は何飲んでるの?」


私は薬を見せてあげた。


舞  :「ああ、この3種類か。」


夢  :「舞ちゃんわかるの?」


舞  :「うん、ALLで最初に飲む薬。普通は4種類なんだけど、3種類ってことは軽いってこと。」


私は驚いた。薬見ただけでどれくらいの症状かわかるんだ。


舞  :「美鈴はAML、急性骨髄性白血病だから、夢姉ちゃんとは違う病気だと思ったほうがいい。だから、美鈴と比べてもしょうがないよ。」


夢  :「ALLとAMLは違うの?」


舞  :「うん、薬の効き方が違う。ALLのほうはよく効くの。」


夢  :「舞ちゃん、すごいね。まるでお医者さんみたい。」


舞  :「えへへ。」


舞ちゃんが得意そうな顔をする。」


夢  :「じゃあ、舞ちゃん、質問、私いつくらいに退院できるかな。」


その質問をすると舞ちゃんは急に顔を曇らせた。


舞  :「ごめんなさい、それは診断になっちゃうの。診断できるのはお医者さんだけ。私は言ってはいけないの。」


舞ちゃんは申し訳なさそうにそういった。


数日後、舞ちゃんが私のところに来る。


舞  :「ねえ、夢ねえちゃん、タロットカードって知ってる?」


夢  :「ええ、知ってるわよ。」


舞  :「じゃあ、これ使って占ってあげる。いつ退院できるか。」


夢  :「え?」


舞  :「だって、この前、私に質問したじゃない。」


そうだった。確かに質問した。でも、占い? まあ、いいか。退屈しのぎになるし。


夢  :「じゃあ、お願いしようかな」


舞ちゃんはカードを一枚引いた。そして、その絵を見て考え込む。吊られた男の逆位置だった。舞ちゃんはそのカードをくるっと一回転させて、私に話しだした。


舞  :「11月くらいに退院できると出ています。」


夢  :「え? どうしてわかるの?」


私は耳を疑った。占い方はむちゃくちゃ。吊られた男の逆位置だからもっと別の意味だし、しかも、一枚めくっただけ。それに上下が重要なタロットをひっくり返してる。だけど、言っていることは先生と一緒。すごい偶然だ。


舞  :「えへへ。何となく。」


後から聞いたけど、いろんな人に退院時期を占ってるらしく、それが、先生が言ったことと一緒なので評判らしい。でも、あの、むちゃくちゃな占い方は気になった。


---------------------------------------------


 私は毎日をのんびり過ごしていた。薬の副作用もあまりなく、辛い治療と先生がおっしゃった割には楽に過ごせていた。


松井 :「順調ですね。このままいけば一時退院できます。」


私はほっとした。


松井 :「検査をしてみなければわかりませんが、このまま順調に進めば、ひと月くらい後から、強化治療に入ります。」


夢  :「強化治療?」


松井 :「ええ、再発を防止するため、悪い血液を徹底的に叩いていきます。治ったように見えても、ほんの少し、悪い血液が残ってますからね。この強化治療を4回やると退院できます。そのあと、維持療法といって通院しながら2年くらい治療を続けます。」


夢  :「はあ」


思ったよりも大変だ。気の遠くなるような話に私はうんざりした。その表情を見たのか看護婦さんが私に言った。


つかさ:「あの、夢さん、お願いがあるのですが?」


夢  :「なんでしょう。」


つかさ:「舞ちゃんの占いしってます?」


夢  :「ええ、退院時期を占うやつですよね。結構当たるって評判の。でも、むちゃくちゃな占い方だけど。」


つかさ:「ええ、それで確か夢さんタロット占いのやり方知ってますよね。」


夢  :「はい」


つかさ:「教えてあげて欲しいんです。ちゃんとカードの意味とか正位置と逆位置の違いとか。」


夢  :「いいですけど。何でですか? 舞ちゃん占い方はめちゃくちゃだけど、当たってますよ?」


松井 :「あれは、占いじゃない」


松井先生は不機嫌そうに言った。私は、まあいいやと思ってその話を承諾した。



舞  :「あの~、夢ちゃん、つかささんから聞いたんだけど。」


舞ちゃんが言いにくそうに私のところに来た。


夢  :「タロットの話ね。いいわよ教えてあげる。」


舞  :「ありがとう。」


舞ちゃんは顔をパッと明るくしてそういった。


夢  :「でも、教えてくれない? なんで、退院時期を正しく占えたの?」


舞  :「ごめんなさい、夢ちゃんにはちゃんと話すね。つかささんにも言われたし。あれは占いじゃないの。」


夢  :「占いじゃない?」


そういえば、松井先生もそんなことを言っていた。


舞  :「実は、診断してたの」


夢  :「うそ! みんなを片っぱしから?」


舞  :「うん。でも、先生に診断してはいけないと言われたから、占いをするふりをしてたの。」


夢  :「はあ」


占いで片っぱしから当てる方がまだ信じられる話だった。


舞  :「だって、みんな退院する時期聞いてくるし、それを教えてあげられないのがつらかったし。いいアイデアだと思ったんだけど。だけど、先生にばれて怒られた。」


夢  :「なるほどね~。確かに先生の言ってることは正しいわね。だから、あんな占いでもピタッと当てられたのね。」


舞  :「うん」


舞ちゃんがもじもじしながら答える


夢  :「じゃあ、私が正しい占い方教えてあげる。入院している人は不安でいっぱいなの。だから、何かにすがりたくなる。だから、占ってもらうのよ。でも、大事なのは、退院時期を教えることでなく、不安と取り除くこと。希望を持ってもらうこと。だから、正しくカードの意味を教えて、みんなに希望をもってもらうほうがためになる。」


舞  :「うん、そうだよね」


そうやって、私は舞ちゃんにタロットを教えていった。少しずつ少しずつ。幸いにして時間だけはいっぱいあった。


そんなある日、舞ちゃんがお礼にと自分で書いた絵を持ってきてくれた。怖い怪人の絵だった。


舞  :「タロット教えてくれたお礼」


夢  :「ありがとう。ところで、この怪人はなんていうの? フランケンシュタイン?」


舞  :「え? えっと」


夢  :「ん?」


舞  :「......夢ちゃん」


がっくりきた。構図とかめちゃくちゃだ。こうやって見ると舞ちゃんも小学一年生らしく見える。


夢  :「舞ちゃんは絵が好き?」


舞  :「うん、入院してた時、暇だったから毎日書いていた。」


夢  :「その時、絵似顔絵の書き方とか誰かに教えてもらった?」


舞ちゃんは首を振った。


舞  :「パパも冬ちゃんも絵は苦手だっていって。だから、自分で書いた。」


夢  :「そう、じゃあ、絵も私が教えてあげる。これでも、学校じゃ美術部だから。」


舞  :「え、本当? 教えてくれるの?」


舞ちゃんの顔がパッと明るくなる。


夢  :「ええ、似顔絵の書き方教えてあげる。私得意だから。」


舞  :「やった~!」


舞ちゃんは喜んで私に抱きついた。その時、ふと私は疑問に思った。


夢  :「そういえば、舞ちゃんはボランティアとしてここの病院に来てるんだよね。」


舞  :「そうだけど。どうして?」


夢  :「ううん。なんでもない。ちょっとおもしろいと思っただけ。」


舞  :「?」


ボランティアに来てる子にボランティアで教えてあげる。まるでさかさま。これじゃどっちがボランティアかわからない。そう思うとおかしかった。でも、それもありかな。そういう風に私は思った。


続く

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