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4-6.タロットカード

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

淳  :「ねえ、舞ちゃん。僕はいつ頃退院できるんだろう。」


淳は院内病院にボランティアに来ている舞に尋ねた。1月ももうすぐ終わり、2月に入る頃のことだった。

淳は腎臓病をわずらっている。


…5月くらい…

…でも、お医者さんじゃないから言えない…


舞  :「う~ん、私お医者さんじゃないからね~。わかんない。」


淳  :「でも、松井先生も舞ちゃんから診断のアドバイスもらってるじゃない。わかんないわけないよね。」


小学生にアドバイスをもらう松井先生もどうだが、確かに舞ちゃんの見立ては外さない。


舞  :「でも、私、小学1年生だよ。そんなの無理だよ~。」


淳  :「そっか~。」


明らかにがっかりする表情を見せる淳。


淳  :「このまま、一生病院かな~。」


舞  :「あり得ないわよ。第一かのんだって退院してるんだから、淳君も治るよ。」


淳  :「だから、いつ退院できるんだろう。」


堂々巡りだった。でも、草薙先生から、診断結果を患者や家族に言うのは禁止されている。いうわけにはいかない。


…こんなだったら、医療のことわかんないほうが楽。下手に知ってるから苦労する…


そう思う舞だった。淳君の病気はIga腎炎だから、食事制限を守らないとか変なことしない限りはそのうち退院できる。

バラが咲き誇るくらいの時期の可能性が一番高い。


舞はそんな悩みを抱えながら例によって不思議な風景の世界に呼ばれていった。


しおんの部屋の中の机の上で変なものを見つけた。トランプみたいなカードだけど絵柄が違った。きれいな絵柄だった。そのカードに興味をもった舞は連絡帳にこう書いた。


舞  :「ちょっとかりるね。」


そうやって、借りてきたカードを冬ちゃんに見せる。


冬子 :「これはタロットカードというものです。占いに使います。冬子、タロットには詳しくないんですが一枚引いて出たカードで占うんです。」


舞  :「へ~」


冬子 :「舞ちゃん、興味ありますか? 冬子、舞ちゃんのために1セット買ってあげましょう。」


舞  :「え? いいの? ありがとう。」


冬子 :「いいえ、礼には及びません。院内学級で使えば、きっとみんなも喜ぶでしょう。」


冬子は舞のために1セット買ってきた。


舞はさっそく院内学級にもっていき、見よう見まねで占いを始める。一枚引いて占うのだった。


淳  :「舞ちゃん、僕がいつ退院できるか占ってくれる?」


舞  :「うん、いいよ、でも、占いだから本気で信じちゃだめだよ。」


淳  :「うん、わかってるよ。」


舞  :「淳君は、えっと」


舞はカードを一枚引いてあたかも考えているふりをする。


舞  :「5月か6月には退院できるでしょう。」


淳  :「本当?! 退院できるんだ。でも5月はちょっと先だな。あと3カ月か~」


でも、淳は納得して帰っていく。


今度は夢ちゃんがやってきた。夢ちゃんは今年に入って西棟に入院してきた中学生のお姉さんだった。


…夢ちゃんは美鈴と同じ白血病。でも、美鈴とは違って急性リンパ性白血病。だから、美鈴よりも治りやすくて時期もはっきりしている…


舞が一枚引く。吊られた男の逆位置だった。


舞  :「う~ん。夢ねえちゃんは、え~と、ちょっと長いかな。11月位と出ています。」


夢  :「え?! そうなんだ。でも、お医者さんと言ってることが一緒。舞ちゃんすごいかも。」


こうやって西棟の子を占っていたら、東棟の子供とお母さんがやってきた。この頃は、東棟の子もよくやってくる。去年と違い、舞やかのんが退院したことにより、西棟は不治の病の子が入院するところというイメージが薄れ、それにより、院内学級にも東棟の子がよく来るようになった。


舞  :「えっと、2週間すれば退院できると出ています。」


舞  :「う~ん。1ヶ月くらいかかるかもしれません。先生は2週間と言ってますが、今の薬が合わなくて別の薬に変えて、ちょっと長くなるって出ています。」


そうやって、舞はカード占いのふりをしてどんどん診察していく。そして、実際、先生の見立てと一緒だったり、その通りになるのだから評判が上がっていく。


しかし、とうとう、草薙先生の耳に入ってしまった。舞は草薙先生に呼ばれた。


草薙 :「舞ちゃん! やりすぎです! 舞ちゃんのは占いではなく、診断です。」


舞  :「ごめんなさい。」


松井 :「舞ちゃん、勘弁してくれよ~。薬が合わないとわかったなら、そっと、先に俺に言うのが約束だろう。」


草薙 :「診断は医師しかできない。舞ちゃんのやっていることはいけないことだ。」


舞  :「…」


つかさ:「まあまあ。そんなに舞ちゃんを責めなくても。舞ちゃんはみんなを喜ばせたいだけだったんだから。そうそう、舞ちゃん、何もちゃんと診断しなくても、タロットカードで占ってあげればみんな喜びますよ。西棟に入院している夢ちゃんがタロットの占い方知ってるみたいです。今度教えてもらったらいいです。」


舞  :「本当? 聞いてみる。」



舞は夢ちゃんに今回の話を正直に話した。


夢  :「舞ちゃん、すごいよ。小学一年なのに診断できちゃうんだ。それはすごいことだよ。でも、やっぱり、先生たちの言うとおりだね。うん、私がちゃんとタロット教えてあげる。この前、占ってもらった時カードと占いの内容が違ったんでびっくりしちゃった。ちゃんと占えるようになれば面白いよ。」


そうやって、夢ちゃんはカードを舞から借りてやり方を教える。


夢  :「タロットには東洋式と西洋式があるんだ。占いのやり方が簡単な東洋式を教えるね。まず、カードを切ったら8枚のカードを表から順にこんな感じで並べていくの。この形は世界樹っていうんだ。そして、9枚目を引いたら表にするの。これが占いででてくるカード。」


夢  :「このカードにそれぞれ意味があって、そして、向きも重要なの。ちゃんとカードが見えるのが正位置。反対に見えちゃうのが逆位置。逆位置に出るとカードの意味と反対になるんだ。そして22枚のカードの意味は。。。」


夢は舞にタロットのカードの意味を教え、カードでの占い方を教えてあげた。舞は夢中になって覚えた。


そして、院内学級でも披露し始めた。


淳  :「舞ちゃん、僕、将来サッカーのJリーグの選手になりたいと思ってんだけど、この病気でもなれるかな。」


舞  :「うん、ちょっと待ってね。あ、来年なれるって出てるよ。よかったね。」


淳  :「舞ちゃん。それはちょっと。」


舞の占いは一時期の神がかりのようなところはなくなったが、それなりに楽しめ、院内学級でも人気の出し物となり、今でも入院した人はからなずやってもらう名物になっている。


つづく。



詩音 :「舞ちゃん、そろそろタロット返して。」


詩音は連絡帳にそう書いた。


詩音 :「まったくもう。なんでも持ってっちゃうんだから。くるみエッセンシャルももっていったままだし。せっかく楽しみにしてたのにな~」


詩音は一人でぶつくさ言いながら、量子力学の本を仕方なしに読み始めた。

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