1-4.プレゼント
この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の施設名、一部の物理法則はフィクションです。
黒猫ニャーゴの話が終わった。
俺は思わず目頭を抑えた。子供たちも涙を流している。最後はちょっと救われるが悲しい話だ。
冬子はと隣を見てみるといない。
いつのまにか子供たちに混じって座って聞いている。
たかし:「今日はここまで。また、今度聞かせてあげるね」
かのん:「え~、もっときかせてよ~」
たかし:「だめだめ。いっぺんに聞いたら疲れちゃうでしょ。代わりに折紙折ってあげる。」
たかしは折紙を折ってみんなにあげる。
冬子 :「たかしちゃん、すごいです。どうやって折るんですか? 冬子にも教えてください。」
他の女の子三人も「うんうん」とうなづいている。
たかし:「じゃあ、教えてあげよう。特別だよ。」
「わ~い。」子供3人と大人一人が喜ぶ。
あきら:「すいません、先生。すっかり、うちのも混じって遊んでしまって。」
木ノ内:「いえいえ、院内学級には子供たちの精神状態を落ち着かせる目的もあるんですよ。普段つらい入院生活をちょっと忘れさせてあげる。そうやって、これからのつらい治療にも立ち向かえるようになれるんです。」
木ノ内:「それに、ああやってたかし君も人に教えることにより、自分もしっかり覚えていく。これも教育の一つです。」
そうか、この学級は知識を詰め込む場所ではないんだな。なんか、本来の学校の姿に近いんじゃないのか?
あきら:「でも、中には親御さんの中には『こんな生ぬるいんじゃだめだ』とか言い出す人はいないんですか?」
木ノ内:「いいえ、いないですね。やっぱり、今最重要なのは子供の病気を治すこと。そう思ってらっしゃる人ばかりです。」
あきら:「そうですよね。馬鹿な質問でした。」
そうだ。まず、舞の身体が治るのが先だ。まったくだ。
そんなこんなで見学が終わり、解散となった。そして4月から院内学級に入学する方向で手続きをしてもらうこととした。
病室への戻り際にたかしが舞に声をかける。
たかし:「そうだ、舞ちゃんに渡すものがあるんだ。お近づきの印。」
舞 :「うん?」
たかし:「お昼ご飯食べ終わったら、ロビーにおいで。」
そういってたかしは病室に戻っていった。
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お昼ご飯を食べ終わると私はロビーに向かった。クリーンフロアを出るとそこはロビーになっている。ここと院内学級の教室だけが、舞たち4人がクリーンフロア以外行くことができるエリアだ。
すでにたかしが待っていた。となりに美鈴もいた。
たかし:「お、舞ちゃん来たな。」
舞 :「うん。おまたせ」
たかし:「じゃあ、約束のプレゼント。一種のおもちゃなんだ。」
たかしにいちゃんが手作りの箱を舞にくれた。となりの美鈴がにこにこしている。
たかし:「あけてみて」
舞 :「?」
舞は言われたとおりそ~と開けてみる。すると
ビヨーン。中から何かが飛び出した。
舞 :「わ!」
たかし:「あははは。びっくり箱。気に入ってくれたかい?」
そう笑いながら、病室に戻っていく。
舞 :「ひど~い。」
美鈴 :「たかしにいちゃん、お気に入りの子にはあのびっくり箱をプレゼントするの。別に悪気はないみたい。」
舞 :「美鈴ちゃんももらったことあるの?」
美鈴 :「うん、もらったよ。手作りびっくり箱。やっぱり最初に会った日に。」
舞 :「そうなんだ~。」
自分で物語り作って読んでくれたり、自分で作ったびっくり箱で驚かしたり変な子。
舞 :「でも、面白い人」
美鈴 :「うん。変だけど楽しい人だよね。」
これが舞のたかしにいちゃんに会ったときの第一印象だった。
つづく