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4-4.クリスマス

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

舞  :「美鈴、入ってもいい?」


美鈴 :「うん、どうぞ~」


12月25日のクリスマスの日、舞は美鈴の病室を訪れた。


美鈴 :「かのんや淳ちゃんも呼ぶ?」


舞  :「ううん、今日は呼ばないで欲しい。美鈴と二人で楽しみたいから。」


美鈴 :「? どうしたの?」


舞  :「これ、もってきたん。」


舞はケーキとポテチを差し出す。


美鈴 :「わ~、おいしそう。だったらやっぱり二人を呼ぼうよ。」


舞  :「だめなの。食事制限があるから。このケーキはバターケーキだから美鈴は大丈夫。」


美鈴 :「あ」


舞  :「二人に塩分はダメ。淳ちゃんはさらにたんぱく質はだめ。かのんはケーキ大丈夫と思うんだけど、お菓子は病院が出すお菓子しかダメでしょ。だから、二人でこっそり。」


美鈴 :「でも、二人に悪いよ。」


舞  :「美鈴だって食べられる時期と食べられない時期があるよね。だから、食べられる時期はしっかり食べないとね。」


美鈴 :「うん....」

  

舞  :「年が明けて少ししたら、最後の治療に入るじゃない。そうなるとまた、あえなくなるでしょ。だから、二人でクリスマスのお祝いしよう。」


美鈴 :「うん、ありがとう」


ケーキを食べながら二人はたわいもない話をする


美鈴 :「この前、ひかるちゃん来たよ。」


舞  :「うん、見たいだね。どうだった?」


美鈴 :「目、そらしながら、『美鈴ちゃんファイトです』って言ってくれた。」


舞が頭を抱える。


舞  :「ひかるもしょうがないなあ。すぐ見抜かれるってわかんないからね。」


美鈴 :「でも、お見舞いに来てくれるのはうれしい。」


舞  :「そのへんは難しいよね。普通の子なら、そう言って二度と来ないけど、ひかるはお見舞い続けるからね。」


美鈴 :「うん、そういう意味で安心してお話できる。裏表ない子だよね。」


舞  :「そう。とってもまじめだからね~。少し融通利かないところもあるけどね。」


美鈴 :「舞ちゃんに融通利かないって言われるのって相当だよね。」


舞  :「おや、おなかいっぱいですか、美鈴さん。じゃあ、ケーキは片付けましょうか?」


美鈴 :「舞ちゃん、意地悪~。」


二人は笑いあった。


美鈴 :「ところで、不思議な風景の世界のほうはどう?」


舞  :「美鈴だけだよね~。あの世界信じてくれるの。かのんとか淳ちゃんとか、空想物語だと思ってるしね。」


不思議な風景の世界とは公園の端から舞が時々呼ばれる世界である。多分夢でも見ているのだろうとみんな信じていない。舞自身も夢でないとは断言できない世界である。


美鈴 :「だって、本当にあったら面白いじゃない。詩音ちゃんだっけ? 舞ちゃんと同じ子がもう一人いるんなんて。すごい素敵。」


そして、その不思議な世界はパラレルワールドにつながっていて、舞と同じ子がやっぱり不思議な光景の世界に呼ばれているらしい。この世界とほとんど同じ世界が別の場所にあるらしい。


舞  :「美鈴も半分信じてないでしょ。」


美鈴 :「そ、そんなことないよ。」


舞  :「どうだか。でも、少しづつわかってきたよ。同じところと違うところがあるみたい。」


美鈴 :「どんなところが違うの?」


舞  :「うん、例えばね。向こうには草薙先生がいないの。」


美鈴 :「え?」


舞  :「死んじゃってるの。」


美鈴 :「ええ~。あんな良い先生いないんじゃ、向こうは治る病気も治らないじゃない。」


舞  :「その代わり、番井先生がいる。こっちの世界では死んでるんだ。」


美鈴 :「不思議。」


舞  :「うん、向こうの私もわけわからないって言ってる。」


美鈴 :「へ~、そうなんだ。不思議だね~。他には?」


舞が言いよどむ。


舞  :「向こうでは、冬ちゃんがママじゃないんだ。」


美鈴 :「え?」


舞  :「向こうでは私を生んだ和恵ママが生きてるんだ。」


美鈴 :「ご、ごめんなさい。つい調子に乗って聞いちゃった。」


舞  :「ううん、構わない。去年までだったら、すごいショックできっと泣いてたと思うだけど、それ知っても、『ふ~ん』って感じだった。」


美鈴 :「舞ちゃんのうそつき」


舞  :「え? うん、ちょっとだけやきもち焼いた。でも、ちょっとだけだった。だって、冬ちゃんがママじゃないんだよ。私はそれはやっぱり嫌。」


美鈴 :「『桜祭り』だよね~。」

   

舞  :「うん。でも、不思議だったのはそのことノートに書いたら、『冬ちゃんがママなんてうらやましい』って返事が書いてあったの。本当のママがいるのにね。」


美鈴 :「あはは。でも、じゃあ、向こうにも冬ちゃんがいて、その子は冬ちゃんを知ってるってことだよね。」


舞  :「うん、そういうこと。」


美鈴 :「じゃ、私もいるんだよね。」


舞  :「え?」


美鈴 :「だって、舞ちゃんにも冬ちゃんにも向こうに同じ人がいるんだよね。私にいてもおかしくないよね。」


舞  :「あ、考えたことなかった。でも、そうだよね。いるはず。そうだよね。私なんで気づかなかったんだろう。」


美鈴 :「向こうの私も同じ病気かな。」


舞  :「あ、私も向こうの私も同じ病気だから、可能性あるよね。」


美鈴 :「じゃあ、きっと、頑張ってるんだろうな。今ごろ、こうやって向こうの舞ちゃんと一緒にケーキ食べてるのかな。治療頑張ってるのかな。」


舞  :「きっとそうだよ。今度聞いてみるね。うん、ちょっと面白そう。もしかしたら特効薬かなんかで治ってるかも知れないよ。」


舞は自分のキロニーネの経験を当てはめてみた。


美鈴 :「ええ~、そうしたらそのお薬もらってきてね。」


舞  :「うん、わかった。」


舞はそう言って不思議な風景の世界に想いをはせた。


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午後からは舞は院内学級でクリスマスの飾りつけを手伝った。


院内学級の正式なクリスマス会は先週終わっている。本当のクリスマスの日は看護師やボランティアの方が忙しい。だから、その前に行うのが通例だ。そのときには木ノ内先生や松井さんたちお医者さんとか看護士さんとかがいっぱいいた。


でも、このクリスマスにも入院している子供たちはいっぱいいる。だから、今日はつかささんと冬ちゃんと舞が中心になって、ささやかなクリスマス会を開こうとしている。


冬子 :「特別に病院からお菓子をもらってきました。」


厳しい食事制限のあるかのんと淳君でも食べられるように冬子が病院からもらってきた。


冬子 :「病気が治れば冬子がおいしいご飯やお菓子を作ってあげます。それまではがまんです。」


みんな、おとなしくうなづく。だけどかのんはぼそっと言う。


かのん:「いいなあ、舞は。毎日、おいしい冬ちゃんのご飯食べられて。」


舞  :「うん。」


舞は悪びれず素直に返事する。


かのん:「やだやだ。少しは『そうでもないよ』とか遠慮すべきよ。」


舞  :「じゃあ、『そんなことないよ』」


かのん:「今更遅いって。」


淳  :「あはは、相変わらずだよな。二人は。」


かのん:「なによ、淳。淳のくせに生意気よ。」


美鈴 :「まあ、まあ。」


つかさ:「そういえば、今日はとっておきの出し物があるとか。」


冬子 :「はい。隣の三条さんがお見舞いに来てくれてます。」


つかさ:「三条さんって、あの有名なバイオリニストの三条夫妻?!」


冬子 :「そうです。演奏してくれるそうです。」


つかさ:「なんで、冬子さん、黙ってたんですか! みんな呼んでこないと。」


冬子 :「だめです。お忍びです。クリスマス休暇で帰ってきてるので、たまたま来てもらっただけです。」


つかさ:「そんな、もったいなさすぎます。」


冬子は首を振る。


冬子 :「草薙先生と松井先生くらいにしましょう。それと木ノ内先生も響子先生も来ます。」


少しして木ノ内先生と響子先生がくる。そして、三条夫妻が来る。草薙先生と松井先生も来る。


三条夫妻がみんなに挨拶をする。だけど、院内学校の子供たちは、三条夫妻のすごさを理解していないからただのおじさんおばさんが来たとしか思っていない。大人たちのほうが緊張している。三条夫妻にはくるみという一人娘がいる。優秀な科学者でヨーロッパに行っている。天才演奏家と天才科学者。一家そろっての天才である。


2曲演奏したのち、3曲目は響子先生が院内学級のエレクトーンと夫妻のバイオリンと協奏する。簡単な曲で夫妻のほうがが合わせてくれた。


夫妻は、騒ぎが大きくなる前に退出した。


美鈴 :「向こうの私もこうやってバイオリンとエレクトーン聞いてるのかな。」


舞  :「うん、きっとそうだよ。おんなじ世界なんだから。向こうの私もきっと聞いてると思う。」


美鈴 :「会ってみたいな。」


舞  :「うん。元気になったら会いに行けるよ。」


三条夫妻の余韻余韻の残る院内学級の部屋で響子先生が提案した。


響子 :「せっかくだから、このエレクトーンで「きよしこのよる」弾くからみんなで歌いましょう。」


みんなできよしこのよるを歌う。病気が治る願いを込めて。



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詩音 :「くしゅん。」


ポッチ:「どうしたの? 風邪?」


詩音 :「ううん。ちょっと寒気がしただけ。」


詩音とポッチが隣の三条家のサンルームでお茶をしている。今日は手作りケーキと手作りポテトチップに紅茶である。


ポッチ:「そうだよね。これからのこと思うと体震えるよね。」


詩音 :「本当。お菓子作りは最高に上手なのに。」


ポッチ:「天は二物を与えずよね。」


くるみが楽譜を持って部屋に入ってくる。


くるみ:「クリスマスのためにピアノ練習したの。5曲も練習したの。一生懸命したの。ふたりとも聞いてくれるよね。」


青ざめる二人。いくら練習したってくるみのピアノがまともに聞けるわけがない。


ポッチ:「(ご、5曲も?!)」


詩音 :「(に、逃げるわよ)」


ポッチ:「くるみさん! そこにつちのこいる!」


くるみ:「え? どこ?」


(ずごごごご)


二匹のはぐれメタルはその場から逃げだした。


つづく

今年はこの話でおしまいです。

4章の続きは年が明けたら再開します。そして、季節感を合わせるため当面の間2~3週間に一回の投稿ペースになります。ごめんなさい。

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