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4-3.院内感染

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

12月に入りイチョウの木も大分色づいてきたある日のことだった。

舞は院内学級ではなく、東棟の大部屋で物語を読んでいた。


つかさ:「舞ちゃん、珍しいですね。東棟で物語読むなんて。いつもは院内学級の部屋が多いのに。」


舞  :「うん、たまにはね~。それに今日は冬ちゃん料理学校で来ないからね。」


いつもは冬子が東棟の子供達、特に就学前の子供達を相手に遊んでいる。

東棟の子達は短期入院が多いので、院内学級に転籍することはない。

それで、冬子がボランティアでちょっとした勉強を教えたり、小さな子供達の相手をしている。


つかさ:「響子お姉ちゃんと一緒の料理学校なんでしょ。冬ちゃん。」


舞  :「そうなんです。ある意味怖いですよね。」


つかさ:「先生大丈夫か心配ですよね。」


あの二人が料理学校に通う意味が良くわからない。単に親友二人が共通の趣味で親睦を深めようというのだろうが、他の受講生に迷惑じゃないだろうか? というか、先生も迷惑してないだろうか。そう、舞は思った。


舞  :「二人で、先生いじめてないか心配です。『冬子この材料ならもっとおいしく作れます』とか『ふ~ん。この程度で先生できるんだ』とか言いそうで怖いです。」


つかさのいとこである響子の料理は飛びぬけている。特に中華料理は絶品である。一方、舞の母である冬ちゃんこと冬子は調理師学校出身の元プロで一度食べた料理の味をそのまま再現できる能力を持っている。下手なレストランよりもおいしい料理ができる。特に洋食系はめちゃくちゃ得意である。


後ろから松井先生がひょっこり現われる。


松井 :「料理学校に行ったほうがいいのは、いとこのほうだよな。」


顔を真っ赤にしてつかさが怒る


つかさ:「松井先生、ちょっとひどくないですか。確かに私は自信がないですけど」


舞  :「そうだよう、先生それセクハラだよ。」


松井 :「悪い悪い。でも、つかささんの魅力は料理ではないからな。そんなの気にならないよ。」


つかさ:「いまさら、フォローしても遅いです。」


松井先生とつかささんが話している間、舞は一人の女の子のしぐさが気になっていた。昨日、入院してきた女の子だった。ちょっと、熱っぽい雰囲気で背中を掻いている。その捲り上げられた背中を見て舞の顔が引きつる。


舞  :「松井先生、ちょっと。」


松井 :「どうした。舞ちゃん。」


舞は松井先生に耳打ちした。


舞  :「(あの、今日入院した女の子だけど水疱瘡じゃない?)」


松井 :「え!」


水疱瘡は非常に感染力の強い病気だ。でも、子供がかかる分には症状は重症化せずに一週間もすれば治る。しかし、それは健康なときにかかる分にはだ。病院の中で感染するとそうは行かなくなる。


松井 :「つかささん、あの子を連れて診察室に。それと、舞ちゃん、草薙先生に話して。あ、そして、舞ちゃん、絶対に西棟に入ったり、西棟に入院している子に会うな。」


舞  :「わかってる。そんなこわいことしない。」


舞はそう言って西棟のナースセンターに駆け込む。


舞  :「草薙先生を至急呼んで。それと、クリーンフロアの緊急封鎖を」


看護師:「どうしたの? 急に」


舞  :「東棟で水疱瘡の疑いのある子が見つかりました。」


看護師の顔が引きつる。


看護師:「わかったわ。すぐ手配する。」


幸い、院内学級に3人はいなかった。それぞれ病室のようだ。


騒ぎに気づいて、美鈴が病室から出てくる。


舞  :「だめ~。外に出ちゃだめ。私も濃厚接触者だから、会っちゃだめ!」


看護師が慌てて、クリーンフロアに入り、美鈴を奥に連れて行く。


舞  :「ふぅ。」


舞がため息をついていると草薙先生が現われた。


草薙 :「ちゃんと診断した結果、水疱瘡なのか?」


舞  :「いいえ、表情と背中の発疹を見て私が松井先生に言いました。」


草薙先生の顔が引きつる。


草薙 :「舞ちゃんがそう判断したのなら確度高いな。ところで、舞ちゃん、水疱瘡の予防接種を受けてる?」


舞  :「ええ、受けてます。ボランティア始める前に祐美子さんに確認しました。」


草薙 :「ふう、ひとまず安心だ。濃厚接触者が抗体を持ってくれれば助かる。よし、とりあえずこのフロアの医師、看護師、ボランティア含めて抗体チェックを行う。」


看護師:「そんな大騒ぎしないで松井先生の診断結果でてからでも遅くなくありません?」


草薙 :「ばかやろ、この病棟における水疱瘡の院内感染は致命傷なんだよ。免疫抑制している西棟の患者に移ったら重症化、下手すれば死ぬぞ。」




診断結果が出た。やはり、水疱瘡の疑いが濃厚だった。


松井 :「さすが、舞ちゃんだよ。良くぞ見抜いてくれたって感じだ。」


舞  :「でも、発疹があるようじゃもう周りに感染してるかも。」


草薙 :「大丈夫だ。あと、二日以内に抗体陰性の子供や先生達にワクチンを打てば発病しない。だから、抗体検査を急いでるんだ。問題はワクチンを打てない、美鈴ちゃんと淳君だ。」


舞  :「かのんは?」


松井 :「かのんちゃんは大丈夫。もちろん移るといけないけど、免疫抑制していない。免疫抑制していなければワクチンは打てる。」


ある意味、かのんが必要以上に西棟にいるのが幸いしている。だけど、後の二人が問題か。


草薙 :「とリ会えず、抗体の確認を急いでやろう。応援の先生も募る。」


舞  :「ごめんなさい、私何も出来ない。」


草薙 :「気にするな。でも、早く医療免許とって俺達を楽にしてくれ。」


舞  :「うん。」


何十年後になるかわからないがその日を期待してくれるのが舞はうれしかった。


----------------------------------


抗体検査の結果が出た。舞や草薙先生、松井先生、つかささんは陽性だった。つまり、水疱瘡には移らない。だけど、美鈴と淳君とかのんは陰性だった。つまり、移る可能性があるということだ。


松井 :「淳君と美鈴ちゃんが陰性なのはつらいですね。」


草薙 :「しかし、その二人に接触している人たちが陽性なのは不幸中の幸いだ。特に舞ちゃんの陽性にはホッとしたよ。」


舞  :「万が一陰性だったら?」


草薙 :「下手すると、小学生卒業までボランティア禁止。」


舞  :「!」


草薙 :「まあ、そうならないように舞ちゃんには各種予防接種を受けてもらうとか、学校で風邪が流行ったらボランティア自粛してもらうとかしてるから大丈夫だけどな。」


舞がホッとする。


草薙 :「とりあえず、東棟の陰性の子供達はワクチンを打とう。かのんちゃんもだ。それと、西棟担当の看護師で陰性の人はワクチン接種後、一週間の出勤停止。それで様子見だな。」


舞  :「美鈴と淳君は?」


松井先生と草薙先生が顔をしかめる。


松井 :「淳君にはプログリンを投与する。ワクチンを打てないからな。美鈴ちゃんは...」


草薙 :「どうする。」


松井 :「ワクチンはもってぬほか。やはり高力価プログリンの投与すね。クロアシビルでウイルスの増殖を抑える手がありますが、回復期にありますので免疫そのものを活性化するほうがいいです。」


草薙 :「うん、ただし、美鈴ちゃんは骨髄抑制期同様、部屋のドアを閉めて面会謝絶状態まで持っていこう。可哀想だが、準無菌室レベルまであげて万全をきそう。」


----------------------------------


次の日から戦いが始った。とりあえず、ワクチンの接種から始った。他の部局の応援ももらい、対応している。


舞  :「水疱瘡にかかった女の子は?」


松井 :「感染病棟の個室に移してる。病状そのものは特に普通で問題ない。」


舞  :「それはよかった。美鈴たちは?」


つかさ:「美鈴ちゃんと淳君は事情を理解して大人しくしています。特に美鈴ちゃんは部屋からも出れないのに『慣れてるわ』って大人しくしてます。ただ...」


舞  :「ただ?」


つかさ:「かのんちゃんは怒ってます。ものすごく不機嫌です。」


舞  :「やっぱり...」


つかさ:「『別に水疱瘡移ったって私は大丈夫。そもそもなんで、わたしがクリーンフロアなのよ』って怒ってます。」


舞  :「あちゃ~。しょうがないなあ。」


草薙 :「心臓に負担かけるってわかってないな。わがまま言うと一時外泊取り消しって伝えてくれ。」


つかさ:「はい。でも、みんな舞ちゃんに会えないのを寂しがってます。」


舞  :「...」


草薙 :「ドア越しで会ってあげてくれないか。少しは気が休まるだろう。」


舞  :「うん」


かのんと淳君がクリーンフロアの入り口まで来た。かのんが何か言っている。「舞もラインベルク症候群再発してこっちに来なさい。」って言ってるみたいだ。


舞  :「無茶言わないでよ~。再発しても、キロニーネ一錠渡されるだけで入院しないし、入院しても西棟には入れないよ~。」


かのんが怒ってる。気持ちの問題だとか、友達がいがないとか言ってるようだ。


だけど、こればかりはどうしょうもない。ドア越しに紙芝居をしたが、全然面白くなかったようで、かのんなんか途中から横向いていた。


感染発覚二日目はそのように過ぎて行った。でも、本当の危機は次の日からだった。


----------------------------------

3日目の朝、舞は家を早く出て学校に行く途中、病院に寄った。


松井 :「ええ? 子供がインフルエンザにかかって今日は来れない? 2人目だよ。この緊急事態に子供が風邪ひいたからって休む看護師ってなんだよ。」


舞  :「まあ、まあ。松井先生。」


草薙 :「いや、賢明な判断だ。万が一、看護師が感染して、院内に持ち込んだら大変だ。この状況だからこそ正しい判断だ。」


松井 :「確かにそうですが。舞ちゃん、学校でインフルエンザ流行ってる?」


舞  :「ううん。でも、幼稚園や保育園は流行ってるみたい。」


つかさ:「そういえばいとこの響子お姉ちゃん言ってました。クラス閉鎖だって。」


松井 :「か~。そういえば休んでる二人は子供が保育園だったな。」


草薙 :「東棟の面会制限を加えないとな。ご家族には申し訳ないが、東棟も就学前の子供の面会を制限してくれ。」


西棟はもともと未就学児の面会は許されていない。


草薙 :「舞ちゃん、学校のほうでインフルエンザが流行りだしたら教えてくれ。その場合は12歳未満の面会制限まで加える。」


舞  :「わかりました。」


そういって、舞は学校に向かった。



学校が終わり、舞は病院による。そこは、疲労困憊の松井先生とつかささんたち看護師の方々がいた。


舞  :「どうしたんですか?」


松井 :「水疱瘡の感染者が出た。」


舞  :「ええ? だってワクチン打ったじゃないですか。」


草薙 :「それが、全員ではないんだよ。あくまで患者は任意での接種なんだ。それで、ワクチン接種を拒否された患者が2名いる。」


つかさ:「別に、水疱瘡なんて昔から子供のかかる病気なんだから、ワクチンなど打たないでかかったほうがいいって。」


舞  :「水疱瘡のワクチンなんて安全じゃないですか。なんで、打たないんですか。」


草薙 :「万が一を考えてだ。ワクチン打つよりも水疱瘡で死ぬ確率のほうが高いのだが理解してもらえなかった。」


松井 :「まったく、自分勝手すぎる。ワクチンを打つのは自分のためだけでなく、他人に感染しないようにするためなのに。」


草薙 :「しかたがない。まあ、その二人は申し訳ないが感染病棟に隔離させてもらった。これで、ワクチンを打っていないのは美鈴ちゃんと淳君だけだ。」


舞  :「ふたりは大丈夫?」


松井 :「ああ、感染していない。不自由な環境でも我慢強く、文句いわないで耐えている。」


舞  :「二人ともすごいよね。プログリンの筋肉注射だってすごい痛かったはずなのに。」


松井 :「美鈴ちゃんは『マルクに比べれば痛くも何ともない』って我慢してました。」


舞は美鈴のことを思うといたたまれなくなった。


舞  :「で、もう一人のわがまま娘は?」


つかさ:「昨日より大人しいけど、不機嫌です。」


舞  :「やっぱり...」


帰り際、昨日と同じようにドア越しで話したがやっぱり不機嫌だった。


----------------------------------


感染発覚後から4日目。舞は午後から病院に行った。


昨日までの雰囲気とちがい、なにか混乱しているような気がした。


松井 :「人が足りないんだ。看護師が休んでいて、看護業務が行き渡らない。だけども、他の部局も忙しくてこれ以上人がだせないんだ。」


つかさ:「だんだん、東棟の入院患者さんもいらいらして来てます。」


舞  :「私、手伝うよ。何か出来る仕事ない?」


松井 :「ありがとう。でも、今足らないのは体力がいる仕事なんだ。舞ちゃんには厳しい。」


つかさ:「今、足らないのはベットメーキング、部屋の掃除、食事の配膳、下膳、車椅子やストレッチャーの移動、患者さんの入浴補助、カルテや検査物を運ぶ人なんだ。いわゆる看護助手の人だ。」


松井 :「尚且つ、この病院とこの小児病棟を熟知している人だ。」


つかさ:「そんな人、いるわけないでしょ。」


舞  :「...」


舞は一人の女性を思い浮かべた。


舞  :「一人いる。多分二人分くらいの仕事をする。」


つかさ:「だれ?」


舞  :「冬ちゃん。」


松井 :「そ、そうか、その手があるじゃないか。彼女ならこの病院のこと熟知している。」


つかさ:「でも、忙しいでしょ。」


舞  :「昨日まではごたごたしてた。でも今日からは暇なはず。ちょっと電話かけてみるね。」



少したってから冬子が現われた。


冬子 :「おうおうおうおう、お天道様はだませても、このお星様吹雪はだませませんぜ。水疱瘡のウイルスども年貢の納め時だぜ。ど~ん。」


自分で効果音をいれて登場する。


冬子 :「私が来たからには皆さん安心です。後は任せておいてください。」


あっけにとられる一同だった。


が、早速、看護助手の制服に着替えてあっという間に東棟に行き仕事を始める。誰から指示を受けるわけでもなく、自ら判断して進めていく。


冬子 :「あ、着替え手伝いますね。はいよしよし。」


冬子 :「診察の間にベッドきれいにしておきますね。」


冬子 :「舞ちゃん、ここ掃除しておいてください。」


冬子 :「このカルテはレントゲン室に持っていけばいいですね。」


冬子 :「大丈夫。痛くないです。冬子が抱っこしてて上げます。」


あっという間に的確に効率よく仕事が進んでいく。一気に今まで滞っていた作業が片付き始める。


松井 :「しんじらんね。舞ちゃんのママすごいぞ。」


舞も自分自身信じられなかった。


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次の日、冬子は朝から病院に来て、仕事をする。昨日と比べて、今日は同僚の看護助手の人たちに指示をしている。

看護助手の人たちもその自ら率先して働く姿と的確な指示を見て文句をいわない。


そのちょこまか病棟内を動く姿は病棟の名物となった。


そして、看護助手だけでなく、看護師やはたまた先生まで冬子の指図に従い始めた。


冬子 :「松井先生、奥から3番目の子をちょっと見てあげてください。」


冬子 :「つかさちゃん、入り口の子、点滴外れかけて痛そうです。見てあげてください。」


でも、だれもそのことに文句を言わない。


冬子 :「もう少ししたら、潜伏期間がすぎます。そうしたら、元に戻ります。頑張りましょう。お守りにこの冬子お手製のお星様のストラップあげます。元気出しましょう。」


冬子はフェルトでできたお星さまストラップを渡す。昨日家で作ってきたものだった。


冬子 :「先生に看護師のみなさん、騒ぎが収まったら健一さんのレストランで打ち上げやりましょう。冬子がよりに腕をかけて料理作ります。この前、料理学校で覚えたメニューだします。さあ、がんばりましょう!」


いつの間にかみんなを元気づけ仕切りだす。冬子パワーは衰えをしらなかった。


舞  :「パパが言ってた。何か一つに夢中になった冬ちゃんのパワーは信じられないって。不可能も可能にするって。」


つかさ:「そういえば、響子おねえちゃんが言ってたけど、高校の学園祭の時、一人でお星様ぬいぐるみを200個作って売りさばいたとか。」


草薙 :「ああやって、みんなに元気を配っているのか。元気の源って感じだな。」


みんなが感心してうなずく。



次の日、さらに看護師や看護助手で休む人が増えた。未就学児の間でインフルエンザと水疱瘡が猛威をふるっている。


どんどん仕事が増えていく。一人ひとりにかかる負担が増えていく。だけど、ギリギリのところで踏ん張っている。なぜなら、冬子が嬉々として、さらにパワーアップして、驚くべき効率で片っぱしから対処していくからだった。


松井 :「まるで『せんたくかあちゃん』見てるみてえ。」


舞  :「せんたくかあちゃん?」


松井 :「有名な絵本だ。せんたくが大好きなたくましくて『みんなかかってこい』見たいなお母さんがたまった洗濯物を片っ端から洗濯していく絵本さ。どんどんどんどん洗濯物の依頼が増えていくんだけど、いやな顔一つ見せず、『まかせなさい』っていって洗濯していくんだ。すげえ~かっこいいんだ。」


松井先生が目を真っ赤にして話をする。




「今、小児病棟に『冬のかあちゃん』が現れている。『冬のかあちゃん』が危機を救ってる」


この病院では人気病棟の看護師達には称号をつけて呼ぶ習慣がある。小児病棟は「マザー」だ。そして、冬子はいつのまにか「ウインターマザー」「冬のかあちゃん」と呼ばれ、病院中の噂になっていた。



---------------------------------


感染発覚1週間後。ようやく水疱瘡の騒ぎもおさまった。


冬子 :「冬子、こんなにもらっても良いんですか?」


冬子はこの一週間働いた分の給料を見てびっくりした。


松井 :「ええ、これでも少ないくらいです。何せ、この小児病棟の危機を救ったんですからね。院長からの金一封も入ってます。」


草薙 :「おかげさまで、水疱瘡の感染も広まらず、インフルエンザで休んでいた看護師も戻ってきました。ありがとうございました。」


冬子 :「いえいえ、冬子お役に立ててうれしいです。」


緊急閉鎖されていたクリーンフロアも開放され、かのんたちも出てきている。舞と久しぶりに院内学級で遊んでいる。


つかさ:「冬子さんパワー、本当にすごかったです。」


冬子 :「そんなに褒められると、冬子照れてしまいます。そうそう、これみんなで食べてください。今、紅茶入れますね。」


冬子は焼いてきたクッキーをみんなの前に差し出して、紅茶の用意をする。


みんなでおいしい手作りクッキーを感心しながら食べた後、松井先生が冬子に提案する。


松井 :「どうです。冬子さん、准看護婦目指しませんか? ここで働きながら夜学に通うことも出来ます。昼間の看護学校でも、授業は午前中だけですので、主婦業と両立できると思います。このままボランティアだけというのはあまりにもったいないです。」


冬子 :「ありがとうございます。冬子にはとても魅力的に感じます。でも…」


松井 :「でも?」


舞  :「ママには夢があるんだよね。」


クッキー目当てにいつの間にか舞が院内学級の部屋からきて話に割り込んだ。


松井 :「夢?」


冬子 :「冬子、将来の夢があります。ある資格を取りたいです。そのためには大学を卒業しなければなりません。今、通信制の大学に通っています。なので看護学校は難しいです。」


松井 :「そうですか。ちょっと残念です。冬子さんならいい看護婦になれると思うのですが、やりたいことがおありなら致し方ないですね。まあ、大学卒業後もう一回考えられるのもいいでしょうし。でも、大学頑張ってください。」


松井先生は未練たっぷりに話す。


草薙 :「大学でないと取れない資格を取って、どんなことやりたいのですか? ヒントだけでも。やっぱり料理関係ですか?」


冬子 :「料理関係でなく、医療関係です。えっと笑わないで聞いてくれますか?」


そう言って、冬子は自分のやりたいことを少し話した。みんな笑わなかった。


草薙 :「すごい。もし本当になったら、看護師になるよりも助かる。」


松井 :「でも、それを実現するには確かに大変だ。普通は無理だ。」


つかさ:「でも、冬子さんならできてしまいそう。すごく楽しみです。」


舞  :「うん、ママなら絶対なれると思う。この1週間みててあらためてそう思った。」


一同うなずく。


冬子 :「みなさん、ありがとうございます。さ、そろそろ、遅くならないうちにお暇しましょう。舞ちゃん一緒に帰りましょう。あきらさんが一週間ほったらかしで寂しがってます。」


舞  :「うん、この1週間、パパちょっとかわいそうだったからね。」


そう言って「冬の母ちゃん」は帰っていった。後にさわやかな余韻を残して。


つづく      


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