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4-1.淳

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

 11月になり少しずつ寒くなりだした、ある水曜日のお昼。舞が元気に病院に来る。別にどこか悪いわけではない。彼女はこの病院の院内学級のボランティアである。


 エレベータで6階に上がり小児病棟の方に向かう。小児病棟の入り口の下駄箱で靴をサンダルに履き替える。小児病棟には土足で入ることが出来ない。


 西棟のナースセンターに立ち寄り、健康チェックをしてもらう。風邪などひいていると中に入ることが出来ない。一般小児病棟である東棟なら比較的簡単に見舞い客として入れるが、特別小児病棟である西棟には、本来、小学生が中に入ることは出来ない。しかし、体温チェックなどで問題なければ舞は特別に中に入ることを許されている。


つかさ:「OKです。舞ちゃん。中に入ってもよろしい。」


舞  :「ありがとう。それと、病院食余ってる?」


つかさ:「はい。余ってはいないけど、舞ちゃんの分用意してます。」


舞  :「いつもありがとうございます。」


 そう言って、舞は西棟のかのんの病室に向かう。途中、ガラス戸で廊下が締め切られている。ここから先は普通の人は入れないクリーンエリアになる。


 この病院の小児病棟は感染症防止のため5つのゾーンに分けられている。一番外はエレベータホールのあるゾーン。2番目が東棟や院内学級のあるゾーン。3番目がいま入ろうとしているクリーンエリアである。


 通常はこれだけであるが、さらにその奥の病室のいくつかはクリーンルームになることが出来る。これは準無菌室になることができる部屋である。白血病などの骨髄抑制期はこの部屋の扉が閉まり、準無菌室レベルまで引き上げられる。ここまでくるといくら舞でも中に入れない。


 そして、その奥に無菌室がある。しかし、その無菌室は使われているのを見たことがない。準無菌室で大概の治療が済むかららしい。


 クリーンエリアの入り口の病室に向かう。


舞  :「こんにちは~」


かのん:「おそ~い。せっかく二人分確保してあげたのに。ごはんさめちゃうぞ。」


舞  :「ごめーん。帰り際に先生と話してたもんで。」


 かのんは舞が入院してたときに知り合ったお友達である。心臓病を患っている。心臓に負担をかけないため、歩くことも禁止されていて、車いす生活を強いられている。


かのん:「美鈴呼んで来て、一緒にご飯食べよう。」


舞  :「うん、呼んで来るね。」


 舞が病室を出てさらに奥の部屋に向かう。奥から2番目の右側の部屋。ここに美鈴がいる。


舞  :「美鈴~。一緒にご飯食べよう。」


美鈴 :「あ、舞ちゃん、来たんだ。こんにちは~。いこいこ~。」


 そう言って、ベッドから降りて、今運ばれてきた昼食を持って病室を出る。美鈴は白血病。今年の正月からこの病院にいる。


 3人は水曜日と土曜日の昼はこうやって一緒に昼食を食べる。場所は院内学級の部屋だ。


美鈴 :「あ、そうそう、今週からもう一人増えたんだ。」


 そう言って美鈴が隣の病室に声をかける。舞が半年間入院していた部屋だ。


美鈴 :「淳く~ん。」


 中から男の子が出てきた。少し、ぽっちゃりした男の子だ。


美鈴 :「私たちと同じ1年生。9月くらいから入院してたんだけど、ず~と部屋からでらなかったんだ。やっと今週から院内学級に行くことが許されたの。」


淳  :「真泉 淳。よろしくです。」


 小さな声で挨拶をした。


舞  :「楠木舞です。宜しく。」


 そうやって、舞はかのんの部屋に寄り、かのんの車椅子を押しながら東棟の入り口にある院内学級の部屋に向う。


 院内学級の部屋には誰もいなかった。もっとも、長期入院して院内学級に通っている子供は舞を除いたこの3人だから当たり前といえば当たり前である。


舞  :「いただきます。」


一同 :「いただきます。」


 病院食は決しておいしいものではない。でも、みんなで食べればおいしくなる。だから、舞もあえて病院食をお願いしている。もっとも、彼女にしてみれば、病院食も給食も外食も「まずい」の一言でくくられてしまうので気にしていないのだが。


 病院食といっても実は病状によって食事の内容が違う。舞と美鈴は普通食であり制限がかかっていない。かのんは水分と塩分に対して厳しい制限がかけられており、それようの食事である。


...淳君のは低蛋白、減塩料理に見える。腎臓病?...


 舞は淳の料理を見て病状の推測をつける。


淳  :「あの、楠木さんはなんの病気なんですか?」


舞  :「舞でいいよ。私も淳君って呼ぶから。」


淳  :「はい、それで舞ちゃんは何の病気?」


舞  :「私の病気はラインベルク症候群って言う難病。」


淳  :「そうなんだ。それじゃ、ここには長いの?」


舞  :「? うん、今年の1月かな~。西棟の入院したのは。」


淳  :「じゃあ、1年近くなんだね。でも、元気そうですね。」


舞  :「? うん、元気だよ。」


淳  :「え? 元気なのに入院してるの?」


かのん:「あはは。舞は退院してるよ。半年近く前に。今はボランティアって名目で遊びにきてるだけ。」


舞  :「一応ボランティアしてるよ~」


 ボランティア名目で来ているが実際は子供達と遊んでいるだけといってもいい。最も、病院側も、ただ遊んでるだけでも、この病院のことをよくわかっていて、入院している子供のストレス発散になる舞のボランティアは大いに歓迎している。

 

淳  :「あの~。本当ですか? 西棟から退院できたんですか?」


舞  :「へ?」


淳  :「だって、噂では、西棟に入院する子は不治の病だから、入ったら死ぬまで出られないって。」


舞  :「あのね。だれよそんなこといったの。現に私は退院してます。」


 実際、重症患者の多い西棟は天国に召される子供もいる。しかし、ちゃんと治って退院する子も多い。だけど、噂は悪いほうに広まってしまっている。


 その意味もあって、舞という生きた証拠をもってその悪い噂を振り払うためにボランティアにきてもらうことは病院にとって悪いことでない。子供たちの精神安定のためだけでない。


 だから、舞がこの病院の6階でただ遊んでるだけでも病院側は何も言わない。それどころか病院食ながらも食事を出してくれる。


淳  :「よかった~。退院できるんだ~。助かった~。」


美鈴 :「それに、かのんだって先月から週末の一時外泊認められてるわ。私も年末は一時外泊許してもらえそう。」


舞  :「美鈴おめでと~。淳君、こうやって少しずつだけど治っていくんだから、退院できないんなんて思っちゃだめだよ。」


淳  :「うん」


 その後、ご馳走様をして、食器を片付けてもらって4人でトランプしたり淳君を無理やりおままごとにつき合わせたりして遊んだ。その中で、みんな薬を飲んだので舞はその様子をすばやく観察した。


...淳君が飲んでるのは私もよく飲んだステロカイドとあれは免疫抑制剤のメリビゾン..

...とうことはIga腎症のカクテル療法ね....

...Iga腎症なら確かに重い病気だけどかのんや美鈴に比べたら格段に軽いはず...


 そして、美鈴たちが「ちょっと疲れた」といってお開きになりみんな病室に戻ったので、舞はその隙に松井先生を捕まえた。


舞  :「松井先生、なんで淳君Iga腎症なのに大仰に西棟なの?」


ぶ~。松井先生が飲んでいるお茶を噴出した。


松井 :「なんで、わかった。真泉くんが話したのか?」


舞  :「ううん。食べている料理とのんでる薬でわかった。」


松井 :「うわ~、良くそれだけでわかるな。」


 そこに草薙先生が現われる。


草薙 :「お、勉強してるな。貸した本役立ってるようだな。」


舞  :「えへへ。」


草薙 :「淳君が西棟にいるのは免疫抑制剤飲んでるからだよ。病状の重い軽いよりも、感染症からの隔離が目的で西棟に入院してもらってる。舞ちゃんの時と同じだ。」


舞  :「なるほどね。」


松井 :「ところで舞ちゃんに何を貸したんですか?」


草薙 :「薬の本だ。後、小児科の本。」


松井 :「小学1年生に理解できるんですか?」


草薙 :「わからないところは、私も教えてあげてるんだ。他にはわかったかい?」


舞  :「かのんが拡張性心筋症、美鈴が急性骨髄性白血病。」


草薙 :「ぐは。聞いていてよかった。そんなことまでわかっちゃうのか。」


舞  :「うん、いけなかった?」


松井 :「先生、まずいでしょう。本を取り上げましょう。」


草薙 :「いや、知識を得ることはまずくない。問題はそれをちゃんと使えるかだ。舞ちゃん、約束してくれないか?」


舞  :「?」


草薙 :「もし、相手の病気がわかっても絶対に相手やその家族には言わないこと。言いたくなったら私や松井先生にこっそり言うこと。」


舞  :「わかったけど、なんで?」


草薙 :「診断と治療は先生しか出来ないんだ。そう、法律で決められている。それに本当の病気の名を教えてないときがある。ガンとかな。」


舞  :「そうなんだ、じゃあ、しょうがないね。うん、約束する。」


 ちょっと残念そうな顔をしながらも舞は再び院内学級のほうに戻っていった。小さな子どもたちを集めている。どうやら物語でも読むのであろう。


松井 :「しかし、とんでもない子ですな。」


 松井先生は半分感心、半分呆れながら言う。


草薙 :「一種の天才児というか天性のものを持っている。知識をすごい勢いで吸収しているんだ。でも素直でいい子だ。このまま行けば大人になったら名医になるな。」


松井 :「ええ、うまく育ってくれるといいですね。」


草薙 :「それを指導して行くのが我々の医者の役目の一つだろう。」


 そう言って二人は院内学級で小さな子供達を集めて物語を読んでいる女の子を温かい目で見守った。


つづく



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