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トリックエンジェル ~院内学級の物語  作者: まーしゃ
第3章 エジソンプロジェクト編
35/88

短編ファンデルワールス力

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

先生 :「美鈴ちゃんもずいぶんお姉ちゃんになったんですね。大分落ち着いてきましたね。」


響子 :「はあ? ポッチのどこがですか?」


先生 :「いたずらしなくなってきたじゃないですか。」


どうしてそんなことがいえるの? と私は聞きたくなった。


---------------------------------


今年も運動会の日がやってきた。私にとって初めての小学校の先生としての運動会。しかし、今年の運動会は厳戒態勢がひかれている。そして、私はその対策委員長を務めている。もちろん詩音とポッチのいたずら対策だ。


ま、彼女達の考えることは大体わかってるから、先手を打てば何とかなる。すでに二つのいたずらを見つけ回避している。


一つは運動会用の行進曲のテープが入れ替わっていた。マーチのはずがアニソンになっていた。ハレルヤユカイで入場するところだった。もちろん、そんなこともあろうかと予備のテープを持ってきている。


二つ目は放送設備に仕掛けがしてあった。スイッチを入れると地域のミニFM放送局が入るようになっていた。しかも、今日に限ってアニソン特集をやっていた。リクエストNO.1はハレユヤユカイだった。


もちろん、二人は


「しらな~い」「証拠もないのに疑うのはよくないことです。」


と白を切る。だが、テープの入れ替えはまだしも、放送設備の設定変更などあの二人にしかできない。正確に言うとポッチしかできない。


しかも、今回は来賓として三条博士が来ている。この街の、いや、今の日本において皇室の次くらいに丁寧に扱わないといけない人だ。そして、文科省の官僚とその使いっぱが来ている。現在の教育現場を知りたいといっている。さらに厳さんまでウロウロしている。孫の運動会を見に来たといっているがもちろんうそである。


つまり、三条くるみ、大橋志穂、南、厳さんといったプロジェクトメンバーが勢揃いして見張っている。


そして、挙句の果てに詩音たちから予告状の手紙まで出ている。


「響子先生、運動会は楽しみだね。詩音&ポッチ」


である。


いくら私がプロジェクトに参画しているといえども、学校行事の無事遂行が最もプライオリティが高いことだ。プロジェクトの思いのまま、二人にいたずらを完遂させてはならない。


しかし、明らかに学校側の対応が一歩遅れている。


先生A:「泉先生、やっぱり、体育準備室に仕掛けがしてありました。玉入れのたまに小型無線受信機が、大玉ころがしの玉にも無線機が取り付けられてました。」


響子 :「うん、玉いれの玉と大玉転がしの玉は隣の小学校から借りてきたものと取り替えて。」


先生A:「わかりました。」


そのとき突然私のTシャツがしゃべりだした。


服  :「さすが響子ちゃんばんばん見抜くわね。」


服  :「でも、服にリキッドスピーカー染み込ませてあったとは思わなかったでしょ。みんなの前でハレルヤユカイ歌いたかったんだけどね」


がっくり膝をつく。すでに五つ目のいたずらだった。しかも、もし、このいたずらを実行されていたら、委員長の面目丸つぶれだった。


響子 :「前山先生、川上先生なにやってるの?ちゃんと見張ってる?」


私が無線機に話し掛ける。


前山 :「ちゃんと見張ってます。二人は一生懸命クラスの応援してます。」


服  :「それ、本当に詩音とポッチかなあ。」


私はこのうるさいTシャツを着替えるため更衣室に行き服を着替える。


響子 :「前山先生、どう?」


無線機に話かける。


前山 :「普通に応援してます。特に変ったところはありません。」


響子 :「引き続きそのまま見張っててくださいね。」


無線機:「冬子、了解しました。」


突然、無線機に冬子が割り込む。再びがっくり膝をつく。冬子を仲間に引き入れている。さっきの服の声は冬子だった。


響子 :「冬子、どこにいるの?」


冬子 :「αベクトル空間です。そういえって言われました。」


響子 :「周りに何が見える?」


冬子 :「海と大地の不思議な風景が広がっています。冬子、そういえって言われました。」


 本当に居るかもしれないところが怖い。


 しかし、完全に裏をかかれている。いくら二人を見張ってても意味がない。すでに作戦は冬子の手によって実行されていて、二人の手から離れている。ここで、二人を締め上げてはかせてもいいが、プロジェクトメンバーが見張っている。つまり、現行犯逮捕以外捕まえられない状況に陥っている。


響子 :「昨年と同じ失敗はしないか。」


 昨年は現行犯逮捕だったがそれでも、白を切られた。今年は去年以上に輪をかけてまじめに運動会に参加している。


 どこで、仕掛けてくるか? 彼女達の性格から児童の競技そのものへの妨害の可能性は低い。狙いは先生か保護者だ。


響子 :「となると、お昼休みか。」


 私はじっくり待つことにした。そんなとき、学区内の保育園の先生が挨拶に来た。ポッチの担任だった先生だ。


響子 :「あの、今おちついてきたとおっしゃいましたよね。」


先生 :「ええ、あの子は保育園時代毎日いたずらしてましたから。」


響子 :「...」


先生 :「例えば、プールの水に入浴剤入れて緑色にしたり、砂場に落とし穴作ったり、教室にある草花を造花に変えたり、飼っているアヒルを黒く塗ったり、大人しい男の子の顔に油性ペンでいたずら書きしたり、お弁当に日にやっぱり大人しい子のお弁当をすりかえて、中身に「スカ」って書いた紙を入れたり。」


響子 :「...」


先生 :「そうそう、最高傑作は遠足の日に森林浴公園に行ったとき、『風邪でお休みします』っていっておきながら、先回りして『本日緊急工事のため臨時休園』って張り紙して、遠足が中止になりかけたり。」


響子 :「保育園児ですよね。」


先生 :「ええ、私ももう20年近く保母をしていますが、あの子見たいな子は空前絶後ですね。」


 やっぱり、ポッチもエジソンプロジェクトメンバーの資格を十分もってる。


先生 :「それが、小学校に入ってお友達に恵まれて、いたずらの回数がすごく減ったと聞いています。詩音ちゃんでしたっけ。彼女があの子を救ってくれたんですね。」


響子 :「はあ。」


 確かにお姉さんになったかもしれない。いたずらの回数も減ったかも知れない。だけど、詩音と一緒になって、派手でたちの悪いいたずらをしてるようなきがするのは気のせいだろうか?


先生 :「あの子は当時片親で、さびしかったんです。それで、かまって欲しくていたずらばっかりしてたんです。」


 じゃあ、今、片親じゃなくなって、お父さんにいっぱい構ってもらってるのになんでいたずらするのよ。


響子 :「あの、今でも十分していると思うんですけど。」


先生 :「そうですね。聞いています。担任の先生にバケツで水を頭から掛けたり、校長先生にいたずらして入学式妨害したり。でも、保育園のときと比べると大人しいもんですよ。」


響子 :「はあ」


先生 :「それで、今日は楽しみに来たんです。久しぶりにあの子から手紙をもらったんです。」


 そう言って先生が手紙を見せる。


「先生、運動会は楽しみにしててね。ポッチ&詩音」


先生 :「これだけなんですけど、ワクワクしてきますよね。何を仕掛けてくるか。」


 この先生達観している。私はドキドキするけどワクワクはしないわよ。


 そうこうしているうちに運動会は無事午前の部が終わった。今回は先生・保護者対抗競技は午前の部に持ってきて玉入れだった。そして、玉入れの玉を全部入れ替えていたずらを未然に防いでいる。


 児童たちは親の元にお弁当を食べている。私たちも来賓の方々と一緒にお弁当を食べる。本部席には仕出し弁当が出ることになっている。係の先生がお弁当を配り始める。


響子 :「あ、だめ、全て回収して。こっちのお弁当を配って。」


 私は準備しておいた別のお弁当を配ってもらった。


先生B:「この回収したお弁当はどうしますか?」


響子 :「捨てて」


先生B:「え?もったいないでしょ。」


響子 :「味見してみてください。」


 お弁当を回収した先生がお弁当を食べてみる。


先生B:「ぐは~、なんだこの海老チリ。辛いを通り越して痛い。」


 先生が咳き込んでいる。


響子 :「6個目のいたずらね。」


 私がそういうと、となりで保育園の先生がニコニコしながら言った。


先生 :「あらら、見破られちゃったのね。」


 楽しんでませんか? こっちは必死なんですけど。


 新しいお弁当を配り、無事食べ終わった。一息ついたところで、午後の競技が始る前に吹奏楽部の演奏が行われる。本部席の先生、来賓の方々は皆、席についてその演奏を楽しみにしていた。


放送係:「それでは、これより、吹奏楽部による演奏を行います。曲目はビゼーのカルメン、コッペリアからマズルカ、そして最後にハレルヤユカイです。」


 放送を聞いて愕然とした。


響子 :「しまった!。これが狙いなのね!」


 私は思わず両手をテーブルについて立ち上がった。そのときだった。


 キーンという甲高い音がした。


来賓A:「うわ、動けない。」


来賓B:「ちょっと、接着剤かなんかついてるの?」


来賓C:「椅子も動かないぞ」


 突然来賓席が騒ぎ出した。皆椅子から立ち上がれなくなった。


響子 :「やられた~。」


 そのとき、今度は私のジャージのズボンから声が聞こえた。


ズボン:「響子、積年の恨みを晴らすときが来たぞ。高校時代散々いじめてくれたな。今ここで悔い改めるがいい。」


 南の声がズボンから聞こえる。


響子 :「南~! あんたなにやってるのよ。」


 私は来賓席にふんぞり返っている南に詰め寄る。


南  :「ぼく何もやってないです。濡れ衣です。」


ズボン:「さて、言うことを聞いてもらいましょうか。今、来賓の方々が動けない状態になっているけど、このままでは一生動けなくなります。」


響子 :「ここまでいって白を切るつもり?」


南  :「信じてください。」


ズボン:「同級生でコントを演じているのもいいけど、そのまま動けなくなってもいいのでしょうか。」


響子 :「う!」


ズボン:「それでは、僕からの要求を伝えます。吹奏楽の演奏にあわせてハレルヤユカイを踊っていただきます。踊っていただくのは前山先生、川上先生、そして泉先生です。」


響子 :「南、あんた、どういうつもり?」


南  :「だから、僕じゃないです~」


ズボン:「で、踊っていただけますか?」


響子 :「踊るたって、踊り方しらないわよ。」


ズボン:「大丈夫です。詩音ちゃんとポッチが踊れます。彼女たちの踊りを見よう見真似で踊っていただきます。」


響子 :「いやよ、そんな恥ずかしいこと絶対できない。」


ズボン:「来賓の方、お手洗いに行きたくなってもしりませんよ。」


くるみ:「あの、お手洗い行きたいんですけど。そろそろ、動けるようにしていただきたいの。」


校長 :「泉先生、3人が踊れば解決する問題です。来賓の方にこれ以上迷惑かけないように。」


響子 :「く~。わかりました。」


 私は前山先生に連絡する。前山先生が絶句する。


前山 :「先ほど詩音とポッチは家族とのお弁当を終え席に戻ってます。全然、いたずらしているそぶりを見せていません。」


響子 :「とりあえず、詩音とポッチに一緒に踊るように言って。それと前山先生と川上先生も付き合ってね。」


前山 :「はい、仕方ないです。」


 前山先生が詩音とポッチに話をする。


詩音 :「やだ。」


ポッチ:「なんで、私がそんな恥ずかしいことしないといけないんですか? 今年はまじめに運動会参加してるのに。」


 前山先生と川上先生が必死に説得する。


詩音 :「しょうがないなあ。じゃあ、付き合ってあげる。ただし、条件があります。泉先生にはこの黄色いリボンを頭に巻いてもらいます。あとこの腕章もね。前山先生と川上先生はこのたすきをつけてもらいます。」


 腕章には「団長」と、たすきには「きゅん」と「大泉」とかかかれていた。

     

響子 :「やられた、準備万端じゃないの。」


 そうして、吹奏楽部の演奏にのって5人はハレルヤユカイを踊った。私はいやだけど黄色いリボンを頭に巻き、腕章をはめた。男の先生二人もたすきをかけている。詩音は「みるく」というたすきをつけ、ポッチは「長沼」というたすきをつけていた。


 二人の完璧な踊りに対して、3人の先生の見よう見真似の踊りがおかしく、児童や先生からは大爆笑となった。演奏が終わったとき割れんばかりの拍手となった。


 吹奏楽部の演奏が終わると、来賓の方々を縛り付けていた力が消え去った。


ポッチ:「ああ、恥ずかしかった。」


詩音 :「響子先生貸しいちだからね。」


 ぬけぬけと二人が言う。


響子 :「あんたたち!いいかげんにしなさい」


ポッチ:「なんか証拠あるんですか?」


詩音 :「そうそう。」


 そのとき意外な人物が立ち上がり、二人にこつんこつんとげんこつを加えた。


ポッチ:「キャッ」


詩音 :「くるみちゃん何するのよ。」


くるみ:「いたずらするのは構わないの。でも、最後は種明かししてごめんなさいなの。はい、ふたりとも。」


ポッチ:「ごめんなさい。」


詩音 :「ごめんなさい。」


くるみ:「種明かしするの。ファンデルワールス力なの。電荷をもたない分子にはたらく距離の6乗に反比例する力。これが物理吸着力として働くの。ヤモリが壁に張り付くのと同じ力なの。」


響子 :「で?」


くるみ:「このファンデルワールス力を引き出す粉をこの前うちの大学で発明したの。それで詩音ちゃんたちに使ってもらったの。」


響子 :「ふ~ん。つまり、今回の黒幕は三条博士ってこと?」


くるみ:「ん?それは違うの。」


響子 :「どうして?」


くるみ:「今回のじゃなくて今回もなの。去年のリキッドスピーカも私なの。すごいでしょ。」


響子 :「ほほ~。ところで、三条博士、何かいうことない? 子供達には言っておきながら。」


くるみ:「??」


くるみ:「あ」


くるみ:「ジョークは人生の潤滑油なの。」


 私はぶちきれた。


響子 :「あんたね、いい年した大人がなにやってるの? しかも、あんたノーベル賞もらった科学者でしょ!」


くるみ:「だから、科学的ないたずらなの。」


響子 :「ちが~う! 立場を考えなさいって言ってるの。しかも、小学生手下にして毎年何やってるのよ。詩音とポッチもいいかげんにしなさい。毎度毎度いたずらばっかりで、まったく。」


 三条博士がおびえた小動物のように私を見て、ぼそっと言う。


くるみ:「やっぱり、響子先生うわさ通り凶暴なの。」


詩音 :「うんうん、お嫁に行けなくなるよね。」


 私はもう何もいえなかった。


-----------------------------------


 運動会が終わり、ポッチの保育園の先生が帰り際に私に挨拶をした。


先生 :「今日は楽しかったです。やっぱり、あの子はお姉ちゃんになったようでも、昔と変らなかったです。少し、安心しました。きっと、そのことを伝えたくて手紙を書いたんですね。今、こんなに元気でやってるよって。いい子なんですよ。」


響子 :「はあ。」


先生 :「きっと、詩音ちゃんも幼稚園の先生に手紙を出してるはずです。『先生、こんなに学校楽しんでるよ』って、今日は詩音ちゃんの幼稚園の先生にお会いできませんでしたが、きっと思いは伝わってると思います。」


響子 :「そうですね。きっとそうですね。」


私はそう言ってポッチの先生と別れた。


 確かに、詩音は学校を楽しんでいるのは事実だ。だけど、手紙を出した理由は明らかにポッチが先生に出した理由とは違う。だって、その幼稚園の時の先生は当事者の私なんだから。


天使のように可愛いくせに性格は悪魔。頭のよさは天下一品。


響子 :「まったくもう。和恵、あきら、とんでもない娘よ。なんとかしなさいよ。ま、でも、楽しい一日だったけどね。」


そう毒づいて私は後片付けに向かった。


おしまい



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