3-14.音楽室
夏休みが始ったばかりの7月のある日曜日。
私は学校で夜遅くまで仕事をしていた。1学期の間、取材だなんだで出来ずに貯まってしまった仕事が大量に残っている。それを新学期までに何とかしないといけない。
昼間はほかにも部活の指導とかで何人かの先生が残っていたが、今は私一人が職員室に残っている。
響子 :「もう、8時半かあ。今日は帰りましょう。」
そう一人でつぶやいたとき、ピアノの音が聞こえたような気がした。
響子 :「?」
私は耳を澄ました。確かに聞こえる。例の音楽室の方向だ。
響子 :「新世界?」
弾かれている曲はドボルザークの新世界の第4楽章のようだ。相当に上手だ。速いテンポで滑らかに弾かれている。
響子 :「例の音楽家の亡霊」
私はあの、右手のひじから先で日曜日の夜になるとピアノを弾くと言う怪談を思い出した。
響子 :「疲れてるんだわ。日曜日まで仕事するのはやっぱりよくないわね。帰ろう。」
そう想い、私は帰り支度をした。
その間も新世界は流れている。本当に上手だ。普通の新世界と何が違うんだろう。
響子 :「左手のパートのアレンジがきれいなんだ。」
私は納得した。右手のメロディパートは普通だけど、左手はアレンジアレンジされている。
響子 :「左手?!」
あやうく引っかかるところだった。怪談は右手だけのはず。それを両手で弾いている。これは怪談なんかじゃない。
響子 :「確かめてみようじゃない。」
私は意を決して音楽室に向った。
音楽室に通じる階段の下について音楽室を見上げる。そこにはロープが張られ
「関係者以外立ち入り禁止。学校長」
と書かれた張り紙がしてある。
響子 :「そういえば、何も無かったって言っているのは校長だけ。他の職員が確認したって話を聞いていない。この音楽室には何かがある。それを校長は隠している。」
私は覚悟を決めて階段を上ろうとしたとき、曲が変わった。悲しげな音楽だ。
響子 :「これは、ショパンの葬送行進曲。しかも、メロディ部分だけ。」
まるで、近づくなって言っているようにも聞こえる。しかし、私はそのまま進んだ。そして、音楽室の扉を開く。
ギー。
立て付けの悪い扉が音を立てて開いていく。中は真っ暗だった。
ピアノの音は相変わらず聞こえる。
私は電気のスイッチを探して中に入る。
そのときだった。
ドン。ガチャ。
扉が閉まり、鍵が閉まる音がした。
響子 :「ちょっと、誰かいるの? 」
私は声を出そうとした。
しかし、自分では声を出しているつもりでも声が出ない。自分の声が聞こえなかった。
響子 :「なんなのよ。いいかげんにしなさい。」
だけど、その声は私の耳には届かない。
さっきまでしていた、学校の外の騒音も聞こえない。暗闇と静寂に覆われている。
私は恐怖に包まれ始めた。
目が慣れてくると、ピアノのところにボッと光るものが見える。ひじから先の右手がピアノを弾いている。
私はそれを呆然と見つめていた。
突然、その右手がピアノを弾くのを止めてこちらを向いた。
響子 :「ヒッ!」
ゆっくりとこちらに近づいてくる。
響子 :「やめて!」
しかし声にならない。
ピタ、ピタ。
頭の上から、何か冷たい液体が落ちてきた。これは。
響子 :「血!」
私は頭の上を見上げた。そこには右手のひじから先の無い男の死体がぶら下がっていた。
私はそのまま気を失った。
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ポッチ:「逆位相装置のスイッチ切ったよ。これで声を出せる。」
冬子 :「この装置すごいです。音を完全に消しちゃうんですね。」
詩音 :「うん、流れている音と逆の位相を瞬時に出すことによって、音が相殺されて聞こえなくなっちゃうの。しかも登録されているピアノの音だけだけは聞こえるの。」
ポッチ:「例によって連続10分しかもたないのが欠点だけどね。これは志穂さんがくるみさんに対抗して送ってきたの。志穂さんも好きだよね。」
詩音 :「まったく。ところで冬子さん、協力ありがとう。冬子さんの右手迫真の演技だったよ。」
冬子 :「どういたしまして。それじゃ、冬子見つからないうちに帰ります。響子ちゃんに見つかったら殺されます。また、必要あったら呼んでください。」
詩音 :「いつもありがとうです。それじゃあ、他の人にも見つからないように帰ってね~。」
冬子が帰って行ったのを見送るとあらためて二人は気を失っている響子先生を見下ろす。
ポッチ:「さてと」
詩音 :「関係者以外立ち入り禁止って書いてあるのに。」
ポッチ:「普段私たちにはルール守れっていうのにね。学校クビだね。」
詩音 :「校長の言いつけ破ったならクビだよね。」
ポッチ:「幼稚園に戻れるかしら。」
詩音 :「無理ね。3年の約束が3ヶ月じゃね。」
ポッチ:「リストラだね」
詩音 :「失業だね」
ポッチ:「いい先生だったけどね。」
詩音 :「いい先生だった。」
ポッチ:「ちょっと可哀想だね。」
詩音 :「困ったね。」
ポッチ:「どうしよう。」
詩音 :「どうしよう。」
ポッチ:「う~ん。」
詩音 :「あきらめてもらおうよ。それも人生だよ。詩音たち悪くないもん。」
ポッチ:「う~ん、でもなんかいい方法ない?」
詩音 :「う~ん」
ポッチ:「やっぱりあきらめてもらおうか。」
詩音 :「そだね。」
詩音 :「ん? ちょっと待って。いい方法考えた。関係者外立ち入り禁止なんだから関係者になればいい。」
ポッチ:「おお~。その手がある。」
詩音 :「じゃあ、今から響子先生はプロジェクトの見習として参加してもらいましょう。新入りとしてこき使ってあげる。」
ポッチ:「うん、そうすればクビにならずに済むし、いい使い走りも出来たし、これで万事解決だね。」
詩音 :「選択の余地無しだね。」
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私は目を覚ました。
そこには詩音とポッチがいた。ポッチがピアノを弾いている。これはエリーゼのためにだ。
でも、私が一番驚いたのはここに詩音とポッチがいることでもなく、ポッチがクラッシックをピアノで弾いているのでもなかった。目の前のスクリーンに映し出された光景だった。
響子 :「この光景はなんなの?」
詩音 :「おはよう。先生。でも、すごいよね。私たちがいることでもポッチがエリーゼのためにを弾いてる事でなく、この風景のことを聞くんだね。」
響子 :「あまりに不思議な光景じゃない。この世のものとは思えない。」
詩音 :「先生ももう、元に戻れないよね。この風景を見ちゃったからね。」
響子 :「どういう意味?」
詩音 :「この風景はαベクトル空間の風景」
詩音の目つきが変わりまじめに答えている。こんな詩音を見たことがない。
響子 :「αベクトル空間って、三条博士のあの?」
詩音 :「そう、くるみちゃんの統一場の理論で実在が予言されている時の流れない空間。」
響子 :「まさか。どうしてその風景がビデオで映し出されんのよ。」
詩音 :「私がビデオでとってきたから。」
響子 :「ちょっと待って。それって詩音ちゃん行ったことあるってことよ。そんなことあるわけないじゃない。あ、また二人でいたずらしてるのね。」
私は詩音ちゃんの顔つきからしていたずらしてるとは思えなかった。でも、そう、いたずらしてると信じたかった。
詩音が首を振って話を続ける。
詩音 :「ポッチ、悪いんだけど、C4を根音にしたCマイナーセブン弾いてくれない。」
ポッチ:「OK~」
ポッチがエリーゼのためにの演奏をやめ、和音を弾く。
詩音 :「先生、ここに座ってくれない?」
そういうと詩音がちょっと左にずれて、自分が座っていたところを指す。
私は言われたとおりに座る。
詩音 :「先生、私の手を握ってみて」
そういうと詩音は私に手を差し伸べる。私は訝りながら手を握ってみる。そのとたん、スクリーンに映し出された風景が重なる。まるでそこにいるような3次元の映像だ。
詩音 :「先生が今見てるのが実際のαベクトル空間。固有時間振動を使ってαベクトル空間を開いてるの。」
私は夢を見ているようだった。目の前の光景も、それを解説する詩音ちゃんも現実世界とは思えない。
詩音 :「今、この時間だけ音楽室とαベクトル空間がつながってるの。それできっちり6分24秒だけこの光景が出現するの」
詩音ちゃんの声が遠くに聞こえるように感じる。
詩音 :「まるで、ここだけ空間が重なってるように見えるの。先生、手をつないだまま一緒にきてくれる?」
そう言って、詩音ちゃんが私の手を引いて、スクリーンの方に向かって歩く。しかも、この不思議な世界を歩いているように風景がっていく。
詩音 :「ここで回れ右してみて」
私は反対方向を向いた。
響子 :「あ。」
そこにはずらっと並んだ本があった。「量子力学解説」「一般相対論詳説」「フーリエ展開解説」そういった物理と数学の本が並ぶ。
詩音 :「この本は私が持ち込んだの。」
なんで? そう思った私の顔色をみて詩音ちゃんが続ける。
詩音 :「ひまだから。だって、一度ここに呼ばれたら長いときは2週間から1ヶ月くらいでてこれないんだもん。」
響子 :「呼ばれる?」
詩音 :「そう、なぜかはまだわかんないんだけど、呼ばれちゃうの。決まって花の丘公園から。2年生になってからも何回も呼ばれてるの。」
響子 :「って、詩音ちゃん皆勤じゃない? 何ヶ月も学校休んでないじゃない。」
詩音 :「うん、この世界は時間が流れないから。正確には現実世界の時間が流れないから。αベクトル空間ではα軸の時間が流れるの。」
響子 :「...」
詩音 :「それで感覚的には何週間もたってるんだけど、こっちに戻ってくるときっちり6分24秒の整数倍の時間がたつの。最大で51分12秒後に帰ってくるの。つまり6分24秒の8倍。これはプランクの仮説と同じで、飛び飛びの値をとるのは時間が波である証拠なの。くるみちゃんが時間は波であるといったことの実証になるの。」
普段から詩音の実力の程がどれくらいか知りたかった。でも、せいぜい大学生くらいかと思った。それでも、十分過ぎるぐらいすごいのだが。しかし、今の話を聞くとそんなレベルでないことがわかる。
響子 :「まるで、三条博士と話してるみたい。」
詩音 :「うん、だって、くるみちゃんの一番弟子だもん。」
詩音が話を続ける
詩音 :「だけどプロジェクトが興味を持ってるのは実はαベクトル空間じゃないの。その先の『対世界』なの。」
プロジェクト。詩音たちを守ってる秘密の国家機関。私は核心部分に近づいてるのがわかった。
響子 :「『対世界』? 三条博士が『くるみエッセンシャル』で予言しているパラレルワールドのこと」
詩音 :「さすが先生よく知ってるね。その本の右側を見て欲しいの。」
私は物理と数学の本が並んでいる棚の右隣を見た。そこには「家庭の医学」「薬物大辞典」「紙芝居の作り方」「心の理論」といった本が絵本と一緒に並べられている。
響子 :「詩音、医学にも興味あるの?」
詩音が首を振る。
詩音 :「先生、その右に貼ってある絵をみてみて。」
私はその右に張ってある画用紙に書かれた絵を見てみた。お父さんとお母さんと子供の三人の似顔絵が貼ってあった。
響子 :「子供は詩音ね。うん、雰囲気でてる。お父さんはあきらね。アホっぽいもんね。でも。」
私はお母さんの似顔絵をみて愕然とした。ストレートの長い髪にカチューシャ。私はその子を知っている。
詩音 :「そう、お母さんは和恵ママでなく冬子さんなの。つまり、ここには私だけでなく、もう一人きてるの。その子はきっと『対世界』の私。その子の名前は楠木舞。そして、その子のお母さんは冬子さん。」
うそだって言って欲しかった。実はいたずらでしたって言って欲しかった。
詩音 :「対世界は本当にあるの。きっと、向こうにも先生がいるはず。ほぼ同じだけどちょっと違う世界。」
詩音 :「そしてプロジェクトはその向こうの世界にどうしたらいけるかを探してるの。この音楽室はそのために改造されてるの。」
ポッチ:「この音楽室は花の丘公園と一緒で重力のバランスがくずれたところに位置するらしいんです。この学校にはそんな場所が他にもいくつもあります。」
私は愕然とした。徹底的に隠していたのはこれだったんだ。でも、なんで私に話すの?
詩音 :「先生には申し訳ないけどプロジェクトに入ってもらうの。この秘密を知っちゃったからね。」
そして、そのプロジェクトメンバーを聞いて愕然とした。あきら、和恵だけでなく南、志穂先輩、三条博士といったメンバーが入っている。
詩音 :「本当は先生には最初から打ち明けたかったんだけど、先生が学校側から招聘されたから今まで黙ってたの。もし、プロジェクトから招聘されたらもっと早かったのにね。」
そして、私はプロジェクトの内容を聞いてさらに愕然となる。
響子 :「もし、断ったら?」
詩音 :「学校クビになる。校長先生の言いつけ守らなかったから。」
ポッチ:「幼稚園にも戻れない。3年の約束が3ヶ月しかたってないから。」
詩音 :「警察につかまる。プロジェクトの内容知っちゃって、プロジェクトに参加しないから。南さんが喜んで迎えに来る。」
南の勝ち誇った顔は見たくない。
響子 :「つまり、選択の余地無しってことね。しょうがないわ。あきらめてプロジェクトに参加するわ。」
詩音がいつもの表情に戻りうれしそうにわらう。
詩音 :「ありがとう、響子先生。やっぱりわかってくれた。じゃあ、見習として私達の実験手伝ってね。」
響子 :「ええ~、見習はやだな~。でもなんで、いつもこんな夜に実験してるの?」
詩音 :「うん、毎日この時間だけαベクトル空間を見ることができるの。しかも、ゴールデンウィークから夏休みの間の季節だけ。」
ポッチ:「私たちはこの時間を『天使の帰宅時間』って呼んでるの。まるで天使が毎日この時間ここを通って帰っていくみたいだから。」
詩音 :「しかも、その時間はきっちり51分12秒。すごいよね。」
ポッチ:「そして、見るだけで行くことができない。」
響子 :「それで、あんた達はピアノを弾いて何してるの?」
詩音 :「固有時間振動数を探してるの。」
響子 :「固有時間振動数?」
詩音 :「うん、その人が持っている時間振動数。その振動数がぴたりとあうと共鳴が起きてαベクトル空間を見ることができるの。」
響子 :「はあ。」
詩音 :「それで12音階平均律を使って固有時間振動数を見つけるの。」
ポッチ:「固有時間振動数は人によって違うんです。」
響子 :「ふ~ん。それで、和音を弾いてるのね。でも、どうしてエリーゼのためになんて弾いてたの? さらにはポッチはなんで弾けるの?」
詩音 :「どの和音で共鳴するかわからないから、とりあえず、曲をかけるの。そのとき、空間が揺らぐときがあって、そのときのコードがどれかを探すと見つけやすくなるの。」
ポッチ:「ちなみに、私はピアノ上手に弾けないです。このピアノは自動演奏機能をもった特注品。プロジェクトで買いました。さっきの新世界は自動演奏です。」
用意のよろしいことで。
詩音 :「口で説明するより、実際にやってみたほうが早いわね。先生、ここに座って。ポッチ、今度は子犬のワルツかけてみて。」
そう言って私はさっきの場所に座らされた。子犬のワルツがかかる。しばらくしたときだった。
いきなり景色がゆれた。
響子 :「あ! 今景色がゆれた」
詩音 :「うん、正確には空間がゆがんだんだけど、ゆがんだところの和音が先生の固有時間振動数の倍音のはず。こうやって和音を見つけたら根音を見つければ1個見つかる。そして、後2個見つければ安定的にみられる。」
響子 :「へ~、私も見れるようになるんだ。」
詩音 :「う~ん、普通はこんな簡単には行かないんだけど。響子先生の固有振動数はメジャーな和音で出来てるみたい。簡単に見つかるかも。」
そうやって、私は夏休みの間、彼女達の実験に参加させられた。
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それから1週間後
ポッチ:「そろそろ天使がご帰宅する時間。」
詩音 :「じゃあ、3人の和音弾いてくれる?」
ポッチ:「OK」
ポッチは私と詩音とポッチの3人の和音を弾いた。あれから毎日夜、実験に付き合わされている。しかし、毎日続けた成果もあり、3人の固有振動数となる和音の組み合わせを見つけることが出来た。
ちなみにこの一連の話を校長に話したら、
校長 :「また、彼女達に引っかかったんですか。今回は先生が言いつけ守らないのがいけないのです。あきらめて彼女達に今年の夏は付き合ってあげてください。ただし、プロジェクトの言いなりにならないように。あくまで学校の先生であることを優先してください。」
と釘をさされた。校長もプロジェクトのことは知っていた。それで、プロジェクトの要請で音楽室のことは黙っていたのだった。
結局課外活動として付き合っている羽目になる。
3人の和音が弾かれるとともに目の前にαベクトル空間が現われる。実際には見えてるだけでαベクトル空間に行っているわけではない。
響子 :「もう、和音が見つかったんだから花の丘公園からαベクトル空間にいけないの?」
詩音 :「うん、和音が見つかるだけじゃダメなの。共鳴するには触媒が必要なの。後は共鳴の触媒となる物質がわかればαベクトル空間に自由にいけるようになる。」
響子 :「へ~、そんな簡単にはいかないのね。でも、自由でないけど時々は行ってるんでしょ。」
詩音 :「うん、でもそれは不定期で規則性が無いからいついけるかわかんない。ここ1ヶ月くらいいってないかな。夏ってどういうわけだかなかなか呼ばれないの。」
響子 :「そういうものなんだ。」
ポッチ:「ねえ、棚の上のもの何? なんか増えてる。」
棚の上に何か箱のようなものが2~3個置かれている。ここ数日で数が増えている。
響子 :「オルゴールの箱みたいね。何に使うのかしら。」
ポッチ:「星のマークがついている。」
詩音 :「向こうの冬子さんが作って舞ちゃんが持ちこんだってことかな」
響子 :「木で出来た箱っぽいわね。」
私は棚に近づいて見てみる。手で触ろうとしてみたが、無理だった。
そのとき
...コーン
とかすかな音が聞こえた気がした。
ポッチ:「あれ? 音叉が鳴ってる。詩音鳴らしてる?」
詩音 :「ううん。でもこきえるよね。」
響子 :「どこでなってるのかしら。」
私は音楽室を探してみたけどそれらしきものは見当たらない。
詩音 :「これ、まさかと思うけど、αベクトル空間で鳴ってる?」
ポッチ:「まさか、αベクトル空間を見ることは出来ても音は聞こえないよ。」
そう言っている間に音がどんどん大きくなる。
詩音 :「もしかして、これって固有時間振動による共鳴! αベクトル空間と現実空間の両方で共鳴している!」
そのときだった。部屋の隅から詩音が突然現われた。詩音は木箱を持っている。
響子 :「詩音が二人!」
詩音とポッチは呆然とその姿を見ている。
響子 :「詩音、とうとう分裂したのね。あなたならやりかねないと思ったわ。」
そう冗談めかして言って私は新しく現われた詩音に向って歩いていく。彼女の前に立ち
響子 :「こんにちは。」
と挨拶する。
が無視してそのまま私のほうに向っていく。そして、何事もなかったように私をすり抜けていく。
響子 :「え?」
詩音 :「その子、私じゃない。」
響子 :「え?」
詩音 :「αベクトル空間に来た舞ちゃん。」
ポッチ:「う、うそ。本当にいたんだ。」
詩音 :「頭ではわかっていたけど、実際に見ると驚きを通り越してショックだわ。私がもう一人いる。」
そっくりだった。姿かたちもしぐさも詩音そっくりの女の子。いままで、理論上のこととして想像の域を出なかった話が現実に近づいてくる。
詩音 :「舞ちゃん!」
詩音が話し掛けるが、反応が無い。向こうからはこちらの声も姿も見えないようだ。
舞ちゃんはリュックから本を取り出して棚にしまい、棚から別の本を取り出しリュックの中にいれた。そして、何か気になるのかあたりを見回した後、持ってきた木箱を再びもって部屋の隅に行く。
...コーン
再び音叉の音が聞こえる。その音は木箱から聞こえてくる。その音はだんだん大きくなり、
そして、
ビュン。
舞ちゃんは消えていなくなった。
ポッチ:「彼女『共鳴』させて自由に出入りできてる!」
詩音 :「わかったーーー!」
詩音が金縛りから開放されたように駆け出し、突然教壇の下に隠していたPCを取り出す。そしてなにやらがちゃがちゃ操作しているうちに窓際のスクリーンが明るくなる。
女の人がパジャマ姿で現われる。
くるみ:「なによ、詩音ちゃん、こっちは朝の5時前よ。もう少し寝かせてよね~。」
三条博士だった。今は西海岸にいる。インターネットのテレビ電話で呼び出したみたいだ。
詩音 :「くるみちゃん、わかったの! 固有時間振動を起こす媒体!」
くるみ:「え? え? わかったの!?」
詩音 :「うん、舞ちゃんが持ってた。木箱! 木! 木材!、やっぱりありふれた物だった!これで向こうにいける!」」
詩音が興奮をかくさず叫んだ。
4章「かのん編」に続く
ポッチ:「ということで3章『エジソンプロジェクト編』は終わりです。後は短編を一つ入れたいと思います。」
詩音 :「そして、次次回からは再び舞ちゃんの世界になります。」
ポッチ:「どっぷりと舞ちゃんワールドに浸っていただければと思います。」
詩音 :「ということで、雰囲気壊さないために私たちのあとがきは当面お休み。でも、主人公は私だから忘れないでね。」
ポッチ:「そして、書ききれなかった不思議なアイテムとかの解説は活動報告に。αベクトル空間の話は別の小説で出したいと思います。」
詩音 :「それでは、しばらくの間、私たちはお休みです。またね~。」
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ポッチ:「(で、お休みの間何してるの?)」
詩音 :「(とりあえず、アメリカに行くの。そのあとは秘密。)」