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トリックエンジェル ~院内学級の物語  作者: まーしゃ
第3章 エジソンプロジェクト編
31/88

3-11.噂話

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

学校で昼休みにポッチの周りに人が集まっている。ポッチが物語を読み始めようとしている。


-------------------------------

音楽室  


もう30年以上の前の話である。この学校ができる前はここは小さな山だった。そのころ日本は高度成長期といって急に人々の暮らしが豊かになっていた時代だったんだ。人々は地方から東京近郊に集まり始めて人口がどんどん増えていった。

この街もやっぱり、人が増えて行き、今まであった小学校ではかかえきれず、いくつも新しい小学校を作ることになった。この小学校はそんな小学校の一つ。


学校を作るのには山を切り崩して建物が建てられるように平べったくしないとならない。そこで、大勢の作業員が集められて工事を始めるんだ。


その中にとってもピアノ好きな若い作業員がいた。彼は音楽家を目指していたんだ。そして、オーストリアに留学することを夢見ていた。だけど、お金がなかった。今みたいに豊かな時代ではなく、みんなが貧乏していた時代だったんだ。だから、彼は作業員をしながら留学のためのお金をためていたんだ。


彼は早くお金が貯まるよう一生懸命働いた。休みの日も仕事ができるよう親方に頼み一生懸命働いた。


ある日曜日のことだったんだ。その日は朝から大雨だった。普通だったらそんな日はお休みなんだけど、学校を来年の4月から開くためにはこれ以上遅れられない状況で、工事を無理やり行ってたんだ。


多くの作業員はぶうぶう文句をいう中、そのピアノ好きの作業員は黙々と働いた。夕方になって暗くなり始めたとき、みんなが作業を終えて飯場にもどったとき、後片付けがあるからといってその作業員は工事現場に残ってた。


その時だった。山が急に崩れてきた。大雨で土砂が緩んでたんだ。そして、その作業員はあっという間に土砂に飲み込まれてしまったんだ。


みんな大慌てで助け出そうとした。でも、大雨でなかなか助けられない。やっとのことで作業員を土砂から引っ張り出したときは次の日のことでもうそのときは息がなかった。そして、その遺体には右手のひじから先がなかった。一生懸命探しても見つからなかった。


その土砂崩れがあったのは、丁度、この学校の音楽室のあたりなんだ。そして、雨の日の夜になると誰もいないはずの音楽室から、ピアノの音が聞こえるようになったんだ。


不思議に思った用務員さんが誰もいない真っ暗な音楽室を開けると、血のついた右手がピアノを...


詩音 :「やめて~!」


はあはあしながら詩音が叫ぶ。机に突っ伏し両手で耳をふさいでいる。


ポッチ:「なんで~。これからがいいところなのに。」


周りのみんなが「うんうん」とうなずく。


詩音 :「季節はずれもいいとこじゃない。しかも、わざわざノッポさんの物語でやらなくても良いでしょ。フェンリルとかタグオブウォーとか他にも話があるじゃない。なんでわざわざ怪談なのよ。」


ポッチ:「ええ~、せっかくの新作なのに~。嫌がるノッポさんに無理やり書かせたんだからありがたく聞きなさいよ。『その血のついた腕は用務員を見つけると...』」


詩音 :「だから止めてっていってるでしょう!」


ポッチ:「もしかして、詩音怖いの?」


詩音 :「こ、怖くなんてないもん。ただ、そんな非科学的な話をするなんておかしいって言ってるのよ」


ポッチ:「あ、そ。じゃあ、そのまま耳をふさいでいて。じゃあ、続きを」


詩音 :「キャー!」


詩音はがくがく震えている。


ひかる:「ポッチ~、それくらいにしてあげなよ。詩音おびえてるよ~。」


ゴンタ:「あはは、詩音に弱点があったなんて傑作だ。今度、にいちゃんからその手の本一杯借りてきて話してやるよ。」


ゴンタが鬼の首を取ったように喜ぶ。


詩音 :「そんなことしてみなさい。目と鼻の区別がなくなるまでぼこぼこにしてあげるわ。」


ゴンタ:「やれるものならやってみな。あはは。」


詩音 :「く~」


ひかる:「ゴンタもいいかげんにしなさい。でも、そういえば、この頃噂で日曜日の夜になると音楽室でピアノの音が聞こえるって話聞いたことある。」


女子A:「わたしも聞いたことある。」


ひかる:「やっぱり、さっきの話実話なのかな?」


詩音 :「ひかるちゃんまで勘弁してよ~。」


----------------------------------


響子 :「あはは。詩音にも苦手なものがあったんだ。」


 放課後、ポッチが先生に話をして腹を抱えて笑う。


詩音 :「だって、怖いじゃない。誰もいない音楽室で右手が一斉に向って来て、助けを呼ぼうにも声が出なくなって。ひ~」


ポッチ:「さっきよりも話が膨らんでる。」


響子 :「なるほどね。自分で想像して妄想を膨らますタイプなのね。それじゃ怖いわね。大丈夫よ。そんなの噂話。本当のことじゃないから。」


詩音 :「そうだよね。そうだよね。」


響子 :「でも、この川上先生も言ってたわ。やっぱり、日曜の夜になると聞こえたって。」


詩音 :「きゃ~。響子先生まで。勘弁してよ~」


----------------------------------


 職員会議の中でその話が話題に出た。


校長 :「え~。このごろ児童の間で、音楽室の怪談の話が広がっているようです。当然ですが、根も葉もない噂です。調べてみましたがもちろん、何もありませんでした。」


校長 :「しかし、先生の中にもその噂を信じている人がいるようです。先生方が動揺していては児童たちがますます落ち着かなくなります。先生方も一緒になって騒ぐのでなく、そんなことはないと強く噂を否定するようお願いいたします。」


川上 :「あの~。例の2年生のいたずら二人組のいたずらじゃないんですか?」


校長 :「ですから、調べた結果何もありませんでした。川上先生、証拠も無いのになんでもあの二人のせいにするのはいかがなものでしょうか?確かにあの二人の奇想天外ないたずらのせいにすれば、この世の全ての怪奇現象は片付きます。でも、それは根も葉もない噂を流すのと一緒です。」


響子 :「そうです。特に楠木さんは怪談がとても苦手です。いたずらどころの騒ぎではないです。今回ばかりはあの二人は関係ないでしょう。」


校長 :「はい、いいですね。調べた結果何にもなかったんです。これ以上噂に尾ひれをつけて広めないようくれぐれもお願いします。」


職員会議ではそういう話になったが、噂は陰でこそこそとささやかれ続けた。     


つづく     


詩音 :「なんなのよ今回の話、物語の進行と関係ない怪談話なんて。」


ポッチ:「たまにはいいじゃない。」


詩音 :「たまでもよくない。」


ポッチ:「やっぱり気になるのね。後で続き読んであげるね。」


詩音 :「ひ~」


ポッチ:「さて、次回のトリックエンジェルは?」


詩音 :「『取材』です。もう、怪談話はおしまい。」


ポッチ:「そんなことないわよ。ちゃんとひきずるわよ。」


詩音 :「勘弁して~」

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