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1-3.黒猫ニャーゴ

みんな、黒猫ニャーゴの話知ってる?


ええ、知らないの? そっか~。 う~ん。どうしよっかな~。

この話は秘密にしておいてねって言われたんだけど今日はみんなに特別に教えてあげる。


黒猫ニャーゴは捨てられてたんだ。生まれてまだろくに乳離れしていないうちにね。


え?乳離れってわかんない? お母さんのおっぱいをまだ飲んでるってあかちゃんって言う意味だよ。

みんなの中にもまだ飲んでる子がいるんじゃないかな? あはは、もうさすがにいないか。


その黒猫ニャーゴは他の兄弟と一緒にダンボールに捨てられてたんだ。

だけど、他の兄弟たちはみんな子供たちに拾われていったんだ。

最後に残ったのは黒猫ニャーゴだったんだ。実はニャーゴは片目がつぶれて見えなかったんだ。

それをみんな気味悪がって最後まで残ったんだ。


そのうち雨が降ってきて、そしてお腹も減ってきた。寒さとひもじさに我慢できず、「ニャーニャー」ないていたら、一人の女の子がニャーゴの前に現われたんだ。その女の子は背は高いけどやせていたんだ。


「おまえも一人ぼっちなの?」


「ニャーニャー」


「そうか。じゃあ一緒に帰ろう。」


そうやって黒猫ニャーゴは拾われていったんだ。


女の子は小学校1年生で入学したばかりだったんだ。それで、クラスには保育園で一緒だった子もいなくてひとりだったんだ。それにちょっと、いたずらばかりする子で、女の子からもちょっと浮いていたんだ。つまり、友達ができなかったんだ。


その女の子にはお父さんがいなかったんだ。お母さんひとりと女の子ひとりの家族だったんだ。つまり母子家庭ね。お母さんはだから、普段の日は仕事に行ってたんだ。


女の子は学校が終わると友達と遊ぶこともなく、誰もいない家で毎日一人ですごしてたんだ。とってもさびしかったんだね。


黒猫ニャーゴを家につれて帰った女の子は早速、雨にぬれた身体を拭いてあげ、冷蔵庫から牛乳を出したんだ。それをお皿にあけてニャーゴに上げたんだ。


「おまえの名前何にしようか?」


女の子がそういうと黒猫ニャーゴは「ニャー、ニャー」って答えたんだ。


「そうか、決めた。ニャーニャー言うからニャー子だ。でもおまえ男の子だよな。じゃあ、ニャーゴだ。」


そうやってニャーゴは名前とご主人様が決まったんだ。


女の子は次の日からニャーゴといつも一緒だった。でも、学校には連れてけないから女の子が学校に行っている間はお留守番。それで帰ってくると一緒に遊んでたんだ。ニャーゴも女の子が大好きで、女の子が帰ってくると一目散に飛んでくる。そして、


「ニャー、ニャー」で甘えるんだ。


「はい、はい」そういって女の子は牛乳を冷蔵庫から出してうれしそうにニャーゴにあげるんだ。


そのあとは、ニャーゴを抱いてテレビを見たり、宿題をしながらお母さんの帰りを待つ。それが女の子の日課なんだ。


え? 宿題ってなにかだって? 小学校では嫌な先生が時々家でも勉強しなさいってプリントとかだすんだよ。みんな嫌なんだけど怒られるからしぶしぶやるんだ。

でも、院内学級は宿題でないから安心だよ。


土日は家の近くの公園に二人で遊びに行くんだ。


「ニャーゴだって外で遊びたいよね。」


普段は家の中ばかりだったから、ニャーゴがちょっとかわいそうに思えてきたんだ。


ニャーゴを離してあげると大喜びで駆け回っていたんだ。そんなニャーゴを見てるだけでも、女の子は楽しかったんだ。


夕方になるとニャーゴを連れて帰る。そしてお母さんと一緒に晩御飯。

それが女の子とニャーゴの生活だった。一人ぼっちで寂しかったのがうそみたいに楽しい生活になった。


そんな、ある日、ちょっと遠くの公園に遊びに行ったんだ。


「ニャーゴ、今日は探検だよ。」


そうやって、新しい公園でいつものようにニャーゴを離してあげる。

ニャーゴは知らないところに来たせいか、女の子の側を最初は離れなかった。

だけど、そのうち、慣れてきて、あちこち動きまわり始めたんだ。


やがて、公園で遊んでいた男の子たちが女の子に気づいた。


「おい、おまえ見かけないやつだな。」

「何、一人であそんでるんだ。」

「こいつ、知ってる。同じクラスの女の子だけど友達いないんだぜ。」

「すげーやせっぽっち。ちゃんと食べさせてもらってんのか?」

「こいつんちお父さんがいないからきっと貧乏なんだぜ。」

「きっと、お母さんからも嫌われてるんだぜ。こんな子産まなければ良かったって。」


女の子は我慢していたけど、とうとう我慢できなくなって泣き出してしまった。


「や~い、泣き虫、泣き虫。」


「なによ、このチビデブ! あんたなんかにお母さんのこと言われたくないわ。」


「なんだと~ このやろ~ ぶん殴ってやる。」


そうやって男の子が女の子を殴ろうとしたそのときだった。


「うわ~、なんだこの猫」


ニャーゴが殴ろうとした男の子に踊りかかって、顔を引っかいた。だけど、男の子はニャーゴを捕まえて、地面に叩きつけた。


「こら~、女の子をいぢめるな~」


今度は公園のはじのほうから別の女の子の声がした。その女の子とお母さんらしき人が走ってくる。


「うへ、しおんだ。やべー。逃げるぞ」


くもの子を散らしたように一目散に男の子は逃げていった。


「大丈夫?」


助けに来たショートカットの女の子は女の子を覗き込んだ。


「ありがとう、でも、ニャーゴが。動かない。」


黒猫ニャーゴは倒れたまま動かなかった。お腹を大きくへこませたり、膨らましたりして息をしているが、目は閉じたままだ。


「大変、すぐお医者さんに連れてかなきゃ。ママ、近くに病院ない?」


「う~ん、動物病院はこの街にはないです。隣町まで行かないと。」


「わかった。すぐ連れてこう。一緒においで」


女の子はニャーゴを抱いて、助けてくれた女の子とお母さんとタクシーに乗って、隣町の動物病院に向かった。


「ニャーゴ。頑張るのよ。」


女の子はニャーゴに声をかける。でも、さっきよりニャーゴの呼吸が小さくなってきてる。


「早く、お医者さんに連れてかないと」


でも、今日は休日。1軒目はお休みだった。2軒目にタクシーを向かわせる。


2軒目について、やっぱりお休みだったが、無理言ってあけてもらう。


「先生、お願いします。ニャーゴを、ニャーゴを助けてください。」


先生はニャーゴを診療台に載せ、聴診器をニャーゴにあてる。


そして、首をふった。


「お気の毒ですが。」


ニャーゴはもうお腹も動かなくなっていた。


「ニャーゴ、死んじゃったの?」


先生も助けてくれた女の子のお母さんも顔を伏せる。


「そんな、そんな」


女の子は泣き出した。声がかれるまで泣いたんだ。そして、助けてくれた女の子も一緒に泣いてくれた。


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少し落ち着いてから


「ありがとう。助けてくれて」


女の子は助けてくれた女の子に御礼を言った。


「ううん、ごめんね。猫ちゃんは助けられなかった。ごめんね」


「ううん、あなたが悪いんじゃないし。でも、私またひとりぼっち...」


女の子はうつむいて話す。


「あれ、あなた確か同じクラスの子だよね。いつも一人でいる子。ねえ、お友達になろう! 私もクラスに知ってる人少なくてさびしかったんだ。」


えっ! という顔をして女の子が顔を上げる。


「うん」


「わたし、しおん。よろしくね。」


「わたしはポッチ。よろしく。」


そうやって女の子は小学校で初めて友達ができたんだ。それから二人はずっと仲良しで一緒に遊んだりするようになったんだ。友達もいっぱいできて、さびしくなんてなくなったんだ。


でも、ふと時々思い出すんだ。私の大好きな友達。黒猫ニャーゴのことを。



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