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トリックエンジェル ~院内学級の物語  作者: まーしゃ
第3章 エジソンプロジェクト編
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3-7.魔法使い(後編)

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

次の日俺たちは家族は3人で神崎家に向かった。今日、プロジェクトの責任者の一人の文科省の官僚が来て、神崎さんと俺たち一家に説明をしてくれることになっている。


神崎家で待っていると程なくしてその文科省の官僚がやってきた。


官僚 :「やあ、楠木久しぶりだな。」


あきら:「やっぱり、志穂先輩だったんですね。」


大橋志穂先輩は俺や和恵と同じ高校の先輩である。俺のいた天文部と和恵のいたダンス部両方掛け持ちして部長やってた人で、色々世話になった人である。高校卒業後も互いに連絡を取り合っている仲である。大学卒業後文科省に勤めているのをしっていたし、南も現れたから、もしかしたらと思っていた。


志穂 :「元気そうで何よりだな。」


あきら:「ええ、おかげさまで。それで、今日は何しにきたんですか。」


わかってはいるがあえて突っ込みたくなる。


志穂 :「何って、今回の事件の対応だ。エジソンプロジェクトの責任者の一人として当然だ。」


志穂は神崎さんと挨拶をする。神崎さんも昨日と比べればだいぶ落ち着いている。


神崎 :「昨日は年甲斐もなく取り乱した姿をお見せしてお恥ずかしい限りです。」


俺たちが神崎家に来たとき、そうおっしゃっていた。


俺たち3人と神崎家の3人、それと志穂先輩で大きな神崎家の大きな応接間に入る。うちの家とはえらい違いである。


志穂 :「先に親御さんと話をしたい。詩音ちゃんとポッチちゃんは2階のポッチちゃんの部屋で待っててくれ。」


詩音 :「は~い。志穂さん。」


ぽっち:「わかりました。」


二人は黒猫を抱いて2階に行く。


志穂 :「昨日はいろいろすまなかった。プロジェクトも反省している。先に不穏分子3人を排除しておくべきだった。」


あきら:「まだ、若干世間常識とずれてる気がしますが。」


志穂 :「まあ、黙って聞け。あの3人はもともとエジソンプロジェクトが気に食わなかったんだ。そのため、ここぞとばかりに過剰反応した。」


あきら:「え?」


神崎 :「なるほど、それでああいう反応をしたのか。」


和恵もきょとんとしている。


志穂 :「彼らは、教育と言うのは万人に対して平等であるべきと考えているんだ。」


あきら:「それは正しいと思いますが。」


志穂 :「いや、正確ではない。教育の機会は万人に対して平等であるべきであり、教育そのものを平等である必要はないと考えている。」


神崎 :「まさしく、そのとおりです。」


志穂 :「つまり、彼らの考えは『出る杭は打たれる』だ。できない子をある一定レベルに上げることを重視して、できる子をそれ以上伸ばそうとしない。それどころか伸ばす行為を邪魔する。」


あきら:「いや、それは言いすぎかと。」


神崎 :「いやいや、世の中ってそういうものです。」


志穂 :「彼らの考えは我々エジソンプロジェクトの考え方を真っ向から否定する考えだ。」


和恵 :「でも、公立小学校だから仕方ないのではないでしょうか?」


志穂 :「しかし、現実ここから通える私立小学校がどれだけある? 事実上選択肢として存在していない。しかも、私立のお金がかかる。神崎さんならできるが、こう言ってはなんだが楠木のところだと、『まあ、小学校のうちは公立でいいや』にならないか?」


あきら:「確かに、そのとおりです。」


志穂 :「今、中学がそうなりつつある。優秀な子は環境の整った私立に行く。そうして、だんだん公立と私立に差が出てくる。しかし、私立は裕福な家庭の子しかいかれない。つまり、金持ちじゃないと優秀な子が育たなくなっている。どんどん格差が広がっている。なにが『教育と言うのは万人に対して平等であるべき』だ。理念は結構だが、実体は逆に動いている。」


神崎 :「まさに、そのとおり」


志穂 :「このままだと、小学校もそうなってしまうぞ。だからこそこのエジソンプロジェクトを成功させなければならない。公立小学校で十分優秀な子供を育てられると。今、公立でも中学高校は中高一貫の学校もあり私立に対抗している。同じように小学校でも特別な仕組みを考える必要がある。その小学校はそのモデル校なんだ。」


神崎 :「いや~、文科省の役人なんて、事なかれ主義かと思っていたが、しっかりと考えを持ってらっしゃる。それ以上に、その考えを自ら実行している。言うだけならだれでもできる。感服いたしました。」


まだ、しっくりこない。何か変だ。


和恵 :「えっと、普通じゃダメなんでしょうか? みんなと一緒でいいと思うんです。」


そうだ、和恵が代弁してくれた。


志穂 :「天才は普通の環境では浮き上がってしまう。エジソンみたいにな。」


和恵 :「はあ。」


志穂 :「このプロジェクトの発案者は誰だと思う。」

     

和恵 :「誰でしょう?わかりません。」


あきら:「もしかして、くるみですか?」


志穂 :「ああ、ノーベル賞受賞者の三条博士だ。彼女も学校時代浮いていただろう。その経験から文科省に持ちかけたんだ。」


くるみも学生時代友達もできず一人ぼっちだった。唯一の友達が隣に住んでる俺だった。今でこそ、俺達や研究所の仲間がいるが、あの当時は大変寂しい思いをしていたんだろう。


志穂 :「そして、三条博士は責任者の一人でもあり、詩音ちゃんとポッチちゃんの推薦人でもある。」


あきら:「なるほど。くるみなら確かに気持ちがわかるか。そして、ちょっと性格的には難があるが、くるみが詩音に対して悪いやり方を勧めるわけがないな。」


志穂 :「納得してくれたか。」


志穂がほっとした表情で話す。


あきら:「完全ではないがある程度理解できました。」


和恵 :「私も、よくわかりませんがくるみさんが後ろについているのなら安心しました。」


結局、俺たちは話の内容に納得したのでなく、くるみという人物に納得したのであった。


志穂 :「よかった。神崎さんも納得してもらえたか?」


神崎 :「ええ、うちは最初から納得していますよ。なあ、おまえ」


神崎妻:「ええ、あなた。」


志穂 :「では、子供たち二人に話そうか。」


---------------------------------


ふたりは志穂先輩の説明を聞いた。


詩音 :「つまり、もういたずらしちゃだめってこと?」


志穂 :「いや、おまえたちの才能を人に役立つそうなことに使えって言ってるんだ。そうだなあ、いたずらするにしても、何か人の役立つことにつながるようなことをしろってことだ。」


ポッチ:「なんだ、いたずら止めろって言ってるんじゃないんだ。それだったらいいよ。」


詩音 :「う~ん。」


志穂 :「校長先生のおでこに光当ててもだれの得にもならないだろ。そういうのはだめなんだ。詩音ちゃん、わかってくれたか?」


詩音 :「やだ。」


和恵 :「詩音ちゃん。」


詩音 :「詩音、今までどおり普通でいい。ちょっと位怒られてもいい。」


志穂 :「詩音ちゃん、君たちは選ばれたんだ。もっと自覚しなければいけない。」


詩音 :「大人っていつもそう。詩音の意見なんか聞かないで、自分で勝手に詩音の人生決める。『君たちは選ばれたんだ』っていわれても詩音には関係ない。」


あきら:「詩音!」


志穂 :「では、どうしたら協力してくれる? 詩音ちゃん」


詩音 :「だって、選ばれたって、詩音にはなにもいいことないんだもん。何かしてくれたら考える。」


志穂がやや拍子抜けした顔で話を続ける。


志穂 :「はあ、悪かった。そのとおりだ。ちょっと説明が足らなかった。この話受けてくれたら、魔法を使えるようにしてやろう。」


詩音 :「どんな魔法?」


志穂 :「召喚魔法だ。」


そう言って携帯電話を二つ取り出した。


志穂 :「この携帯電話を使って、困ったときがあったら呼び出せばいい。」


志穂は携帯電話を見せて、画面に電話帳を開いた。


志穂 :「ここに書いてある人がおまえたちが召喚できる人だ。」


そこには二人の両親のほかに、南や厳さん、はたまた松井先生まで入っている。


詩音が目を輝かせている。


詩音 :「この携帯くれるの? 前から携帯欲しかったの。だって友達はみんなもってるんだもん。」


詩音、もしかして携帯電話で釣られるレベルなのか?


志穂 :「ああ、二人に特別に渡そう。」


ポッチ:「この名前のところに☆印がついている人は?」


志穂 :「それは究極召喚魔法を唱えないと呼び出せない人だ。その道の実力者ぞろいだ。普段は忙しいから使ってはいけないが、本当に困ったら呼び出すがいい。」


詩音 :「他には?」


志穂 :「おいおい、まだ欲しいものがあるのか?」


詩音 :「だって、召喚魔法しか使えない魔法使いっていないよ。魔法の呪文とか教えてくれないの?」


志穂 :「そ、そうだな。ああ、いい魔法の呪文を教えよう。『プロジェクト外秘』だ。この呪文を唱えると大抵の事ができるようになる。」


詩音 :「どんなこと?」


志穂 :「そうだな~、例えば、この携帯を学校に持っていってとしよう。先生に見つかって、『なんで持ってきたんだ?』といわれたら『プロジェクト外秘です』といえばいい。また、例え、取り上げられても、『返してください。この携帯はプロジェクト外秘扱いです。』といえば返してくれる。」


ポッチ:「すご~い。」


志穂 :「それに本当に欲しいものがあれば、その呪文で物が買える。例えお金を持っていなくても、会計のときに『プロジェクト外秘です』といえばサイン一つで買い物ができる。もちろん、代金はプロジェクトで持つから安心しろ。」


詩音 :「すご~い」


志穂 :「ただし、この街の大人に効果が限定される。他の街や子供には通じないからな。それと人のためになることに使うこと。自分や家族のためだけに使っちゃダメだ。」


ポッチ:「うん」


志保 :「それと、その携帯電話はお財布機能を持っている。プロジェクト外秘といわなくてもそれで日本全国どこでも買い物ができる。さらに言うと電車や飛行機にも乗り放題だ。ピッっとやれば何でも買える。どこにでも行ける。」


詩音とポッチが目を輝かせる。


詩音 :「わかった。プロジェクトに協力する。いたずらも人のためになることにつながらないのはやめるように努力する。」


結局、物とかお金につられるのか。


志穂 :「よし、エジソンプロジェクトの名のもとに契約しよう。ただし、以下の二つを約束してくれ。一つは人のために使うこと。二つめはこの話はみんなには内緒にしておくこと。話していいのはその召喚魔法機械のなかに名前が載っている人だけだ。」


詩音 :「どうしても話さないといけないときは?」


志穂 :「そのときはプロジェクトメンバーに入ってもらう。その人にも契約してもらう。」


詩音 :「わかった。」


志穂 :「よし、契約成立だ。」


志穂 :「ところで、さっきの『プロジェクト外秘』の呪文だがご両親にも使えるように申請しておく。」


あきら:「いいんですか?」


志穂 :「ああ、ただし、家計の足しにするなよ。あくまで詩音やポッチちゃんの研究費用とかのためだけだ。そう、研究費と思ってくれればいい。」


あきら:「一体どれくらい使えるんですか?」


志穂 :「一家族で年間これくらいだ」


志穂はそう言って指を1本立てる。


あきら:「10万円くらい?」


神崎 :「いや、楠木さん、10万は安いでしょう。100万円くらいでしょう。」


あきら:「100万円ていったら毎年軽自動車が買えますよ。そんなには。」


志穂 :「残念だが二人とも違う。1000万円だ。」


神崎さんですら口を大きく開けて志穂先輩を見る。


志穂 :「うそではない。それくらい期待されてるってことだ。」


詩音 :「じゃあ、早速欲しいものあるんだけど。」


志穂 :「なんだ、言ってみろ。遠慮はいらないぞ」


詩音はあるものを言った


あきら:「おまえ、そんなもの使って何するんだ? しかも、あんなでかいものうちには置けないぞ。」


詩音はみんなにその用途と置き場所を説明した。親4人はその話をきいて感心半分、あきれ半分といった感じだ。


あきら:「そんなことできるのか?」


志穂 :「できるかどうかを確かめる研究実験だろ。まさしく、エジソンプロジェクトにふさわしい内容だ。詩音ちゃん、早速手配しよう。」


志穂 :「ほかに質問ないか?」


ポッチ:「あの、召喚魔法のリストの中に学校関係者がいないけど大丈夫?」


志穂 :「さすがポッチちゃんだな。まさにそこが今我々の問題なんだ。」


---------------------------------


その後、詩音とポッチと両親4人と志穂で校長先生と担任の先生に昨日のいたずらについて謝りに言った。


あきら:「殴った教師と教頭のところに行かなくてもいいのですか?」


志穂 :「彼らは謝られるのではなく謝るほうだろう。向こうから謝罪してくるのが礼儀だ。」


神崎 :「ええ、そのとおりです。大橋さんは良くわかってらっしゃる」


すっかり、志穂先輩に心酔してしまった神崎さんだった。


校長先生は快く許してくれた。だけど、担任の先生は会ってさえくれなかった。


志穂 :「担任の先生はちょっと心労が重なったようだ。校長側と教頭側の板ばさみに合ってだいぶ弱っている。当分学校にもでてこれないかもな。」


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結局、今回の件で、校長といたずらした二人の当事者はおとがめなしだった。しかし、ポッチをひっぱたいて怪我を負わせた教師は自主的に辞職、もうひとりの教師と教頭は他校へと配置換えとなった。また、担任も一身上の都合ということで退職することとなった。


新年度そうそう学校は3人の教師と教頭がいなくなるという異常事態を迎えた。


つづく


詩音 :「携帯げっと~。すごいよ~。メールもできるし、インターネットから着メロダウンロードし放題! 夢みたい!」


ポッチ:「......詩音、私たちもっととてつもないもの手に入れたの気づかないの?」


詩音 :「へ?」


ポッチ:「ま、いっか。さて、次回のトリックエンジェルは」


詩音 :「一週間お休みして『幼保一元化』です。学校の大逆襲です。」


ポッチ:「ま、ここまで派手に好き放題やったら、学校も黙ってないわよね。」


詩音 :「では、おたのしみに~」





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