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トリックエンジェル ~院内学級の物語  作者: まーしゃ
第3章 エジソンプロジェクト編
22/88

3-3.パリカール

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

12月のある日のこと。


詩音とポッチは響子先生が勤める幼稚園二人で遊びに来た。響子先生は詩音の幼稚園のときの担任で、今年の春の卒園してからもときどき遊びに来ている。目当ては「パリカール」ことロバだ。響子先生は「サクラ」と呼んでいる。

でも、詩音たちは「パリカール」って呼んでいた。パリカールの背中に乗ってあそんだり、餌を上げたりしている。


でも、パリカールを園外に出して散歩に連れていくことは許してもらえない。


詩音 :「ねえ、響子先生、今度、たまにはパリカール散歩に連れてってもいいでしょう? 私達小学生になったんだから大丈夫。」


響子 :「ええ~、サクラを? だめよ~。危ないわよ。う~ん、そうね、見つからずに連れ出すことできたら許してあげようかな。」


詩音 :「ありがとう、約束だよ~」


響子はちょっと大人げなかったかなと思った。この幼稚園は警備会社の防犯システムが何重にも働いている。不審者の侵入なんて簡単に見つかることになっている。だから、見つからずにサクラを散歩に連れてくなんて不可能である。


ポッチ:「どうだった?」


詩音 :「OK~。見つからなければいいって。」


ポッチ:「じゃあ、早速下準備ね」


とりあえず、防犯システムを確認する。


ポッチ:「監視カメラがあそことあそこ」


詩音 :「あっちにも隠れてるよ」


ポッチ:「このルートなら死角になるね」


詩音 :「あ、赤外線センサー」


ポッチ:「う~ん、連れ出すときはこの赤外線センサーに引っかかるね。」


詩音 :「響子先生が自身満々にいっていたのはこのセンサーのためか」


ポッチ:「なんとかなる?」


詩音 :「う~ん。赤外線かあ~。う~ん。光には変らないよね。」


ポッチ:「人には見えないけどね。」


詩音 :「まあ、波の一種だから何とかなるでしょう。」


ポッチ:「そうね、詩音の得意分野だからね。音波とか光とか重力波とか時間波とか得意よね。」


詩音 :「重力波と時間波は、まだ理論の段階だよ。でも光とか音なら何とかなるかも。」


ポッチ:「じゃあ、早速作戦室で作戦会議~」


詩音 :「お~」


詩音とポッチは響子先生にさよならの挨拶をすると早速ポッチの家に向かった。ポッチの部屋が作戦室だ。


ニャーゴ:「ニャー」


ふたりを見つけてニャーゴが部屋に入ってくる。ニャーゴはポッチが飼っている黒猫だ。


詩音 :「これで赤外線センサー無効にできる。こんな感じで作ってくれない?」


ポッチ:「了解。プラスチック版とアルミ箔ね。あと、固定する木ね。何とかなるわ。」


詩音 :「さっすがポッチ。工作なら天下一品ね。」


詩音はニャーゴを膝の上に抱きながらポッチを誉める。


ポッチ:「工作だけじゃないと思うだけどな~」


たしかにポッチはオールラウンダーでなにやらせても上手だ。でも、この二人の武勇伝は詩音の科学センスとポッチの器用さで成り立っている。和恵ママもポッチのお母さんも会うたびに嘆いている。「もう少し、違うところに能力を発揮してくれるとね~。」と。


---------------------------------


数日後、装置が完成する。そして、次の日曜日に決行が決まった。


日曜日


二人は荷物を持って、見つからないよう周囲に気を配って幼稚園の塀を飛び越える。そして、監視カメラや職員室の死角を通って門のところに行く。ここに赤外線センサーが取り付けられている。そして、持ってきた4枚のアルミ箔でできた鏡を取り出す。


ポッチ:「こんなんで大丈夫なの?」


詩音 :「うん、赤外線だって光だもん。だから鏡で反射させられる。要はどれだけピカピカの鏡かというのと、角度がどれだけ正確かが大事」


ポッチ:「準備OK」


詩音 :「じゃあ、カウント5から。5,4,3,2,1,GO!」


二人は同時に鏡をセットする。


詩音 :「作戦成功! これで迂回路ができたから、間を通ってもセンサーに引っかからないわ。」


そういって二人はパリカールのところに行く。


詩音 :「パリカール、サイレント!」


この日のために詩音はパリカールに芸を仕込んでおいた。よしというまで、物音立てずに歩かせることができる。


こうやって、二人はまんまと「パリカール」ことサクラを幼稚園から出すことに成功する。


その後をゆっくりと初老の男が後をつける。


-------------------------------------


詩音 :「GO、GO」


ポッチ:「たまには外に出してあげないとね。狭い小屋の中じゃかわいそう。」


詩音 :「だよね~。私たちいいことしたよね~」


この二人の倫理観はすこしずれている。


パッカポッコ。パッカポッコ。


そうやって二人はパリカールの背中に乗って花の丘公園へゆっくりと向かう。


途中で呆然と見送る人々に手を振りながらのんびり向う。


花の丘公園に入ると、後ろに乗っていたポッチがパリカールにぶら下げられた荷物からオカリナを取り出す。そして、反対向きに座りなおし、オカリナを吹く。曲は南米のアンデス風のみんなが良く知っている曲だ。その物悲しげな曲が初冬のさびしげな雰囲気と良く合う。


詩音 :「ロバに乗ってその曲? その曲に合うのはラマだと思うけど。」


ポッチが吹くのを止めて、応える。


ポッチ:「雰囲気よ。気にしないで。」


そういうと再び吹き始める。パリカールの揺れにあわせて、左右にゆっくり揺れながら公園の中を進んでいく。


詩音 :「まるでブレーメンの音楽隊ね。」


ポッチのオカリナの音に惹かれて小さな子供達が集まってきた。


ポッチ:「どっちかって言うとハーメルンの笛ふきじゃない?」


二人はグリム童話を引き合いに出しながら話をする。


小さな子供達が集まってきたんで、二人はパリカールから降りて、小さな子供達をパリカールに載せて親達と一緒に公園を進んでいく。


そして、公園の中にある小川に来ると、パリカールから子供達を下ろし休憩する。パリカールが水を飲んでいる間、荷物からパリカールの餌を取り出し、周りの人に配る。今度は大人たちも喜んでパリカールに餌をあげる。


そんなことをしているうちに公園の管理人が血相を変えて飛んでくる。ロバなんて公園に入れちゃだめだといっている。

でも、ポッチが反論する。公園にロバを入れてはいけないと書いていない。犬や猫は良くてロバはだめな理由が事前に告知されていない。それで、だめというのはおかしくない? それに、すでに中に入っている。もしだめなら本来入り口で止めるべき

なのに、後からのこのこきて言うのは管理責任を上司から問われない? 

そして、あなたの上司と管理をしている市に弁護士である父から抗議しても良いかとたたみ掛ける。

管理人は口をパクパクしながら引き下がっていった。


詩音 :「別に悪い事しているわけでもないのにね~。本当、大人って融通利かないよね。」


そんなこんなで小一時間遊んだ後、そろそろ二人は帰る準備をする。


詩音 :「パリカール、帰るよ~」


サクラ:「ヒヒー」


二人はパリカールの背中に毛布を乗せ、その上に二人乗って手綱代わりのロープを引いて帰り道についた。


----------------------------------


ビーーーー、警備会社でアラームがなる。


警備員:「幼稚園にて不審者が侵入した模様。窓ガラスが割られた模様。直ちに警察に連絡するとともに幼稚園に連絡を」


そのころ幼稚園では警報が鳴り、警備会社から連絡が来る。待ってましたとばかりに響子が飛び跳ねる。絶対、今日あの二人が来ると踏んで当番を引き受け待機していた。


響子 :「こら~、おまえたち、何してる~」


教室の影で何かが動いているのを見つけた。

しかし、見つけたのは中肉中背の男だった。何かを物色してる。


響子 :「ひ~」


思わず、ひるむ。だが、


響子 :「どろぼ~!」


大声で叫ぶ。男は思わず窓から逃げ出した。


響子 :「まて~、泥棒~」


響子が追いかける。しかし、男のほうが足が速い。門の外にもう逃げている。

響子も門の外まで、追いかける。


響子 :「だれか~あいつを捕まえて~、泥棒よ~」


しかし、泥棒はそのまま遠ざかる。そして泥棒の先には見慣れた一頭が女の子二人を乗せて歩いている。


詩音 :「響子先生?」


響子 :「泥棒~、まて~」


詩音 :「OK、パリカール、GO!」


サクラ:「ヒヒーー」


パリカールが二人を乗せたまま泥棒に向かう。


ド、ド、ド、ド、ドスン!


パリカールが泥棒に体当たりをかける。思わず泥棒は腰砕けになり尻餅を付く。


ふたりの後ろから初老の男が追い越してきて男を取り押さえる。


初老の男:「観念しろ。この連続空き巣魔め。」


初老の男は男に手錠をかける。


----------------------------------

パトカーがきて空き巣を連れて行った。残ったのは響子とポッチと詩音と初老の男の4人だった。初老の男は刑事さんだった。

4人はパリカールをつなぐと職員室に入った。


響子 :「あんたたち、何やってるの。勝手に連れ出しちゃ危ないじゃない!」


開口一番、響子が詩音とポッチの頭をポカッ、ポカッと叩く。


ポッチ:「いた~。見つからなければいいって言ったじゃない。」


響子 :「見つけました。」


詩音 :「そんなに気が短いとお嫁さんにいけなくなるよ~。」


響子 :「なんですって~!」


響子が再びげんこつを食らわせようとするやいなや、脱兎のごとく二人は職員室の扉のところに逃げる。そして、こっちを伺っている。


刑事 :「まあ、まあ。二人のおかげで逮捕できたんだし。ここは大目に見てあげてやってはいかがでしょうか?」


響子 :「でも~。」


詩音 :「そうだよ~。刑事さんの言うとおりだよ。」


ポッチ:「表彰物よね~。」


響子がキッとにらむ。思わず二人は首をすくめる。


刑事 :「申し送れました。私小早川厳ともうします。仲間内からは厳さんと呼ばれてます。」


詩音 :「わたし、詩音~。」


ポッチ:「神崎です。ポッチと呼ばれてます。」


誰も聞いてないのに自己紹介するふたり。


響子 :「泉響子です。ここの幼稚園の先生をやってます。」


小早川:「しかし、この子達はすごいですな。やすやすと防犯センサーを無効化してしまうんですな。それで、泥棒が入ってきたときも最初は気が付かなかったんですな。」


響子 :「ほら、あんたたちのいたずらでみんなに迷惑かけたのよ。ごめんなさいは?」


詩音 :「ごめんなさい」


ポッチ:「ごめんなさい」


小早川:「いやいや、皮肉を言ったのではなくて、その知識と行動力に感嘆しました。とても小学生とは思えない。良い教え子を持ちましたね。」


響子 :「はあ。」


まあ、厳密にはポッチは教え子ではないが、似たようなものか。響子はそううそぶく。


小早川:「おかげで、連続空き巣事件も解決しました。別途3人には感謝状をおくらせてください。」


詩音 :「やった~」


ポッチ:「おじさん、話わかる~」


響子 :「いえ、そんな大したことはしていないので。」


小早川:「では、そろそろ、署に戻らないといけないのでここで、失礼。」


響子 :「あ、あの、お茶でも飲んでいってください。すぐ用意しますので。」


詩音 :「やった~。お菓子もらえる。」


ポッチ:「響子先生、話わかる~」


小早川:「いえいえ、お気遣い無用です。まだ、勤務中なので。では、また。」


刑事は帰っていった。


響子 :「あんたたちにお茶を出すつもりはなかったんだけどな~。でも、捕まえたお礼だ。飲んでいくか?」


詩音 :「やった~」


ポッチ:「先生大好き」


響子はカステラと紅茶を二人に出した。


響子 :「今回のことは先生も悪かったわ。見つからなければいいといったのは良くなかった。でも、散歩に連れてってくれたのは助かったわ。正直この頃忙しくて連れてってやれなかったからね。」


詩音 :「でしょ、でしょ」


響子 :「でも、子供たちだけじゃだめ。道路とか危ないところもいっぱいあるしね。今度散歩に連れていくときは大人と一緒に行くこと。そして事前に連絡すること。そうしたら連れてってもいいかな。」


詩音 :「わあ、ありがとう」


ポッチ:「先生、話わかる~」


響子 :「よし、それじゃあ、おやつ食べたら、いたずら道具片して、気をつけて家に帰るんだぞ。わかった?」


詩音 :「は~い」

ポッチ:「は~い」


二人は片付けた後、響子とパリカールに挨拶をして帰っていった。


----------------------------------


男  :「初仕事、ご苦労様。」


小早川:「いえいえ。でも、班長、お気遣いありがとうございます。」


男  :「どうです、あの二人は。」


小早川:「いや~、おてんばというか、頭がいいというか、とにかく予測の範囲外の行動しますね。ハラハラ、ドキドキって感じです。」


男  :「う~ん、この仕事は荷が重いですか?」


小早川:「いや、是非やらしてください。あの二人見てるだけで若返った気がします。」


男  :「そうですか。では、引き続きお願いしますね。」


男はそう笑って去っていった。


つづく

ポッチ:「カステラおいしかったね。」


詩音 :「うん、おいしかった。でも、響子先生、乱暴」


ポッチ:「あれじゃ、いい人できないよね~。」


詩音 :「一生独身だよね~。」


ポッチ:「うんうん。さて、次回のトリックエンジェル第23話は。」


詩音 :「短編ウシガエルです。」


ポッチ:「また詩音のいたずらです。」


詩音 :「ではでは~」

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