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トリックエンジェル ~院内学級の物語  作者: まーしゃ
第2章 院内学級編
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2-4.エッセンシャル

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

にぎやかな結婚式も終わった10月のある日。

パパと冬ちゃんがグアムに2泊3日の短い新婚旅行に行っているときだった。


パパと冬ちゃんが新婚旅行に行っている間、私は祐美子おばあちゃん家に預けられていた。パパも冬ちゃんも一緒に行こうといってくれたが、ずっと看病してくれた二人へのお礼を込めて、二人で行ってもらった。


祐美子おばあちゃんの家は街の洋食屋さんをやっている。病院の近くで、病院の職員や先生達でにぎわっている。


昼飯時の喧騒が一段落し、祐美子おばあちゃんが私に声をかける。


祐美子:「おまたせ~。舞ちゃん、何食べる?」


舞  :「オムライス~。」


祐美子:「は~い。まっててね~。おじいさん、オムライス一つ。」


健一 :「おじいさん言うな。まだ、50台前半だ。」


祐美子:「でも、舞ちゃんのおじいさんには変わりないわよね~。」


二人の仲の良いやり取りを聞きながら、窓の外をぼんやり眺める。病院と反対方向にある花の丘公園が見える。


舞  :「ねえ、お昼食べたら花の丘公園で遊んできてもいい?」


祐美子:「いいわよ~。暗くなる前に帰ってくるのよ。」


舞  :「うん。」


---------------------------------


ご飯を食べ終わり、私は公園に向った。この公園結構広い公園である。中に入り、奥にある大きな滑り台がある方へ向って歩いていた。


そのときである。公園の端で私は呼ばれたような気がした。


「...舞ちゃん...」


そう呼ばれたような気がした。不思議に思った私はその場所に向った。

端の方についてみると、


...コーン


何か耳鳴りのような音が聞こえるか聞こえないくらいの感じで鳴っている。


舞  :「何の音だろう?」


私は不思議に思った。その時だった。


ぐにゃり。


目の前の風景がかげろうのように揺らめき、気分が悪くなった。

思わず目をつぶりうずくまる。

しばらくすると少し落ち付いたので目を開けてみた。


いきなり知らない部屋の中にいた。


少し広い部屋にベッドと椅子と本棚と小さな机がある。本棚にはイルカとシャチのぬいぐるみがある。本棚の上にはキャラクターものの時計があり、カチコチと音を立てている。時計は午後の2時を示していた。壁にはハムスターのアニメのカレンダーがかかっている。そして、机の上には少し小さめのピンクのノートパソコンと星座早見表が置いてあった。


まるで誰かの子供部屋のような感じだった。


天井にはシャンデリアがついていた。部屋の真中に行くと自動的に電気がついた。


舞  :「ここは、どこ?」


部屋の一面には窓があった。窓の外は緑の草むら、すぐ先には海が広がっていた。


舞  :「わ~、きれい。」


私は窓の外の風景を見て思わずつぶやいた。


舞  :「誰かいませんか?」


私はドアを開けて部屋を出た。ドアを閉めたとき、ドアにはボードがかかっているのに気づいた。そこには「しおんのへや」と書かれていた。


舞  :「しおん? どこかで聞いたことのある名前。誰だったろう。」


私は学校や幼稚園の友達を思い浮かべた。だけど、「しおん」という子を思い出せなかった。


私は家の中を探した。そんなに広い家でなく、似たような部屋がいくつかある平屋だった。でも、どこもさっきの部屋と違って人が暮らしている雰囲気の無い殺風景な部屋だった。そして、誰もいなかった。


舞  :「誰かいませんか?」


私は家の外に出た。そこは海が見える大地の上にたっていた小さな家だった。家の横には風車がぽつんと立っていた。


海から風が吹いてくる。その風に緑の草がなびき、風車が回っていた。今は秋なのに春の風景だった


舞  :「誰かいませんか?」


でも、誰もいなかった。だけど、不思議と寂しさを感じなかった。


それどころかとても懐かしい風景だった。


舞  :「私、ここ知ってる。前に来たことがある。」


いつだったか覚えていない。でも、確かに記憶がある。


私は家の周りを少し散策して、私は家の中に戻った。なんとなくじたばたしてもしょうがない気がした。部屋の中に入り、あらためて部屋を眺めていた。時計はやっぱり2時を示していた。


舞  :「この前来たときとどこか雰囲気が違う。」


私はそう思った。何が違うんだろう。前はもっとがらんとした部屋のような気がした。そして、何かが決定的に違った。そうだ、本棚だ。前は本棚に本なんかなかった。でも、今日は本棚に10冊くらい本がある。


舞  :「何の本だろう。」


私は絵本みたいな子供が読める本であることを期待していくつか手にとって見た。だけど、どの本も漢字と数字が並んでいるだけで、挿絵すらなかった。もちろん書いてある内容なんかわからなかった。一冊だけ表紙に書かれている文字の一部が読めた。


舞  :「何とかエッセンシャル。 三条くるみ。くるみさんの本?」


何とかの部分はわからなかった。でも名前は読めた。三条くるみはお隣のお姉さんだ。今は外国にいるはず。


舞  :「でも、くるみさん本書いてたっけ。まあ、いいや、持って帰ってパパに見てもらおう。」


そういって、リュックサックに本を詰めようとした。が、荷物がいっぱいで入らない。仕方ないから、中身をいくつか出して、本を詰め込んだ。


そうしているうちに、日が暮れ始めた。でも、帰り方がわからない。時計はまだ2時だった。


舞  :「この前はこの後どうなったんだっけ。そうそう、冬ちゃんが迎えに来たんだ。でも、旅行中だし3日くらい帰ってこないかな。でも、しょうがない待ってよう。きっとこれ夢だよ。」


そう、私は半分あきらめて思った。


...コーン


部屋の隅からあの音が聞こえはじめた。わたしはリュックを持ってそこに近づく。そして


ぐにゃり。


風景が揺らいだ。慌てて目をつぶりうずくまった。


落ち着いてから目を開けるとそこはもとの花の丘公園だった。公園の時計は2時10分を示していた。


舞  :「やっぱり、夢?」


私は妙に納得して家路についた。


-----------------------------------


俺と冬子が新婚旅行から帰ってきた次の日だった。


舞  :「パパ、冬ちゃん」


あきら:「ん? 舞、どうした。」


冬子 :「舞ちゃん、どうかしましたか?」


舞  :「また、不思議な風景の夢見た。」


あきら:「え? またか。」


冬子 :「不思議な風景の夢? 冬子よくわかりません」


あきら:「なんというかな、それこそ夢の世界みたいなところだ。」


舞  :「えっと、海が見える丘の上に家がぽつんと立っていて、人がだれもいないところ。」


冬子 :「そこで、何をするんですか。」


舞  :「なにもしないの」


冬子 :「冬子、ますますわかりません。」


舞  :「うん、ただそれだけなんだけど、前にもいったことがある気がする」


あきら:「実は、おれもその夢を見たような気がするんだ。一人でその世界に何日も暮らすんだ。そして最後に。」


冬子 :「最後に?」


冬子が目を輝かせて話を聞く。


あきら:「冬子が迎えに来て、俺を救っていくんだ。」


冬子 :「あきらさん、冬子を馬鹿にしてますね。いくら冬子でも、それくらいわかります。」


舞  :「冬ちゃん、本当なの、私も同じ夢見てるの。」


冬子 :「なるほど、冬子わかりました。冬子はふたりの夢の中にでてくるくらい惚れられたんですね。冬子罪作りです。」


あきら:「いや、おまえのことだ、俺たちの世界に強引に割って入ってきたんだろう。おまえならやりかねない」


冬子 :「あきらさん、失礼だとおもいます。冬子はそんなことできません。」


ぷいとすねる。


舞  :「あのね、あのね。ふたりとも聞いて。」


あきら:「ああ、話がずれてるな。」


舞  :「今回はね、違うところが一つあったの。風景が違ったの。」


あきら:「え? どんな感じだったのか? 今度は南国風になったのか?」


舞  :「ううん、前と同じ春の風景。えっとね、外の風景は同じだったんだけど、部屋の中が違ったの。ぬいぐるみとかが置いてあって、まるで誰かが住んでいるみたいだった。そしてね、本が何冊も置いてあったの。」


あきら:「へ~。少しは娯楽ができて住み易くなったんだな。」


舞  :「それでね、難しい本ばっかりだったんだけど、一冊だけひらがなの本があったの。『くるみ』って書いてあるの読めたの」


あきら:「ほう、中身は絵本かい?」


舞  :「ううん。漢字と数字ばっかり」


あきら:「そうか~。パパもちょっと読んで見たかったな。」


舞  :「うん、でね、持って帰ってきたの。」


あきら:「は? 夢の世界から本をかい? それはいくらなんでも無理だ。」


舞  :「パパ、信じて。はい、これ」


舞が一冊の本を出す。


あきら:「おいおい、冗談だろ。」


俺は本を受け取る。


あきら :「『統一場の理論エッセンシャル 著者 三条くるみ』なんじゃこりゃ? 三条くるみって隣のくるみの本か?」


ぱらぱらとめくる。物理の本のようだ。所々に数式がかかれている。とりあえず、「はじめに」のところを読む。


あきら :「『この世界は時間は一次元だといわれてきた。しかし、それではブラックホール内の特異点や虚数時間などどうしてもうまく表せない。しかし、時間は一次元でなく二次元であると考えると無理なく解決できる。私はこの時間をα軸の時間と定義し、これに基づいて統一場の理論を説明する。』なんじゃこりゃ?」


冬子 :「冬子もさっぱりです。」


要約版とかいてあるが、さっぱりわからない。だけど、「はじめに」の最後に書かれた文字を見て驚いた。


あきら:「この本を私のよき理解者でパートナーのしおんちゃんこと楠木詩音さんに捧ぐ。」


どういうことだ、確かにくるみは物理学者だ。でも本を書いていたっけ? それに楠木詩音って誰だ? うちには詩音なんていないぞ。


冬子 :「冬子にも見せてください。」


あきら:「ああ。」


冬子に本を渡す。なんで、夢の中から本を持ってこれる? なんで、くるみが本を書いている?


冬子 :「冬子びっくりしました。日本にもこんなすごい人いたんですね。」


と、著者紹介のところを俺に見せる


あきら:「三条くるみ。日本で知らない人はいないだろう... 最年少ノーベル物理学賞受賞者... アインシュタインの再来.. 現在スタンフォード大学教授。毎年秋から春にかけ日本に帰国する。毎年行う郷里での講演会のチケットは現在日本で最も手に入らないチケットと言われている。」


くるみが毎年郷里に帰っている? あの人は大学に行ってから日本に帰ってきたことなんてないぞ。それ以上にノーベル物理学賞受賞って。今までくるみはおろか女性でノーベル物理学賞をとった日本人はいないぞ。


解説のところを読んでみた。読書感想文など書くときは解説だけ読んで書いたものだ。ここを読めば大体のアウトラインはつかめる。


あきら:「この本の最後の4章に書かれていることは衝撃的な内容である。三条博士はこの世界とは別にこの世界とほぼ同じ世界があると予言している。この『対世界』には『αベクトル空間』を通っていけるはずであると書かれている。この話は『くるみちゃんの23世紀のおとぎ話』として有名である。でも、是非私はそれが私の生きている間に実現して欲しいと願っている。」


俺と冬子は顔を見合わせる。


あきら:「そういえば、くるみが言っていたな。この世界はパラレルワールドという似た世界がいくつも連なって出来ているって。」


舞  :「へ~。知らなかった。」


俺は、その本を斜め読みして最後の4章を読んでみた。


あきら:「うわ~。すげ~」


冬子 :「どうしたんですか?」


あきら:「この4章、すごい内容を数式で証明している。信じられない。」


冬子 :「なにが信じられないんですか?」


あきら:「パラレルワールドへの旅行が理論的に実現可能なことを数式使って証明しているんだ。」


冬子 :「ありえないです。ちょっと見せてください。」


冬子が本を俺から取り上げる。一生懸命読んでいる。が、


冬子 :「さっぱりわかりません。」


あきら:「俺だって数式のところわかんないけど、文章を追っていくとそう書いてあるとしか読めない。」


冬子 :「う~。あ、またしおんちゃんがでてきた。」


本の裏表紙には本人と思われるサインが書いてあった。「親愛なるしおんちゃんへ 三条くるみ」


あきら:「しおんちゃん? 誰なんだ? でも、どこかで聞いたことがある名前だ」


ふと、たんすの上の写真立てに目が行った。和恵の写真が飾ってある。


...この子が生まれたら「舞」か「詩音」って名前を付けたいです...

...どちらにするかはあきらさんが決めてください...


あきら:「うそだろ。」


俺は思い出した。そして、この瞬間、全てがわかった気がした。


あきら:「楠木詩音...そんなことありえない。」


俺はその恐ろしい自分の考えに身震いした。


第2章 完



すいません。いきなりの超展開です。

3章はSFファンタジーっぽい世界になるので、「SFはちょっと苦手」という方はこのまま、「4章 淳-Iga腎症」に行かれると再び院内学級の11月の話から再開されます。


3章はもう一人の主人公詩音ちゃんの登場です。舞ちゃんと違い、何不自由なく育った詩音ちゃんは舞ちゃんに負けず劣らずのいい子のはず。だけど、世の中そうはうまくいかず、実際はとんでもない「いたずら娘」でした。次回は3章0話「詩音」です。3章は科学といたずらの世界です。

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