短編クリスマスイブ
この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。
小さな家の一室。部屋の隅には小さなクリスマスツリー。窓には折り紙を切って作った雪や星。そして部屋の真中にはコタツが一つ。
そんな慎ましやかな雰囲気の中で3人は聖夜を迎える。
舞 :「うわ~、雪が降ってきた。」
あきら:「ホワイトクリスマスだな。」
冬子 :「冬子、感動しました。」
3人で迎える初めてのクリスマスイブ。まだまだぎこちない3人のイブ。
あきら:「社長がクリスマスケーキくれたんだ。」
あきらがデコレーションケーキをコタツの上に置く。
舞がロウソクを取り出しケーキに何本か立てる。
舞 :「冬ちゃん、ロウソクに火をつけて。」
冬子 :「はい。」
冬子がそのロウソクに火をつける。
舞 :「きれい。」
ロウソクの火が揺らいで幻想的な風景がかもし出される。
冬子 :「さあ、ご飯にしましょう。」
舞 :「うん!」
あきら:「待ってました!」
冬子 :「その前に和恵さんにおすそ分け。」
冬子が和恵の写真の前に料理を置く。結婚したとき和恵の写真をしまおうとしたが、冬子が反対してそのまま置いてある。
舞 :「今日の料理は何?」
冬子 :「チーズフォンデュです。」
あきら:「え? 全然チーズの匂いしないじゃん。」
冬子 :「冬子の自信作です。食べてください。」
あきら:「ああ、遠慮なく」
舞 :「いただきます。」
二人は早速串に刺さった料理をチーズに満たされた鍋に通して口に持ってく。
そして、二人とも、呆然として串を落とす。
「箸落としの冬子」の本領発揮だ。
舞 :「ママ! なにこれ?!」
あきら:「こんなうまいものが地上に存在するのか?!」
全然チーズ臭くなく、それでいてとってもクリーミーでまろやかな味が口の中に広がる。
冬子 :「昔、チーズは醍醐と言われてました。舞ちゃんとあきらさんはとっても幸せです。思わず冬子に感謝したくなるでしょう。」
舞 :「ママ、私すごく感謝する!」
舞は普段冬子のことを「冬ちゃん」と呼ぶ。でも本当に感情が高ぶった時は無意識に「ママ」と呼ぶ。めったにないことだ。
あきら:「これが醍醐味か」
この前カレー鍋を食べたとき、これ以上のものは食べられないと思っていたがあっさり、いい意味で裏切られた。あきらはそう思った。
冬子 :「どうです? 冬子に懐柔されましたか?」
舞 :「うん。ママ最高!」
あきら:「ああ、こんな懐柔なら何度でもされたい。」
あきら:「冬子、俺からのお返しのクリスマスプレゼントだ。受け取ってくれ。」
冬子がプレゼントを受け取り、包みを開ける。
あきら:「プラチナのネックレスだ。受けとってくれ。」
冬子 :「あきらさん、これすごい値段しますよね。10万円は下らないはずです。」
あきら:「そんなの気にするな。冬子が俺たちに与えてくれた幸せに比べたら何百分の一だ。」
冬子 :「あきらさんありがとう。あきらさん、もしかしていい人かも知れません。」
あきら:「何をいまさら。」
あきら:「舞、おまえにもプレゼントだ。60色の色鉛筆と新しい画帳だ。」
舞 :「パパ、ありがと~。60色欲しかったんだ。」
舞は本当にうれしそうだ。
舞 :「私からもパパと冬ちゃんにプレゼント。はい。」
舞は2枚の画用紙を二人に渡す。そこには二人の似顔絵がかかれていた。
冬子 :「舞ちゃん、ありがとう。」
冬子は舞に抱きつく。
外の雪はだんだん激しさを増していく。
あきら:「これは積もりそうだな。」
そうあきらはつぶやいた。そして、
あきら:「こんな、何気ない生活がこんなに幸せとは...」
舞 :「うん。幸せ。」
3人の聖夜はこうやってふけていった。
おしまい