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トリックエンジェル ~院内学級の物語  作者: まーしゃ
第2章 院内学級編
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2-2.学校

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

新学期が始った9月の土曜日の昼下がり、院内学級の部屋で舞はかのんと美鈴とおしゃべりに花を咲かせていた。話題は舞が通い始めた学校についてだった。美鈴もかのんも学校には行ったことがない。


美鈴 :「学校楽しい?」


舞  :「う~ん、大変。」


かのん:「やっぱり勉強が大変だよね。」


舞  :「うん、勉強も大変。算数と国語の読むほうは院内学級でも勉強してたから何とかなるんだけど、漢字を書くって練習してなかったから、覚えるのが大変。」


かのん:「そうだよね。ここじゃ漢字書く必要ほとんどないもんね。ご本読むために漢字を読めるようにはなるけどね。」


院内学級の生徒は本とかに親しむ機会が多い。だから、文字を読むことはあまり苦にしない子が多い。


舞  :「だけどね、本当に大変なのは勉強以外の色々なことなんだ。」


美鈴 :「勉強以外って遊ぶだけじゃないの?」


舞  :「主に当番関係かな、日直とか掃除当番とか給食当番なんだ。最初すごい戸惑った。何していいかわかんないんだもん。」


かのん:「うん、私も言葉聞いただけじゃわかんない。何をやる当番なの?」


舞  :「例えば、日直って、授業が始るとき、『起立、礼、着席』ってみんなを代表して言ったり、授業の合間に黒板をきれいに消したりする係。そうそう、最初に授業を受けたとき、いきなり起立って言われてみんなが立ち上がったのはびっくりした。そんなの知らなかったんだもん。」


美鈴 :「そうだよね。」


舞  :「黒板消すのだって、黒板消しっていうかまぼこ見たいのがあるんだけど、それもだんだんチョークを吸って消せなくなるの。そうしたら、先生が『クリーナー使ってきれいにしなさい』って言うんだけど、クリーナーが何でどう使うのかさっぱりわからない。」


かのん:「先生は教えてくれないの?」


舞  :「聞けば教えてくれるんだけど、みんなが知ってるから、私も知ってると思って、つい最初に教えるのは忘れるみたい。どうも、1年生の一学期はそういう学校生活について教えてくれる時期みたいで、それを受けてないから勉強よりもそっちがつらいかな」


かのん:「なるほどね~」


舞  :「つらいといえば、学校給食もつらいものの一つかな。」


美鈴 :「なんで? ご本とかでは給食が学校の中で一番楽しいとか書いてあるけど?」


舞  :「おいしくないの。病院食もおいしくないけど、給食も同じくらいおいしくない。病院食は病気を治すために身体にいいもの第一で作ってあるから仕方ないけど。給食は違うでしょ。それで、給食費とかお金取るのよ。よくお金とってこんなもの出せるよなって思ってる。」


美鈴 :「え~、学校に行っても病院食続くんだ。がっかり。」


舞  :「ごめん、希望を失うようなこと言っちゃったね。でも、がっかりしたのは私も一緒。それで、先生に『もっとおいしいものを給食に出すようにしてください。そうじゃなければ、昼ご飯家で食べるの許してください』ってお願いしたんだ。」


美鈴 :「そうしたら?」


舞  :「みんな、『同じ物を食べてるんだから我慢しなさい』って言われた。さらには、『ここの給食は給食室で手作りなんだからおいしいよ。』っていって取り合ってくれなかったの。先生も長年給食食べつづけて味覚おんちになってるのよね。」


舞はこの時点では自分の舌がものすごく贅沢になっているのに気づいていなかった。冬子の料理の弊害がこんなところにでていた。


後日談として、数年後、やっぱり、給食の味に耐えられなくて、先生に直訴したら、「一生懸命、給食作っている給食室の人に失礼でしょ。だったら、自分で作ってみたら?」と怒られ、頭にきた舞が冬子をつれて、給食室に乗り込み、給食室の人と一緒に全校分の給食を作ったことがある。

そのときの給食は伝説の給食として語りつがれている。


美鈴 :「ところで、学校でお友達出来た? いじめられてたりしない?」


舞  :「うん、クラスに二人できた。ひとりはひかる。」


かのん:「ひかるちゃんって、時々舞をお見舞いに来てた子じゃない?」


舞  :「うん、幼稚園も一緒だったから、前から知ってたんだけど。クラス委員で面倒見がよくってみんなの人気者。それで、学校に行き始めたら色々教えてくれるんだ。」


美鈴 :「舞ちゃん、良かったね。」


美鈴が微笑む。


舞  :「あと、神崎さん。とても大人しい子なんだけど、優しい子なんだ。私の話とか色々聞いてくれるの。あんまりしゃべんないんだけど一緒にいるだけであったかくなるような子」


美鈴 :「へ~」


舞  :「そうそう、神崎さんの名前みすずっていうんだよ。美鈴と同じ。」


美鈴 :「神崎みすず...なんか親しみ持てそう。」


舞  :「じゃあ、今度聞いてみるよ。二人に会いに来ないかって。」


美鈴 :「う~ん、ちょっと恥ずかしいかな。」


かのん:「うん。わかる。舞とかなら平気だけど、あんまり病気のこと知らない子に自分の姿見せるのね。なんとなくね。」


舞  :「そっかあ。そうだよね。大丈夫だとは思うけど。でも、もし、目をそらされて『頑張ってね』とか言われるとへこんじゃうよね。」


美鈴 :「うん、当分はいいかなあ~。」


舞  :「でも、ひかるは来ると思うよ。ふたりとも治ったら、私と同じ小学校でしょ。だから、『クラス委員として当然行きます』とか言ってたし。」


かのん:「ひかるちゃんかあ。まあ、ひかるちゃんならいまさらだし、いいかなあ。」


美鈴 :「まあねえ。」


かのん:「ねえ、いじめっ子とかいないの?」


舞  :「いるのよ。ゴンタってやつ。こいつも幼稚園一緒だったんだけど女の子をすぐいじめるの。それで、大人しい神崎さんなんかすぐちょっかい出される。」


美鈴 :「こわ~い。」


舞  :「でも、だいじょうぶ。ひかるがかばってゴンタに向かって注意するから。それに女の子で団結してゴンタ達男の子と戦ってるの。ほんと、男の子って乱暴でしょうがないのよ。」


かのん:「学校も大変なんだね。」


舞  :「院内学級だといじめとか乱暴とかないからね~。そういう意味でここはいいところ。」


かのん:「それで、退院したにもかかわらず、院内学級に入り浸ってるのね。木ノ内先生があきれてたわよ。出席率No1だとか。」


舞  :「そんなことないよ。午後こっちに来るだけじゃない。」


美鈴 :「こんなに来てたらつかささんとか草薙先生に怒られない?」


舞  :「いちおうボランティアだから。」


かのん:「でも、一日私たちと遊んでるよね。」


舞  :「そんなことないよ。小さな子達に絵本とかたかしにいちゃんの物語読んでるもん。それに、ほら、この頃紙芝居書き始めたんだ。これ見てよ。」


舞が自分で書いた紙芝居を見せる。

そこにはなにやら黒い細長いものが書いてあった。


美鈴 :「あ、これ知ってる。図鑑に載ってた。ナマコでしょ。」


舞  :「黒猫ニャーゴ...」


かのん:「舞、頑張ろう。」


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松井 :「良く舞ちゃんのボランティア許しましたね。この病院のボランティアは原則中学生以上のはず。万が一、感染病持ち込まれたら厄介なのでは。」


草薙 :「まあ、ボランティアといっても友達と遊ぶだけだしね。美鈴とかのんが明るくなっていいんじゃない。ただでさえ、たかしちゃんのことがあったわけだしね。それにこの小児病棟にはクリーンフロアがある。そこの出入りを厳格にすれば感染病を持ち込まれるリスクも減る」


木ノ内:「精神的なケアという意味では舞ちゃんが来てくれるのは助かります。やっぱり、あの子達不安ですからね。それに外の世界の生の情報も持ってきてくれます。」


松井 :「まあ、病院という外から隔離された世界では、ああいう子も必要なんでしょうね。」


そう言って、3人はのんびりとナースセンターでお茶をすすりながら子供達を見守っていた。


つづく











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