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【彼女の教室】 3/27完結「ずっと見ていたのは、あなたかもしれない」 ~後ろの席は空席のはずなのに、誰かが“決めて”いる  作者: Taku


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6/8

第6話 「その夜、何が『消えた』のか」~3年C組、45分間の密室推理・第六章~

※この作品は『彼女の計画』シリーズのスピンオフですが、本編未読の方でも独立した作品としてお楽しみいただけます。

【前回までのあらすじ】


十月。

学級委員の再選挙で、誰もいない後ろの席から手が挙がる現象が起きる。

机には『私は、ここにいる』の文字。

沙織が描いた教室の絵には、7人目の背中が写り込む。

そして後日、あの席には『私が手を挙げたのに』というメモが置かれていた。

窓の外の揺らぎは、確実にこちらに近づいている。


---


【第六章】

十一月『その夜、何が「消えた」のか』


1


十一月。


修学旅行の季節がやってきた。


行き先は京都。

紅葉がちょうど見頃を迎えている。

新幹線の中はいつもより騒がしく、クラスメイトたちはお菓子を分け合い、カードゲームに興じている。


でも、6人だけは少し違った。


窓側の席に座る拓は、流れる景色を見ている。

その後ろの席で瞳は何かを考え込むように窓の外を見ている。

康介はスマホで何かを確認している。

沙織はスケッチブックに景色を描いている。

Eは文庫本を読んでいる。

純は――全員を静かに見ていた。


新幹線の車内アナウンスが流れる。


「まもなく、京都駅に到着します」


2


一日目は班別行動。


6人は偶然同じ班になった。

いや、偶然ではないのかもしれない。

気づけばそうなっていた。

それがこの6人の「いつものこと」だ。


清水寺、二年坂、三年坂。

紅葉に彩られた観光地を巡る。

でも、誰もがどこか上の空だった。


昼食時、小さな蕎麦屋に入った。

窓際の席に座る6人。


沙織が突然、言った。


「ねえ、昨日の夜、変な夢見た」


「どんな?」


「教室にいたの。夜中の教室に。

で、あの後ろの席に誰か座ってるの」


全員の手が止まる。


「で、その人、こっち向いて言ったの。『私のこと、覚えてる?』って」


沈黙。


Eが、小さく言った。


「私も……似たような夢見た」


拓が顔を上げる。


「Eも?」


「うん。でも、その人の顔が見えなくて。もっと近づこうとしたら、目が覚めた」


康介がスマホをいじる仕草をしながら、呟く。


「……集団催眠みたいなものか」


瞳が首をかしげる。


「でも、同じ夢を複数人が見るなんてこと、あるの?」


誰も答えない。


純だけが、窓の外の紅葉を見ていた。


3


その夜。


旅館の大広間で夕食を終えた後、6人は別々の部屋に戻ることになっていた。

男子は拓と康介が同室。女子は瞳、純、沙織、Eの4人で一部屋だ。


それぞれの部屋に戻る前、廊下で少し立ち話をしていた時のこと。


沙織がスマホを取り出して言った。


「今日の反省とか、明日の予定、LINEノートにまとめておこうか」


特に反対する者もなく、沙織がノートを開く。

数人のクラスメイトが「いいね」やスタンプを既に押しているのが見える。


「今日の班行動で、迷子になった班があった件」

「明日の朝食の集合時間」

「お土産買う時間が足りないって意見」


普通の話が続く。


でも、一人だけ、ほとんど話さなかった。Eだ。


沙織がEに振る。


「Eは何かある?」


Eは少し間を置いた。その目は、どこか遠くを見ているようだった。そして、ゆっくりと口を開いた。


「……あの、前に図書館で見た本の話なんだけど」


「本?」


「うん。『彼女の計画』っていうタイトルの小説。作者の名前は忘れちゃったんだけど……読んでいて思ったんだ。これ、なんか私たちのクラスのことみたいだなって」


数人が顔を見合わせる。


沙織が首をかしげる。


「どういうこと?」


Eは続ける。一度口を開いたら、止まれなかった。


「非常階段が出てくるシーンとか、アンケートで決める場面とか、『気づいたら決まってた』っていう感じとか。偶然にしては、似すぎてる気がして……」


瞳が口を開く。


「E、それは偶然でしょ。小説は小説だよ」


でも、純は何も言わない。ただ、Eを見つめている。


Eの声が、わずかに震えた。


「別に、誰かを疑ってるとかじゃないんだ。ただ……もし本当に偶然だとしても、なんか、私たちってずっと誰かに見られてたみたいで、それがちょっと怖いなって思っただけ」


誰も何も言えなかった。


廊下の窓の外には、京都の夜景が広がっている。でも、誰もそれを見ていなかった。


4


「まあ、そんなことより、お風呂行こうよ」


誰かの声で、その場はなんとなく解散した。


Eもそれ以上追及しなかった。純も何も言わなかった。ただ、わからないまま、夜は更けた。


それぞれが自分の部屋に戻る。女子4人の部屋では、沙織がもう一度LINEノートを開き、さっきのメモを簡単に書き足した。Eの発言の内容を、要約して。


そして、灯りが消される。


翌朝。


沙織がLINEノートを開く。昨夜のメモを確認しようとして、手が止まった。


「……え?」


同じ部屋の瞳、純、Eが顔を上げる。


「どうしたの?」


沙織はスマホの画面を皆に向けた。


昨夜書いたはずのEの発言の要約が、丸ごと削除されていた。


「昨夜のEの話、消えてる……」


沙織は自分のスマホを何度も確認する。でも、確かに消えている。


でも、不思議なことに、既読の数は増えている。誰かが「読んだ」ことだけは確かだ。


「誰が削除したの?」


沙織は言う。


「私、編集権限は持ってるけど……消してない。昨夜はあの後、すぐ寝たし」


別の部屋から康介と拓もやってくる。沙織が事情を説明する。


康介も自分のスマホで確認する。


「確かに消えてるな……でも、俺は消してない」


瞳も、拓も、首を振る。


Eも、自分は消していないと言う。


純は、何も言わなかった。


誰が削除したのか。


誰も消したと言わない。


でも、Eの発言は消えた。


5


沙織は、LINEノートの編集履歴を確認した。


「編集履歴を見れば、誰が消したかわかるかも」


画面をスクロールする。


昨夜の23時47分。編集があった。


でも、編集者の名前が表示されていない。


匿名編集だった。


「匿名で編集できる設定じゃないはずなんだけど……」


沙織が設定を確認する。確かに、編集者の名前は表示されるはずだ。


なのに、表示されていない。


ただ、その匿名編集の記録の横に、小さなアイコンが一つ表示されていた。


誰かがログインしていた証拠。


沙織は、そのアイコンをじっと見た。


「……これ、誰だっけ」


見覚えがある。でも、思い出せない。


瞳がのぞき込む。


「それ、クラスの誰かのアイコン……?」


クラスのLINEグループで使われているものではない。でも、確かにどこかで見たことがある。


拓が静かに言った。


「あの席のやつかもな」


誰も答えない。


でも、その可能性を、誰も否定できなかった。


6


その日の班行動中、Eはほとんど口をきかなかった。


沙織が何度か話しかけたが、上の空だった。


夕方、金閣寺の前で。


沙織はEを見つけた。一人でベンチに座り、何かを考え込んでいる。


「E、大丈夫?」


Eは顔を上げた。その目は、少し潤んでいるように見えた。


「沙織……私、昨夜、何て言ったか、覚えてる?」


沙織は答えようとして、止まった。


(昨夜のEの言葉……何て言ったっけ?)


思い出せない。


大事なことを言った気がする。でも、その内容がまったく出てこない。


「ごめん、私も……思い出せない」


Eはうつむいた。


「私も、思い出せないんです。すごく大事なこと言った気がするのに、何だったか……」


沙織は、拓たちのところに戻って確認した。


「Eが昨夜言ったこと、覚えてる?」


康介が首を振る。


「何か言ってた気はするけど……内容が出てこない」


瞳も同じだった。


「夢の中で見たみたいに、ぼんやりしてて……」


拓も首を振る。


純だけが、何も言わなかった。


拓が呟く。


「記録が消えると、記憶も消えるのか」


7


その夜、旅館のロビー。


沙織は一人でソファに座っていた。

同じ階のどこかで、クラスメイトたちの笑い声が聞こえる。でも、確かめに行けない。


ロビーを通り過ぎる家族連れ。

母親と、小学六年生くらいの女の子。

その子が、一瞬だけ沙織を見た。


目が合った。


でも、それだけだ。


女の子は母親と何事か話しながら、奥へと消えていった。


沙織はその背中を見送りながら、思う。


(あの子は、何も知らない。この旅館で何が起きているかも、私たちが何を抱えているかも)


(それでいいのかもしれない。知らない方がいいこともある)


その時、沙織のスマホが震えた。


LINEノートに、新しい投稿があった。


開いてみると、それは――


昨夜削除されたはずのEの発言の要約が、なぜか復元されていた。


でも、投稿者は「不明」になっている。


沙織はゾッとした。


誰かが、消して、また戻した。


その「誰か」は、今もどこかで見ている。


8


翌日、帰りの新幹線の中。


沙織はもう一度LINEノートを開いた。


Eの発言の要約は消えたまま。

でも、既読の痕跡だけは残っている。全員が「何か」を読んだことは確かだ。


それが、唯一の証拠だった。


窓の外の景色が流れる。


拓が、ぽつりと言った。


「“消えた”んじゃないのかもしれないな」


「え?」


「“消された”んだ。誰かに」


誰も答えない。


でも、その「誰か」が、今もどこかで私たちを見ている。


それだけは確かだった。


沙織は窓の外を見た。


京都の街が遠ざかっていく。


その風景の中に、一瞬、見覚えのある背中が浮かんだ気がした。


7人目の背中。


でも、すぐに消えた。


9


学校に着き、解散する。


教室を出る最後の一人は、今日も純だった。


机の上に、一枚のメモが置かれている。


『消えても、痕跡は残る』


純はそのメモをポケットにしまい、窓の外を見た。


フェンスの手前。


揺らぎはもういない。


でも、確かに「いた」痕跡だけが、そこに残っている気がした。


いや、違う。


揺らぎは、フェンスの手前から、もっと近くに来ている。


校庭の半分ほど。確実に、距離が縮まっている。


もうすぐ、ここまで来る。


その時、教室の後ろの席で、何かが動いた気がした。


純は振り返った。


誰もいない。


でも、机の上に、新しいノートが置かれている。


表紙には何も書かれていない。


でも、開いてみると、最初のページにこう書かれていた。


『私は、ずっとここにいた』


その文字は、さっきまでそこになかった。


純は、そのノートを閉じた。


窓の外では、十一月の光が、何もなかったかのように降り注いでいる。


挿絵(By みてみん)

三人の「光莉」

『彼女』シリーズ3作品に登場


『継承者』→「わからないから考える」

『教室』→「見られていた側の娘」

『喫茶店』→「語り手としての光莉」

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