第4話 「『ここに行きたい』は、誰の声?」~3年C組、45分間の密室推理・第四章~
※この作品は『彼女の計画』シリーズのスピンオフですが、本編未読の方でも独立した作品としてお楽しみいただけます。
【前回までのあらすじ】
七月。
教室の後ろの席に置かれたスマホに表示されたのは、非常階段を撮った写真。そこには拓と瞳、そしてそれを見るEの姿が写っていた。つまり、Eをも見ていた「四人目の視線」の存在が示唆される。純が拾ったメモには『あの日の「いいね」は、今、押された』と書かれていた。何かが動き始めた予感の中、夏休みを迎える。
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【第四章】
九月『「ここに行きたい」は、誰の声?』
1
二学期最初のLHR。
九月の日差しはまだ夏の名残を帯びている。教室の窓は開け放たれ、蝉の声が途切れ途切れに聞こえる。
黒板には担任の字でこう書かれていた。
『修学旅行 見学コース最終決定』
A:歴史的な寺院と庭園コース
B:モダンアート美術館コース
C:自由散策
康介が教壇に立ち、Googleフォームを開く。
「昨日のうちにアンケート取った。もう過半数が回答済みだ」
誰も答えない。沙織は窓の外。Eは本。拓は雲。
「じゃあ、結果を確認する」
康介がフォームを開く。画面をしばらく見つめて、動きが止まった。
沈黙。
「……Aが80%だ」
瞳がのぞき込む。
「みんな寺と庭園が好きなんだね」
その言葉に、数人が「そうだね」とうなずく。
拓が、窓からゆっくりと顔を戻した。
「Aに行きたいって言ってたやつ、いたか?」
教室が静まる。
2
誰も答えない。
沙織の手が止まる。Eが顔を上げる。瞳の表情が、ほんの少し強張る。
康介はフォームの設定を確認している。その指が、途中で止まった。
「……選択肢の順番、途中で変わってる」
沈黙。
「最初はA・B・Cの順だった。でも、途中からAだけが一番上に固定されてる」
拓がのぞき込む。画面には確かに変更の痕跡があった。
「これ、最初の選択肢が一番選ばれやすいんだよな」
康介の声は平坦だった。でも、その目は画面から離れない。
誰が変えたのか。
数秒の沈黙。視線が、自然と康介に集まる。
康介は何も言わない。ただ、自分のスマホを見つめている。
3
Eが、小さく言った。
「“見やすくしよう”と思っただけかもしれない」
沙織が続ける。
「悪意があったわけじゃない」
瞳が言う。
「それで決まっちゃったんだね」
誰も悪くない。誰も意図していない。でも、Aが選ばれた。
康介の視線が、一瞬だけ後ろの席に向いた。
すぐに戻す。
何も言わない。
拓が呟いた。
「“選んだつもり”と“選ばされた”の境目って、どこにあるんだろうな」
誰も答えない。
沈黙だけが、教室に落ちる。
4
チャイムが鳴る。
「じゃあ、Aで決定ね」
瞳がそう言って立ち上がる。
沙織もキャンバスを片付ける。Eも本を閉じる。
康介は、教壇に立ったまま動かない。
教室を出る最後の一人、純が机の上を見る。
小さなメモ。
『選んだつもりが、選ばされていた』
純はそれを手に取り、一瞬だけ康介の背中を見た。
康介はいつも通り、何でもない顔で廊下を歩いている。
でも、その背中は少しだけ、小さく見えた。
5
窓の外。
フェンスの手前。
揺らぎが、微かに動いた。
たったそれだけ。
でも、その瞬間、教室の空気が変わった気がした。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
『彼女の教室』は、本編『彼女の計画』シリーズの登場人物たちの高校時代(同級生設定)を描く全8話の学園ミステリーです。
本編で複雑に絡み合う大人たちの「なぜ」の答えが、この教室の中に隠されています。
また、本編『彼女の計画』シリーズも連載中です。
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