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【彼女の教室】 3/27完結「ずっと見ていたのは、あなたかもしれない」 ~後ろの席は空席のはずなのに、誰かが“決めて”いる  作者: Taku


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3/5

第3話 「あの日、だれもいなかったはずの場所で」~3年C組、45分間の密室推理・第三章~

※この作品は『彼女の計画』シリーズのスピンオフですが、本編未読の方でも独立した作品としてお楽しみいただけます。

【前回までのあらすじ】

六月。

拓のスマホに「1年前の今日、あなたはこの投稿に『いいね』しました」という通知。表示された写真は、工事中で立ち入り禁止だった渡り廊下から撮影された非常階段。Eは「あの日、私は渡り廊下に立っていた」と言うが、写真は撮っていない。教室の後ろの席に、誰も置いた覚えのないスマホが置かれる。純が拾ったメモには『あの日の「いいね」は、まだ押されていない』と書かれていた。


1


七月最初のLHR。


梅雨は明けていた。教室の窓は全開。それでも空気は重い。


6人は無言でそれぞれの席に座っていた。誰も「前回の続き」を口にしない。


沙織がキャンバスに何かを描き始める。数分後、手を止めた。


「……ねえ」


その声に全員が顔を上げる。


沙織はキャンバスを皆に向けた。後ろの席が描かれている。あの日、スマホがあった場所。


「この席、誰が座ってるんだっけ」


沈黙。


拓がゆっくりと後ろの席を見る。誰もいない。


「……ずっと、空席だった」


康介の言葉に、沙織が首をかしげる。

「でも、あの日、ここにスマホがあった」


Eが本から顔を上げた。

「誰かの忘れ物?」


「違う」


拓が言う。全員が彼を見る。

「あのスマホ、あの日だけあったんじゃない。もっと前から、あそこにあった気がする」


「気のせいだろ」


康介が否定する。でも、その声は確信に欠けていた。


その時、瞳が立ち上がった。

「確かめてみよう」


瞳は担任のデスクにあるクラス名簿を手に取る。


「……37人」


呟きが教室に落ちる。


沙織が数える。拓、瞳、康介、純、沙織、E。それで6人。他に31人。合計37。


「誰も足りない人はいない」


康介が言う。


――なら、あの一番後ろの席は、誰の席なんだ?


2


Eが小さく言った。

「去年の今頃って、何してたっけ」


それぞれの「去年の六月」が、断片的に浮かんでは消える。


「あの日、非常階段に誰かがいた」


Eが突然言った。声は硬い。

「前に話したよね。二人と、それを見ている人がいたって」


「うん」


「あの時、私は『見ている人』のシルエットを見た。でも、それが誰かはわからなかった」


Eはゆっくりと教室を見渡した。

「もしかしたら、その人が、あの席に座ってたのかもしれない」


沈黙。


誰も否定しなかった。


ピコン


短い通知音が教室に響いた。全員が自分のスマホを確認する。違う。


ピコン


もう一度。今度は後ろの方から。


一番後ろの窓際の席。あの日スマホがあった場所に、また同じスマホが置かれている。


拓が立ち上がり、近づく。手に取る。画面には一枚の写真が表示されていた。


非常階段。


三人の影。


拓の手が止まる。

「……これ、誰が撮ったんだ」


誰も答えない。


純が後ろから写真を覗き込んだ。

「この三人って……」


言いかけて、止まる。


わからない。でも、なぜか見たことがある気がする。


3


沙織がキャンバスに向かっていた。数分後、手を止めた。


「……描けなかった」


キャンバスには、後ろの席のあたりが、ぼんやりとした影だけが残されていた。

「あの席に座っていた人の顔が、描けない」


拓が後ろの席にもう一度目をやる。誰もいない。


「“見る”と“見られる”は、表裏一体だ」


拓の言葉が静かに響く。

「誰かを見ていれば、誰かに見られている」


瞳が拓を見た。

「私たち、ずっと誰かに見られてたのかな」


誰も答えない。


窓の外を見る。校庭のフェンスの手前。いつもの場所に、揺らぎがある。


それは今、いつもよりはっきりと見えた。


Eが小さく言った。

「あの日、渡り廊下から非常階段を見た時、何か変だと思った。二人と、それを見ている私。それで全部のはずなのに、もう一つ、何かがあった気がする」


「何かって?」


「わからない。でも、確かにそこにあった」


純がポケットから小さなメモを取り出した。先月、机の上に落ちていたものだ。


『あの日の「いいね」は、まだ押されていない』


「これ、誰が書いたんだろう」


誰も知らない。


拓が言った。

「あの日の『いいね』は、まだ押されていない。つまり、まだ“決まっていない”ってことだ」


その時、チャイムが鳴った。


4


誰もすぐには立ち上がらなかった。


沙織がキャンバスをもう一度見る。影だけが残されたそこに、かすかに輪郭が浮かび始めている気がした。


瞳が立ち上がった。

「帰ろう。また来週」


拓は最後にもう一度後ろの席を見た。誰もいない。でも、そこに「いた」という感覚だけが残っている。


純は教室を出る最後の一人だった。机の上を見る。


小さなメモがまた落ちている。


『あの日の「いいね」は、今、押された』


純はそのメモを拾った。そして窓の外を見る。


校庭のフェンスの手前。揺らぎはもう消えていた。


でも、その場所に、確かに誰かが立っていた気がする。


あの日、非常階段で起きたことは、まだ終わっていない。


純はメモをポケットにしまい、教室の灯りを消した。


窓の外では、七月の光が降り注いでいる。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


『彼女の教室』は、本編『彼女の計画』シリーズの登場人物たちの高校時代(同級生設定)を描く全8話の学園ミステリーです。

本編で複雑に絡み合う大人たちの「なぜ」の答えが、この教室の中に隠されています。


また、本編『彼女の計画』シリーズも連載中です。

ご興味のある方は、作者ページよりぜひお越しください。


X(旧Twitter):@KEI67266073

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