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卵焼き

 「佐藤くん、改めて生徒会に入る気はないかい?」


 天童院さんと友達になった後、二階堂会長にそう言われた。

 会長は続ける。


 「ここには天童院さんも居るし、何より僕がいる、それにここにいるみんなは君の本音を知ってるから、君への偏見もない」

 「友達を作るなら、生徒会はおすすめだよ」


 僕は考えた。

 確かに生徒会には天童院さんもいるし、一応二階堂会長もいる。

 それに、今は習い事もしてないし付き人もいない。

 自由に行動できる今、もう家庭環境を言い訳にすることはできない。


 僕は生徒会に入ることにした。



 放課後、僕は天童院さんと下校していた。


 「本当に申し訳ありませんわ」


 まだ彼女は、あの時のことを謝っている。


 「もう大丈夫だよ」


 「でも、高校でも負けたからって、私あんなにやけになって…天童院家の淑女として、一生の恥ですわ」


 相手からよく見られたい、これは誰しも一度は思うことだろう。

 だから、客観的に見て理想の自分を創り出そうとする。

 天童院さんは僕に勝つことで、僕の注目を引こうとした

 僕も似たようなものだ。

 親や付き人には後継ぎとして失望されないように従順に、そして天童院さんにはいつまでも勝負してもらえるように陰ながら努力していた。

 能動か受動かの違いはあるが両方とも、「相手からよく見られたい」という気持ちは変わらないのだ。


 「そういえば、どうして僕と距離を縮めよう…?としていたの?」


 僕はずっと気になっていたことを聞いてみた。

 彼女は、僕に「見てほしかった」から勝負を挑んできていたようだが、それは何故なのか。

 もしかすると彼女も、僕と友達になりたいと思ってくれていたのだろうか。


 「…いや、その」

 「……秘密ですわ」


 「…え?」


 秘密、というのは予想外だった。

 お互いに、結構恥ずかしいことを生徒会室で言い合っていたからだ

 

 「だから、秘密ですわ」

 「いくら友達でも、隠し事の一つや二つくらいありますの」


 そう言って、彼女は走って行ってしまった。

 

 「友達、か…。」

 僕はその言葉を改めて噛み締め、再び帰路に着いた。


 次の日。


 昼休み、それは青春のひとときである。

 教室でお弁当を広げたり、校庭や体育館で遊んだり、はたまた図書室で勉強したり、人によって過ごし方は違うだろう。

 そんな昼休み、僕は屋上にいた。

 うちの学校では自由に出入りできるこの屋上だが、何故か人気がない。


 僕は誰もいない静寂の中、寝転って青い空を見ながら、昼食のおにぎりを食べる。

 セバスチャンがいなくなってから、僕はこうして昼を過ごしている。

 僕はこの時間が好きだった。


 僕は昼食を食べ終わると目を閉じ、耳を澄ませる。

 そうすると、心地よい風の音が聞こえる。

 「佐藤さん、佐藤さん」と。


 「ん?」


 僕が起きると、目の前に天童院さんがいた。

 どうやらさっきのは、自然の音ではなく、彼女の声だったようだ。


 「すみません、起こしてしまって」


 「うん、大丈夫だよ」

 「それで…どうかしたの?」


 「実は、今日お弁当を作ったので、一緒に食べられないかなと思いまして…」


 彼女はそう言って、手元の重箱を開け初めた。


 「すごい量だね」


 彼女の重箱には、一人分とは思えない量のおかずが詰まっていた。


 「少し作りすぎてしまいまして…」

 「良ければ少し、食べてもらえませんか?」


 「そういうことなら、少しもらおうかな」


 「じゃ、じゃあ…あっあーん」


 彼女はそう言って箸で卵焼きを持ち上げ、僕の方へ持っていった。

 

 僕は思った。

 これは小説にあった、いわゆるあーんというやつではないか?

 そう、相手に食べ物を口に入れて食べさせるあのあーんだ。

 まさか、現実で見る日が来ようとは。


 しかし、やって良いのか?

 確かあーんとは、恋人という関係にならなければ出来なかったはず。

 僕と天童院さんは昨日、友達になったばかりである。

 その理屈でいくと、これは色々と早過ぎるのではないか?


 そんなことを考えていると天童院さんの目尻に、段々と涙が溜まり始めた。

 それに、箸を持つ手が少し震えている。


 僕はそれを見て、彼女のあーんを受け入れることにした。


 卵焼きはふわふわでとても美味しい。

 後、なんだかすごく甘かった。

 初めてのあーんは、そんな感じだった。


 「天童院さん、すごい美味しいよ」


 「それは良かったですわ!」

 「頑張って作ってきたかいがありましたの」


 「そうなんだ、どうして食べさせてきたの?」


 「それは、これを読んだからですわ」


 彼女はそう言ってカバンから雑誌を取り出した。

 タイトルには『友達と仲を深める100の方法』と書かれている。

 

 「なるほど、それを参考にしたんだね」


 「はい!友達になったのですから、せっかくならと思いまして」


 彼女の目はとても真っ直ぐだった。


 「ありがとう、嬉しいよ」


 僕は素直な気持ちを伝えた。



 お弁当も食べ終わり、予鈴が鳴る。


 僕は教室に戻ろうとした。

 すると、彼女が僕の袖を引っ張ってきた。


 「……。」

 「…あ、あの、これからも一緒に、お昼ご飯を食べませんか?」


 「うん、天童院さんが良ければいくらでも」


 僕は一人の屋上が好きだ。

 でも今は、初めて出来た友達と一緒にいたい。

 そう思った。


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