初めての友達
定期テスト。
中学校や高校で学期ごとに実施される、授業内容の定着度を確認する試験である。
今日の廊下にはそんな定期テストの結果が貼り出されていた。
「終わったー!!」
周りの同級生は、喜んでいる者や落ち込んでいる者、絶望している者など様々だ。
「一位か」
僕は自分の順位を見て、そうつぶやいた。
僕は勉強が得意だ。
それこそ、テストで常に学年一位を取れるくらいには。
これに関しては、二つ理由がある。
一つ目は親の英才教育だ。
幼い頃から塾に通っていたのもあって、今まで勉強に苦労したことが無かった。
自由が無いのは嫌だが、これに関しては素直に感謝しなければいけないと思っている。
そして二つ目は…。
「佐藤伊織!」
今、僕のことを呼び止めた人物の影響である。
声の主は天童院麗華巨大財閥である天童院家のお嬢様であり、僕の中学の同級生でもある。
「あなた、一位ですわね」
「うん、天童院さんも二位だったね」
僕はいつも通り返事をする。
「そうね私は二位、あなたは一位」
「今回も私の完敗でしたわ」
「え?」
彼女は努力家で、どんなことでも一番を目指して突き進む、といった人物だ。
そのため、中学から彼女より成績が上の僕に、対抗心を燃やしており、テストのたびにこうして絡んできていた。
それは、話しけられることが少ない僕にとっては嬉しいことだった。
だからこそ、僕は彼女に負けないように毎回全力で勉強していた。
しかし、今回はいつもと様子が違う。
いつもの彼女なら悔しがりながらも、次は負けないと宣言してくるはずだ。
「今回で思い知りましたわ、私はあなたに勝てない」
「テストのレベルが上がればもしかしたら、なんて思っていましたがそれでもあなたは満点を取ってきました」
「だから、…もう諦めますわ」
「こ、今回がたまたま良かっただけだよ」
「それに諦めるなんて、君らしく無いじゃないか」
僕は焦ってそんなことを言ってしまった。
僕に話しかけてくれる彼女を引き留めたかったのだ。
「…。」
「そもそも、あなたは私の事、眼中にないじゃない」
「あなたは私との勝負に勝っても喜ぶどころか、表情ひとつ動かさない」
「やっぱり私なんかじゃ、あなたと競うだなんて無理だったんですの」
そう言って彼女は行ってしまった。
僕は、彼女のことが分からなかった。
どうして、あんなに完璧で居ようとするのか。
彼女は才色兼備でスポーツも万能、そして何より僕と違って人気者だ。
正直、僕が勝てるのなんて勉強くらいだろう。
しかし彼女はそれでも僕に勝つため、努力を惜しまない。
いったい何が彼女をそこまでつき動かすのか、僕には分からなかった。
でも、いま少し分かった気がする。
僕は、僕に関わろうとしてくれる彼女のことをとても好ましく思っている。
だからこそ、誤解があるのなら解かなければいけない。
そう思い、彼女を追いかけるも見失ってしまった。
「小説の主人公なら、あそこで追いつくんだろうな」
途方に暮れていた僕は、そんなことを呟いた。
「伊織、テスト一番だったね」
諦めて教室に戻ると、夢乃にそう言われた。
「うん、すごい嬉しいよ」
僕は、そう言った。
「?」
「なんか、素直だね」
「?」
どういうことだろう、夢乃の言っている意味が分からない。
「まあいいや」
「それよりも伊織、今日の放課後一緒に帰ろう」
僕は一瞬、フリーズした。
どういうことだろう、意味が分からない。
同級生と一緒に下校。
それは、小説にもあった青春イベントの一つだ。
小説ではお喋りしたり、寄り道したり、少し遠回りしていつもと違う景色を眺めたりしていた。
青春をしたい僕にとって、その誘いは願ってもないものだった。
本来なら断らない。
いや、断れるはずがない。
しかし、このまま誘いに乗ってしまってもいいのか?
あんな別れ方をしてしまった天童院さんを無視しても、いいのだろうか。
「ごめん、今日はちょっと予定があるんだ」
「そうなんだ…」
「本当にごめん、今度一緒に帰ろう!」
「…うん、じゃあまた今度、約束」
僕は彼女の誘いを断った。
もちろん、惜しい気持ちがないわけじゃない。
仲直りするなら、明日でも良いという気持ちが少し浮かんだのも事実だ。
でも、僕はもう人からも、自分からも逃げたくなかったのだ。
放課後、僕は生徒会室にいた。
「佐藤くん、今日は来てくれてありがとう!」
そう言ったのは生徒会長の二階堂慎二、以前から僕のことをここに呼んでいた人物だ。
「それで、ここに来てくれたということは生徒会に入る気になったということかい?」
生徒会。
学校生活をより良くするために生徒が役員となり運営する組織である。
そんな生徒会だが、この学校では現生徒会役員からの推薦で、新しい生徒会役員が決められる。
そこで二階堂会長は僕を推薦したいと、前から僕をここに呼んでいた。
「いいえ、違います」
僕はそう言って、隣にいる天童院さんに視線を向けた。
彼女は入学してすぐに生徒会に所属していた。
だからここに来れば、彼女がいると思ったのだ。
「……。」
「なるほどね」
「僕たちは少し退室しておくよ」
二階堂会長は察してくれたのか、他の役員を連れて生徒会室から出ていった。
突然押しかけたあげく、気を遣ってもらい申し訳ないが、とにかく天童院さんと二人きりになることができた。
僕は口を開いた。
「色々考えたけど、一つだけ言わせて」
「君のこと、眼中にないなんて、そんなことは絶対にないよ」
「僕はなんでもできる君に負けないように、必死に勉強しているだけだ。」
これは、僕の本心だった。
僕は彼女に負けないように、いつまでも勝負してもらうために勉強をしていたから。
「…なんでもできるのは、あなたじゃないですか」
「成績は私より上、運動もできるし、音楽や習字などの芸術系の科目も完璧」
「学校ではいつも周りに流されず、孤高の天才なんて呼ぶ人もいる」
「それと比べれば私なんて…」
「それは違う!」
「…僕はただコミュ障なだけだ」
「本当は友達が欲しいし、青春だってしてみたい!」
「だから友達の多い君のことが羨ましいし、なんなら君と友達になりたいとも思ってる」
「だから、僕は孤高の天才なんかじゃない!」
柄にもなく、僕は素直に言ってしまった。
でも後悔はしていない。
あのままなにも言えずに終わる方が、嫌だったから。
天童院さんは…固まっている。
そこまで衝撃的だったのか。
僕はほっと一息つくと、なにやら違和感を感じた。
生徒会室の扉が、少し空いている。
僕が急いで扉を開けると、生徒会のメンバー全員が聞き耳をたてていた。
「もしかして、聞いてました?」
「聞いているはずないじゃないか友達が欲しい佐藤く…っ」
僕は二階堂会長をボコボコにした。
そんなことをしていると、天童院さんが話し始めた。
「私、あなたのこと誤解していましたわ」
「なんでもできて、なんでも持ってて、完璧な人」
「だからあなたに見てもらうには、あなたより完璧にならなくちゃいけないと思っていました」
「でも、そんなことをしなくてもあなたは私のことを見てくれていた」
「それがとても嬉しいですわ」
「あんなこと言ってごめんなさい!」
「私で良ければ友達になってくれますか?」
天童院さんはそう言った。
どうやら、僕の気持ちはちゃんと伝わったようだ。
「はい」
「こちらこそ…よろしくお願いします」
これは、僕に初めて友達ができた瞬間だった。




