最終章 ―2週間後、恋人になった私たち-
付き合い始めてから、気づけばもう二週間。
幼馴染だった頃と同じ道を歩いているのに、胸のあたりだけがずっとふわふわしている。
今日は湊が家に来る日。
玄関のチャイムが鳴く前から、どきどきが止まらなかった。
「紬、来たよ」
扉を開けると、湊はいつもの落ち着いた笑顔……だけど、そのまま当然のように私の頭に手をのせてきた。
「えへ、今日も可愛い」
「ちょ、湊!? 急に撫でないでよ……!」
これ。
最近の湊は、ほんとに甘え方がエグい。
前は私がからかったら、苦笑いして流すタイプだったのに。
恋人になってからの湊は、まるでスイッチが入ったみたいに素直で、距離感が近い。
「紬が恋人になってくれたおかげで、我慢しなくていいんだなって思ったらさ……触れたくなる」
「そ、そんな理由……」
「理由になるよ。俺、紬のこと好きだし」
心臓が落ちるかと思った。
言葉だけじゃなくて、声まで甘い。
ソファに並んで座ったら、湊がじわ〜っと近づいてくる。
この感じ、前は絶対にしてこなかったのに。
「紬、こっち向いて」
「う、向いてるよ……?」
そんな会話のあと、肩に頭を乗せてきた。
……乗せたまま、動かない。
「湊?」
「この体勢、落ち着く。紬ってあったかいし」
犬みたいに頬をすり寄せてくる彼に、私は思わず笑った。
犬系なの、わたしのはずなのに。
湊のほうが懐いてくるみたいで、なんだか嬉しい。
「ねぇ、紬」
「うん?」
「幼馴染のままじゃ足りなかった理由、わかったよ」
囁くような声。
胸の奥がきゅっと締まる。
「隣にいたいって思うのは、ただの習慣じゃなかった。
紬じゃなきゃダメだって、ずっと心のどこかで思ってたんだと思う」
「……湊」
「だからこれからもさ。“犬系女子”の紬だけじゃなくて、俺にも甘えてほしい。
そして俺も、紬にいっぱい甘えるから」
私はたまらず笑ってしまった。
「もう十分甘えてるよ、湊。
……でも、うん、いいよ。好きだから」
そう言うと、湊は満足そうに目を細めた。
「好き。紬、大好き」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥があたたかく満たされる。
――幼馴染だから、じゃない。
――紬だから選んだ。
その言葉を思い出して、私はそっと湊の手を握り返した。
「わたしも。
恋人の湊が、いちばん好き」
私たちの距離は、幼馴染の頃よりずっと近くて。
恋人になった今のほうが、ずっと自然でしあわせだった。
そして私は確信する。
――この距離こそが、二人の“ちょうどいい”なんだ。
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