第6話 初配信
憂生イツカの初配信開始まで残り10分。配信のために用意した部屋は、明るい照明に照らされていた。俺は、高鳴る鼓動を理性で押さえつけ、最終チェックを行う。目の前には、憂生イツカの姿が鮮明に映し出されている。
配信直前、スマートフォンに九十九からメッセージが届く。
九十九「見せつけてやりな。…頑張ってね」
俺はメッセージを一読する。九十九のサポートに対する信頼を強く感じつつ小さく頷く。
スマートフォンにまた別の通知が届く。
シトラ「こんシトラー!今日も~みんなと~お話したいな!」
柑咲シトラの配信が始まったようだ。
それを確認していよいよ俺の初配信も始まった。
イツカ「皆さんはじめまして。憂生イツカと申します。本日は予告通り鬼畜縛り実況をやっていきたいと思います。早速ですが縛り内容を説明していきます。」
俺は縛りの内容を説明する。同接は1000人を超え予想以上の盛り上がりを見せており、コメントも様々に賑わっていた。
[ キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!! ]
[ 丁寧な挨拶ww ]
[ このゲーム昔やったことある! ]
[ え、笑った顔かわいいwww ]
[ジャンプできないってやばwww]
[その表情すき]
その様子に思わず息をのんでしまった。無理もないだろういきなり1000人を超える人に見られているのだ。まるで定型文でも読んでいるかのように視聴者に説明していく。
[つくもたんとはどういう関係?]
こういう質問は来ると思っていた。おそらくリアルでの九十九との関係性を聞かれているのだと思うが、生憎俺はバーチャルな存在だ。それを踏まえると九十九は俺の生みの親。つまりママということになる。
いや待て、冷静にママっておかしいだろ。現実的に考えるとデザインしてくれた人がママ?九十九がママ?ちょっと言ってることきちいわ。
しかし自分がバーチャルな存在であると考えるなら確かに生みの親なのだ。
どうして俺がこんなにママを連呼しているかというとVtuber界では、デザインをしたイラストレーターのことをママと呼ぶ風習があるのだ。
なるほど、先人たちもこういう葛藤を経てイラストレーターをママと呼ぶようになり、ママという存在が大きくなった訳か。そう考えると泣けてくる。
仕方ないので九十九がママということにして話を進めることにした。
「つくもたんは俺をバーチャル世界に生んでくれた人です。すごく感謝してます」
この話はあまり深堀りしたくない、とりあえず俺は最初のステージに突入した。
「どういう縛りかは見てもらったほうが早いのでプレイしていきます」
ステージには敵を始めとしてコインやアイテムが散りばめられている。この縛りではコインやアイテムも取得してはいけない。そのため落ちているアイテムも実質敵となり、配置次第では危険な弾幕と化すのだ。
「落ちているコインも取得できないので無視していきます。敵も無視」
俺は解説しながらスルスルとステージを進んでいく。この辺は序盤ということもありロケハンでも問題はなさそうだった。
「ジャンプが使えないのでこういう段差は基本的にこう、やって登ります」
「おっ、あっぶねコイン取りそうになったわ」
丁度いい段差があり、自キャラのアクションを説明しつつ穴を越えていく、着地先にコインがあったが何とか避けてセーフだった。
[解説助かる]
[あっぶなw]
[ 今の素出てた?ww]
そして最初のボスにたどり着いた。このボスは敵を召喚しながら戦ってくるのだがこの縛りでは敵を倒すことができない。そのため戦闘後半になるにつれ敵の数が増えて難易度が上がってしまう。攻撃に当たっても即死ではないのだが回復ができないのでどんどんじり貧になっていくのだ。だから
「このボスは短期決戦、敵が増える前に仕留める」
しかし、予定通りには進まないのが縛りプレイ。攻撃にまごついてしまい序盤から敵の数が増えてしまった。
「やべえ!足場が無い!」
一体でも間違えて倒してしまうと縛り違反となってやり直しになる。しかしすでにおびただしい数の雑魚敵が画面を覆いつくしていた。
[やばい]
[頑張って!]
[見てるだけでも難しさが伝わってくる]
あたふたしながらもコントローラーを動かし敵の隙間を縫う、しかし避けきれず敵にぶつかってしまう
「なんとかなってくれええええ」
無我夢中でコントローラーを動かしダメージを受けた後の無敵時間でボスの前に辿り着き攻撃をヒットさせる
ボスが倒れ、ステージクリアの文字が流れる
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
俺は思わず叫んでしまった
[やったああああああああああ]
[おめーーー]
[最後どうなるかと思ったwww]
[8888888888888]
歓喜のコメントが滝のように流れる
よかった。パニックになりながらも何とかごり押しでクリアできた。本当はこんなところで苦戦するはずではなかったんだが結果オーライだから良しとしよう。このゲームボス戦も難しいのだがさほど問題ではないのだ。
問題は次の「ヒミツ」ステージだ。
コースは全部で8コースありそれぞれ8体のボスを倒すとクリアなのだが8コースそれぞれに隠しステージとしてそれぞれ「ヒミツ」ステージというものがある。
このステージはいわゆるアスレチックステージとなっており多彩なアクションが要求されるステージなのだ。ジャンプが禁止されているこの縛りにおいてそれは難易度の急上昇を意味する。
そしてついに一面のヒミツに到達した。
回転する丸太に動く足場、滑る床とどれをとってもプレイヤーを殺しに来ている。
ダイブで足場に乗ろうとしても
「ああっ」
制御が効かず足場を飛び越え奈落に落ちる。
時間を使って慎重にいっても
「うおっ」
丸太に振り落とされてしまう。
無情にも画面にはGAMEOVERの文字が映し出された。
分かっていた。この地獄のアスレチックの難しさは。分かっていたことであるが、活路を求めてひたすらにコンティニューを繰り返した。




