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第4話 自己紹介

デザインが完成するまでの間、俺は配信でプレイするゲームを考えていた。ゲーム配信と言えば昔はグレーな行為で権利元の了承などなく勝手に配信していたが、今はゲーム会社が配信者に配慮して利用規約まで出してくれている。

すごい時代になったものだ。俺は配信可能なゲームの中からVTuber業界の流行を分析し、最も再生数を稼げるであろうゲームをリストアップする。


しかし、ふと、あるゲームのタイトルに手が止まる。それは、ヒゲのおじさんが飛び回る箱庭系3Dアクションゲームのシリーズだった。過去作は俺もプレイしたことがあり、今もなおレトロゲームとしての人気は高い。

そして脳裏に、まだ新人VTuberだった頃の柑咲シトラの姿が蘇った。俺が最初にシトラの配信を見た時もそのゲームをプレイしていた。配信機材も整っておらず、トークもたどたどしい。それでも、画面の向こうで一生懸命にゲームをプレイし、数少ない視聴者からのコメントに、心から嬉しそうな声を上げていた。

当時、俺はシトラの配信を見て、無意識のうちにチャンネル登録ボタンを押していた。それは、俺がVTuberに夢を見ていた、純粋な熱狂を秘めていた頃の記憶だった。


「…無意味だ」


記憶を振り払うように頭を振る。当時の感情は、俺がVtuberに絶望し、アンチとなった今では、ただの過去の亡霊に過ぎない。


「俺はあいつを超えなくてはならない。まずはあいつの原点ともいえるこのゲームであいつに勝つ。」


そこで、俺は一つのアイデアを思いつく。


「…これなら、できる」


「このゲームは普通にプレイする分には簡単すぎる。…だから、鬼畜縛りだ」


俺は昔見ていた実況プレイを思い出していた。縛りを付けてゲームの難易度を上げることで見せ場を作る方法である。そして今回はそれを参考にして縛りを考える。


一つ目は、敵を倒さない縛り。進行上どうしても倒さなければならない敵以外は、一切倒さない。


二つ目は、アイテム縛り。パワーアップするアイテムや、落ちているコインを取得することを禁止する。


三つ目は体力回復縛り。イベントなどで回復してしまう場合などどうしようもない場合を除き回復を禁止する。


そして、最後の四つ目。それは、ジャンプ縛りだ。

このゲームの象徴とも言えるジャンプアクションを封印する。代わりに使えるのは、段差を超えることはできるが、制御が効きづらく扱いの難しい「ダイブ」というアクションのみ。やむを得ない場合を除きジャンプが使えない。おそらくこの縛りが一番難易度を上げる要素になるだろう。


縛り内容は昔俺が見ていたゲーム実況者の縛りをリスペクトしつつアレンジを加えた物でありクリア不可能ではないと思う。とはいえ、昔プレイしていただけの自分の腕前ではクリアは難しいかもしれない。それに、進行上必ず縛りを解かなくてはいけない場面は洗い出しておく必要がある。


というわけでこれからの期間とりあえず空いた時間は普通に周回プレイで操作感を取り戻す。そしてあまり乗り気ではないが他のvtuberの配信で勉強をすることにした。



数日後___


九十九からデザインとモデルが完成したとの連絡が届いた


九十九からはメッセージと共にデザイン画とLive2Dモデルのデータが共有されていた。


九十九「遅くなってごめん。取り合えず動くようにはしたから確認して」


そのアバター「憂生イツカ」は、冷ややかで気だるげな雰囲気を醸し出していた。つくもたんの絵柄の面影を残しつつ確かに俺というキャラを表しており、まさに注文通りといった出来栄えだ。


それを見て俺は改めて戦慄を覚える。今目の前にあるものは、デザイン画だけでなく、実際にVTuberとして動かすための2Dモデル、Live2Dモデリングまで九十九が一人で手掛けたものであることに息をのまずにはいられなかった。九十九の本気度が伺える。俺は改めて気合を入れなおし、準備していた機材の前で動作テストを開始する。


カメラの前で俺が視線を動かすと、モニターの中の憂生イツカも滑らかに視線を追う。瞬き一つ、口の動き一つが高橋の動きに忠実に連動し、違和感がない。


俺は、その完成度の高さに確かな手応えを感じた。これは単なる絵ではなく、感情を伝えるためのツールとして、完璧な出来栄えだった。九十九は、自分のために最高の武器を用意してくれた。


モデルの出来栄えを伝えるため、メッセージを送る


高橋「モデルの動作、確認した。完璧だ。本当に、ありがとう」


するとすぐに返事が返ってきた


九十九「よかった!高橋の動きに合わせて、すごく繊細に動くように頑張ったんだ。ねえ、デザインはどう?気に入ってくれた?」


高橋「ああ。演じやすいように、俺の見た目に寄せてくれたのも助かる。九十九に任せてよかった」


九十九「私はデザインを作っただけだから、これからイツカ君に魂を吹き込むのは他でもない高橋の仕事だよ。」


期待の籠った言葉に俺はそのまま返す


高橋「任せとけ」


そこからの行動は予定通り。まず俺はSNSでのアカウントを開設した。アカウント名はもちろん「憂生イツカ」だ。


vtuberは基本的にまずはSNSのアカウントを作り、自分を知ってもらう必要がある。そのためによく用いられるのが自己紹介動画だ。


俺は初配信に先立ち、二本の動画をアップロードした。


一つ目は、自己紹介動画だった。しかし、設定など何も考えていない俺に話すことなど大してなかった。とりあえず活動方針だけでも明確にしておくためその動画を投稿したのだ。


憂生イツカ「はじめまして。ゲームが大好きなVtuber憂生イツカです。。基本的にゲームプレイを配信します。目標について、誰とは言わないけど、俺には絶対に倒したい奴が居ます。そいつを倒すために甘えは一切許さねえ。覚悟しとけ!」


自己紹介だけのつもりだったのだが、あいつに対する宣戦布告になってしまった。それはそれで俺のキャラになると思ったのでそのままにしておいた。


そして二つ目に、鬼畜縛りの予告動画をアップロードした。ゲーム画面を背景に、縛り内容を説明するもので、縛りの過酷さ、期待感を煽るような構成にした。


九十九には予めこの動画を宣伝してもらうよう言ってあった

彼女は、自身のフォロワー数十万を抱えるアカウントで、憂生イツカのデビューを大々的に告知した。



つくもたん@tukumotantantan


私がデザインしたVtuberがこの度デビューすることになりました!

みんな見てあげてね!



九十九の影響力は凄まじく、動画は瞬く間に拡散された。イツカのアカウントフォロワーは瞬く間に千人を超え、動画の閲覧数も急上昇した。


反響は概ね予想通りだが、この熱を逃したくはない、鉄は熱いうちに打てだ。


そして俺の初配信は”柑咲シトラ”、あいつの配信している時間に被せる。宣戦布告通り真っ向勝負だ。



得体のしれない高揚感が湧き上がってくる。それは今まで自分が感じたことのない複雑な感情だった。激しく時に暖かいこの感情にどう向き合うべきだったのだろうか。わからないまま俺はその感情の上にVtuberという仮面をつけたのだった。


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