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第32話

 [うえいくあっぷいいじゃん。イツカ君っぽい《つくもたん》]


「なるほど。憂生(うえいく)とwakeを掛けてるのか、ただの脳筋じゃ無かったんだな」


 [心外ね《審ミナモ》]


 [ごめんね、イツカ君はいつもこんな感じだから《つくもたん》]

 

 [つくもたん先生、お初にお目にかかるわ、審ミナモです《審ミナモ》]


 [そんな畏まらなくていいよ!みなーもはイツカ君をいつもありがとう《つくもたん》]

 

 [そうだ。あやつは気難しいところがあってな《魔王ニブルヘイム》]

 

 [ああ見えて根もちゃんと腐ってるぞ]


「喧しいわ」


 [コバンザメとしては一流だぞ!]

 [やっぱりママで草]


モニターの中で踊るコメントは、もはや俺の手を離れ、独自の生態系を築き始めていた。

なんだこのダルいノリは、なんか知らんが凄くダルい

人間様の機嫌次第で幾らでも間引くことができるんだぞってことで


「君消す。君も消す。それ以上馴れ合うと全員消す。権利は俺にあるんだからな?」


[こっわ]

[既に最悪な奴の手に渡っちまってる]

[権力を持たせてはいけない男No.1]


正直、俺はこの流れをあまりよくないと感じていた。この流れは傍から見ると内輪ノリ、俺から見ると内輪ノリですらない外部ノリだ。だが別にそれ自体は俺にとって悪いことではない。

審ミナモの力は強大で、俺がそれに適応し、力を享受しさえすればいいからだ。

しかしこのビオトープの行きつく先では俺自身が淘汰されてしまうのではないかという危惧があった。


あまりよくわからないが、適応とは進化の過程で自然と出来ていくものではないだろうか。だからそんなことが出来るならとっくに出来ているのではないだろうかとも思う。


俺のやろうとしていることは適応ではなくただの擬態。それではいつか淘汰されてしまう。そんな気がするのだ。


そんなことを言っていても仕方がない。

適応せずとも俺にコンテンツ力があれば良いのだ。しかし、やはりそんなものはない。


当初からの課題ではあるがそれが一番大きく難解な課題である。一応の解決策として行った演出もその場しのぎの一発ネタに過ぎなかった。


今俺が出来ることとして思いつくのはゲーム配信に立ち返ることだ。ゲームというコンテンツの力を使わせてもらう事。流行りという濁流に身を投じ、立ち続ける。その可能性を俺は模索したくなっていたのだ。


この思考に端を発するように俺は口を開く


「お前ら、wake upだ。今日やるのはヒドゥンアタック。聞いたことあるだろ?」


[遂にハイエナの本領発揮だな]

[擦った腹いせにいつもやってるぞ!]


このゲームは一人称視点のシューティング。所謂FPSと呼ばれるジャンルだ。三人一組で部隊となり、プレイヤーたちは広大なフィールドへと放り込まれる。徐々に縮小していくフィールドで最後まで生き残った部隊が勝利するバトルロワイヤル形式のゲームとなっている。

個性豊かな能力を持つキャラ達、戦略やチームワークによって楽しみ方も無限大。というのが売り文句だ。

そしてこのゲームは現在世界中で大ヒット。Vtuber達の間でも通過儀礼と言ってもいいくらいの爆発的流行を見せている。


ちなみに俺はバトルロワイヤル形式のFPSはやったことが無い。FPS自体は昔少し触ったことがあるもののそれ以来だ。


射撃訓練所で一通り試し打ちをしてから俺はバトルのマッチングを待つ。

俺以外の二人のチームメイトは実力の近い者からランダムに選ばれる。つまり一期一会というわけだ。


ジャキーンと豪勢な音が鳴りマッチが確定した。俺のステータスを表すバナーは初期バナー。

味方のバナーは…見た感じ光ってて強そうだ。


「なあ、この味方は強えのか?」


[キル数多いから多分結構強いぞ]

[プレイ時間めっちゃやってそう]


それは頼もしい。

俺達は母艦に乗り込み、上空からこれから戦場になるであろうフィールドを見下ろす。


眼下に広がる絶景を、情緒的に楽しんでいる暇など一瞬もなかった。 ハッチが開くと同時に、俺たちの体は空中へと放り出される。高層ビルが連なる摩天楼を目掛けて、複数の部隊が真っ直ぐに、鋭い線を描いて急降下していく。

地上に降り立った俺は直ぐに、ビルの裏口からお邪魔して武器を探す。


[あなた地獄に堕ちるわよ]

ゲーム内から危険を知らせる声が聞こえたその瞬間、銃声が鳴り響き、チームメイト二人の名前がが赤く染まった。


「F*ckin,b**ch!」

VCからは苛立ちを隠そうともしない英語が聞こえ、床に倒れ込んだ二人は突っ伏したまま倒されるのを待っている。

明らかに絶望的な状況だということは分かった。


「おい、何が起こってんだ」

[初動で死んだww]

[あるあるだな]


どうやら初動での武器の奪い合いに負けたらしい。


待て待て、まだ俺はチュートリアルすら終わってないんだぞ。

実に物足りない。俺の初プレイはこんな形で終わっていいのか、いやそんなはずはない。


俺は楽しみたいんだ。


活路を模索するべく、俺は視聴者に問いかける


「お前ら、こっからどうすれば捲れるんだ」


[とりあえずバレないように隠れとけ]

[味方は復活すればok]


やっぱりあった、逆転要素。こういう対戦型のゲームでは当たり前のように搭載されている要素である


味方は復活できる…つまりこの味方二人に諦められたら勝てないってことだよな。


ならやることは簡単だ。俺はVCを付ける。英語なんて学生の時以来だが仕方ない。とにかく勢いだ。


「ウェイ!ウェイ!ウェイ!ネバギバ!ネバギバ!アイムジャパニーズ!アイムリボーン!」

「Are you kidding me?」


相手が何を喋っているのか分からない。…とりあえずなんか喋っとけ。


「鮎切り身?イエス!イエス!鮎切り身!鮎刺身!アイライク sushi!」

「what’s!?」

「Sushi! Hahhhha!! japanese spirits」


どうやら好感触のようだ。俺は畳みかける。


「イエス!We are samurai! I can do it. You can do it!]

「Oh,my! he is crazy. 」

「Okay, show me your Bushido」


[コイツバカだwwww]

[海外ニキと謎に共鳴してて草]

[足音来ても隠れとけよ!]

[中卒やんwww]

[勢いだけで何とかしようとしてる]


何とか味方の士気を取り戻した俺はその後、視聴者の指示を仰ぎながら味方を復活させることに成功した。

二人を乗せた母艦が上空へとやってくる。


「You are ninja!」

「Thank you ! I get on the mothership. Ready to drop!」

「サンキュー!揚げうどん!馬刺し!ベリーデリシャス!」


絶対そんなことは言っていないがそう聞こえるのだから仕方ない。多分プラスかマイナスかで言えば同じ種類の感情だろう。


「ah–ha- Let’s go!」

「しゃあいくぜ!」

「Let’s GOOOOOOOOOOOOO!!!!」


そうして再び戦場に降り立った俺達チームは荒野を進んでいく。


すると一人が小声でささやく


「Watch out... They're coming.」


「分かんねえ。なんて言ってるんだ」


[敵がいるらしいぞ!]

[気を付けろと言っているわ《審ミナモ》]


するともう一人が声高に叫ぶ。


「Follow me! Follow me! 」


どうやら付いてこいと言っている。

風で揺れる草の隙間から、二人の背中が覗いている。


「Ready...?」


俺達に語り掛けるように、一人が合図を出す。

それが何の合図なのかはすぐにわかった。


「いくぞおおおおおおおおおおおお」


咆哮とともに、世界が加速する。 二人から放たれる銃弾が、草の隙間を切り裂き、潜んでいた敵のシールドをいとも簡単に粉砕していく。


[うおおおおおお!] [海外ニキフィジカルやべえ!][そのまま突っ込め!] [右の敵、ミリ! 撃て撃て!]


この二人、なんかめちゃくちゃ強かったのである。

俺は遮蔽物から躍り出ると、レティクルを敵の影に重ね、トリガーを全力で引き絞る。

味方が制圧した盤面に、俺の弾丸は吸い込まれる。


[ダウン取ったあああああ!?] [まじかよwww] [ナイスキル! サムライ!]


そしてそれは最後の一人であった。


[うおおおおチャンピオン!][やべえええええええええ]


「Great job. Japanese samurai.]

「See you next time.」

「おう、またな!」


俺達は健闘を称え合い、最高の仲間たちに別れを告げたのだった。


その後も俺の脳は興奮を抑えられなかった。やはり流行のゲームだけはある。人の快楽を詰め込んだバリューセットだ。

視聴者たちも興奮冷めやらぬ様子で、この人物も例外ではない。


[憂生イツカ、凄かったわ。良ければ今度私とコラボしてくれないかしら《審ミナモ》]


突然の彼女の提案だが俺の脳はクリアに回転していた。


誘われ待ちでこのゲームを始めた所はあるが、やはり状況が状況だ。審ミナモと何かと因縁がある今の状況において、コラボを承諾するのは得策とは思えない。


「あーすまん。今のところコラボの予定は無いんだ。気が向いたらまたいつかやろうぜ」


[そう。ならあなたの縛りプレイの企画を使わせてもらってもいいかしら]


今度は随分と違う方向の提案が飛んできた。縛りに著作権などは無いのでこれは断る理由がない。てか俺もパク…リスペクトだしな


「縛りにあーだこーだいう権利なんてねえよ。全然構わねーぜ」


[そう]


彼女の返事を待たず俺は次のマッチへの参加を押す。

それほどまでに、このゲームの中毒性に俺は引き込まれていたのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ヒドゥンにド嵌まりした俺はポシェモンリレー、ヒドゥンの二つの軸で日々配信をしていた。


そんなある日、とある連絡が届く


暁野ひなた@akenohinatadesu

突然ごめんね。今度ヒドゥンの大会があって、キミさえ良ければ代役で一緒に出てくれないかな?


それは暁野ひなたからの誘いだった。

撒き餌の効果は俺が思った以上に絶大だったのである。



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