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第31話

「換気ヨシ!ゴミ捨てヨシ!」


窓を開けて俺は大きく息をする。気持ちのいい朝だ。

おっと、何やらダイニングから焦げた臭いが漂ってくる。


「やべ、オーブンにパン入れて忘れてたぜ」


急いでパンを取り出し、真っ黒に焦げたパンの表面を包丁で削ぎ落す。苦さの残ったパンを頬張りながら俺は考えていた。


イツカ杯を終えて数日間、反響は賛否両論であった。意趣返しのようなエキシビジョン。純粋な感動を求めていた視聴者からすれば俺の行動はノイズだったのだろう。

気に入らない気持ちは分かるが、それで割と炎上してしまっていた。


「…だが、別に間違っては無かったよな」


削り落した炭の粉を眺めながら俺は呟く。

あの瞬間、あの場所では大勢が魂を震わせていた。そんな空間だったという実感はある。しかし、炎上のせいかどうなのか分からないが同接は思ったより芳しくない。

そもそもの目的である新規獲得はあまり進展しなかったのだ。


目的のために大会に出続ける訳にもいかないので、俺は本来の活動の軸であるゲーム実況、さらに例のごとく縛りプレイを新たに開始していた。


その名も「ポシェモンリレー方式でplay!」である。


不思議な不思議な生き物であるポシェモンをゲットし育てて旅をするゲームなのだが、その王道の楽しさに少しスパイスを加えたのだ。


縛り内容として、旅の関門であるジムリーダーを倒すごとに仲間を全て預けてバトンタッチする。次のジムリーダーへはその道中で仲間にした急造の戦力で挑まなければならない。戦闘は最小限で経験値稼ぎは禁止、レベルでのごり押しは出来ない。回復ポイントも一度まで。

この縛りでプレイをしていた。


一つ目のジムは砂を掛ける技を駆使したジャリボーイ戦法で突破した。

今日は二つ目のジムを攻略する予定だ。


配信の準備を始めていたその折、九十九から写真付きのメッセージが届く。


一体何だろうか。

添付されていたのは格闘ゲームステファイのパッケージ写真。


[大会面白かったからあたしも買ってみた]


どうやら九十九は大会に感化されてそのままゲームを購入したらしい。


これを見て、胸の奥が熱くなった自分に驚いた。俺の大会を見てゲームを買ってくれることがこれほど嬉しいことだとは。

その気持ちをそのまま文字に乗せる


[それは良かったな。そこまでしてくれたらなんかこっちが嬉しくなるぜ]


[まじ?思った以上の反応で嬉しいかも][でもそれだけ?]


その返事に俺は頭を悩ませる


いやそれだけも何もそれ以上は無いだろ。てか思った以上の反応なんじゃないのかよ。それだけ?はおかしいだろ。

一見意味が分からない。


俺は今までの経験を総動員して思考を巡らせてみる。すると一つの結論にたどり着いた。


これは所謂「誘われ待ち」って奴か?


Vtuberを見ているとよくあるゲームをやってるアピールをして企画なんかに参加する土壌を作っておく奴だ。余りにも流行に飛びつきすぎてそういうアピールにしか見えないんだよな。


いやでも九十九はVtuberじゃないし、そもそも俺にそれをアピールして何を期待してるって話でもある。

ポジティブとネガティブを反復横跳びしていたが、とりあえず意図を聞いてみることにした。


[それだけってどういうことだ?]

[初心者だから教えて欲しいなって]。


なるほどそういうことか、確かに格闘ゲームは初心者には取っつき辛い所はある。


それに九十九からこんなことを言ってくるのはかなり珍しい。基本九十九が俺に何か要求することはなく、俺が礼をしようとするといつも突っぱねられてしまうのだ。

ならこれは少しでも借りを返すチャンスだ。存分に面白さを伝えてやらねーとな。


俺は熱を込めてスマホ画面をタップする。


[まずは見た目でも何でも好みのキャラクターを決めるといいぞ。そのキャラの背景にあるストーリーなんかを参考にしてもいいな。それでとにかくキャラを動かしてみる。コマンドとか最初は難しいと思うがとりあえずある程度自分の思い通りに動かせるようになるのが楽しいんだ。それで動かせるようになったら対戦だな。まずは相手の動きは考えずに自分のやりたいようにやればいい。最初は負けると思うがそれで勝てた時の成功体験は最高だな。それで壁にぶち当たってきたと思ったら相手の動きを考えて技を打っていくと良い。相手の読みと嚙み合った時の気持ちよさはヤバい。余裕があったらフレームとかも覚えて…]


[長すぎ]


九十九からはそんな一言だけが飛んできた。余すことなく説明しようとしたのだが言われてみると確かに長い。


[すまん熱が入りすぎた]

[にしてもじゃない?笑]

[反省してる]

[別に良いんだけど笑]

[そういえば高橋はこれから配信か]

[そうだな]

[じゃああとでサムネのイラスト送っとくね]

[いつもすまん]


また一つ借りを作ってしまった。


しかし、誘われ待ち…、誘われ待ちか。


俺はこの行為を受動的で無意味な行為だと考えていた。しかし先ほどのやり取りでは俺の方が受動的だったように感じる。

もしかすると誘われ待ちとは相手の選択肢を引き出す能動的かつ合理的な行為なのかもしれない。

それにそもそも流行のゲームをプレイするだけで誘われ待ちと捉えるのは少々斜に構え過ぎなようにも感じる。

九十九がやっていたからという色眼鏡もあるかもしれないが、


ともあれ評価を改める必要があるかもな…物は試しだ。


好奇心が先行した結果、癪ではあるが俺も誘われ待ち、もといサビキ釣り、、いや余計言い方を悪くしてどうすんだ。

とりあえず縛りプレイと並行して、流行のゲームを俺もやってみる事にした。


「よっすお前ら。今日は嗜好を変えて新しいゲームを普通にやってくぞ」


[よお]

[新しいゲームとは]

[みなもんじゅー!]

[よっす]

[みなもんじゅー]


現在俺の配信ではとある勢力が幅を利かせていた。俺はそれに対して釘を刺す。


「おい、みなもんじゅーを流行らそうとするのやめろ。その挨拶は流行らないし流行らせない」


するといつものように悪ノリが始まる。


[みなもんじゅー!]

[みなもんじゅー]

[(*´ω`*)みなもんじゅー]


「その挨拶だけはやめろ!個人的に気に入らねえしそれ一色に染まるのは気持ち悪い」


[文句しか言わねえじゃん]

[何ならいいんだよ]


「特に何がいいとかは無いけどさ…」


[じゃあイツカ君の挨拶を決めたら?《つくもたん》]

[つくもたん!]

[それいいじゃん]

[こんイツカ~とかか?]


俺がぐちぐち言っていると配信に九十九が現れ、なぜか挨拶を決める流れになった。挨拶を決めるよりも先に秩序を定めた方が良いのではないだろうか。そう思ったりもしたが俺も流れに乗る事にした。


「他のVtuberはどんな挨拶なんだ?」


[ひなたそならこんひなた~とか]

[お前が倒した万場ねこはこんばんにゃんにゃんだぞ!]


「こんばんにゃんにゃんって、すげーキャラ濃いな。にゃん一回じゃ駄目だったのか」


[お前こんばんにゃんよりはこんばんにゃんにゃんだろ]

[こんばんにゃんにゃんじゃないと駄目なんだよ]


「なんかそう言われるとそんな気もしてきたな」

「じゃあ俺もこんばんにゃんにゃんでいいや。こんばんにゃんにゃん。」


[きも]

[途中で面倒くさくなるなよ]

[きもすぎ]

[パクリは駄目だろ]


「いちいちうるせーな。濃いのが気に入ったんだよ」


俺が悪態をついていると、挨拶議論にとある人物が参加してきた。


[うえいくあっぷなんてどうかしら《審ミナモ》]

[みなーも!?]

[本物!?]


超大手Vtuberである審ミナモが突然降臨したのである。視聴者達も驚いている様子。

収まってきているとはいえ彼女とは大会の件で炎上している最中だ。かなりややこしいことになりそうなので自重していただきたいのだが。とりあえず穏便にやり過ごそう。


「饅頭野郎!?なんでこんなとこに。」


[遊びに来たわ《審ミナモ》]


「あ、ああ。それは有難いんだが、今はちょっとややこしい事情があるからなるべく目立たないようにしてもらえるとだな…」


[そう《審ミナモ》」


俺がそういうと彼女が一言だけ言い残す。その直後、見覚えのある仰々しい物言いのコメントが目についた。


[良いではないか盟友よ。先日の大会、ご苦労であった。二人とも見事であったぞ!《魔王ニブルヘイム》]


「おるやんけええええええええ!」


俺は思わず叫んでしまった。もっとややこしい奴が現れたのだ。こいつは魔王ニブルヘイム。ランクマで出会った謎の存在だ。


[ニブ様もようみとる]

[【ニブ様伝説】下校中にリコーダーを取り出した魔王ニブルヘイムはその音色で紛争を終わらせた]

[そうだぞ!みなーもかっこよかったぞ!]

[帰宅部が集まり始めたか]

[ありがとにゃんにゃん《審ミナモ》]

[!?]

[かわいいいいい]

[すまん、みなーもでよくね?]

[ミナモ担になります!《つくもたん》]


コメント欄はカオスに包まれていた。てかなんだよありがとにゃんにゃんって。お前がパクるのかよ。あざといじゃねーかちくしょう。


あと俺もう要らなくね?

そんなことを思いながら後方腕組おじさんのように、ややこし過ぎる視聴者達を眺めていたのだった。


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