第30話
Vtuberは度々、「成長コンテンツ」などと言われることがある。
ファンと共に歩み、感動を分かち合う。そこに本質を見出した意見である。
そして今まさに、審ミナモは成長の真っ只中にいた。ここまでするとは誰が想像できただろうか、プロゲーマー相手に真正面からリターン勝負で立ち向かう姿を。普段は片鱗を見せるだけに留めているその才能を、彼女はありありとこちらに見せつけている。
可能性が開花する瞬間、それを見届ける事ができるのも推しの醍醐味なのだ。
試合に目を戻すと、両者の体力は五分、そしてリターン差も五分。
弾を駆使しながら前に進み続ける審ミナモ。至近距離で、彼女の繰り出した打撃が確かにGENの体を捉える。その瞬間、打撃の間を割り込むように暗転が入った。
「お願い…!」
それは彼女の最後の賭けだった。
真っ暗な画面に、打撃音と閃光が迸る。画面にはKOの文字。勝利の女神は果たしてどちらに微笑んだのだろうか。
女神に配慮して言うならば、勝利の女神はどうやら「こちら側」の存在だったらしい。
大地を揺らすような歓声が湧き上がり、巨体が床へと倒れる。
「あびゃー!なんで最後ケチってもうたんやああああ。俺のあほおおお」
「えっと、その、対戦ありがとうございました。なんて言えばいいかわからないけれど…貴方に勝てて凄く嬉しいわ」
騒いでいる関西弁に対して、彼女は話しかけていた。困惑しながらも嬉しさが滲み出ている甘い声だった。
「可愛すぎやろ!死んでまうて!そんなんこちらこそありがとうございましたやで。いや~まさかやったけど全力でやった甲斐あったわ。見てくれた皆さんもおおきに。よろしかったらプロリーグっていうのや
ってるんでまた見に来てください~」
こちらもまた憧れの存在と話ができたことが嬉しいのか、GEN氏は満足そうに早口を叩いていた。
「激闘を繰り広げてくれたお二人、ありがとうございました~。すごい試合でしたね~」
二人の健闘を称えながら暁野ひなたが纏めに入る。いよいよこの大会も終わりを迎えようとしていた。
本当に良かった。俺のよくわからない欲望が形となったこの大会だが、結果的にゲームを通じて皆が魂をぶつけ合うことが出来たと感じる。それは好き!、でも嫌い!でも、何かしたい!でも何でもだ。
俺が物思いに耽っていると、画面が切り替わり、審ミナモと暁野ひなたの姿が映し出される。表彰式が始まろうとしていた。
「ミナモち"ゃ"ぁ"ぁん心配だったよぉ"ぉ"本当にがんばったんだねぇぇぇ」
涙を滲ませながら彼女は言った。
それは当たり前のように運営の立場からの言葉ではなく、先輩としての言葉、いや最早それ以上かもしれない
「ありがとう。ひなた先輩。ひなた先輩も、そしてみんなも、皆がいなかったら私は多分、ここまでできなかったと思うわ。いつも心配を掛けてばかりだけれど、本当にありがとう」
数万の歓声に応えるように彼女は目いっぱいのキラキラで画面の向こうを照らしている。
画面を通して光り輝く彼女の姿。けれど、その輪郭は光に隠れてぼやけているように見えた。
あな眩しき。誰もがVに憧れて、共に輝く夢を見る。その形は数多あれど、俺もまたその一人。
「俺はあれになろうとしてたのか…」
これがVtuber。その道のりは遥か遠く、何万光年、文字通り次元が違う。それでも彼女らは画面の向こうの俺達に光を届け続けている。
余りの遠さと眩しさに曝されながら、俺の意識は微睡んでいく。
遠のく意識の中で画面に映る彼女達の瞳は輝いて見えた。
どうしてそこまで輝ける?そしてその瞳はどうして──
──こちらを見つめているのだろうか
実況の声が遠く響く
「さあ最後のイベントです!優勝者である審ミナモ選手と主催である憂生イツカ選手のエキシビジョンが決定しました。みんなー?最後まで楽しんでいってねー!」
突然の発表に会場はざわついている。
そして俺もまた困惑していた。暁野ひなたが良からぬことをしようとしている。それだけは分かった。
両者にスポットライトが当てられ、甘い声が俺を誘う。
「あら、貴方が私のラスボスになってくれるのかしら。」
それは甘い誘い。甘いが故に誘われて、甘いが故に目を覚ます。その誘いが甘くないことは俺が身をもって経験していた。
バーチャルな世界からお砂糖を全部抜き、猛毒を少々。それがあいつの毒饅頭。実際に喰らった俺が言うのだから間違いない。
俺の意識はもう目の前の相手にしか向いていなかった。そして彼女もまた、画面の中からこちらを見つめている。
眩い光に当てられて胸の奥が熱くなるのを感じる。
高鳴る鼓動に肩を震わせながら俺は言った。
「それは違ぇーぞ、饅頭野郎。お前が、俺のラスボスなんだよ」
未だざわつく会場の中で、二人の試合が始まった。
最初から考えていたのかは知らねーが、やってくれやがったな、暁野ひなた
内心で毒づきながらも、俺は沸騰しそうな脳を冷静に回し始める。
その最中、蹴りが飛んでくる。俺はそれをガードする。
主催者と優勝者による突然のエキシビジョンマッチ。これでは炎上したミナモ杯の二の舞である。水を差して楽しいのか?そこまでして勝ちたいのか?そんな声が聞こえてくる。
だけどこの衝動を、湧き上がる欲望をどうして抑えようというのか。
水を差してんのはどっちだよ。
俺の頭は相反する思考で入り乱れていた。
そんな中、審ミナモが俺に問いかけてくる。
「どうしたの?帰宅して腑抜けてしまったのかしら」
安い挑発を受けて俺はふぅーと息を吹きだした。
人の葛藤も知らないで、こいつは何なんだ。ちょっとゲームが上手くて声がかわいくて、ダンスも歌も頑張っていて皆に希望を与えている。ただそれだけではないか。だからVtuberは嫌いなのだ。
そして俺はあることを思い出した。
そうだ、俺はVtuberのアンチだったんだ。
それは衝動を隠すためのゴミのような建前、しかし、自分を納得させるにはそれだけで十分だった。
「うるせー、やっぱりお前は気に入らねーんだよ」
得意なことは粗を探すこと。
あいつの立ち回りには穴がある。GEN戦の影響なのかは知らないが攻め気が出過ぎているのだ。
ならばこちらは待って罠へと誘いこめばいい。
俺は白い道着が技を出したことを確認し、隙間に技を差し込む。俺の拳が相手の頬を捉えたのと同時、神速の蹴りが俺の腰を掠めていた。互いの体が同時に仰け反る。
「ハハハッ!織り込み済みって訳かよ!どうやらみなーもは殴り合いをご所望みたいだな!」
それから俺達は只々夢中で殴り合った。
そして決着の時、勝っても負けても最後の挨拶だけは既に決めていた。
「みなもんじゅー。楽しい勝負だったぜ」
「ふふふっ、私も楽しかったわ。本当に、ありがとう!」
──そして全ての戦いが終わり、運営サーバーにて
「ひなた先輩、お疲れさまでした。」
「いやーみんなお疲れさまー!最初はどうなるかと思ったけど無事に終わったねー」
二人の明るい声。そんな声とは裏腹に低い声で俺は唸っていた。
「あのー暁野ひなたさん?勝手に終わった雰囲気出してますけれども。急にエキシビジョンとか言い出したのはどういうつもりですか?後始末はどうすんだよ!」
「いやーつい?面白そうだったから。楽しんで頂けたかな?」
「頂けたかしら?」
「頂けたかしら?じゃねーんだよ!グルか?お前らグルで俺を嵌めようとしてたのか!?」
「これはあくまでもキミの大会だからねっ☆それじゃ私はこの辺であとはよろしくー」
「私もそれじゃあ。みなもんじゅー」
「何がみなもんじゅーだ。ふざけんじゃねええええええええええええええええええ」
この後めちゃくちゃ炎上した。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
物語はようやく二つ目の区切りと言えるところまで来ましたね。
次からの展開では最初に出てもらって放置しているあのキャラを少しでも登場させたいと思っています
初期のイメージから脱線しすぎて整合性を取るのが難しい!どころか取り切れてない!後セリフも少ない!
設定を雑にしたツケが回ってきているんでしょうか。物語を書くのは初めてなのですがいやはや複雑怪奇なり。
という感じではありますがまあのんびり続けていこうと思っております
改めまして読者の皆様、本当にありがとうございました。
PVやブックマーク等、いつも刺激を頂いております。
それでは失礼いたします




