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第29話

[ドキドキだ]

[くるぞ…]

[どっちも頑張れー]

[どんな対決になるんだ]


視聴者の視線が、画面というレンズを通して一点に集約されている。

インターネットの海で今一番熱い場所、それはおそらくここだろう。


沸騰しそうなほどに熱を帯びたその空間は、溢れんばかりの歓声を湛えた闘技場であった。


「それでは決勝を戦うお二人に登場していただきましょう!」


実況の声が全てを劈き、その先から二人の選手が現れる。


大手Vtuber審ミナモとプロゲーマーのGEN。その傍らには最上位の証であるグランドマスターの称号が輝いていた。


二人が壇上に上がると、GENがそわそわした面持ちで審ミナモに話しかけていた。


「あ、あの、みなーもさん。すんません。実は僕、昔からあなたのファンでして…サインください!」


「それはありがたい…けれど、ごめんなさい。サインは後にしてもらえるかしら」


「そ、そうやんなあ!こちらこそごめんなさい。あはは、急に変なこと言うてもうて!」


[振られてて草]

[後にしてもろてww]

[やっぱり限界化してるww]

[それは厄介ファンなんよww]


先ほどとは一転して和やかな雰囲気で試合が始まろうとしていた中で、今度は逆に審ミナモがGENに話しかけた。


「実はこちらからもお願いがあって、、、」


「何ですか!なんでもきくで!」


「あなたはプロゲーマーで私はVtuber、肩書は違うけれど、この試合、本気で戦ってほしいの。」


彼女は恐らく、下剋上ではなく、対等な勝負をしに来た。そう言いたいのだろう。そしてそれは彼女からの宣戦布告に他ならなかった。


またもや一転、会場の空気が変わる。


「──当たり前やがな。ほな、対戦よろしゅうお願いします」


その口調は飄々としながらも、お互いがお互いを対戦相手と認めた。そんな感じがしたのだ。


─そうして試合が始まる。


ROUND1 FIGHT!!


巨体のプロレスラーと道着を着た格闘家が対峙する。


まず仕掛けたのは審ミナモだ。そびえたつ筋肉の山から距離を取りつつ飛び道具で相手を動かす。セオリー通りの立ち回りである。

飛び道具を持たないGENのキャラは弾に対して出来ることが少ない。審ミナモの正確無比な弾幕でGENが徐々に端に追い詰められていく。


「待ちんしゃい!」


しかし、やはりプロ、黙ってはいない。わずかな間にも読み合いを回し、キックやチョップを差し込み追い返す。

お互い正確に技を捌き合うハイレベルな攻防が続いていた。


「じりじりとした展開が続いています!状況は五分と言ったところでしょうか」


「あぁ、そうだな。だがこの状況において五分というのは実質五分じゃねえ。有利なのは─」


俺がそう言いかけた瞬間、灼熱に燃え上がる弾幕がGENを襲う。画面が暗転し真空の弾幕が続けざまにヒットする。

審ミナモが繰り出した暗転付きの超必殺技である。


五分だった状況から審ミナモがリードを奪う。

依然として攻撃の手は止まらない。弾幕の雨に対し、たまらず巨体が飛び上がる。


それを打ち落とそうとした瞬間、またもや画面が暗転した。


GENもまた超必殺技を放っていたのだ。暗転中の無敵により弾幕を搔い潜ると、首根っこをつかみ、脳天杭打ち。

ヘッドセットが震えるほどの重低音。


画面にはKOの文字が表示されていた。


俺の時と同じだ。この圧倒的リターン差の前に、最早五分では駄目なのだ。

GENのキャラは立ち回りに難がある。しかしそれをプロの技術でカバーされてしまうと、残るのは理不尽極まりない暴力だ。


今まさに審ミナモの正確無比な立ち回りに対して、圧倒的暴力が牙を剥いていたのだ。



掌に滲んだ汗が、熱を持ったコントローラーを通じて私の鼓動を跳ね返してくる。 第一ラウンド。プロの厚い壁に叩きつけられた衝撃は、痛いほどに鮮烈で、そしてどうしようもないほどに、愉しかった。


……ああ、やっぱり私は、こういうヒリつく場所が好きなのね。


最近の戦いは、どれも蕩けてしまうほどに熱を帯びていた。 鮮烈に覚えているのは彼との一戦。あの時の私は、間違いなく、自分の人生をこの指先で動かしていた。


そして、鮮烈に覚えているのはそれだけではない。あの一戦とは切っても切り離せないのは炎上の記憶。 画面を埋め尽くす匿名の悪意。 あの朝、謝罪の言葉を選びながら、私は自分が透明な糸で雁字搦めにされていることを知った。


そんな私の糸を、力任せに断ち切ってくれたのは、彼だった。


私を…助けてくれた…?


彼は私の知らない強さを持っていた。その強さはどこまでも独善的で、何物にも潰されない強さ。


それは本当に強さななの?

あの炎上で私は学んだのだ。私の勝手な振る舞いが、どれほど周りに迷惑をかけたのか。もうあんな迷惑は掛けたくない。


何度か疑ったりもしたけれど、私は確かに彼に救われた。今にも折れてしまいそうな、そんな危うい強さに救われたのだ。



だからもう一つだけ我儘を言わせて?


この大会で勝って、彼にお礼を言いたいの。


我儘の一つくらい許されるわよね。


彼が言うに、ここでは──強さが正義なのでしょう?


ご機嫌にコントローラーを握りなおし、彼女はキャラを選ぶのだった。



「GEN」VS「審ミナモ」


第二ラウンド開始前、二人のキャラが画面に表示される。


それを見てGENは思わず声を上げていた。


「ちょっと待って!みなーも多キャラ使いやったん!?」


「おーっと!ここにきてミナモちゃんキャラ変更!果たして吉と出るか凶と出るか!でもなんか見た目怖くない!?」


「私のイメージと違うと思って使っていなかったけれど。出来ることはするわ。」


巨体が両手を広げて迎え打つのは、殺意の波動を身に纏った審ミナモのキャラ。白かった道着は黒く染まり、鋭い眼光で目の前の敵を睨んでいる。


驚いた。まさかこんな隠し玉を用意していたなんて、基本こそ先ほどのキャラと変わらないが、さっきのがスタンダードタイプだとすると、このキャラはそこから防御を削ぎ落し、火力に変えた超攻撃特化キャラ。

苦し紛れの一発ネタになる可能性も高いが、果たしてどうなるか。


──第二ラウンドが始まる


試合展開は先ほどのようにジリジリとした展開が続いていた。弾を主体に攻め込み、画面端を背負わせる。それを拒否しようとGENが技を打ち返す。


状況は五分だ。


そして丁度今、GENがたまらず繰り出した投げが不発に終わる。それを見て飛び蹴りが入り、弾で締め──ない。


刹那、先ほどの流れを力任せに断ち切るように、斧のように踵を大きく振り上げ振り下ろす。弾から足刀が繋がる。端を背負ったまま画面は暗転し、画面にはKOの文字。


「いやえぐ。えぐいて!そんなん先に言うといてや!」


「うおおおおおおお!ミナモちゃん取り返しました!すごい、ひなた、もう泣いちゃう;;」


相手の流れが来る前に押し切る。これぞ火力キャラの醍醐味。


しかしまあ、2キャラ目でここまでの練度のキャラが来るとは思わねえよな!


俺も興奮が抑えきれない。そして試合は最終ラウンドへ


ガン攻めだ。殺意を帯びた塊は前に歩き続けながらプレッシャーを放っている。低耐久のキャラ故、全ての攻撃が致命傷に成り得る。反撃に体力が削られるも、前に出ることを辞めない。


密着状態を捌きながらGENが叫ぶ


「みなーも、それは上振れ、やりすぎやろ!」


それでも審ミナモは無言でスティックを倒し続ける。

RUSHにさえ入ればいい、まるでそう言っているような強気な立ち回り。ただしそれはただのゴリ押しではなく、精密な期待値計算と立ち回りで負けない技術があってこそのものだ。


そしてまた、画面端の攻防が始まった。


俺は今、とてつもない光景を目の当たりにしているのかもしれない。


プロでもないただのVtuber、しかも女がプロゲーマーと互角に立ち回っている。


いつ即死のコンボを貰うかわからない、弱気になってもおかしくない状況でも彼女は真っ直ぐに前を見つめていた。


その光景に俺は目を奪われて──


「…頑張れ!」


そう声に出してしまっていたのだ。


それはあの頃の、ひたむきに頑張る姿を純粋に応援していた、あの頃のように。


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