第28話
「やはり強い!プロゲーマーGEN選手が強さを見せ、一回戦を制しました。そしてなんと主催である憂生イツカ選手が初戦で散る!波乱の幕開けとなりました。」
「続いての配信卓は──」
初戦が終わり、こだまする歓声の中で実況の声が響く。
魂を賭けて臨んだイツカ杯、俺の結果は一回戦敗退。結果を見れば情けない。だがまあ、Vtuberとして俺にできることはやれたんじゃないかとは思う。
「んうおおおおおおおおお」
いつの間にか、言葉にならない叫びが俺の口から洩れていた。
んんんんんんでも悔しいものは悔しい!なんだこのやるせなさ!妥協した感じ!欲を言えば全員ぶっ倒してやりたかった!
「…はぁ」
一通り悔しがってから、ため息を漏らす。
けれど先ほども言ったように出来ることはやったのだ。その成果は視聴者の反応が物語っているに違いない。
そう思ってコメントを見てみる
[ないすううううううう]
[m9(^Д^)プギャーwwww]
[主催、帰宅]
[ちょっと頑張ってたの草]
[あれだけイキって帰宅wwざまぁww]
[最速帰宅記録が更新されました]
[GENさんつよすぎーー!]
相変わらずゴミであった。あれ?俺のやってたこと意味あったの?
そんなことを思いながらも、どこか満足している自分がいた。なんだかんだで意味はあったのだろう。
後は運営として必ずこの大会を成功させる。それは暁野ひなたに誓ったことでもある。
丁度今はインターバルだ。俺は運営サーバーに入る
「忙しいところ申し訳ない。手が空いたからそっちの仕事を少し代わらせてくれ」
「お疲れ様!いやー惜しかったねー」
俺が指示を仰ぐと、そこにいたのは暁野ひなただった
「ああ。ありがとな。まぁ結果を見れば最速帰宅だそうだ。」
「自分で言うんだ!?私はてっきり落ち込んでるかと思ってたよ。だって始まる前はすごーく意気込んでたもん。」
「負けは負けだからな。今更言っても仕方ねえ」
「現実逃避?って感じでもなさそう…言われてみれば憑き物が落ちた声してるかも!」
「まあそんなとこだ。てなわけでやることが無くなったんだ。次の司会は俺がやるよ」
「こっちは別に大丈夫だよ。私はこういうのは慣れてるからね!」
「大丈夫って、ずっとワンオペで大丈夫な訳無いだろ」
「本当に大丈夫。誰かが思ったよりも早く帰ってきちゃったから…」
「おい、それはどういう意味だ」
「ふふふ、冗談冗談、いやはや~本当に憑き物が落ちたみたいだね~」
「てかそういう話じゃなくて…」
「じゃあお問い合わせフォームの対応をお願いしてもいいかな?今のところ大丈夫だけど、何件も来たら追いつかないかもしれないからね」
「本当に大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫だよ!」
「了解だ」
というわけで俺は問い合わせの対応をすることになった。
メールや配信内の質問に対して返信していく。運営としてルールに則った対応をするだけなので、イレギュラーも無く、俺は淡々と仕事をこなしていた。
おっと、そうこうしている間にまたメールが来た。
[ワガハイの対戦相手が居なくなってしまったのだが、その場合はどうすればよいのだ。]
俺は返信する。
[こちらの方からも連絡してみます。時間内に戻ってこなかった場合不戦勝でトーナメントを進めても構いません。]
ん?…ふと気になるこの仰々しい口調。何か既視感が、
送り主を確認してみると
”魔王ニブルヘイム”
「おるやんけええええええ!」
キーボードから手を離し、俺は思わず叫んでしまった。
魔王ニブルヘイム。俺がランクマを回している時に出会ったVtuberで何度か交流したこともある。実力は折り紙付きだ。奴も出場していたのか。
そういえば初戦の相手がGEN氏だということに気を取られ過ぎてあまりトーナメントを確認できていなかったことを思い出した。
ニブ様はGEN氏とは真逆のブロックか。そして魔王側のブロックには審ミナモの名前もある。俺の知っている名前はそんなところか。
それを確認していると運営サーバーの方からゴソゴソと音がする。見てみると審ミナモのアイコンが光っていた。何か連絡事項でもあるのだろうか。
だけどあいつは今配信中なんじゃないのか?審ミナモのチャンネルを見るとLIVEの文字がある。
俺がしばらく待っているとアイコンの光が消えミュートになってしまった。
大方間違えてミュート解除してしまったというところだろうか。
こちらもマイクをOFFにして作業に戻る。
──俺が淡々と仕事をこなす横で、彼らは順調にトーナメントを勝ち上がり、トーナメントは終盤に差し掛かっていた。
最終局面ということで解説として俺も壇上に上がることになった。
「やはり強い!GEN選手が一番乗りで決勝進出の座を掴みました!帰宅部の憂生イツカさん。今の試合どう見ましたか?」
実況の暁野ひなたが俺に問いかける
「誰が帰宅部だよ。それはそれとして、完璧な詰めだったな。俺を倒したんだからあれぐらいはしてもらわないと困るんだけどな」
「帰宅部なのに?」
「あーうるせえ!擦りすぎなんだよ!」
[帰宅部www]
[帰宅部のくせに偉そうだなw]
[帰宅部と言えば既にあの猫が…]
そんなやり取りの後、準決勝の選手紹介に移る。
二人のシルエットが映し出され、実況の声と共に光が当たる。
「お次はもう一つの準決勝!ここを勝ち上がり、GEN選手への挑戦権を手にするのは誰になるのか!選手を紹介していきます」
「まずは1P側!運営の立場からここまで残ってくれました!我らがミナモちゃん!審ミナモ選手です!」
会場に歓声が響く
「そして2P側!魔界から、人間界への宣戦布告!魔王ニブルヘイム選手です!」
「えー彼に関してはデータがありません。解説のイツカ選手、彼はどういった選手なのでしょうか?」
「ランクマッチで何度か当たったんだが、操作制度もスタミナも規格外だったな。いつの間にかこちらが支配されているような感覚になったぜ。」
「まさに魔王というところでしょうか。おっと!ただいま情報がありました。なんとこの魔王様、準決勝まで全ての対戦相手がDQ、棄権を選択し、ここまで来たようです。」
「棄権じゃなくて事件だよ!!トーナメントで事件が起こってるよ!!最早そこまで行くと未必の故意だよ!!」
思わず声を荒げてしまった。あの魔王め、何をやらかしてくれているんだ。
「おっと。また情報が入りました。魔王ニブルヘイム選手、コントローラー故障のため棄権するとのことです。」
俺は叫んだ。
「何しに来たんだよ!!!!」
[帰宅部にとんでもない奴が現れたぞw]
[下校中に準決勝まで来ていた男]
[魔王さんすごいww]
[やりたい放題で草]
トラブル?もあったがこうして決勝戦のカードが決まった。
──決勝前それぞれの配信にて
背の広い椅子にもたれ、意気揚々と意気込みを語る男がいた。
「おいおい。みんな遂にきたで!みなーもやで!戦えるだけでも光栄すぎるんやけど、マジで!」
「でも欲を言えば話したい!サインも欲しい!無理やろか?」
[欲出過ぎて無理でしょうねww][手加減してあげれば?]
「おいおい、手加減なんか失礼やろ。そんなんせんでも楽しい試合になると思うで、見ててや。」
男はそう言っておもむろに立ち上がったかと思えば、座りなおしてコントローラーを握った。
賑わうコメントの中、無表情でひたすらトレーニングモードをプレイする少女がいた。
[絶対いける!][ふぁいとー][相手プロだけどみなーもなら大丈夫!][楽しんでいこ!]
その声に少女は優しく微笑む
「みんな、ありがとう」
[がんばれー][気持ちだけでも受け取ってください][これ勝利祈願です]
励ます声が形となって漂い続ける。
「見てて頂戴、勝つわ。」
小さく呟き、トレーニングモードへと戻っていった。




