第24話 面談
突然だが、「気まずい状況」というのに心当たりはあるだろうか。
例えば、エレベーターで苦手な先輩と二人になった時であったり、仲の良い友人が離席して、友達の友達との空間に放り込まれた時であったり。
あれってこっちだけ気まずいと思ってるんだろうか、だとしたらなんか悔しいからお互いであってほしい。
などと現実から目を背けるように思考を張り巡らせていたのだが
俺は今まさに、人生で最も気まずい状況に立たされていた。
画面に映っているのは通話アプリ。そのサーバーには俺を合わせて三人のアイコンがあった。
「ど、どうも」
「失礼するわ」
「…」
三人はぎこちない挨拶を交わし、それぞれ沈黙に入る。
気まずい雰囲気を打開したいと思いつつ、俺もまた完全に警戒してしまっていた。
…いやでも俺が警戒するのは仕方無い。
なぜなら通話の先にいるのはMetaMittプロダクション所属のVtuber「審ミナモ」と「暁野ひなた」なのだから
超大手Vtuber二人と弱小Vtuberの俺。どうして俺たちがこんな状況になっているのかというと
──話は少し前に遡る。
イツカ杯開催を宣言してから数日間、俺は運営に忙殺されていた。
なにせ中身など何も考えず勢いだけで出た言葉。詳細はほとんど決まっていなかった。
大会の詳細なルールは?募集要項は?告知はどうする?サーバーは俺が手配しないといけないのか?トーナメントはどうやって進めていく?規模はどうなる?配信活動も並行して行わなければならない。だとするとスケジュールは?
そういえば審ミナモのスケジュールも押さえておかなければならない。
まるで社会人の頃のようにやることが山積みとなっていた。
そうは言っても時間は待ってくれるわけではない。時計の針が進んでいく中、俺がキーボードを叩いていると、DM欄に通知があった。
それを聞いて俺は眉を顰める
「うげぇ、仕事が増える音だ。頼むから社内の定時報告であってくれよ。ってここは社内じゃないんだが!?いったい誰だよ」
審ミナモ@akiraminamoo
拝啓憂生イツカ様。ご多忙のところ恐縮ですが、一度、大会のスケジュール調整と、企画についてお話する機会を設けていただけないかしら?
それは新卒の頃を思い出すような初々しく微笑ましいビジネスメールであった。
まさか向こうからコンタクトを取ってくるとは思わなかった。
そんな彼女と何度かやり取りをした後、打ち合わせにまで漕ぎつけ現在に至るのだが
「…」
「…」
「…」
いや何この状況。審ミナモは兎も角、何で暁野ひなたまでいるんだよ。三者面談かよ。そうなったら俺が先生じゃねーか。ミナモさんはどうせ素行もよくてクラスの中心人物だよ!何も言うことはありません
しかしこのままでは埒が明かない。ここは社会人時代に身に着けた危険回避術その2「大変ですね作戦」で誤魔化そう。
「その、なんだ。二人も大変だな。こんな面倒なことになっちまって」
俺がそう言うと、今まで沈黙を貫いていた暁野ひなたが口を割った。
「キミがそれ言うの!?元はと言えば全部君がミナモ杯で暴れたからだよね?ちょっとそれは無いんじゃないかな…」
軽蔑の籠った口調で彼女は言った。
正論だ。今回の件、元を辿るまでもなく二人を巻き込んだのは俺である。
作戦は失敗だった。こう言われてしまった以上、自分のしたことを無視はできない。最早残るのは申し訳無さのみであった。
「その通りだ。正直あんな燃え方をするとは思わなかった。全部俺の軽率な行動のせいだ。申し訳ない」
俺がそう言うと、もう一人の被害者も口を割った。
「待って。そもそもの話をするなら原因は私にあるの」
俺は彼女の言葉を察し、早々に訂正を入れる。
「エキシビジョンの件か?あれはそっちが気を利かせてくれたんだろ?俺からすれば有難かっただけだぜ?だからやっぱり俺のせいだ。申し訳ない。」
すると彼女も訂正をする。
「それもあるけれど、元はと言えば私が予選枠を作ったからよ。あれは軽率だったわ」
確かに俺も予選枠には疑問を抱いていた。今回俺はあの枠を存分に利用させてもらったが、普通に考えれば大会のバランスを壊す要因になりかねない。
あれは運営の企画スタッフが適当に作ったものだと思っていたが彼女自身が運営として作ったルールだったのか。
「ええっ!?ミナモちゃん自分でちゃんと運営もやってたの!?」
「そうよ」
「でも予選枠の人が空気読める人だったらこんなことにはなってないと思うけどなぁ」
「それでもそれを強制してしまう時点で私の落ち度だわ」
何か突然ナイフで突き刺されたような気がするが俺が悪いので受け止める。
そして俺は審ミナモに疑問をぶつける。
「当然出てくる疑問としてあると思うんだが、審ミナモ。だったらお前は何で予選枠なんて作ったんだ?」
「それは、大会が盛り上がると思ったから。それと、私が知らない強い人が見たかったからよ」
澄ました声で彼女はそう答えた。
いやそうはならんやろ。平然とデスゲームの主催者みたいな事言わないでもらえますか?
もしくはリュ〇?リアルリュ〇なの?俺より強い奴に会いに行く系女子ですか?初めて見るぞそんな女子
彼女の思考は余りに闘争心に溢れていた。
「じゃあもしかしてエキシビジョンで俺と戦ったのは」
「もちろん私が戦いたかったからよ。あなたたちの戦いを見ていると私もやってみたくなったの」
「いやまてまて。だったら招待選手なんて呼ばずに予選から公募で大会を開けばよかっただろ」
「!?」
ポスッ、という通知音と共に驚いた様子の彼女のスタンプがサーバーのチャット欄に送られてくる。
それやめて、上手いこと自分のスタンプ使って通話で感情の表現するのやめて
内心そう思いつつも俺は続ける
「そっちの方が盛り上がりの面でもお前がやりたかったことに近くなると思うんだが」
「!?」
驚きの声と共に再びスタンプが送られてくる。
それやめて。今度は人力でボイス付きスタンプにするのやめて。あと「!?」←これを声に出すのやめて、文字で表現するの難しいからやめて
ちょっとひなたさん、おたくの子がふざけだしましたよ。
丁度そのタイミングで暁野ひなたが言う
「もお~ミナモちゃんはしょうがないな~」
そう言いつつも、彼女は諭すように語りかける。
「でもミナモちゃん。そういうことは独りで決めず、この前みたいに私に相談してよ。先輩はそのために居るんだから。いつでも気を使わなくていいから。ね?」
すると彼女は申し訳なさそうに
「ごめんなさい。本当にいつも感謝しているわ。ひなた先輩、ありがとう」
未熟な雫であることがわかっているから、やがて大河となることがわかっているから、大らかな光は暖かく道筋を示していく。
二人のやり取りには確かな信頼関係があった。
「そうだ、ミナモちゃん、本題があるんじゃなかったの?」
暁野ひなたがそう切り出すと、それに続くように審ミナモも口を開く
「そうだわ、憂生イツカ。聞いてくれるかしら。二人で決めたことなのだけど…」
そういって審ミナモは語り始めた。




