第23話 茶番
重い、とてつもない重圧を感じる。それは期待かはたまた責任か。だがそんなもの、全て仮面の下にしまい込めばいい。バーチャルという仮面の下に。
俺は衝動のまま仮面を被り、配信を開始する。
「よおお前ら。なんか面白そうなことになってるじゃねーか。」
[きたあああああ]
[イナゴの王が来たぞw]
[とあるVが大会を私物化した件について]
[あの対応はありえないでしょ]
[被害者から一言お願いします]
[ファンによしよしされてるの見てられなかったわ]
[ミナモが謝罪してるけど返事しないんですか]
コメントは当然のように荒れており、同調しながら失言を引き出そうとするようなコメントで溢れていた
「例の件だろ?審ミナモの配信は見てるぜ。これからその話をしようと思ってたんだよ。」
「その前にお前らあいつの配信に行って俺の配信をミラーしろって言ってきてくれねーか?」
俺がそう言うと、彼女の配信の元に一斉に伝書鳩が飛んでいく
|憂生イツカがミラーして欲しいって]
[ミラーしろだってさ]
[ミラーなんてする必要ないよ]
[向こうがミラーしてって!]
[さっきから鳩多すぎる]
ミラー配信とは、自分の配信に誰かの配信を映し、自身の配信上でその配信を見られるようにする行為だ。そうすることで疑似的にビデオ通話のようにやり取りをしようと俺は考えた。
尤も向こうからすればそれは火に油を注ぐような行為であり、そんなことをする必要は無い。
それでも俺はどうしてか期待してしまっていたのだ。あいつなら乗ってくると。
彼女は眉間にしわを寄せながら呟く
「…ミラー配信」
おもむろにマウスのクリック音がして、画面に気だるげな青年が映し出される。
「みんな、ごめんなさい。今は彼の話を聞きましょう」
──乗ってきた。それを確認した俺は仰々しく口を開き全員に語りかける。
「準備は出来たようだなぁ!それじゃあ今から、話をしようぜ。」
「経緯は大体知ってる。燃えてることも審ミナモが配信してたことも。そこで謝罪してたのも見た。だから今からその謝罪に対する返事をしようと思う。」
「単刀直入に言わせてもらうと、謝ったなら別にいい。だ」
「そもそも俺は大して気にしてねーんだよ。だからこの話はこれで終わりだ。なんか文句あるか?」
俺がそう言うとコメント欄が騒ぎ始める
[そんなので納得できるわけないだろ]
[茶番すぎる]
[これを許すとつけあがるだけだろカス]
[何が言いたいのかわからん]
[絆されてて草]
[裏で絶対繋がってるだろ]
そんなコメントを鼻で笑いながら俺は続ける。
「フン、どうやらまだまだ文句があるみてーだな。」
「お前たちの文句は、結局、俺やあいつのやり方が気に入らねえというエゴだ。倫理も、道徳も、責任も関係ねえ。お前らの勝手な期待通りに動かねえ奴への、ただの不満だ。」
「だったら簡単なことだ。ゲームの大会で起きた不満はゲームで決着をつけようぜ。」
その言葉が、暗い配信画面に冷たい刃のように突き刺さる。そして、俺の声は一気に音量を上げ、宣言へと変わった。
「今ここに!『イツカ杯』の開催を宣言する。昨日の大会とルールは同じだが、参加は誰でもいいぜ。文句ある奴は全員かかってこいよ。ここでは、強さこそが正義だ」
[なんか始まって草]
[意味わからん]
「別に参加しなくてもいいぜ?お前らが口だけの雑魚ってだけのことだから」
冷めた奴らを適当に煽りつつ、画面の向こうを射抜くようにまた声を張り上げた。
「それから!俺も文句を言いたい奴が居る」
「審ミナモ!」
名前を呼ばれた彼女は一瞬肩をすくめ、目を見開く
「なんだよあの謝罪は、視聴者に屈しやがって、しょーもねえ」
彼女がどうして謝罪したのかは分からない、もはやそんなことはどうでもいい。
「そんな奴に負けたままなのは納得いかねーんだよ!」
「出ろよイツカ杯。俺に悪いと思ってるなら出場してくれるよなぁ!」
[リベンジマッチか!?]
[茶番過ぎ]
[イツカ君!]
[売名で草]
[口だけのコメント欄が黙ってて草なんよw]
[騒いでたエアプ共どしたー?]
[みなーも!?]
[半ば強制でワロタww]
俺がそう叫ぶと両者の配信に沈黙が走る。その沈黙が俺の思考を反芻させる。
さぁどうだ?今まで言ってきたことは全部本心だ。なんも考えてねえ、全てが俺の意思、仮面の上にある俺の意思だ。その結果がイツカ杯。さぁ!どう転ぶんだ、教えろよ!
数秒後、無表情だった彼女の顔が凛とした目つきに変わると、意を決したように口を開いた。
「出るわ。イツカ杯」
二人の契約にはその一言で十分だった。
「決まりだ。スケジュールはまたおいおい発表するぜ。じゃあな」
[なんか面白くなってきたぞ]
[みなーもは出場する必要ないでしょ]
[がっつり売名に利用されてて草]
[エアプ共は今からみなーもに勝てるように頑張れ^^]
[普通にリベンジマッチ見たいわ]
いつも五月蝿いだけのゴミクズがこういう時は無駄に頼もしく見えてしまう俺なのだった
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その頃、とある部屋にて
椅子から身を乗り出しモニターに向かう男がいた。
机に置かれたスマホには先ほどの配信画面が映っている。男は横目でそれに目を移すと
「ほーん、なんや面白そうなことになっとるやんけ」
モニターに目を戻しながらそう呟いた。




