第22話 期待
暁野ひなた「ひ、引き続き実況は私がやっていくよ。突然始まっちゃったエキシビジョンバトル!ミナモちゃん大丈夫なの!?とりあえずうーん、頑張れー!」
[みなーもいけええええ]
[ここでミナモちゃんは熱すぎる!]
[絶対勝ってねー!]
[やっぱみなーもなんよ]
突然の審ミナモの参戦にファンたちの期待は最高潮に達していた
審ミナモ。Vtuber界最強と謳われる実力。
まさかこんなすぐに勝負できるとは思っていなかった。こいつを倒してミッションコンプリートだ。
イツカ「それじゃあ、任務開始するぜ」
「ARE YOU READY? FIGHT!!」
ゲーム内のコールが告げられ、試合が始まった。
イツカ「さあ、こいつは見たことあるか?」
試合開始直後、俺は秘蔵の初見殺しを見せた。
相手の道着にかすり傷が入る。
ミナモ「驚いたわ。こんな連携、セオリーでは無いわね。」
彼女は冷静にキャラを動かし見事に対応して見せた。まさに教科書通りと言っていいだろう。
「何が驚いただよ。ちゃっかり被害を最小限に抑えてるじゃねーか。Vtuber最強の名は伊達じゃねーってことか。」
俺はその後もわからん殺しを見せ続ける。
キュッキュッという靴音と共に、相手の道着が少しずつ崩れていく
「面白え、これはいわばチキンレース。先に尽きるのは俺のネタかお前の体力か、我慢比べと行こうぜ。」
ひたすらに揺さぶる俺に、受ける相手。惜しみなく投入されていた俺のリソースも徐々に尽き始め、反撃を貰う頻度が上がる。お互い体力は残り少なくなっていた。
ミナモ「貴方の常識外れな立ち回り、面白いわ」
イツカ「昔はこれが常識だったんだよ!」
最初の時に比べ、お互いの声のトーンが数段上がっている。
このヒリつく感覚。そうだ、こういう勝負がしたかったんだ。
俺は当初の目的も忘れ、ただこの勝負を噛み締める。
イツカ「なんだこれ!最高だな!」
軋むように刻まれる靴音が試合の終焉を刻一刻と告げている。
下がる相手に、歩く俺、画面端を背にしてその足が止まる。一瞬の対峙の後、俺のキャラが相手の首を掴み地面に叩きつける。倒れた相手に覆いかぶさるように拳を伸ばすと、掬い上げられたもう一つの拳によって俺の顎が貫かれた。
逆に地面に倒れ込んだ俺にはもう、反撃の糸口は残されていなかった。
「勝者!審ミナモちゃん!!」
[やったあああああああああああ]
[流石です!流石すぎます!]
[ヤバい…涙出てきた!]
[やっぱみなーもなんよ]
実況の声がして一気に肩の力が抜ける。逡巡するのは最後の攻防だった。
審ミナモは最後、喰らうと即死の毒饅頭を仕込んでいた。お互い死と隣り合わせの状況で、どちらが先に喰らうかのロシアンルーレットを仕掛けてきていたのだ。相手の立ち回りを信用した結果、俺はそれに気づかず飛び込んでしまったのである。
そんな逡巡の最中、審ミナモが俺に声を掛けてきた。
ミナモ「貴方の立ち回り、真似させてもらったわ。みなもんじゅー。最高の勝負だったわね」
画面に映るその笑顔はどこかあどけなく、馬鹿らしい。
余りにも馬鹿らしかったので、最早悔しさすら湧いてこなかった。
「何がみなもんじゅーだよ。饅頭野郎。」
心の中でそう呟きフッと笑うと、静かにその場を去るのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ミナモ杯から一夜明け、次の日の朝。
スマホ画面に向けて、俺は指を伸ばしたり引っ込めたりしていた。
傍から見るとただの奇行だが、俺から見てもただの奇行である。一体何をしているのかというと、エゴサーチをするかどうかで葛藤していたのである。
昨日は審ミナモに敗れたとはいえ、優勝は優勝、かなりの爪痕を残せたに違いない。そんな世間の反応が俺は気になっていたのだ。
とはいえ、エゴサーチをしたところで実のない話題ばかりなのは分かっている。ソースは俺。かつては毎日のように様々な名前で検索をしていた。それがわかっているので、今までエゴサーチというものをしてこなかった。
「いや、これはエゴサーチじゃねえ。市場調査だ。」
自己顕示欲に敗北した俺がアプリを開くと、早速目に飛び込んできたのは思いがけないつぶやきだった。
****@***
審ミナモさん、大会を私物化。優勝者をエキシビジョンで公開処刑してしまうwwwwww
経緯
無名が優勝→身内が優勝しなかったからか突然エキシビジョンを提案→断れない雰囲気に→そのままボコボコに
そのつぶやきには様々なリプライが飛び交い、既に広く拡散している。言わばプチ炎上している状態だった。
それに対して俺は抗議する。
おい!何がボコボコだよ。紙一重のいい勝負だっただろーが!そこはちゃんと書いてもらわないと俺の評判にも関わってくる所ですからね!
てか実際の大会の様子と書かれてる印象が全然違うじゃねーか。断れない雰囲気とか無かったし。
これはあれだな。アンチの印象操作、俺もよくやったけど全然反応してもらえなかった奴だ。
こういうしょうもない炎上はスルーでよし。下手に触れて餌を与える必要も無いんだよな。
俺がそう思っていると、ピコン!と通知が鳴りバナーが表示される
【朝活】久しぶりの朝活 大会お疲れ様でした【審ミナモ/めたみっと】
俺は頭を抱えながらその配信を開いた
「みんな、おはよう。昨日は楽しんでもらえたかしら」
彼女は何事も無かったかのように挨拶をする。
しかし、目線を下に移した瞬間、何かに気づいたように顔を曇らせる。
「これは…どういうことかしら。」
大会中の彼女からは想像も出来ないような低い声だった。
[ミナモさんって性格悪かったんですね!]
[優勝者にリスペクトも無い奴が二度と大会開くなよ]
[失望しました…ファン辞めます]
[出場してもらってる立場ってことも分からないの?]
[社会経験無いみなーもの批判辞めて!]
[みなーもは悪くないよ!]
[ずっと応援してるよ!]
[すごいいい試合だったから気にしないで!]
[今日は配信切った方が良いのでは…]
[運営さんに連絡しよ!]
混沌としたコメント欄を見て俺はため息をつく。
どいつもこいつも下らねえ。
こいつらは一見正しいように見えるが行動が矛盾している。正義を謳うなら叩くことがおかしいし、ファンを謳うなら部外者なんだから黙っていればいい。
矛盾が起きるのはこいつらが結局自分の為に行動しているからだ。だというのに何かの所為にしてそれを隠そうとする。その根性が気持ち悪い。
そして何も言わず上からマウントを取っている俺もまた気持ち悪い存在である。
誰が一番気持ち悪いかの勝負に意味などない。だから本当に下らないと言っているのだ。
そんなどうしようもない事を考えていると、俯いていた審ミナモが顔を上げ、静かに口を開いた。
「そうね。確かにリスペクトに欠けた行為だったわ。憂生イツカさん…ごめんなさい。きちんとした謝罪は後でこちらからさせてもらうわ。」
あろうことか彼女は謝罪を始めたのである。淡々とした口調だがどこか声は震えている。
その様子に混沌としたコメント欄がさらに加速する。
俺は思う。そもそも審ミナモは謝罪する必要があるのだろうか。
彼女に悪意がないことは明らかだ。
彼女がエキシビジョンを開いたのは大会を盛り上げるためである。
悪意があったのは寧ろ俺で、優勝の為、ルール違反ではないからとやりたい放題、本来批判されるのは俺のはずだった。
彼女は視聴者の期待に応え、そんな俺と戦ったに過ぎない
思えば審ミナモ、いや、あの日俺以外の全員は視聴者の期待を背負って戦っていた。それに対し、俺は視聴者を置いてけぼりにしながら、優勝だけを背負っていた。
そんなめんどくさい物を背負わなければならないなんて、だからVtuberは嫌いなのだ。
しかし、その重みの力はエキシビジョンにおいて、勝利という形で俺に突き付けられた。
かつて誓った言葉が俺の中に湧いてくる
あいつに勝つために…Vtuberになる為に…
「俺だってVtuberだ。あいつらに出来て、俺に出来ないはずがねえ」
そうつぶやき、俺はPCを立ち上げる。
期待を背負うのがどういうことなのかは正直分からない。
だから手探りで、俺の知ってるやり方で、
「とりあえず、謝罪にはこたえねーとな!」
俺はそこら辺にあったアカウントを取り出し混沌としたコメント欄に連投し、自演する
[対戦相手の憂生イツカが配信始めたぞ]
[対戦相手の憂生イツカが配信始めたぞ]
[対戦相手の憂生イツカが配信始めたぞ]
[対戦相手の憂生イツカが配信始めたぞ]
[ま?]
[ぽまえら急げwwww]
丁寧にURLも添付して俺の配信にイナゴがなだれ込んでくる。
待機画面も無い真っ暗なサムネイルに幾多の視線が注がれる。
なんと刹那的、先ほどまで俯瞰で見ていた自分はどこかへ消え去り、暗中模索のファンサービスが始まろうとしていた




