第21話 台本
メインチャンネルの配信画面は、決勝戦の開始を待っている。開幕のエンジョイの雰囲気はなく、コメントの雰囲気は応援というより祈りに近い。軽快なBGMすらどこか不協和音に感じられ、会場は異様な空気に包まれていた。
その空気の中でまるで太陽のように輝く声があった
暁野ひなた「さあ、みなさん。いよいよ、今大会のクライマックスです!最後を飾る役者たちをご紹介していきましょう!」
暁野ひなた「1P側!予選枠から破竹の勢いで決勝まで来た今大会のダークホース!圧倒的な勢いを果たして誰が止められるのでしょうか!憂生イツカ選手!」
暁野ひなた「対するは2P側!前回の王者が、揺るぎない実力でここまでやってきた!王座は誰にも渡さない匂坂ソラト選手!。」
[ソラト君!!!]
[薙又の分まで頑張ってくれ!]
[#ソラトWIN]
[ふぁいとー!!]
[やっぱりビジュ良すぎ!]
実況は注文通り、俺と匂坂ソラトの対立を強調する。
「暁野ひなた、中々分かってるじゃねーか。」
俺がそう思っていると画面に二人の選手が映し出される。
爽やかなイケメンと気だるげな男、見た目は前者の完全勝利と言ったところだろうか。
はい…これでも大分美化してもらったんです…
まあ今は見た目はなんてどうでもいい。どちらが強いか決める最高の舞台が整ったのだ。
俺はマイクを取り上げ高らかに言う
イツカ「匂坂ソラト!お前の時代は終わった!今日の主役は俺が頂くぜ!」
ソラト「そうはいかないよ。レイの分まで僕が頑張らないとね。さあ、最高の勝負にしようか。」
暁野ひなた「それでは決勝戦、いってみましょー」
お互い口上を終え試合が始まった。
俺は挨拶代わりの一撃を繰り出し、相手はそれに応じる。
試合は予定調和の如く一進一退となった。
一方が体力を削るともう一方が取り返す。お互いにコンボを決め試合は終盤へと差し掛かっていた。
ソラト「どうかな?思ったよりやるんじゃない?」
イツカ「ああ、だがこれで終わりだ」
相手の必殺技ゲージが無いことを確認し、懐へ飛び込む。そのまま攻撃を繰り出した。
暁野ひなた「ソラト選手ダウン!1ラウンド目は憂生イツカ選手が取りました」
[ソラト君ならまだいける!]
[大丈夫!]
[敵の人誰過ぎて無理]
[強いのは分かったからもうええて]
実況の声が響き渡り会場からはため息の声が漏れる。優勝が近づいてくる声だ。
にも拘らず俺は頭を捻っていた。
出場者の実力は事前にある程度調べてある。そして、その調べでは匂坂ソラトは堅実な立ち回りを売りにしている。
しかし先ほどのラウンドではその片鱗は全く見せていない。
無意味に派手なコンボやリスクを取った立ち回りが目立った。現に最後も自分からゲージを切らせて敗北している。
とてつもない違和感だ。俺が対策してくる事を見越して敢えて立ち回りを変えているのだろうか
だがそれは違う。ある程度このゲームをやり込んでいれば分かるのだが、奴のプレイは勝敗に何も寄与しない言わば舐めプと言っても過言ではないものだった。
違和感を拭えないまま第二ラウンドへと突入した
奴は何かを狙っている?
俺が様子見しようと立ち止まると、相手はいきなり、ステップからハイキックを繰り出した。
キャラの身体が打ち上げられ、またハイキックが入る。まるでお手玉である。
暁野ひなた「ソラト選手の華麗なコンボが決まったー!見た?見た?ミナモちゃん!」
審ミナモ「え、えぇそうね」
目の前のプレイに興奮する少女と虚を突かれたような反応を見せる少女
ソラト「さぁ、君もどうだい?」
対戦相手は爽やかにはにかんでいる。
やはり明らかにおかしい。第二ラウンドになっても匂坂ソラトは頑なにプレイを変えようとしない。
対戦とは対話である。プレイ一つ一つに意味があり、お互いの選択肢に合わせてこちらも選択肢を決める。不可解なプレイにも何か必ず意図があるのだ。
沸き立つ会場に溢れんばかりのコメント欄は俺には見えていない
しかし俺は気づく
──そうか、これは奴なりのエンタメなのか
匂坂ソラトは自分のプレイを曲げてまでファンを楽しませようとしていた。
そして奴はずっと必死に手を差し伸べていたのである
一緒に踊らないかと
「ハッ、そういうプロ意識は嫌いじゃねえ、が」
今度はお前の番だと言わんばかりに待ち構える相手に対して俺もド派手にコンボを決める。
ダウンした相手に起き攻めを決めに行こうと拳を上げた瞬間、差し伸べられた手を振り払うかのように俺は拳を引っ込めた。起き攻めに対して反撃をしようとしていた相手のアッパーが空を切り、身体が空中に晒される。
「こういうムーブだって嫌いじゃねえw」
それは対話と呼ぶには余りにも一方的な拒否だった。
ミナモ「マジレスね。ソラト選手のプレイをイツカ選手が咎める形となったわ」
解説の声が入ると、
ソラト「それが普通なのかもしれないね」
悟ったように相手は言った。
イツカ「言っただろ!今日の主役は俺だってなぁ!」
自らに言い聞かせるように俺はそう叫ぶと、隙だらけの着地にまたコンボを入れたのだった。
「君は、まだ勝つべきではなかった。」
試合の終わり際、KOの声と共に相手はそう呟いたように聞こえた。
暁野ひなた「勝者!憂生イツカ選手…!」
暁野ひなた「ということはつまり、第二回ミナモ杯、優勝者は憂生イツカ選手に決まりました!」
阿鼻叫喚の会場に俺の勝利が刻まれたのだった。
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閉会式が始まった。
[実況解説のお二人、お疲れさまでした]
[皆さんお疲れさまでした]
[面白かった!]
[次からは予選無しもありかもしれませんね!]
[みんなの頑張ってる所が見られてよかった!]
[たのしかったー!]
[ハイライトはねこちゃんの帰宅芸w]
まだ優勝者インタビューが残っているというのに視聴者は完全に解散ムードである
ミナモ「あーあー、それでは優勝した憂生イツカ選手に話を伺っていきたいと思うわ」
会場に甘い声が響き渡る。
ミナモ「まずは優勝おめでとう。優勝した感想を聞かせてもらえないかしら」
イツカ「ああ、ありがとう。感想は、最高の気分だ。この大会で優勝するのはずっと狙ってたからな。完璧な勝利でそれが実現できて良かったぜ」
ミナモ「そう、完璧な勝利。大会を通してあなたの勝利への執念は恐ろしいほどだったわ。あなたは間違いなくここにいる誰よりも強い。」
ミナモ「それで少し提案なのだけど、今から私と一戦どうかしら?」
ひなた「え?」
イツカ「は?」
彼女はあっけらかんとした表情でキラキラと瞳を輝かせている。
それは唐突な甘い誘い。唐突過ぎて一瞬目を丸くしたが直ぐに全てを理解した。
震える手を握りしめ、笑みを交えて俺は言う
イツカ「ハッ、お前がラスボスになってくれるって訳か」
ミナモ「そんなつもりは無いのだけど…OKということでいいかしら。」
相変わらず彼女は惚けたように目を開きながら、こちらと同じく笑みを浮かべるのだった。




