第17話 100先
[100先!?]
[これは長くなるよ!]
[魔王も暇なんだな]
困惑するコメント欄を尻目に俺はゲーム内のロビーに入っていた。
すると既に魔王は腕を組みながら仁王立ちで待っており、
[待ちくたびれたぞ]
と仰々しい物言いだ。コメントの速さと言い、この魔王、何かとフットワークが軽い。
「対戦が始まったら退屈させねーから安心しな」
[フッ、面白い]
[それでは対戦よろしく頼む]
「たいよろ」
芝居がかったやり取りと共に100先が始まった
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1-0
WINNER! 1P 憂生イツカ
今日の勢いそのままに初戦は俺が制した
「ニブ様?さっきの威勢はどうした?」
[やっぱつええ]
[魔王討伐じゃい]
魔王ニブルヘイム[一本目はくれてやろう]
[まだコメントしてるの草]
[100-0ペースだぞ!]
1-1
winner! 2P 魔王ニブルヘイム
やはり魔王も黙っていない。サイコパワーを駆使した猛攻に俺は対応しきれなかった。
相手の使っているキャラはこのゲームのボスキャラであり、悪の限りを尽くす裏組織のトップという設定がある。いかにも魔王らしさ全開なチョイスだ。
「はっ、魂のキャラって訳かよ」
魔王ニブルヘイム [いかにも] [かつては共に湘南の闇でブイブイ言わせたものよ」
いや、絶対今考えた設定だろ。そんな思い付きでゲームのキャラにまで設定生やすんじゃありません。しかも今は丸くなったみたいに言ってるけど、やってること魔王だから。すんごいとんがってるから、いろんな意味で
「てか、湘南の闇ってなんだよ、魔王要素が無理やりすぎんだろ」
[相手も結構やるな]
[面白くなってきたあ]
[ちなみに湘南は闇だぞ]
[地元だけど闇だわ]
[地元民ワラワラで草]
32-40
winner! 2P 魔王ニブルヘイム
「ああっ!その技だしてねえ!」
70戦を過ぎた頃、俺は魔王に後れを取っていた。
[操作に陰りが見え始めたようだな]
クソっ。コマンドの精度が悪くなってきた。
素早く精密な操作を要求される俺のキャラでは少しの操作ミスも命取りとなる。
しかしそれは相手も同じことで、相手キャラは技を出すために予めボタンの長押しが必要になる溜めキャラと呼ばれる分類のキャラだ。溜めキャラもシビアな長押し時間管理が求められ、難易度は高い。
しかし魔王はそれを高精度で維持し続けている。
[イツカは50-50までは遊ぶからな]
[コントローラー不調?]
「いや。コントローラーは問題ねえ。長時間やるとどうしても集中力は落ちるからな。魔王の集中力がおかしいんだよ」
[あいつレバーレスなんじゃね]
[レバーレス?]
そうか。レバーレス型コントローラーか。
従来のアーケードコントローラーではレバーとボタンによる入力でキャラを操作している。しかし昨今ではこのレバーの入力をボタンで行うレバーレスタイプのものが多くなってきている。慣れは必要なものの、レバーを介さない分、よりデジタルな操作が可能になる。
おそらくあいつの精度はそこから来ている。
魔王ニブルヘイム [ああ、ワガハイのコントローラーは少し特殊でな]
[触手レスコントローラーだ]
俺は一瞬間を置き、心の中で叫ぶ
…特殊なのはテメーの趣味だよ!なにをさも触手があるのが普通みたいに言ってんのこの人?無いのが普通だよ!
想像したら気持ち悪くなってきた。急にぶっこみ過ぎなんだよニブ様。
[なんだそれw]
[?]
[どゆこと?]
[流石にスベリ大魔王かw]
「いや。ニブ様はそういうキャラだから」
困惑している様子の視聴者に俺は注釈を入れる
流石に本気でこれやってるとは思わねえよな。でも俺の中のニブ様は常にこのスタンスなんだよな。
さて、先はまだ長い。集中するぞ。
80-71
winner! 1P 憂生イツカ
「はあ…はあ」
どうやらニブ様もかなり無理をしていたらしい。あの後から俺のペースは続き、とうとう80勝までやってきた。
「どうした?へばっちまったか?」
・・・。
さっきまで即レスだったニブ様の反応がない。本当にへばってしまったようだ。
などと考えていると少し遅れたところでのそっと現れ
魔王ニブルヘイム [すまない] [少しモンスターエナジーを補給してきてもよいだろうか]
…モンスターエナジー!?
あっ…モ〇エナのことね。びっくりしたぁ。てっきりこれから一狩り行くのかと思っちまった。散々魔王ノリを堪能してこっちは敏感になってるからそういうの辞めて。くやしい…!でも感じちゃう。ビクンビクン…って何言ってんだ俺は
[魔王疲れてきたな]
[魔王はゲームで遊ぶからな]
[第二形態くるー?]
そうしてしばらくすると魔王は帰ってきた。
[フハハハハハ!馴染む、馴染むぞ!]
[きたああああああ]
[おかえり]
「おっ帰ってきたな。んじゃやるか」
[いやまて] [ワガハイのホームでやろう] [ステージを変えてもいいか?]
魔王が提案する
ステージ?まあステージでキャラの性能が変わるなんてことも無いし、ニブ様がやりたいなら別にいいか。
魔王が選んだのは悪の組織のアジトだった。
仄暗くどこまでも続く廊下は底知れない組織の闇を感じさせ、まさにホームグラウンド。魔王の操るキャラもまた暗闇に完全に溶け込んでいた。
「って完全に保護色じゃねーか!」
[フハハハハ!最後まで踊ろうではないか!]
[姑息で草]
[小物対決ww]
98-98
winner! 1P 憂生イツカ
「はあ…はあ…」
頭の回転が鈍くなっているのがわかる。アドレナリンの貯蔵もどうやら尽きたらしい。
「うおおおおおおお」
お互いに最初の繊細さはとっくに無くしており、初心者同士の戦いでも見ているかのように乱雑にボタンを連打していた。
大会の練習ということならばこれほど効率の悪いことはない。だが登山家がそこに山があれば登るように、ゲーマーも対戦相手がいる限り続けてしまうのが嵯峨である。
そして
99-98
winner! 1P 憂生イツカ
100-98
winner! 1P 憂生イツカ
先に100に到達したのは俺だった。
[おわったああああああああああ]
[魂の2先だった]
[二人ともお疲れ]
魔王ニブルヘイム[イツカよ 対戦感謝するぞ]
[ニブ様!ニブ様!ニブ様!]
[おつ]
「ああニブ様。こっちこそ付き合ってくれてありがとな。今日は楽しかったぜ。」
[ワガハイも満足である。次は負けんがな]
魔王もどうやら満足そうだ。そうだ、聞いておきたいことがあったんだ。俺は質問する。
「ところでニブ様は今度の大会の予選出るのか?」
[出るつもりは無い][ワガハイが出るとなると民もただでは済まないだろう][事を荒立てたくないのでな]
意外だ。ニブ様ほどの強者なら出ると思っていたんだが、まあライバルが減ったと考えれば好都合か。
「それは残念だな。ニブ様と戦いたかったぜ」
[対戦であればいつでも受けよう。ワガハイたちは盟友なのだからな。]
「いつの間に盟友になったんだよ。」
こうして突発的に始まった俺の初コラボは幕を閉じたのだった。
しかし果たしてこれをコラボと言っていいのだろうか?
コラボとはもっと綿密に準備したり打ち合わせをした後に行う企画のようなものという認識である。今回はそんなものは一切なく、本当に俺がただやりたかったから実現したものであり、いわゆるゲリラコラボと呼ばれる類のものだ。
ゲリラコラボはVtuber達の間でもよく行われているが、こんな感じで成り行きだけで実現しているのだろうか?
流石にもう少しお互い配慮はすべきだろうな
「ま、楽しかったからどうでもいいや!」
そして、大会の予選はすぐそこまで来ていた。




