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第16話 熱帯の魔王

都会の喧騒が消え去りニートが本領を発揮する時間、視聴者も寝静まってきた頃、俺はネット対戦に励んでいた。


俺は順調に勝利を積み重ねており、ランクは既にマスターランクに達していた。

マスターランクというのは実質的に一般プレイヤーの最上位ランクで、これより上のグランドマスターはランキング上位の猛者しかたどり着けない領域となっている。


本戦出場が決まっているVtuberの最高ランクはマスターランクなので、一応目標は達成したということになる。ただ、マスターランクにもピンからキリまで存在する為、まだまだ研鑽を積まなくてはならない。


そんな中、俺は謎の猛者と連戦していた。


「中々やるじゃねーか…」


戦績は7勝7敗、全くの五分だ。


深夜のランクマッチは猛者が多い。そんな猛者たちとの対戦は一戦一戦が濃く、上達するうえでとても大きな収穫になる。


それにこの状況、この誰とマッチングするかわからないという状況は大会の予選と全く同じだ。おそらく腕に自信のあるVtuber達が参加してきて、予選は困難を極める状態になる。


もし今の対戦相手が大会の対戦相手だとした場合、俺が勝てる確率は五分ということになる。


それでは分が悪い。俺は優勝しなくちゃいけねーからな。


そんなことを考えていると対戦相手の名前の横に光っているマークが目に入った。


そのマークは配信者マークというもので、相手が配信しているかもしれないということを知らせてくれるマークだ。今の時代ゲーム配信というのは当たり前になっておりこういった配慮もされているのだ。


相手は配信者だったのか、名前は、


「魔王ニブルヘイム」


対戦相手は魔王だった。


名前を見て俺は薄ら笑いを浮かべる。


今時こんな厨二ネームの奴がまだ居るのか。俺が中学生の頃はこういうのにも憧れたりしたんだが。

厨二ネームが許されるのは中学生までだよねー。

…とはいうがこの名前であんなに強いのは逆に気になってきたな。それに、相手のゲームプレイを見て学べることもあるかもしれない。


対戦を終え、俺は対戦相手の配信を見に行くことにした。


「魔王ニブルヘイム…Vtuber…これか?」


検索画面を目いっぱいスクロールした先にその配信はあった。


「同接…2だと?」


過去のアーカイブにはびっしりと配信が連なっており、登録者数も二桁、そして、魔王のキャラクターのサムネ

詰まるところ魔王は底辺Vtuberだったのだ。


まあしかし驚くほどではない。今時Vtuberなど星の数ほどいるのだ。人気Vtuverも居ればその下に埋もれたVtuberだって山のようにいる。


俺も九十九の知名度で成り立ってるしな。個人Vtuberは事務所の力がない分、色々厳しいものがある。裏を返せば個人勢は事務所の看板を背負わなくても良いということではあるんだが


とりあえず同接はどうでもいい。ゲームプレイの参考にはさせてもらおう。

俺は配信を開いた。


禍々しい見た目、まさに魔王と言った立ち絵が置かれている。


「対戦よろしく頼むぞ。さあワガハイを楽しませて見せろ!」


重厚感を感じさせる低い声が響く。


30分後、、


「中々やるではないか…まさか貴様が勇者の末裔だったとはな。」


何戦かして初めての敗北の後のセリフだった。どうやら対戦相手を勇者に見立てていたようだ。迫真の演技である。


ここまで配信を見て俺は違和感を覚えていた。


「これが同接2の配信…?」


配信を見始めて約30分。俺は一本のアニメを見終えたかのような満足感を覚えていた。

それに、俺を含めて三人しか視聴者が居ないにも関わらず、画面の奥では完璧に魔王を演じ続けている姿があった。この視聴者数でこのロールプレイをし続けるなんて俺だったら考えられない。正気の沙汰ではない


俺はアーカイブもいくつか確認してみた。


「狂気だ…。」


俺が開いた範囲のアーカイブでは、画面の奥で一切魔王のロールプレイを崩すことなく演じ続けていた。それは紛うことなき狂気であった。与えられた設定という名の枷を、魔王ニブルヘイムは歓びとして受け入れ、誰に評価されることもなくその世界を徹底して生きている。


それに対して俺は、畏怖すると共に尊敬のような物も覚えていた。


これは俺が目指していたVtuberの在り方だ。現実に存在しながら、現実ではない存在である。最初はそんな姿を夢見ていた。しかし俺は自分という存在を演じているだけ。後ろにいる俺という存在が透けて見えてしまうことは本当は避けたかった。


そんな姿に一目を置き、俺はコメントを打ってみることにした。


[たいありでした]


たいあり、対戦ありがとうございましたという挨拶だ。

静寂を極めたコメント欄にはその七文字ですらひたすら際立って見える。


「む!憂生イツカではないか。先ほどは連戦ご苦労であった。貴様は我が宿敵と呼ぶに相応しい。こちらも感謝させてもらうぞ。」


俺の挨拶に対し、最後まで威厳たっぷりな言葉で返してくる。やはり魔王は魔王であった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次の日も俺は配信でネット対戦、略して熱帯に潜り、連戦連勝を重ねていた。


「結構様になってきただろ?昨日の夜連戦したのが効いてると思うんだよな」


キャラの動きもかなり理解してきており、コマンド入力の精度も上がっていた。やはり同じ実力の相手と連戦するのは効率よく経験値を得ることができる。深夜の魔王との連戦で俺はかなり成長することが出来たようだ。


[まじでいけんじゃね]

[飽きたから別のゲームしろよ]

[見事な対戦であった。我が宿敵よ。]

[先バレ見てきたら優勝してたぞ!]


見慣れたコメント欄に異彩な禍々しさを放つコメントがある。

もしや?と思ったが確信するのはまだ早い。なぜなら俺の視聴者は意味不明な奴が多いからだ。野生の魔王が居てもおかしくはない。


どうでもいいんだが、匿名というものに慣れてしまっているせいかユーザーネームを確認する癖がついてないんだよな。


俺がユーザーネームを確認すると期待通りの名前があった。


「おるやんけ!ニブ様おるやんけ!」


[ニブ様ではない。魔王ニブルヘイムだ」


俺が叫んだ直後に魔王は既にコメントを残していた。

てか早すぎだろ。心読まれてるの?魔王だからそれぐらいしてもおかしくないのか。


[ニブ様?]

[誰?]

[荒らし辞めてください]

[魔王ってw]


「昨日ランクマで連戦した人だよ。」


昨日のことを知らない視聴者に俺は説明をする。


[民を騒がせてしまって済まないな。挨拶に来たのだが、ワガハイは控えさせてもらおう]


おい。別にニブ様は悪くないのに気を使わせてしまったじゃねーか。初見さんには優しくしないとダメだろ。しかし去り際まで魔王のロールプレイ崩さないのは流石と言ったところか。


って感心してる場合じゃねえ


「待ってくれよ。ここの視聴者のことは気にしなくて良いから。お前らは茶でも出してろ。」

「また連戦してくれねーか」


[ニブ様!ニブ様!]

[初見さんお茶どうぞ」

[よかろう]

[売名ですか?]


「おっけ。じゃあID交換しようぜ」


「100本先取でいいか?時間なければ減らしてもいいけど」


[ワガハイとの終わりなき試練を望むか。望むなら、100の勝利を奪ってみせよ!]


突発の100先が決まった。

魔王だろうがVtuberだろうがコントローラーを持てばゲーマー同士、ゲームのプレイがそのままロールプレイになるのだ。


俺はこの予期せぬ来訪者と自己紹介がてら対戦に臨むのだった。



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