第10話 確変
ヒミツステージの魔の手は止まらなかった。何度も同じ場所で失敗し、配信に停滞の兆しが見え始めた。視聴者の集中力が途切れる、その臨界点を測ったように、俺はとある演出を入れた。
画面にゲームオーバーの文字が映し出されるその瞬間、沈黙が訪れるはずの空間に、どこからともなく、感情的な声が響いた。
???「諦めんなよ、諦めんなお前!」
[!?]
[誰!?]
イツカ「熱血おじさん!?来てくれたのか!ありがとう!頑張るよ!」
[熱血おじさんwww]
[熱血おじさん登場wwww]
イツカ「ちなみに熱血おじさんが来ると突破率20%アップします」
[ホントかよ]
[パチンコの復活演出かよww]
事前に音声を引っ張ってきただけの半日クオリティで殆ど効果は期待していなかったのだがまさかの食いつき。やはり熱血おじさんは皆の心を惹きつけてくれる。太陽のような存在だ。
その後も機を見計らって次々と演出を入れていった。
[カットインww]
[いつの間に用意したんだよ]
[赤保留きたあああああ]
[これ熱いぞ!これ熱いぞ!これ熱いぞ!]
[よくわかんないけどなんか楽しいw]
[今突破率何%?]
イツカ「熱血おじさん乱入で20% カットインで70% 赤保留は30%だな」
[100%超えてんじゃねえか]
[クリア確定]
イツカ「てかお前らパチンコ詳しすぎだろ」
[昨日も万発当ててきたぞ]
[パチンコ知らないやつ置いてけぼりで草]
イツカ「置いてけぼり?別にいいだろ?どーせお前らパチンコ好きだろうしな!」
[ばれてーら]
[人類全員パチンカスだと思うなよ!]
とりあえずパチンカスしかいないことは分かった。
いつしか俺はコメントと会話できるようになってきていた。周囲を気にせず、自分の好きなロジックで進むほうが、遥かに快適で、そして結果的に思った方向へと進んでいる。俺は視聴者との一体感のようなものを感じ始めていた。
攻略のほうも少しずつ進み、あと少しのところまで来ていた。
落ちる足場に乗る前、空中の段階から角度を微調整し最適な場所に降り立つ、そしてすぐさま次の板に向かって飛び込む。高さは十分、しかし勢いがつきすぎて滑り落ちてしまった。もう少し摩擦でブレーキが効いてくれればと言ったところだった。
イツカ「お前のその腹は何のために出てんだよおおおお」
[おっし]
[でもゴール見えてきたぞ!]
そして朝日が昇る頃、ついに...
イツカ「きたああああああああああああああああああああああああああああああ」
[しゃあああああああああああああああ]
[やったああああああああああああ]
[やれやれやっとかよ]
[きtらあああああああああああああああああああああ]
ガッツポーズと共にヒミツステージをクリアした。
全力でリアクションを続けていたせいでリアクションがどんどんエスカレートしてしまい、まるでゲームクリアのような反応をしてしまった。それでもいい。今はこの歓喜に浸っていたい。
「くぅ~疲れた。今日は見てくれてありがとう。また起きてしばらくしたら続きやるから是非見に来てくれよ。それじゃ」
[おつ!]
[おつ]
そうして配信を閉じた。
長時間配信で疲れているはずなのに目は冴えて興奮が収まらない。俺は仰向けになって配信を振り返る。
楽しかった。自分を出し切っている感覚だった。それはまるでVtuberとしての自分が少しずつ形作られていくようだった。
また、同接の方は低空飛行を続けていたが配信開始の頃とあまり変わらない人数で推移していた。視聴者を維持できていたということだろうか。もしかしたらあの荒らし共も黙ってずっと見てたのかもしれない。
「出し切ったな。さて、明日もまた頑張るか」
俺が眠りについた頃には既に朝日は昇り切っていた。




