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「あ~、すまないね、凛くん。うちの母は、この部屋を見ての通り西洋ものが大好きでね。君の様に国内で『本物』視ちゃったもんだから、興奮しちゃって」

神威がすまなそうに頭を下げながら、隣にいる依子を肘で突っついた。

「凛くんが怯えているじゃないか。その、好奇心丸出しの笑顔、止めてくれないか?母さん」

「何を言っているんだ、神威!悪魔だぞ!?本物だぞ!?あぁ・・・ガラスケースに入れて、大事に愛でたいくらいだ・・・」

「お義母様、嬉しいのはわかりますが、苦しんでいる凛くんに失礼でしょ?」

うっとりと凛を眺める依子を吉祥がやれやれといった感じで窘めると、「あぁ、そうだったね」と言いながら、表情を引き締め居住まいを正した。

「すまないね、凛くん。正直なところあまりの嬉しさに君への配慮が欠けていた。申し訳ない」

と、いきなり三人で頭を下げてきた。

大の大人からの謝罪に焦ったのは凛の方だった。依子のテンションの高さに圧倒はされたものの、これといって気分を害していたわけではなかったのでこの展開には凛のほうが慌てる。

「あ、いえ!どうか気になさらないでください。こちらこそ、突然、お邪魔して申し訳ありません」

「あぁ、気にすることはないよ」

依子はそう言うと、先ほどとは違う眼差しで、じっと凛を見つめた。

息を詰め、負けじと依子をじっと見つめ返す。勝負と言うわけではないのに、目を逸らしてはいけない様な気がして。

その沈黙はさほど長くはなかったかもしれない。だが、凛には重く長い時間。

「・・・ふむ・・・成程」

依子が一人納得したように呟くと、神威が「母さん、説明して」と催促する。


「凛くんは、確かに悪魔憑きだ」


その一言に凛は、改めて衝撃の様なものを受け、グッと拳を握った。

「本来は四大悪魔のいずれかを降ろしたかったのだろうが、贄がそれに見合わなかったのだろうね。だが、思いがけず東の魔王の配下が釣れた。それが、アスモデウスだ」


「に、え?」


この悪魔を自分に憑ける為に生贄を用意したというのか?

「基本、神だろうと悪魔だろうと力を借りる時には、それなりの対価が必要だ。悪魔は如何にもだが、善とみなしている神なんてかなりえげつないものだ」

宗教的な事は凛にはよく分からず、首を傾げた。

「厄災が起きれば生娘を贄として差し出すんだからな。昔話でよく聞くだろう?」

その言葉に凛は、幼少時読んだ物語を思い出し納得する。

何も知らない子供の頃と、善悪の分別が付く今とでは、それらの捉え方が変わってくる。対価として生贄が捧げられていたなど、この現代では許される事ではない。

「俺の・・・この悪魔に差し出した、生贄は・・・」その先に続くはずの言葉が出ない。

依子は正確に凛の言葉を汲み取り、小さく頷いた。

「その前に、凛くんは、何が知りたい?」

だが、彼女から投げかけられた言葉は彼の予想に反したもので、思わず返答に詰まってしまう。

「あぁ、言い方が悪かったね。君は、何処まで知りたいんだ?」

言い方を変えられても、すぐにはピンとこず少し考え込むが、すぐに顔を上げた。

「俺が知りたいのは、俺が何故こんな状況になったのか、です」

「真実が・・・それが君にとって、君を取り巻く全てが壊れてしまうかもしれないよ?」

「・・全てが、壊れる・・・?」

「そう。生半可な気持ちであるなら、知らない方がいい。ただ、悪魔の力を抑えるだけにしておけばいい。この世は、知らない方が幸せだという事が沢山あるのだから」

依子は、一切の感情を浮かべることなく、凛を見つめた。

依子の瞳は黒い。黒であるはずなのに、黒にあらず・・・その色合いは不思議で、言葉で表すことは非常に難しい。

ただ、その瞳に見つめられると大概の、ごくごく普通の人間は魅了されたかのように、吸い込まれるかのように、放心するのだが。

凛は意思の強さを込めたブルーグレーの瞳で、それを受け止めた。


「俺は・・・知りたい。例え全てを知って後悔したとしても・・・今以上の絶望が待っていたとしても・・・知りたい」

睨み付けるように見つめ返す凛に、依子は、はぁ・・と溜息を吐いた。

「わかった。だが、これから言う事は君が思っている以上に、辛いぞ?」

その言葉は重く、凛はごくりと唾を飲み込み頷いた。

「なら、もう何も言いわない。・・・・だが、辛くなったら直ぐに言うんだ」

先ほどとは違い、泣けてしまうほどの優しい声色に、凛の強張った表情が少しだけ崩れたのだった。


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