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朝食時にご神木の精霊より授かったネックレスを凛に渡すと、あからさまな体の変化に目を見開く。

「凄い・・・・とても体が軽い・・・・」

依子から最上級の護り紐を貰ったが、若干体に圧が掛かるような感覚があった。気にしなければ普通に過ごせる程度のだが。

だが、この水晶を身に着けたとたん、兎に角体が軽い。


「それは神社のご神木から頂いたの。それがないと神社の敷地内に凛は入れないと思うから」

遠野家の比ではないほど、凛にとっては厳しい所なのだ。

寝る時も入浴の時も絶対に外さないようにと念を押される。なんせ、神社の敷地内に住むのだから。


朝食が済み、まずは境内のご神木に挨拶に向かう事になった。

此処に住まわせてもらう事と、水晶のお守りに対する感謝。百合子は神社で働く事になったご報告と挨拶だ。


霊感など無い二人だが、ご神木に近づくにつれ空気が変わっていく事を感じ、気持ちを引き締める。

ご神木への挨拶は奏が担当。それが終われば彼等が住む家の案内を、吉祥と神威が担当した。


ほぼ、遠野家とお隣と言った距離ではあるが、木々に囲まれた静謐な空間にその家は建っていた。

平屋ではあるが、かなりの広さを持つ家で、二人で住むにはいささか広すぎではという印象だ。

外壁は濃いめの茶色だが、室内の壁は白で統一されており、床もスモークグレーのフロア材でとても明るく感じる。

何よりも、テラスに張り出した大胆な軒が奏のお気に入りで、お天気の良い日は庭を眺めながらテラスで食事をしたり昼寝をしたりするのが好きだった。


「平屋だけど部屋数も多いし、とても解放的な間取りになっているの」

「家具とかはおさがりで悪いけど、使ってもらえたら嬉しい。あまり傷んではいないはずだからね」

傷んでるも何も、流石に新品とは言わないがとても綺麗な状態で、本当にこのまま使っていいのか、汚してしまうのではと不安になる。

「あぁ、気を使わないで使ってちょうだい。ただ、百合子さんが中古を受け付けないのであれば、遠慮なく新しい家具を入れてもらってもいいのよ」

吉祥が申し訳なさそうに言うものだから、百合子が咄嗟に否定した。

「とんでもない!正直な所、あまりに綺麗で・・・私達が汚してしまったらどうしようかと・・・」

「あらあら、そんな事気にしないで。よくよく見ると意外と汚れてたりするのよ。小さい頃の奏は結構お転婆だったし、いたずらっ子だったから、あちこちにその名残があるのよね」

確かに良く見れば吉祥の言う通り傷や汚れもある。だが、本当によく見れば、だ。

「家や家具は使わないと、ただ傷んでいくだけだからね。百合子さん達とは長い付き合いになりそうだから、遠慮しないで」

神威達にここまで言われれば、遠慮するほうが失礼に当たる。

「ありがとうございます。では、遠慮なく使わせていただきます」

百合子と凛は深々と頭を下げた。


こんな風にしか感謝の気持ちを伝える事ができないもどかしさ。

本当に、本当に、自分達は運が良かったのだと、遠野家に心から感謝するのだった。



家を見た後、そのまま神社へと移動した。百合子を紹介するためだ。

吉祥には功徳(こうとく)という名の弟がおり、彼が神社を継ぐことになっている。

姉弟仲はとても良く、神威にも懐いていた。当然、奏の事もまるで自分の妹か娘の様に溺愛している。

だから、凛の事を聞いた時は「俺の可愛い娘をやれるかっ!!」と大騒ぎしたとかしないとか。

そんな事情など知らない百合子と凛だったが、長い付き合いとなりそうな遠野家の縁者である。

しかも神社の敷地に住まわせてもらい、百合子の職場となるのだ。

緊張しないわけがない。


見るからに緊張しまくりの二人に、吉祥と神威は安心させるように声を掛けた。

「そんな緊張するほどの家じゃないから、気楽にしてちょうだい」

「そうそう。皆気さくで面白い人達だから」

奏も凛の手を取り「大丈夫、大丈夫」と、あの夜と同じく安心させてくれる。

あの夜の方がずっと大変だったことを思い出し、ホッとしたように肩の力が抜けていった。



神社に着くと、自宅スペースへと案内された。

「どうぞ、上がって頂戴」

吉祥に案内され居間へ向かえば、奏にとっての祖父母と叔父でもある功徳がソファーに座っている。男性陣は勿論、神職の装束で。


どこか異質でピリリとした雰囲気に、緊張を隠せない表情で吉祥に促され居間に足を踏み入れたその人に、功徳は一瞬で全てを奪われた様に目を離す事が出来なかった。



功徳は、姉である吉祥と神威が大好きだ。

幼い頃からいつも一緒で、大人になってからも仕事柄一緒にいる事が多かった。

そんな二人は、功徳の理想でもあった。その所為か、女性というより他人に対しての理想が高く、女性とお付き合いしてもそれ以上先に進む事がなかった。

両親からは「理想が高すぎるのか?」と呆れられ、今では結婚に関しては何も言われなくなり、本人もどこか諦めかけていたのだが・・・

百合子を見た瞬間、まさに漫画などで見る天使の弓矢で心臓を貫かれたかのように鼓動が大きく跳ね上がり、今もドクドクとその高鳴りは収まる気配がない。

両親や姉、義兄が何を言っていたのかすら覚えていないほど、視線は百合子に釘付けだ。

本当は、可愛い奏の彼氏となった凛に一言釘を刺す予定だったのだが。


心を持っていかれた人の息子に、何が言えるのか。

それに、凛もまた百合子に似た美しさだったから。


心ここにあらずの功徳に、父親でもある宗賢(そうけん)が「お前も挨拶しろ」と呆れたように声を掛ければ、弾かれた様に背を伸ばしいきなり自己紹介を始めた。

「はじめまして!(かさね) 功徳と言います!三十七歳独身です!」

余りの勢いの良さに、百合子は驚き仰け反りながらもニッコリ微笑む。

「綾瀬百合子です。こちらは息子の凛です。ご迷惑をおかけするかと思いますが、よろしくい願いします」

百合子の微笑みにまたもノックアウトの功徳。

なんだかよくわからない動きをしながら、呪文のように何かを呟く伯父に奏は「功徳おじさん、キモイ」と強烈な一言。


可愛い奏の容赦ない一言に、ようやく正気に戻る功徳。

そして取り繕うように、んんっと喉を鳴らし改めて自己紹介をやり直した。

「お見苦しい所をお見せして申し訳ない。改めまして、功徳と言います。百合子さん、凛君、これからよろしくお願いします」

今更ながらキリリと真面目な顔で頭を下げた。


功徳おじさん、年齢より若く見られて、真面目な顔してればカッコいいのに・・・ひじょーに残念・・・・

百合子さんに一目惚れしたのがバレバレ・・・・姫ちゃんは、良いご縁とか言ってたけど・・・・びみょー・・・


どこか複雑そうな顔をした凛の肩に手を置き、取り敢えず謝っておく。

「ごめんね。変なおじさんで」





~ 第一章完 ~



これで第一章完結です。

ありがとうございました!


第二章も執筆中ですが、めちゃくちゃノロいです・・・・

ある程度たまりましたら投稿したいと思いますので、その時にはまたおいでいただけたら嬉しいです。

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