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奏には、彼がいつ死んでしまうのかがわかる。

そして、寿命を延ばす事も出来る。ただ、ギフトを寿命にあてがったとして、どのくらい生きられるのかはわからない。

十年かもしれないし一日かもしれない。それは奏ですら分からない事。

しかも、ギフトを寿命に変換するには一度死ななくてはいけないのだ。

一度リセットされ、再生する。それが一番近い表現らしい。

再生された後も『徳』は積めるらしいが、寿命にあてがう事はもう出来ないという。


たどたどしい奏の説明を大人達が理解しまとめ、親友夫妻に説明した。

病気を患った夫はその運命を受け入れ、このまま寿命を全うしようとしたが、妻がそれを良しとしなかった。

例え一日であろうと、側に居て欲しいと懇願したからだ。

彼等夫婦は人が羨むほどに、深く愛し合っていたから、それを望むだろうと予想はしていた。

だが、依子達から見てもあまりに荒唐無稽で薦められるものではない。

ましてや、ギフトを寿命にあてがう行為は、初めておこなうのだから成功するかもわからないのだ。

それでもと、親友の妻は懇願した。

縋る様なその願いを、奏は凛とした態度で了承する。

そんな奏を依子達は不思議なものでも見るかのように、目を(しばた)かせた。


その時の奏の表情は、まだ十才にも満たない子供のものではない。

全てを悟りきったかのような、それでいて感情が抜け落ちたかの様な、その表情は人とは言い難く、依子の背に悪寒が走る。

嬉しいも、悲しいも、辛いも、戸惑いも、何もない。正にそれは『無』。

先ほどまでのたどたどしい口調ではなく、何かが降りたかのように滑らかな口調で語り始める奏に、皆が目を見開いた。

奏のその状態が夫婦に依子達に、絵空事ではなくこれは奇跡なのだと確信させてしまった瞬間だった。


「親友夫婦の寿命は伸ばすことが出来て、未だに元気で過ごしているよ」

「え・・・?本当に、出来たんですか?」

「あぁ。彼等には私の知り合いの病院に転院してもらってね、奏が予言した日からかっきり一週間後に亡くなったよ」

医師も立ち合い、完全に死んでしまった事を確認。

まだぬくもりのある手を握りしめる妻の前に、喪服に見立てた黒いワンピースを着た奏が立つ。

その表情は、人が変わったかのように語っていた時と同じ『無』の表情。

緊張感で満ちる室内。全ての視線が彼女に集まる。

だが奏はそれらを気にする様子もなく、ただベッドに横たわる遺体を見つめる。

そして、その額に手を置き、目を閉じた。


時間にすればほんの一分位だったのだろう。

だが、家族や依子達には十分にも匹敵するほど長く感じた。

呼吸の音すら響くような静けさの中、奏は目を開き手を離す。

その数秒後、死んだはずのその人が、先ほど吐き出した息を肺に戻すかのように、大きく息を吸い込んだ。

そして震える瞼。開いたその目には確かな光を宿し、幾度か瞬きを繰り返した。

すぐさま動きバイタルを確認する医師。

脈拍 ・ 呼吸数・ 血圧 ・体温を素早く確認し、一言。


「問題ありません」


その一言に、家族は抱き合いながら喜び号泣した。

奏は直ぐに神威に抱き上げられ、別室で診察を受けた。

極度の過労で、数日は安静にするよう診断を下されたが、命に別状が無い事を知り一同ほっと胸を撫で下ろした。


依子は親友家族に、奏の能力に関しての箝口令を敷き、今後についての事に対ししつこいほど念を押す事を忘れない。

それは奏を守る為でもあり、彼等家族を守る為でもある。

正にこの出来事は、悪意を持つ見方をすればただの『奇跡の生還』だ。

奏の行為は、彼等家族を騙す為のただのパフォーマンスで、それを信じた馬鹿な家族としてやり玉に挙げられる可能性がある。

そして依子達は今後、この奇跡を奏にさせるつもりもなかった。

だが後に致し方なく、数件の奇跡を起こさざるを得ない状況になったのだが、幸いな事に奇跡を受けた人達は、平均五年以上寿命が延び奏に感謝しながら幸せに暮らしていた。


そして奇跡を起こす際、喪服で現れる奏を、何時しか人は『黒の天使』と呼ぶようになるのだ。


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