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この気持ちが嫌だとは思わない。しかも、奏だけに向かっている特別なものだという事だけはわかっていた。
そんな勢いで、奏の事を大切だと彼女の祖母に白状してしまい、未だ頬の熱が冷めやらぬ凛。
照れている凛を、依子は微笑ましそうに見つめていたかと思うと、膝の上で眠るシロを徐に抱き上げ、そのまま彼の足元に落した。
突然の事に「えっ!」と声を上げた時には、シロは凛の足元に吸い込まれる様に消えていった。
声も出せずに自分の足元を凝視する凛。
消えた?床に、落ちたんじゃないのか?え?
「影に返したのさ」
「え?影?」
「服従契約させた所為で、シロは一日、二日眠り続ける。主の影の中が一番の休息場所だからね」
さも当然という様な顔で言うが、最早理解の範疇を超えていて声も出ない。
いや、シロを差し出された時点でもう理解する事すら放棄したはずだった。
それ以上の事がさらに更新されていき・・・・慣れることができるのだろうか・・・・そんな事を呆然と思いながら、凛は「そうですね」としか答える事が出来なかった。
「シロは呼びかければいつでも出てくる。危険が迫った時は呼んで、助けてもらえばいい」
出し入れ自由なのか・・・・と、単純に思った凛。
もう、頭の中がいっぱいいっぱいなのだった。
「日本茶でいいかな?」
「あ、はい」
湯気の立つ取っ手付のカップを目の前に置かれ、湯呑ではないのか・・・と思いながら一口飲めば、少しの苦みとまろやかな舌触り、ほっとするような緑茶の香りが鼻から抜けていく。
凛がカップをテーブルの置くと、依子が切り出した。
「凛くんとはどんな形にしろ、末永い付き合いになりそうだからね、我々の事を話しておこうと思って」
「人に知られてはまずい事なのですか?」
何となくニュアンスが、余り人に知られたくない、そんな感じだった。
「まぁね。私等だって大っぴらに霊能者ですって触れ回ってるわけではないんだ。そんな事をしたら反対に胡散臭く見られるだろう?」
確かに・・・と、頷く。
「それに私達は一見さんお断りだからね」
「え?そうなんですか?」
じゃあ自分は何て運が良かったんだろうと、胸に手を当て安堵の息を漏らしてしまった。
そんな凛を見て依子は「運が良かったんだよ」と、心を読んだかのように笑った。
依子はまず、遠野家の事を話した。
彼女の息子である神威は、主に祓いを得意としている。
彼の凄い所は、国や宗教を問わない所。悪魔だろうが悪霊だろうが、凛の様に魂レベルの癒着が無ければ何でも祓ってしまう。
意外と海外の霊は宗教意識が強くプライドが高い。
よって異教である外人の祓い屋を毛嫌いし、強く反発してくるのだが、それをものともしないのが神威なのだ。
話だけを聞けば力技だけの様な気もするが、一応、相手側の言い分を聞いてから、消すか消すか消すか・・・たまに、浄化するかを決めている。彼は意外と短気なのだ。
神威の妻である吉祥。彼女の実家は神社で、遠野家の後ろにある。つまりは、お隣同士。
神威とは幼馴染で、互いの家を行き来する家族ぐるみの付き合いをしている。
吉祥の実家である神社は、憑きもの祓いの神社として有名で、いわく付きのぬいぐるみや人形、心理写真などが持ち込まれる。そして、何かに取り憑かれたのではないかという人達もよく訪れる有名な神社だった。
また、境内にある樹齢千年にもなるご神木はパワースポットとして老若男女問わず人気で、年に一度行われる吉祥の神楽舞は悪いものが祓われて幸運が訪れると大人気。
元々、彼女の家族も霊力が強く神力をも操る事ができた。だが、その中でも桁違いに強いのが吉祥。勘違いなのではなく、彼女の神楽舞には神力が込められ悪しきものは全て払われるのだ。
本来の彼女は、自然霊や精霊を使役し穢れたものを浄化する。主に呪術系を得意としていた。
術を解除したり返したり。神威とは違う種類の祓いをしている。
よって彼女の除霊を希望する人達は、後を絶たない。
そして奏の事になると、依子は言葉を選ぶように慎重に話し始めた。
「奏の力は、人の寿命が視える事だ」
「寿命?」
「あぁ、信じられないだろう?それだけじゃない、『ギフト』も視えてそれを与える事すらできる」
凛は困った様に首を傾げる。そう、意味が全く理解できなくて。
「ふふふ・・・わからないだろう?当然さ。私ですら未だに理解できないのだからね」
依子は年齢にそぐわない可愛らしい笑顔を浮かべながら、お茶すすった。
「あの子が変な事を言い始めたのは、小学校に上がりたての時だった」
目を閉じればあの日の事を今でも、昨日のことのように鮮明に思い出す事が出来た。




