第22話:心臓が跳ねる距離
午前の競技が全て終了し、一度お昼休憩になる。
みんなそれぞれ友達や家族と集まり、お弁当を広げていた。
そんな中優は校舎に入り階段を駆け上がっていた。
「屋上前って結構遠いな……」
「先輩、大縄飛び終わったあとだけど大丈夫かな……」
大縄跳びを終えたばかりの遥にこの階段を登らせるのは少々酷かもしれない、と心配がよぎる。
屋上前に着く。
ドアには「立ち入り禁止」の札と大袈裟なくらいのチェーンが巻かれていた。
「そこまでしなくても」
優は苦笑いしながら適当に踊り場に腰を落とす。
カバンからスマホを取り出し、ソワソワした気持ちを落ち着かせるようにして遥を待つことにした。
◇
お昼のアナウンスが入り遥は、待ってました!と言わんばかりに急いで校舎へ向かった。
スマホのメッセージで場所を再度確認する。
《屋上前の踊り場が人来なくて穴場らしいです!》
遥は浮ついた足取りで階段を登り始めた。
が、2階に着いた頃には既にふくらはぎに乳酸が溜まってパンパンになる。
大縄跳びでしこたまジャンプした後の運動不足の脚には、なかなかキツい試練だった。
自分の足に鞭を打ちながらなんと登り続けていると、ようやく最上階が見えてくる。
ガチガチに施錠された扉の前に座り込んでいる優の姿を見ると、一瞬で疲れが吹き飛んだ気がした。
「佐久間くん、お待たせ!」
「あ、先輩!大丈夫でしたか?ここ、階段キツかったですよね……?」
優が心配そうな顔でこちらを見ている。
「全然!大丈夫だよ!」
「ほんとですか?ならよかったです」
優の表情がホッとした様子に変わる。
本当はあんまり大丈夫じゃなかったけど、この顔を見られただけでも嘘をついた価値はある。
「地べたですけど……とりあえず座りましょうか」
「そうだね!」
優に言われ、二人は自然と“横並び”に腰を下ろす。
いつもは机越しに向かい合って座っていたから、やけに距離が近く感じる。
ただ並んで座っているだけなのに、胸がどきどきする。
二人はどこかぎこちない様子でお弁当を食べ始めた。
「そういえば、先輩の大縄跳び見てましたよ!」
優が沈黙を破る。
「え、見てたの……」
「はい!誰よりも応援してた自信ありますよ!」
「あ、ありがと……」
応援してくれていたという嬉しさと、見られていた恥ずかしさが混じって何とも言えない感情になる。
「もしかして、なにかまずかったですか……?」
遥の表情を見て、優が不安そうに問いかけてくる。
「ううん、応援してくれてたのは本当に嬉しいの……」
「でも、私運動苦手だからちょっと恥ずかしいなって……」
「全然恥ずかしがることじゃないですよ。頑張ってる先輩、かっこよかったです!」
優の言葉で遥の顔が少し赤くなる。
「さ、佐久間君はこの後何か出るの?」
動揺を誤魔化すように質問を返す。
「俺ですか?俺は最後のクラス対抗リレーだけですね」
「じゃあ、今度は私が応援するね!」
「ありがとうございます!先輩に応援してもらえたら頑張れそうです!」
優は優しい笑顔で返す。
傍からみればつまらない会話かもしれないが、二人にとってはとても充実した大切な会話だった。
更新が少し遅くなってしまい、すみません……!
今回は、体育祭の合間にふたりが“横並び”で過ごす、特別なお昼の時間を書きました。
ただお弁当を一緒に食べて、ちょっと会話をするだけ。
でも、お互いを意識し始めた今のふたりにとっては、そんな時間こそがいちばん大切で――。
揺れる感情と、ほんの少しの距離感が「ドクン」と胸に響く、そんなお話になっていたら嬉しいです。
次回はリレーの応援。そして、彼の背中を見つめる彼女の気持ちに、また一歩変化があるかも……?




