第21話:列の真ん中で飛ぶ君に
体育祭本番の朝。空は快晴、容赦ない日差しがグラウンドに照りつけていた。
優と遥は憂鬱な気持ちになりながら、校長先生の長ったらしい開会宣言に耳を傾けていた。
二人とも参加する種目が、クラス全員でやる大縄跳びとクラス対抗リレーしかないのでこの後ほとんどが暇な時間になる。
その事実が、二人の憂鬱を加速させた。
◇
開会式が終わり、クラスごとに割り当てられたテントに戻った。
周りからはガヤガヤと体育祭を楽しむ声が聞こえてくるが、遥は自席で小さくなることしか出来なかった。
早くお昼にならないかな……
と、いつも通りのことを考えていたが遥は気が付いた。
あれ?今日って一緒にお昼食べれるのかな……?
今日は旧校舎の立ち入りが禁止になると、事前に担任から通達があったのをすっかり忘れていた。
“もしかしたら今日は会えないかもしれない”
遥は体育祭なんてそっちのけで、そんなことばかり考えていた。
◇
「あちぃ~」
隣に座っている陽介が、至極当然のことを言ってくる。
「言うな、余計暑くなるだろ」
「もう9月も終わるってのに、どうなってんだよ地球は」
優と陽介は、クラステントの後ろの方に座って、暑さに文句を言い合っていた。
前の方では、カースト上位の方々が大声で応援している声が響いている。
「陽介はあっち側だと思ってたよ」
「ん?俺別にクラスに思い入れとかあんまねーんだよなぁ」
「だからこういう、“クラス一丸!”みたいな行事あんま好きじゃねーんだよ」
「へー、意外だな」
どうでもいい会話を繰り広げながら、優の頭の中は今日先輩と何を話すかでいっぱいだった。
「そういや今日、旧校舎閉まるって言ってたけど、どこで先輩と昼飯食べるんだ?」
「そうだなぁ……え?旧校舎閉まってる……?」
「え?じゃねぇよ、昨日ホームルームで言ってただろ」
「全然聞いてなかった……」
痛恨のミスだ。
今日もいつもの教室でお昼を過ごすつもりだったから、何も連絡してなかった。
「もしかして、今日どこで食べるか決めてねーのか?」
明らかに顔色が悪くなった優を見て、陽介が声を掛ける。
「しょうがねーな。俺の秘密の場所、教えてやるよ」
「ほ、ほんとか!?」
「その代わり、貸しひとつな」
陽介に一つ弱みを握られることになったが、今はどうでもよかった。
「うち、屋上は立ち入り禁止だけどよ、屋上の前の踊り場までは行けるんだよ。」
「あそこだったら誰も来ねぇし、“二人きり”になれると思うぞ」
陽介がわざと意識させるような言い方をしてきた。
「お前、いちいちそんな……まぁいいや、マジで助かった、サンキュ」
「ちゃんと先輩に言っとけよ」
「分かってるって」
鞄からスマホを取り出し、先輩にチャットを送った。
優は体育祭なんてそっちのけで、自分の青春を謳歌していた。
◇
クラスのみんなが声を張って応援する中、遥は退屈な時間を過ごしていた。
あんな大声出して何が楽しいんだろ……
そんなことを考えていると、鞄の中でスマホが小さく震えた。
遥はスマホを取り出し通知を確認すると、ドクンと心臓が跳ねた。
“佐久間 優から1件のメッセージ”
この文字だけで遥の憂鬱な気持ちは少し晴れる。
内容を確認する。
≪今日旧校舎が閉まってるらしいんですけど、知ってましたか?≫
冷えきっていた遥の胸の奥が、じんわりと温かくなった。
佐久間君、今日も一緒にご飯食べてくれる気だったんだ……
≪うん、昨日ホームルームで先生が言ってたね≫
≪陽介が穴場を教えてくれたんで、今日はそこで食べませんか?≫
遥は心の中で小さくガッツポーズをした。
今日も佐久間君と一緒にお昼を食べれる。
遥にとってそれは、体育祭で優勝するなんかよりよっぽど嬉しかった。
もうすぐ、お昼前の最後の種目の大縄跳びが始まる。
クラス全員参加なので絶対に参加しないといけない。
でもそれを乗り越えればお昼、そう思えば少し元気になれた。
◇
午前中の最後の種目、大縄跳びが間もなく始まる。
「お、大縄跳びって3年全員参加の種目だったよな?」
「そうなのか?」
「お前、ちょっとくらいは体育祭に興味持てよ……」
我ながら何も知らなさすぎるなとは思う。
「3年全員参加ってことは、先輩も参加するってことだろ?」
「っ!?確かに……」
「応援、しなくていいのか?」
「……する」
優と陽介は今日初めて自主的に前列に向かった。
「先輩って何組なんだ?」
「えっと、たしか5組だったかな」
「5組5組……あ、あそこだ」
陽介の指さした方を確認する。
縄の横に整列した集団の真ん中付近に先輩がいた。
前に保健室で見た体操着姿。
髪の毛を後ろでくくっていて、初めて見る先輩の姿に自然と胸がときめいた。
「今、髪くくってるのもいいな~とか考えてただろ」
「ちがっ、くはないけど……」
「お、最近素直になってきたな」
「うるせぇ……」
先輩の事が好きだと自覚してから、陽介の茶化しに反論する気が薄れてきた。
「あ、始まったぞ」
大きな笛の音とともに大縄跳びが始まった。
先輩は真ん中の方だからそこまで高く飛ぶ必要はないけど、そもそも運動が苦手って言ってたししんどいだろうな……
“先輩、がんばれ!”
声には出さずとも、心の中では誰よりも大きな声で叫んでいた。
だが、純粋に応援していた優の思考に邪な思考が混じる。
飛ぶたびに優しく揺れる後ろにまとめた髪と……胸元に、勝手に目線が吸い込まれる。
「……お前も男子だな」
「っ!しょ、しょうがねぇだろ……」
優は邪念を振り払うように頭をブンブンと振り、応援を続けた。
今回は少し更新が遅れてしまってすみません……!
体育祭というちょっと特殊なイベント回ということもあり、どう描こうか悩んで筆が止まりがちでしたが、
書いてるうちに「優と遥らしさ」が自然と滲んできて、楽しくなってきました。
体育祭本番、まだまだ続きます。
そして――少しずつ、二人の距離も、動き出します。
次回もどうぞよろしくお願いします!




