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第13話:ふたりになる場所

 新学期が始まって数日が経っても、遥の中の孤独感は消えてくれなかった。


 家に帰って夜になれば、推しが配信をして、優とチャットで話せる。


 でも朝になると、また”ひとりぼっちの教室”に戻らなきゃいけない。


 日中と夜のギャップで気が滅入ってしまいそうだ。


 そんな生活が一週間ほど続いた—— 。



 夏休みが明けて、初めての日曜日。


 遥はいつも通り自室で推しの配信を見ながら優とチャットをしていた。


 ≪やっぱりこのコトちの新衣装、最高ですよね!≫


 ≪うんうん!コトちらしさがしっかり残りながらちょっと大人っぽい感じが最高だよね!≫


 この時間が、今の遥にとって一番心が安らぐ瞬間。


 だが、今日はそんな時間も少し憂いを帯びている。


「明日からまた学校か……」


 また5日間、あの場所に行くと思うと自然とため息が出た。


 そのことを考えるだけで、楽しいはずの時間なのに気分が沈んでしまう。


「学校でも、佐久間君と話せたらなぁ……」


 そんな言葉がポロっと口に出てしまうほど、遥の孤独は限界を迎えていた。


 気付けば指が自然と文字を打っていた。


 ≪佐久間君、明日学校で話せない?≫


 送信ボタンに触れた指先が、かすかに震えていた。


 ◇


 PCの前で推しの配信を見ながら、先輩とスマホでやり取りをする。


 夏休みの後半からルーティンになったこの時間がとても幸せだ。


 いつも通り推しトークをしていると、少しの間返信が止まった。


 しかし、もう優は焦らなかった。


 きっとお母さんに呼ばれたりしたのかな?


 そんなことを考えながら推しの配信を見ていると、机の上のスマホが震えた。


 おっ、返信来た。


 最近は良い意味で慣れてきて、通知を見る瞬間に緊張することも無くなってきた。


 だが、そんな余裕なんて、ほんの数秒前までの話だった。


 ≪佐久間君、明日学校で話せない?≫


 一瞬時が止まる。


 この誘い方って……まさか……


 期待で胸がいっぱいになりかけたが、一度冷静になる。


 いや、そんなわけないよな……


 一瞬抱いた期待を胸の奥に仕舞い、返信を返す。


 ≪先輩、どうかしたんですか?≫


 すぐに返信が来る。


 ≪佐久間君と直接話がしたいなって……ダメかな?≫


 一度仕舞い込んだ期待がまた押し寄せてくる。


 ≪ダメなわけないじゃないですか!≫


 ≪良かった。 じゃあ明日のお昼休み、”あの空き教室”で待ってるね≫


 その日、胸の奥が静かに騒がしくて、なかなか寝付けなかった。



 ——この日の午前中の授業は全く頭に入って来なかった。


 いつもより長く感じた午前中を乗り切り、四限終了のチャイムと同時に教室を出る。


 期待と、少しの不安を抱えながら空き教室のドアを開ける。


 中はがらんとしていて、静寂に包まれていた。


 流石に早く来すぎたかな……?


 先輩の姿はまだなかった。


 近くの椅子に腰かける。


 長らく誰も座ってなかった椅子の軋む音が教室に響く。


 しばらくすると、


 ガラガラ——。


 静寂を破るように、ゆっくりとドアが開いた。


 ドアの向こうにいた先輩の姿は、毎日チャットで話しているのにどこか懐かしいような感じがした。


「先輩、お久しぶりです!……あ、いや、毎日チャットしてるから“お久しぶり”ってのも変ですけど」


 久しぶりに直接話すのに、思ったより自然に話せる自分に少し驚いた。


「ごめんね、急に呼び出しちゃって……」


 ほんの一拍の沈黙。


「全然大丈夫ですよ!それで、どうしたんですか?」


 少しの期待を胸に、遥に尋ねる。


 だが、なかなか返答は返って来なかった。


 遥はうつむいたまま、表情がみるみる暗くなっていく。


「先輩……?大丈夫ですか?」


 先輩は俺の問いかけに顔をゆっくりと上げ、ようやく口を開く。


「佐久間君、私ね……」


 言葉を選ぶように、少しずつ、ぽつりぽつりと話し始めた。


「学校に、友達……いないの……」


 全く予想だにしてなかった言葉に戸惑ったが、遥は続ける。


「夏休み、佐久間君と友達になれて……」


「色々あったけど、今では毎日チャットで話せて……」


「最近すごく楽しかったの。 でも、学校が始まってクラスのみんなが楽しそうに話してるのを見てるとね、胸が……苦しくなるの……」


「今まではこんなことなかったの……多分、佐久間君と友達になって、毎日話して、友達がいる感覚を知っちゃったから……」


「私も学校で、みんなみたいに話せたら……佐久間君と話せたらって……」


 優は真剣な表情で遥の独白に耳を傾けていた。


「ごめんね!いきなり呼び出されて、こんな意味わかんない話聞かされても困るよね……」


 言い切ると踵を返して教室を後にしようとする。


「俺も!先輩と、学校でも話したいです!」


 廊下にまで響きそうなくらいの声に、遥は足を止めて振り返った。


「チャットで話すのも良いですけど、やっぱり直接話す方が楽しいですからね」


 優は不思議と穏やかな表情で遥に語り掛けていた。


「それに、“また”もまだじゃないですか」


 その言葉を聞いて、遥は鼻の奥がツンッとする。


「俺、先輩と“また”出かけれるの、結構楽しみにしてるんですよ?」


 まぁ、俺から誘えって話だけど。


「先輩、俺、これからは学校でも、家みたいに話したいです」


 遥は震えそうになる声を抑えながら答える。


「でも、私たち学年も違うし……話す場所もないし……」


「ここがあるじゃないですか!」


 遥の目に映る寂れた空き教室が、一瞬だけ、夕陽のようなオレンジ色の光に包まれて見えた。


 ——旧校舎の空き教室。 


 二人の始まりの場所で、これから二人の特別な場所になる。


13話、お読みいただきありがとうございます!


今回は遥がついに、自分の孤独と正面から向き合う話になりました。

そして、優がその気持ちをちゃんと受け止めてくれて、ふたりにとっての「居場所」ができました。


“学校で話せたらいいのに”という一言が、

“話せる場所ができた”に変わる瞬間を書けて、個人的にもすごく思い入れのある回です。


この空き教室が、これからもふたりにとって特別な場所になってくれたら嬉しいです。

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