第11話:言葉にする前に、目を逸らした
「っ!? アレ、ですか!?」
優の反応はごもっともだ。
—— 観覧車。
遊園地デートの〆の定番中の定番。
それにまだ友達として、やっと1歩を踏み出せた二人が乗る。
遥は自分で誘ったのにも関わらず、顔を真っ赤ににしていた。
流石にいきなり観覧車は引かれたかな……?
それに、自分から誘っといてなんだけど、流石に観覧車はちょっと意識しちゃうかも……。
恥ずかしさと少しの後悔の間で遥が揺れていると、
「行きましょっか、観覧車!」
と、優が観覧車の方へと先導していった。
「……うんっ!」
少し小さくなった遥が、優の後について行く。
——丁度太陽が顔を隠そうとしている時間。
観覧車の列は想像よりも長かった。
「結構並んでますね」
「そうだね……もしあれだったら、観覧車やめて帰るでもいいんだよ……?」
「いや、せっかく先輩が乗りたいって言ってくれたんだし、乗りましょう!」
「それに……俺も先輩と観覧車、乗りたいです……」
「……っ!?じゃ、じゃあ……並ぼっか?」
二人の会話がどこかぎこちなくなる。
並んでいる間の推しトークもどこか歯切れが悪い。
並んでいる人もカップルばっかりで、自然と意識してしまう。
「コトちが最近始めたあのゲームの配信、見ましたか?」
「うん、私もコトちとできるかもって思って始めたんだ」
「そうなんですね!俺もあのゲーム、やってるんですよ!」
「そうなんだ……」
会話が途切れてしまう。
もっと一緒にしゃべりたいって思って観覧車に並んだのに……
これだったらあそこで解散したほうがよかったかも……
観覧車の待ち時間は、物理的にも、精神的にも今までで一番長く感じた。
結局1時間近く並んでようやく順番が回ってきた。
「お二人様ですね!足元お気をつけてお乗りください!」
キャストさんの案内で観覧車に乗り込む。
ゴトンッと大きな音を立てて観覧車のドアが閉まる。
そして、二人きりの空間がゆっくりと空へ登りだした。
—— 沈黙。
もっと話したかったはずなのに、言葉がうまく出ない。
喉まで出かかってるのに、喉奥でつっかえてしまう。
私ってとことんダメだ……
勢いで乗りたいって誘って、結局佐久間君を困らせちゃってる……
絶対、楽しくないよね……
優もずっとそわそわした様子で、話しかけてくることはなかった。
自己嫌悪に陥っていると、すでに観覧車は頂上付近に近づいていた。
「うわぁ、キレイ……」
優の言葉にビクッと身体を震わせ、顔を上げる。
「先輩、見てください!」
優は窓の外を指さす。
そこには、オレンジ色に染まった幻想的な世界が広がっていた。
「キレイ……」
思わず声が漏れる。
「観覧車、乗ってよかったですね」
気づけば、優の声はさっきまでのぎこちなさが嘘のように、自然だった。
「こんなキレイな景色、滅多に見れないですよ!」
遥が膝の上で小さく拳を握る。
「私っ、本当は今日来るつもりなかったの……」
喉の奥につっかえていた言葉が溢れだす。
「でもね、今は来てよかったって思ってる」
「奇跡みたいな偶然だったけど、佐久間君と会えて、ちゃんと謝れて」
「周りの変な気遣いもあったけど、佐久間君と一緒に回れて……本当に楽しかった」
「本当に楽しかったから、もう少し話せたらって観覧車に誘っちゃって」
「誘ったのに、私、変に意識しちゃってまた上手く喋れなくて……」
「俺も、めちゃくちゃ楽しかったですよ」
優の気持ちも溢れだす。
「正直、俺も夏コミの後、結局また普通の”先輩と後輩”に戻るんじゃないかって不安になってました」
「チャットも返事来なかったし……」
「うっ……それは……ごめんなさい...」
「ふふっ、でも今日偶然先輩と会えて、それが勘違いだって分かって」
「陽介のあれはちょっと胡散臭かったですけど、先輩と回れて本当に楽しかったです!」
優の言葉を聞き、目が熱くなり胸のあたりがキュッと締め付けられた。
「佐久間君っ、私ねっ……!」
そこまで行ったところで、観覧車のドアが大きな音をたてながら開いた。
「先輩、降りましょっか」
「うん……」
私今、なんて言おうとしたの?
—— それはまだ、ダメだよ……
観覧車を降りると、辺りはすっかり暗くなっていた。
「うわ、思ったより遅くなっちゃいましたね。」
「そうだね、早く帰らないとお母さんに怒られちゃうかも」
「それはマズいです!急いで帰りましょう!」
実際は多分、今日のことを根掘り葉掘り聞かれるんだろうなぁと思いながら駅へと向かった。
駅までの道中や電車の中でほとんど会話はなかったが、嫌な沈黙ではなかった。
二人とも、今日の余韻に浸っているような心地の良い沈黙。
途中乗り換えで二人ともホームに降りる。
「俺、あっちの電車です」
「私はこっちみたい」
「じゃあ、今日はこの辺で……」
優が踵を返そうとする。
「あのっ、佐久間君!」
優がこちらを向きなおす。
「どうしました?」
「また、今日みたいに遊べるかな……?」
優は優しい笑みを浮かべながら答えた。
「もちろんですよ! 俺はいつでもウェルカムです!」
遥も自然と笑みがこぼれていた。
「じゃあ、”また”ね!」
「はい! ”また”」
二人はそれぞれの電車に乗り込んだ。
◇
帰宅後、優は自室で一人悶えていた。
「今日のあれって、完全に”遊園地デート”だよな……」
正直、午前中に陽介と回っていた時の記憶はほとんど覚えてない 。
すまん。
でも、誘ってくれた陽介には感謝しないとな。
あいつのおかげで先輩と会えて……デート出来たわけだし。
一つ一つ、今日のデートを振り返る。
既読無視されてたわけじゃなかったのは本当に安心したな。
そのあとの陽介の退場は、流石にわざとらしすぎたけど……
謎解きラリーはちょっと良いとこ見せれたかな?
そこで謎解きラリーの景品でもらった写真のことを思い出した。
鞄から写真を取り出す。
「うわ、俺めっちゃ緊張してるし……あ、でも先輩も結構緊張してそう」
思わずにやけてしまう。
この写真は家宝にしよう。
そういえば、今日の先輩の服装夏コミの時と結構印象違ってたなぁ。
今日のはどちらかというと大人っぽい感じ?で、正直……めっちゃ良かった。
折り曲げないように、大事に引き出しに写真を仕舞った。
謎解きラリーの後は、人形屋敷か…….正直あんまり思い出したくない。
流石にちょっと俺、情けなさ過ぎたよな……。
今度ホラゲーやってホラー耐性付けよう。
観覧車は、誘われたとき流石にドキッとしたけど、乗って良かったな。
並んでる時とかはちょっと気まずかったけど、結果的に距離が近づいた気がする。
総じて今日は、マジで最高の1日だった。
「でも、流石にちょっと疲れたな」
引き出しから写真を取り出し、もう1度眺める。
—— やっぱり俺、先輩のこと……
そこまで考えて、意識は夢の中へと溶けていった。
◇
同じころ、遥もまた自室で悶えていた。
「今日のあれ、完全に”遊園地デート”だよね……」
帰宅後、母親に「今日どうだったの!?」と詰め寄られたが、スルーして自室に直行した。
「正直全然行きたくなかったけど、今日だけはお母さんと陽翔に感謝かな」
今日のことを思い返す。
「偶然だったけど、佐久間君に会えて誤解が解けて良かった……」
「謎解きラリーの時の佐久間君、凄い張り切ってて……ちょっと可愛かったな……」
「あっそうだ、写真!」
鞄から写真を取り出し、懐かしい目をしながら眺める。
「うわ、私めっちゃ緊張してるし…….あ、でも佐久間君も緊張してる」
少し目を細める。
写真を眺めていると、重大なことに気が付いた。
「待って、私今日適当な服で行ってたんだった...」
「全然女の子っぽくないし...最悪...」
今度から出かける時は出来るだけオシャレしようと決意した。
「眠りの標本室の時の佐久間君の怖がり方、おもしろかったなぁ」
「
それに……ちゃんと男の子だったな……」
優を受け止めたときの感触を思い出して、少し顔が熱くなった。
「観覧車は……正直失敗したと思ったけど、乗って良かったな」
「ちゃんと、楽しかったって伝えれたし……」
降り際に言おうとした言葉を思い出し、心臓がバクバク鳴り出した。
「やっぱり、これって私、佐久間君のこと……」
そこまで考えて、そこから先は...まだ考えないことにした。
「帰り際、ちゃんと”またね”って言えた……」
「今度こそちゃんと、”またね”を実行しなきゃ」
「そうだっ、今日のお礼のメッセージ!」
そう言ってお礼のメッセージを送ろうとしたが、結局、最後の一文が決まらないまま眠りに落ちた 。
観覧車って、やっぱり特別な空間だなって思いながら書きました。
ちょっとベタかも…って思ったけど、今のふたりにはこれがちょうどいい距離感かなって。
言いかけた言葉、言えなかった気持ち。
だけど、それでもちゃんと、心が近づいた一日でした。
「言葉になる前に、目をそらした」——
そんなふたりの空気を、少しでも感じてもらえたら嬉しいです!




