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第9話:二人きりの空気

 ——二人きりになってしまった。


 正確には、周囲は人であふれている。

 

けれど、不思議と世界から切り離されたような、そんな空気が二人の間に流れていた。


 沈黙を破ったのは、遥だった。


「あの、嫌だったら無理しないでね……?」


「全然!嫌なんかじゃないです!むしろ……」


 優は、勢いよく出かかった言葉を寸前で飲み込んだ。


 再び沈黙。


 けれど、それはさっきまでの気まずい沈黙とは、少し違っていた。


 遥は、そっと自分の気持ちに向き合う。


 成り行きでこうなっちゃったけど、嫌な感じじゃない。


 緊張はまだ残っている。でも——ちょっと嬉しいかも。


 頭の中で、これから優と二人で遊園地を回る自分を想像してみる。


 ……うん。きっと楽しい。


 遥はまた一歩、小さくて、それでも確かな一歩を踏み出す。


「佐久間君が嫌じゃなかったら……一緒に回らない?」


 優は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにぱっと明るい表情になり、


「はい! ぜひ!」


 と力強く答えた。


 ——友達と、しかも異性と遊園地を回るなんて、遥にとっては人生初の出来事だった。


 どうやって回ればいいのかも、何が正解かもわからない。


けれど、“今日は私の番”だと決めたのだから。


 遥は思考を巡らせる。そして、ふと気づいた。


 そうだ。わからないなら、聞けばいい。


「……佐久間君って、どういう乗り物が好き?」


「俺ですか? あんまり絶叫系とかは得意じゃなくて……」


「あ、私も絶叫系は苦手なんだ」


「一緒ですね笑 じゃあ、あれとかどうです?」


 優が指差したのは、有名推理アニメとコラボ中の“謎解きラリー”。


「おもしろそうだね。ちょっと頭使いそうだけど、やってみたいかも」


 自然に、会話が弾みはじめていた。


 ああ、会話ってこうやって進めればよかったんだ。


 ——謎解きラリーの列に並ぶ。


 待ち時間は思ったより短く、約40分。


 普段なら、遊園地の待ち時間なんて地獄みたいな時間だったはずだ。

 

けれど今は、少しも苦じゃなかった。


 遥はもう、知っている。


 この話題なら大丈夫。この人なら、楽しいって。


「コトちの新しく上がった“歌ってみた”、聴いた?」


「もちろんです! いつもの選曲とちょっと違いましたけど、曲の雰囲気にバッチリ合ってて最高でしたよね!」


「そうそう! どんな曲でも自分の“モノ”にしちゃう感じ? あれ、ほんとにすごいよね……!」


 周りから見たら、痛々しいオタクトークで盛り上がる…“カップル”に見えるかもしれない。


 でも、そんな視線なんてどうでもよかった。


 この空間が、心地いい。


 推しトークに花を咲かせているうちに、順番が回ってきた。


 キャストさんからスタンプカードを手渡され、洋館風の建物へと足を踏み入れる。


 内容は、密室で起きた“〇人事件”を解き明かし、スタンプを集めるというものだった。


「これ……原作にあったやつと同じかも……」


「え、じゃあもしかして、先輩もう答え知っちゃってます?」


 優の顔に「しまった……!」と書いてある。


「大丈夫。もうほとんど覚えてないし」


「もし知ってる問題が出たら……頑張って、佐久間君に解いてもらおうかな?」


 いたずらっぽく笑う遥に、優が少し照れながら応える。


「じゃあ……行きましょうか!」


 そして、二人は並んで謎解きに挑んだ。



 ——「佐久間君って、結構こういうの得意なんだね」


「推理アニメとか好きなんで! 小さい頃から観てて!」


 問題をテンポよく解いていく優の様子は、どこか得意げだった。


 子猫が親猫に得意そうに尻尾を振ってるみたいで——ちょっと可愛い。


 ……あれ?


 自分でそう思った瞬間、遥の顔がカーッと熱を帯びた。


 なに考えてんの私! 今のナシ!


「せ、先輩? どうかしました?」


「い、いやっ!? な、なんでもないよっ!」


 少し声が裏返る。


 それすらも、ごまかしきれないくらいに。



 ——謎解きは、思ったよりも順調に進んだ。


「最後のスタンプですね。……まぁ、大体の目星はついてますけどね!」


 優がちょっと得意そうに言う。


「私は、犯人知っちゃってるから……ここは黙っておくね」


 優が最終選択肢を慎重に選び、ボタンを押す。


 ——正解だった。


 キャストさんが拍手とともに、最後のスタンプを押してくれる。


「いやー、けっこう本格的でしたね! 正直ちょっと舐めてました」


「うん、意外と頭使ったかも。楽しかったね」


 二人が余韻に浸っていると、キャストさんがにこやかに声をかけてくる。


「スタンプカードのコンプリート記念に、コラボフォトフレームで写真撮影ができますけど、いかがですか?」


 その一言に、遥の胸が小さく波打つ。

 

普段なら即断るようなサービス。でも今日は違う。


 ——佐久間君とのツーショット。ちょっとだけ、欲しいかも。


 でも自分から「撮ろうよ」なんて、恥ずかしくて言えない。


「わ、私はどっちでもいいけど……佐久間君は、どうする?」


 言いながら、視線を少しだけ逸らす。


「お、俺もどっちでも……せっかくだし、先輩が嫌じゃなければ撮りますか?」


 今のはちょっと、私がズルかったかも……。


 でも。


「うん、せっかくだし……撮ろっか」


 そう言って、撮影ブースに向かう。


 さっきまで横に並んで謎を解いていたはずなのに、写真撮影となると途端に緊張感が増す。


「彼女さん、もうすこーしだけ彼氏さんの方に寄れますか〜?」


「かっ!?」


 突拍子もない言葉に、遥の喉が変な音を立てた。


 言われたとおり、恐る恐る優の方へ寄る。


 心臓がうるさい。


「ん〜、あとほんのちょっとだけ……」


「は、はいっ……」


 もう半歩、優に近づいた——

 

その瞬間、肩と肩が、そっと触れた。


 ……っ!


 口から心臓が飛び出しそうになる。


「ご、ごめんねっ!」


「い、いやっ、俺のほうこそっ!」


「はい、撮りまーす!」


 カメラマンさんの明るい声が響き、フラッシュが瞬いた。


 その瞬間、時間が一瞬止まったような気がした。


「お写真はこちらのブースで受け取れますので、どうぞ〜!」


 キャストさんの案内に従い、二人でそそくさと移動する。


「お待たせしました! お二人とも、とっても良い表情です!」


 上品に笑いながら、完成した写真が手渡される。


 遥と優、二人とも顔を赤く染めて、明らかに緊張してる。


 うわ……思った以上に顔に出てる……


 それでも、ちゃんと笑っていた。


「ありがとうございます」とだけ告げて、二人はそっと写真を鞄にしまった。


 緊張でぎこちない笑顔。だけど、確かにそこに“ふたりの時間”が刻まれていた。

 

きっとこれは、今日という日の“証拠”のような一枚になる。



「つ、次……どこ行きましょうか?」


「ど、どうしよっか……」


 少し気まずい沈黙が戻る。でもそれは、朝の頃の“壁”とは違う。


 ちょっとだけ、心が近づいてしまった後の、照れくさい沈黙。


「もうそんなに時間もないし、待ち時間短めのがいいかな」


 園内の掲示板を見ながら、次を決める。


「あ、これ。『眠りの標本室』ってやつ、15分待ちって書いてあるよ」


「アート系の展示ですかね? 謎解きで結構歩いたし、ゆったりできそうでいいかもしれないですね」


「うん、行ってみよっか」



“——眠りの標本室”の入り口に到着する。


 外観は、やけに静かで落ち着いた雰囲気だった。


「人形の展示……かな?」


「みたいですね。雰囲気、ちょっと独特だけど……」


 15分待ちのはずなのに、列はほとんどなかった。


 まぁ、静かな展示なら人気はそこまでないのかもしれない——そう思って入場した。


 だが、進むごとに違和感が募っていく。


 照明は徐々に薄暗くなり、展示された人形たちも、どこか異様。


 腕がなかったり、瞳がくり抜かれていたり。




 ……ここって、お化け屋敷じゃない?


読んでくださってありがとうございました!


遊園地デート、推しトーク、ツーショット写真……と盛りだくさんな回でした!

ちょっとずつ近づいていく二人の距離、書いててこっちが照れました(笑)


次回は“眠りの標本室”。まさかの……展開になるかも?お楽しみに!

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