【魔法少女ユノ その二】
黒霧の中、おかっぱ頭の少女、ユノは走る。
真っ暗な視界は、目を瞑っているのとほとんど変わらない。
地面には瓦礫が散らばっていて、足元の状態は悪い。
動きやすいスニーカーを履いてきたのに、それでも足を取られてしまう。
実際、ユノは数分の間に、すでに五回も瓦礫に足を取られ、転倒している。
それでも五回起き上がり、純白のワンピースについた黒い汚れを払う間も無く、走り続けている。
これはチャンスなのだ。
ユノが地球を救う最初で最後のチャンス。
絶好のチャンスをユノは逃すわけにはいかない。
ましてや、そのチャンスをマムに横取りされてしまうわけには絶対にいかないのだ。
マムは、ユノが最も憎んでいる相手である。
あの傲慢な女。
あの目立ちたがりな女。
あの意地の悪い女。
マムがいるせいで、ユノは一番になることができない。
せっかく魔法少女になれたというのに。
マムがいるせいで。
視界が悪いためか、ユノの脳内では、まるで実際に目の前にいるかのように、マムの姿形が再生される。
マムがニターっと笑う。
人間味がまるでない、作り物のような顔。
憎たらしい笑顔。
憎たらしい。
憎い。
消えろ。
消えろ。
消えろ——。
ユノは転ぶ。
うつ伏せの格好のまま、口に含んでしまった血と土を吐き出しながら、ユノは舌打ちをする。
マムのせいだ。
あの女さえいなければ——。
六回目も、ユノはすぐに立ち上がる。
そして、息がすっかり切れてしまっていることも気にせず、暗闇に向かって駆け出す。
〈魔法少女マム〉——あの女は一体何者なのか。
あの女は一体——。
——何を企んでいるのか。
あの女は、重要な〈秘密〉を抱えている。
この〈秘密〉は〈お茶の間〉の人々はもちろん、ユノ以外の魔法少女も誰も知らない〈秘密〉である。
その〈秘密〉を知っている魔法少女は、ユノだけなのである。
この〈秘密〉をほかの魔法少女が知ってしまえば、もう〈仲良しごっこ〉などは続けられないだろう。
もうマムとは一緒に戦えなくなるだろう。
なぜならその〈秘密〉とは——。
——マムが過去に魔法少女を殺しているというものなのだから。
『新生ミステリ研究会』ではだいたい月2回の読書会を開催しています。
そのうち1回は菱川が主催のもので、最新のミステリを題材にしています。『地雷グリコ』とか『千年のフーダニット』とかやりました。
もう1回の方は尾ノ池さんが主催するもので、古典的な名作を題材にしています。『十角館の殺人』や『三つの棺』をやりました。
前者はXのスペース機能を利用しており、後者はzoomを利用しています。
いずれも参加・聴講自由ですので、お気軽にご参加ください。
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